適当に周りの生徒と話しているうちに、生徒も揃ったようだ。もうそろそろ始まるだろう。
そう考えていると扉が開き、担任であろう教師が入ってきた。
「席に着きなさい……皆さん、入学おめでとう。私は君たちCクラスの担任、坂上数馬です。」
眼鏡をかけた短髪の、おそらくは30代後半〜40代ほどの教師。これから1年間お世話になります。
「この学校について説明しますので、なにか疑問があれば終わったあとに質問するように。まず、この学校はクラス替えがありません。よって3年間、私を含めてこのメンバーで学ぶことになります。」
全然1年じゃなかった。にしても面白いな。3年間クラスが同じか…どうでもいいけど惚れた腫れたでややこしくなりそうな予感。綾小路や一之瀬と同じクラスになることがないのはちょっと寂しい。
「この学校の規則について書かれた資料を配ります。入学案内の際、すでに配布されたものですので見覚えがあるでしょう。」
この学校、3年間クラスがかわらない他にも色々と特殊な部分がある。生徒は全員敷地内にある寮で生活し、原則として外部との連絡を禁じていること。家族との連絡なども許されず、学校の敷地から出ることも禁止。
敷地内にはカラオケや映画館、カフェなど多種多様な施設が有るので生活には困らない。小さな街のようなものだ。
敷地内で暮らすのはわかった。ではその生活にかかる費用はというと、この学校独自の『Sシステム』が関わってくる。
「今から配る学生証カードを用いて、敷地内の施設を利用したり、売店などで商品の購入ができます。クレジットカードがイメージしやすいでしょうか。ただし、どの施設でもポイントを消費することになるため、注意が必要です。この学校において、ポイントで買えないものはありません。敷地内にあるものでしたら、なんでも購入可能です。」
カツアゲなんかしたら、履歴から全部見られたりしてバレるのだろうか。買わせたものをプレゼントとしていただく分には問題ないのか?結局はやり方次第ではできてしまいそうだ。
「使い方はシンプルなので、迷うことはないでしょう。ポイントは毎月1日に自動で振り込まれます。君たち全員、平等に10万ポイントが支給されているはずです。1ポイントにつき1円の価値があります。」
教室が騒がしい。高校生にとっては10万は大金だからしょうがないか。入学祝いとはいえ10万ポイントとは太っ腹な学校だが、来月からはどうなのだろう。
「この学校は実力で生徒を測ります。入学を果たした君たちには、それだけの価値と可能性があります。それに対する評価がこれです。遠慮はいりません。しかしこのポイントは、卒業後全て学校で回収することになっているので、貯金しても得はありません。持っているポイントをどう使用しても、君たちの自由。誰かに譲渡することも可能ですが、カツアゲなどはやめてください。」
心の中を読まれているのかと思った。わざわざカツアゲなんて足がつくやり方しないけれども。
クラスメイトの多くはまだ混乱しているようだが、先生が生徒を見渡している。騒いでいない生徒、もしくはなにか思考している生徒を見ているときに一瞬視線が止まっているようだが。
「…説明は以上です。なにか質問があれば受け付けます。」
ふむ、気になることはいくつかあるが…ロン毛が聞いてくれるだろう。
「おい坂上。ポイントは毎月振り込まれる、10万ポイントは入学したことに対する評価であってるな?」
ロン毛、敬語は使おう。坂上先生もため息ついてるよ。聞きたいことは聞いてくれたからありがたいけども。
「君は龍園くんですね…敬語は使いましょう。質問への回答としては、ポイントは毎月振り込まれる、新入生全員平等に10万ポイントが支給されている、になりますね。」
まあそういうことだよな。来月はどうなることやら…なんかロン毛もとい龍園と目が合った。お前はなんか聞かないのかって視線だが…
「クク…そうかよ。オレからは以上だ。」
値踏みしてるな。そんな見つめなくても質問するよ。懇切丁寧に見つめ直してあげてから手を挙げる。
「先生、自分からも質問があります。ポイントで買えないものはないとのことでしたが、権利、例えば敬語を使わない権利なんかも買えるのでしょうか。」
周囲から少し笑い声が聴こえる。龍園はイラついてるが、なにか考えている様子。
「君は演城くんですね…買う意味があるかはさておき、そういった権利なども購入は可能です。」
権利の購入も可能…買う意味がある権利もありそうだ。
「ありがとうございます。以上です。」
周りの様子を見るに、もう質問する人はいないようだ。坂上先生もそれを確認している。
「…もうなさそうですね。それでは、1時間後に体育館で入学式が行われます。それまで待機していてください。」
そう言って教室から出ていった。さて、この1時間なにをするか。自己紹介とかをする時間なんだろうが、このクラス自分から自己紹介しようって言い出す人いなさそうなんだよね。クラスメイトの顔と名前は一致したから正直オレはいらないし、わざわざ口にする必要はないだろう。
「さっきからじっと見てるけど、なんかよう?」
先生がいなくなったあたりからずっと感じていた視線。その先にいた龍園に問いかける。
「このクラスでさっきの坂上の言葉に違和感を覚えたやつは俺とお前。他にもいるかもしれねえが質問まで至ったのは俺達だけだ。クク、仲良くしようじゃねえか、演城凪。」
さっきも思ったけどその笑い方癖強いね。携帯の登録名クセ笑いにしよう。
「どうかな。みんなわざわざ聞くまでも無いって思ったのかもよ?それはそれとして仲良い人は多いほうがいいから、こっちからもお願いするよ。龍園翔。」
