星空のスパークル【完結】   作:Yuki_Mar12

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《72》

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 七月の半ばに差し掛かり、とうとう汪海町に梅雨明けの報が来訪した。週間天気予報の表を占めていた傘マークと雨雲マークがめっきり少なくなり、橙色の太陽のマークと雲のマークが増えた。最高気温が三十五度を超える猛暑日が続出し、いよいよ盛夏となったようだ。

 

 宙においては、志賀多ダム方面への小旅行の計画が整い、すでに欧華にはその旨連絡済みであり、彼女が同行する運びである。車は家のものを使うことにして陽子に許可を得、キャンプ道具は随分カビ臭くなってはいたが、室内保管されていたので、状態としては最悪ではなかった。

 

 職場の者にも、限定的にだが、宙は旅行について知らせ、有給を申請して一週間に二連休を作り(同じ週に別の休日が更に一日ある)、古川、柳川、そしてプラネタリウムの先輩たちに、簡明にダム方面まで星空を観に行ってくると伝えた。ダムでの星空の観察に行ったことがあるという人がプラネタリウムにおり、宙は彼等の経験談を聞き、今回の旅行の参考にした。

 

 時日は七月下旬の金曜日と土曜日の二日間で、宙の休日と欧華のアルバイトのない日の重なったところだった。

 

 宙にしてみれば、欧華がキャンプを平然と受け入れるか、面倒くさがって断るかが気になっていた。アニメ作品などで描かれたことで、キャンプは日本人に人気の趣味となったが、決して誰でも手軽に始められる趣味ではなく、いくつもの装備を揃えなくてはいけないし、ある程度の技術と知識がいるし、何よりテントの設営や片付けなどに手間がかかり、とにかく労力が求められる。特に昨今では人を襲うクマの出現がしばしば報道されるので、キャンプの労力に加え、野生動物との遭遇の危険性が伴ってくる。

 

 宙自身は、陽子が言っていたように、昔家族に連れられて行くくらいしかキャンプとの縁はなく、経験は皆無に等しかったし、そういった労力を面倒くさくて惜しいと思ってしまうタチだったが、前述のアニメ作品を見ていたせいで、ちょっとだけ興味があり、その興味が後押しとなった。

 

 しかし、欧華はどうだろうか。欧華のように華奢で綺麗好きそうな人間は、きっとキャンプなどあまり好まないのではなかろうか……そういう宙の推測があったが、欧華は、宙がスマホのチャットアプリでキャンプに行く旨を伝え、同行するか否か尋ねてみた時、割とあっさりオーケーの返事をよこした。

 

 家が大きくて、庭でバーベキューなどしていたと宙は欧華に聞いた覚えがあるが、あるいはそういうレジャー活動の経験があってキャンプが平気なのかも知れないと、彼女は思った。

 

 

 

 スターシップMINATOでは、プラネタリウムの投影プログラムにおいて、その時期が過ぎたことから七夕のものが終了となり、新しいプログラムが用意され、宙はその映像と解説の暗記に努めていた。そして、そのプログラムで投影される夏の星座が、くっきり自然の姿で見られるのだろうかと思うと、キャンプの要素がいささか面倒だったが、今度の旅行について、楽しみに思わないではないのだった。

 

 

 

 その内、旅行の金曜日がやって来、宙は前日まで要るものをある程度車に積み込んでおいた。だが、当日の天気はあいにくの曇りで、予報では金曜、土曜と曇りのようだった。降水確率はそれぞれ五十パーセントで、旅行日和というには厳しい条件だったが、宙にしてみれば、予定をズラしたりは出来ず、決行せざるを得なかった。

 

 目的地が遠方ではないので、出発時間は早朝ではなく、ちょっと遅かった。なので、陽子の出勤の方が宙より早く、彼女は出がけに、気を付けて行ってくるように、交通事故などしないようにと娘に注意して出かけていった。

 

 曇天に意気が削がれるようだったが、宙はゆったりとテレビのモーニングショーを見ながら朝食を摂り、出発の時間まで待った。予定では、宙がまず欧華の家まで車で彼女を迎えに行く手筈となっていた。

 

 九時を少し過ぎた頃、宙は朝食のコーヒーを飲み干すと、食器をすべてシンクまで運び、洗うのは陽子に任せるとして、出発するために、テレビやエアコンを消し、各所の戸締りを確認した。そして荷物をまとめておいたソファのリュックサックを背負うと、しんと静まり返った居間を出た。

 

 空は一面曇っているが、地面は乾いていて、雨が降るかどうかは、旅行者の運次第という感じだった。

 

 宙はポケットの中のスマートキーをまさぐりながら、正面の芝生の庭の車まで来ると、ボタンを押して鍵を開け、運転席に乗り込んだ。

 

 長距離のドライブは初めてのことで、宙は微かにドキドキしていた。

 

 シートベルトを締めると彼女は、とりあえずエンジンを掛ける前に、スマホを取り出して、チャットアプリで欧華にメッセージを送った。

 

 

『おはよう。今から行きます』

 

 

 宙はその後ひとまずスマホを空の助手席に置いたが、一分と経たない内に受信音とバイブレーションがし、手に取って見てみれば、欧華が返事を寄越していた。

 

 

『オッケー。待ってます』

 

 

 淡々としたやり取りだった。

 

 

 車内前方の中央にあるバックミラーに、お守りが吊るしてあり、交通安全のお守りで、陽子が買って吊るしたものだが、今では宙と共有のものになっていた。

 

 

 

 宙の心境では、このバックミラーに、交通安全のお守りに加えて、どうか雨が降らないようにと、てるてる坊主を吊るしたいところだった。

 

 

 

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