星空のスパークル【完結】   作:Yuki_Mar12

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《64》

***

 

 

 

 沖縄の方ではすでに梅雨明けしており、その報は次第に北上するだろう。今のところ汪海町を含む某県はまだ梅雨前線の範囲にあるが、例年の梅雨明けの時期である七月半ばまでは、そう遠くない。

 

 旅とサークルについて考える時間を過ごす宙は、週末、たまたま陽子と休日がいっしょだったので、隣町までショッピングに行くことにした。天気ははっきりせず、雨が降ったりやんだりという具合だった。車は宙が運転し、陽子は助手席に座った。

 

 六月に運転免許を取得したばかりの宙だが、回数を重ねることで、徐々に運転に慣れてくる感じがあり、最初は姿勢に柔軟性がなく、体とハンドルの距離が異様に近くて余裕がなかったが、今ではシートにゆったり座って広い視野で運転出来るようになっていた。

 

 

 

「同好会はどうする?」

 

 運転中、陽子が訊く。

 

「どうするって?」、と宙。

 

「隣町にあるんでしょ」

 

「うん。まぁ」

 

「見にでも行ってみれば?」

 

「見にでもって……観光地じゃないんだし」

 

 宙が呆れる。

 

「事務所とかないの?」

 

「ないと思うよ。調べたけど、住所とか見当たらなかった」

 

「この前さ、男ばっかりだったら気を付けなさいよって、わたし言ったけど、逆に男ばっかりだったら、アンタの恋人が見つかるかもね」

 

「はぁ?」

 

 汪海町と隣町を繋ぐ長いトンネルを車が走っている最中の会話だったが、宙は思い切りブレーキでも踏んでやろうかという気分になった。

 

「そういう不純な動機で参加すると、サークルの風紀を乱しちゃうでしょ」

 

 宙が指摘すると、陽子は「そうねぇ」、とすんなり納得した。

 

「そういう目的で入った男が女を喰い物にするのよねぇ」

 

 宙は特にコメントしなかった。

 

 時速六十キロを少しオーバーした速度で走る車が、やがてトンネルを抜け、辺りが開けて暗かったのが明るくなる。

 

「アンタ、大学卒業して就職してさ」、と陽子が言う。「今までずっと、浮いた話ってないじゃん」

 

 そこまで言って区切りにしたので、宙は相槌か返事を求められるようで、「うん」、と渋々頷いた。

 

「アンタに好きな人でも出来たら、おしゃれして垢抜けてさ、欧華ちゃんにちょっとでも近付けると思うんだけどね」

 

 陽子の言う好きな人というのは、もちろん身近にいる人のことを指しており、例えば宙が密かに『推し活』しているイケメンアイドルグル―プは該当しないのだった。

 

「いないんだもん。仕方ないじゃん」

 

 宙はいささか投げ槍に答える。

 

「尼さんにでもなるつもり?」

 

「禁欲してるつもりなんか全然ないよ」

 

「今までそういう人がいたことないの? こういう話、あんまりアンタとしたことないけどさ」

 

 

 

 宙の生きてきた二十三年間には、必ずしも彼女にとって好ましいと思う人がいないではなかった。彼女が誰かと接する場というのは、学校を除きほとんどなかったが、何十人、何百人と顔を合わせてきた学生時代を通じ、そういう人がまったくいなかったというのは、やはり考えられることではなく、確かに何人かはいた。

 

 イケメンアイドルグループを信奉するので、宙はやはり面食い気味なところがあったし、実際、学年でチヤホヤされていた男子、とりわけバスケットボールやサッカーなどで活躍する男子を、声の大きい好意の露骨なファンが大勢いる一方で、宙は陰ながら思いを寄せていたものである。

 

 また、顔がさほどシュッとしておらず、女子人気も全然高くないのに、嫌味のない形で知的だったり、天体の話などで偶然意気投合したりした男子も、宙にとっては意識される対象だった。

 

 だが、どの相手もせいぜい良い人止まりで、友人以上の存在にはならなかった。

 

 

 

「――いなかったから、ずっと幽霊みたいなんでしょ」

 

 陽子の問いに、宙は自虐を込めて答えた。

 

 その返事には些少の刺が含まれており、陽子は呆れたように肩をすくめ、会話はそこで一旦途切れた。

 

 心なしか車の速度が上がったようだった。

 

 隣町の栄えた高いビルの並ぶ区域を車は走り、広い交差点を直進したり右左折したりして、その内以前も二人が来たショッピングモールに到着した。

 

 立体駐車場に入り、空きスペースに車をとめると、宙と陽子は車を下り、最寄りのエスカレーターでショッピングフロアに移動した。

 

 そこからは彼女等は別々に行動し、後で食料品売り場で合流する手筈となった。

 

 宙はまず書店まで、プラネタリウムの仕事の資料となる、月刊の新しい科学雑誌を見に行った。科学雑誌や学術書は職場の経費で買われ、備品となっているが、世の中に出回っているもの全てが揃うわけではないので、みずから物色しに行く意味はあった。

 

 ふと宙は、書店をグルグル巡っている内、旅行ガイドのコーナーに通りかかり、彼女は思わず、そのために来たわけではないのに、海外旅行のガイドブックを取ってパラパラめくってみた。オーストラリア、韓国、アメリカ、フランス……どの国にも観光名所があり、日本とは趣の違う大自然、食べ物、街並みがあり、彼女の気を惹いた。

 

 だが、隅っこにひっそりと記されている旅費を見ると、宙は目が皿になったし、また、そもそも彼女の労働環境では海外旅行のための日数が確保しにくいか、まったく出来ないため、忌々しい思いに苛まれるのだった。

 

 

 

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