星空のスパークル【完結】   作:Yuki_Mar12

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《80》

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 宙が敢行したキャンプの旅は、予定されていた二日間の行程を終え、二人の旅人たちは、無事汪海町に帰還した。

 

 旅の行き先は旅行というには近く、その内容も簡素であり、宙が執念を燃やした割には、宿願が果たされたと言えるほどの達成感がなく、消化不良の感が否めなかった。天気はずっと悪かったし、ドライブの道程はひどかったし、慣れないキャンプでの作業では、いたずらに労力が費やされ、出来栄えは決して上等ではなかった。

 

 だが、宙において後悔はあまりなかった。他により充実した旅が確かにあったのかも知れないが、彼女には一抹の達成感があり、その感慨だけで、自足するにはじゅうぶんだった。

 

 宙と欧華はキャンプ中、二人が共通して知る一人の女子高生を巡る話で、一時は互いに険悪になり、亀裂が出来かけたが、最終的には破局を迎えずに和解し、いっしょに過ごすことが出来た。

 

 その経験が、宙には嬉しかった。ずっと付かず離れずの程々の距離感の友達だった相手と、不和になり、互いに意地を張り合い、だけど最後に手を握り合うその過程は、いささか出来すぎの嫌いがあるが、宙にとっては、欧華との絆を強める切っ掛けになったように感じられた。宙と欧華の付き合いは、キャンプ以後より密になり、互いの趣味を共有し合うようになって、例えば宙が『推し活』している男性アイドルグループのライブに二人でいっしょに出かけるなどしたのだった。

 

 彼女等は互いの家を訪れる機会が多くなり、欧華は陽子と、宙は和子と、親しく打ち解け、その内家族みたいに遇されるようになった。

 

 七月の日々が過ぎていき、海の日がやって来、欧華が教える生徒の通う学校が夏休みの期間に入った。とはいえ夏季講習などがあり、学生といえど遊んでばかりいられないので、彼等が頼る家庭教師は、夏休み期間も家に呼ばれ、授業を行うのだった。

 

 宙のプラネタリウムには子供の来訪が目立つようになり、主に自由研究などのために来るのだった。海辺の科学館スターシップMINATOのデッキには、ムッと強い潮のにおいが通り、海の彼方には峨々たる入道雲が見えるようになり、夏真っ盛りだった。

 

 さて、八月を目前に控えた七月下旬の日々、宙においても、欧華においても、生活に変容が見られるようになっていた。

 

 欧華は、スーパーのスタッフと家庭教師のアルバイトの二つを掛け持ちしていたが、主にスーパーの方のシフトの数を減らし、空いた時間に就職活動するようになった。地元のハローワークに通ったり、インターネットの求人サイト、フリーペーパーを見たりして探した。

 

 彼女の希望は介護士だった。その理由は一緒に暮らす祖父母を見ていて、彼等のケアがゆくゆくは必要になってくるだろうと予想されたからだ。介護の技術や知識を実地で学び、また金銭を稼ぐすべとして、介護施設で介護士として働き、その過程で介護福祉士などの国家資格を取っていくというのが、彼女の展望だった。

 

 欧華は家庭教師のアルバイトをしているので、当然のように正規の塾講師になるという選択肢がすぐ近くにあったが、さほど惹かれなかったので敬遠することにした。勉強は出来る方だし、人に教えるのは苦ではないが、趣味以上のものにしようという意思は、彼女にはなかった。

 

 介護士は肉体労働の面があり、決して楽ではなく、また報酬が特別いいというわけでもなく、どうしてもリタイアした前職の国際機関の職員と比較し、そのスケールの違いに欧華自身、呆然となることがあったが、流浪の身空になってしまった以上、贅沢は言えなかった。

 

 絶縁を受容した以上、父母の支援は受けられず、また欧華がその家に寄居している祖父母は至って素朴な人々であり、祖父は以前欧華に海女になることを勧めたが、その他はコネと言えるものはほとんどなく、彼女は自恃するしかなかった。

 

 だが、欧華は不貞腐れたりせず、前を向いて生活していた。以前のように鬱々と過ごすことはせず、たびたび宙と遊んだりおしゃべりしたりして、大いに楽しみ、みずからのモチベーションとした。

 

 そして宙はといえば、旅に対する執念がまだ燃え尽きておらず、ダム湖畔でのキャンプで中途半端に終わった未達の旅の夢の憧れが高じて、ある構想が打ち立てられることになった。

 

 その構想は、ずいぶん気宇壮大といった感じで、つまり、彼女は国立天文台の職員になることを志すようになったのである。

 

 この話に陽子は面食らい、いくら宙がそこそこレベルの高い大学を卒業したからといって、さすがに天文学の精鋭が集う国立天文台は、ハードルが高すぎると思い、正気を疑うほどだった。

 

 宙はだが、仕事そのものより、国立天文台の職員になることに付随する要素を重視したのだった。

 

 国立天文台が運用、管理するすばる望遠鏡のあるハワイに行きたいと彼女は夢見たのである。ハワイは、標高の高さや、一年を通じて晴れの日の多いことや、照明などの人工的光源の少なさなど、天体観測に好ましい気象条件の揃った土地であり、ハワイに行きさえすれば、宙は雲などに遮られずに思う存分、瑛地の遺品である望遠鏡を駆使出来るというイメージがまざまざと描けたのである。

 

 休日数や雇用形態などの労働条件は二の次だった。宙にとって、旅の憧れと、父の影響でずっと好きでいる星空の観察が両立し得ることから、ハワイは絶好のロケーションであり、また国立天文台の職員として採用されることは、少なくとも宙にとっては、現実味が皆無の妄想ではなかったのである。彼女は真剣なのだった。

 

 

 

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