考えていることはおくびにも出さずに、とりあえず連絡先を交換、まさか最初に手に入れる連絡先が不良になるとは…
ーーーー
龍園もこの場での話し合いがしたいわけではなく、連絡先の交換が目的だったようなので、前断念した場所に行くことにした。
ついでに他クラスの様子も見ようとしたが、なにやらDクラスから数名生徒が出ていったようだ。自己紹介の途中に。オレが言うのもなんだけど協調性ないね。
気になったのは2人。イラついてそうな赤髪の彼は、ガタイがいいからスポーツでもしているのだろうか。
もう1人は黒髪ロングのキリっとした目つきの美人さん。清隆の話していたバスで隣の席だった人に似ている気がするから。もしそうなら同じクラスになって意気消沈しているかもしれない。
少し長く見つめてしまったからか、向こうから不審に思われたようだ。
「なにかようかしら?なにもないならジロジロと見ないでほしいのだけれど。」
このキレ具合、本人に違いない。
「ごめんね。友人がさっきバスで迷惑をかけた人と特徴が似てたからつい…」
そう伝えると、彼女は思い当たる節があるようで少し考え込んでいた。
「綾小路くんのことかしら。彼が言っていた友だちがいるというのは本当のことだったのね。幻覚でも見ているのかと思って入院を勧めるところだったわ。」
この口撃を3年間受け続けるであろう清隆を思うと涙が止まらない。
「ところで、自己紹介に参加していないみたいだけど、君も必要ないと判断した感じだろうね。赤髪の彼とは理由が違いそうだ。」
こういうプライドの高そうな人は、他と違うことを認めたうえで、自分もそれだとしれっと伝えることで懐に入りやすい。実際優秀なのだろうけれど、優秀であることが却ってデメリットになる要素もあるからね。
「君も、というくらいだから貴方もそうなのでしょうけれど…よかった、あんな野蛮な人と一緒にされていたら、思わずいけない言葉が飛び出すところだったわ。」
精神の危機だったようだ。
「個人の識別なんて、顔と名前が一致すれば済む話。自己紹介をきいたら、興味のないことも覚えていないと面倒なことになるからね。最初から切っておいたほうが楽だ。もっともウチのクラスは、自己紹介なんて始まりもしなかったけど。」
「…あなた、名前は?」
どうやらお眼鏡にかなったようだ。
「オレは演城凪、Cクラス。よろしく。」
あんまり親しげに来られても嫌だろうから握手は控えておこう。
「私は堀北鈴音よ。」
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さきほどピンクブロンドの女子と会話をしていた男子、演城凪と一緒に教室まで行くことになった。
仲が良さそうに見えたがどうやら初対面だったようで、あの場所では学べないこともあったのだと、はやくもこの学校に期待が持てた。
「綾小路はなんでこの高校を選んだんだ?」
ある理由があってオレはこの学校を選んだが…それを正直に伝えることはできない。
しかしオレに無い物を持っている彼は、良い教材になるだろう。彼と仲良くなり、身近にいることで学ぼうと考えた。
「親と喧嘩をしてな。3年間外部との接触ができなくなるこの環境が気に入っただけだ。」
この高校は、外部との接触が固く禁じられている。理由としても、ウソをついているわけではない。そしてやはり彼はオレが思った通りだった。
「綾小路もそんな
意図したこととはいえ、直ぐに見抜かれてしまった。オレは、さきほど女子との会話の中で彼がしていた演技を、オレなりに再現して演じていた。再現度はそれなりのものだったとは思うが…
「オレの真似は上手だが、状況判断ができてないな。さっきと違って嬉しい表現は要らないし、恥ずかしさの理由も異なる。そんなんじゃ普通の高校生には到底なれないぞ。」
…どこから判断されたかはわからないが、普通の高校生とは違うことも、目指していることもバレたみたいだ。
「……」
「気づくように仕向けたくせに。オレを利用したいんだろ?だったらこっちも条件を出す。それを吞んでくれるってんなら、思う存分利用させてやる。」
てっきり嫌われたものだと思っていたが…気づいたうえで利用していいなんて、いったいどんな条件を掲示してくるのか。
そう警戒するオレに、彼は真剣な表情で手を差し伸べ言った。
「オレと本当の意味で友だちになってくれよ。お互い飾らずに、本音で話す、親友のような…な。」
??????っ!?
トモ…ダチ…イヤ……シン…ユウ…
とんだ思い違いをしていたようだ。良い教材?近くにいれば学べる?そんなことはどうでもいい。彼はオレの性格や問題、全容は知らずとも、その一端は認識したうえで友になろうなどと言ってのけたのだ。こんな機会は人生に何度とあることではない。なんて運がいいのだろうか。
「…オレなんかで良ければ、ぜひ友達になってほしい。」
ぶっきらぼうな返事しかできない自分に嫌気が差したが、それ以上に、そんなオレのことを理解してくれる喜びが勝った。
「決まりだ。じゃあこれからは名前で呼び合おうな、清隆。」
名前だ!名前呼びだ!高校生活初日から!人生の友ができたのだ。あの場所に戻ったとしても、今日のことは絶対に忘れない。忘れてなるものか。
「!!ああ、凪。」
返事をすると、凪はするっと手を離してしまった。友だち同士で手を繋いで登校なんて、小学生までらしいからな。仕方がない…しかたないんだ。
龍園(あの野郎…そういう趣味じゃねえだろうな…)-警戒
綾小路(ここまで仲良くなるなんて、一緒にあの場所で育っていたのでは?そうだった気がする。というかそうだよな。マイフレンド。)
初期小路くんってここまではっちゃけていいものだっけと思いながらやりました。後悔はない。