星空のスパークル【完結】   作:Yuki_Mar12

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《70》

***

 

 

 

 宙がざっと調べてみたところ、天体観測に好適の場所は、汪海町を中心として、彼女が行ってもいいと思える範囲内にいくつかあった。彼女はネットで検索し、表示される画像や文言で対象を吟味した。

 

 星空を含むキーワードでの検索結果で表示された画像の中に、夜空を水平に流れる天の川の写真があり、宙は目に留まったそれをピックアップして詳しく情報を集めていくと、ダムで撮られた写真であることが分かった。

 

 他には郊外の駅の近辺や自然公園などがあったが、宙はそのダムの星空が一番気に入り、そこに行ってみたいという気持ちになった。

 

 だが、問題は寝泊まりだった。宙は可能とされる二連休という条件で旅行を企てているので、宿は肝要だった。旅行の醍醐味に宿での宿泊は欠かせないものだろう。

 

 あいにくダム付近に気の利いた宿泊所はないようだった。辺り一帯はダムの施設を除けば、原生の自然であった。

 

 宙は自宅の自室の勉強机でパソコンに向かっていたが、一番見たいダムの星空と、宿がないことの間で悩むことになった。

 

 午後の十時半頃。宙はすでに夜食を摂り、入浴を澄ませ、後は寝るまでフリーの時間だった。

 

 以前古川に教えて貰った天文同好会に入れば、こういう風に悩まないでもいいのだが、宙はまだ参加の有無を決めかねていた。もっとも、彼女の内面的には抵抗が強く、辞退したい思いの方に偏っていたが。

 

 宙は立ち上がって机より離れ、一旦トイレのために一階に下りた。

 

 その後彼女は、飲み物を飲みに居間のキッチンに行くと、ちょうどお風呂から上がった、頭にタオルを巻いた陽子が現れ、彼女も何か飲みたいようだった。

 

 そのことを察した宙は、冷蔵庫のペットボトルのリンゴジュースを二人分グラスに注ぎ、陽子といっしょに飲んだ。

 

 よく冷えたジュースの甘酸っぱさが、冷感と共に喉を下りていって爽快だった。

 

 テレビの付いていないシンとした居間では、二人のゴクゴクという嚥下音が聞こえるだけで、飲んだ後、宙は何だか気まずかった。

 

「旅行に行くって話、してなかったよね」

 

 宙が言いだす。

 

 陽子は何のことかさっぱりのようで、きょとんと首を傾げる。

 

「まだ聞いてないと思うけど」、と陽子。「どっか行く予定でもあるの?」

 

「うん。まぁ」

 

「へぇ、どこに?」

 

 そう言って陽子は、まだジュースの残るペットボトルと飲んだグラスを持ってテーブルまで行くと座り、頭のタオルを外して首にかけた。褐色の髪がまだ濡れてしっとりしていた。

 

「ダム」、と宙。

 

「ダムって、あそこの?」

 

 陽子は、汪海町の南部にある郊外の地名を出し、宙はその通りだと肯定する。

 

「旅行って言うほどの場所じゃないわね」

 

「いいじゃん、別に」

 

 宙はちょっと不貞腐れたようになる。

 

「別にケチ付けるつもりはないけどさ。何しに行くの?」

 

「天体観測しに」

 

「あぁ。なら、あそこは打って付けだと思うわ。あの辺は人間の手が入ってないから空気が澄んでるし」

 

「けど、宿が問題なんだ。泊まれるところがなくて」

 

「まぁ、ないでしょうね。あの辺は施設の管理者以外は基本的に用がないもの。それこそ天体観測とかの自然体験の目的がある人は行くんだろうけど」

 

 困った感じで宙がため息を吐く。

 

 陽子は何か考えているようで、彼女には一案あるようだった。

 

「キャンプすればいいじゃん」

 

「キャンプ?」

 

 宙は半ばきょとんとし、半ばショックを受けたようになった。

 

「あの辺、宿はないけど、キャンプが出来る広場はあったと思うよ」

 

「キャンプなんて、わたし、やったことないんだけど」

 

「今度の旅行を機にやってみることね。どうしてもダムの辺りで一晩明かしたいっていうなら」

 

「道具は?」

 

「道具は家にある。瑛地くんの使ってたテントやら折り畳みのイスやらが残ってる」

 

「うち、キャンプに行ったことあったっけ?」

 

「あったじゃない。覚えてない? ……あぁ、覚えてないか。アンタ、ずいぶん小さかったもんね」

 

 そう言って陽子が、天国家がかつてキャンプしに行ったというロケーションについて説明するのだが、宙にはやはりピンと来ず、それもその筈、彼女がまだ小学校に上がるか上がらないかの頃のことだったのである。

 

「とにかく」、と陽子が言う。「道具はあるにはあるから、もしアンタがキャンプに行くのなら、自由に使っていいわよ」

 

 まったく予想だにしなかったキャンプという事柄に接し、宙は戸惑ってしまった。彼女はキャンプした経験がないではなかったが、学生時代の遠足でのことだったので、経験と称するには貧弱だった。

 

 陽子に提示された案は宙に新しい選択肢を与えたが、かといって宙の悩みが解かれるのではなかった。

 

 彼女は物思う風に顎をつまむように持って黙ってキッチンを去ると、二階の自室に戻った。

 

 椅子に座り、スリープ画面になっているパソコンを付けると、インターネットの検索バーに『キャンプ』とキーボードで打ち込み、エンターキーを押した。

 

 ドッと夥しい情報が表示され、宙は目まいがするようだった。

 

 

 

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