狐面の少女───狐坂ワカモは、アリウススクワッドと
目の前の景色から感じるのは、自分の遅さと力不足。
そして怒り。
目の前に居る有象無象共が、愛する人の命を奪おうとしたこと。
黄色い瞳を膨れるように大きく見開いて、その眼は背後へ向けられた。
「どなた?」
「どなたが、先生を?」
『───ムッシュ!ゲヘナの車両が接近中!迎撃に失敗しました!』
「何をしてる!?」
「ムッシュ、来ます───救急車!?」
ゲヘナの校章が入った真っ黒のバンだ。脇のドアに掴まっていた少女がヒナの回収を指示、ワカモと目が合った。
「…七囚人の方でしたか。ゲヘナ学園の救急医学部、部長の
「…お願いいたします。」
「逃がすか!」
「させませんわ。」
救急車へ浴びせられる銃弾の雨あられ。重傷のスネークを運び入れるのに手間取っている。
ワカモ一人では銃弾を弾くばかりで、迫るスクワッド達から距離を取ることが難しい。
救急車から男が降りた。
「手伝おう。」
髪を短く纏めた鋭い目つきの男は、前に居るサオリやミサキに手早く弾を叩き込む。
場の誰も素性を知らないこの男は、ワカモに下がるよう促した。
回収が終わった。スネークがベッドに移され、まもなくセナが触診を始めるだろう。
この男も医療従事者だろうか、医者にしては戦闘慣れしすぎでは?と、ワカモは当たり前の疑問を呈するが、彼女は感謝を示してアリウス陣営に榴弾を投げ込む。
「何だ、貴様は何を───!?」
彼が銃身を横に躱した刹那、サオリの顔に冷たい感覚と強い衝撃が走る。ライフルを奪われ、地が空と逆転した。
「
「セナ、車を出せ!」
「了解です。搬送の準備ができ次第。」
「逃がすか……!」
ワカモは兵士の一人からSMGを引ったくった後、車上を陣取り、自身を銃座代わりにした。
目には未だ負の感情が渦巻いている。
「……セナ。」
「意識はありません。下腹部を二発撃たれています。」
「…一発は腹壁を貫通してる。」
点滴の用意は済んでいた。手際よく傷口を消毒・圧迫し、手当をが進んで行くのは流石、専門家だ。
「一番近い病院は?」
「…トリニティ校舎です。救護騎士団に協力を頼みます。」
この状況でゲヘナの救急車が「どうぞ」と通してもらえると思えない。最悪の場合は別の病院に向かうことになるため、それに備えておくことも求められる。
そして今、彼は自身を殺した男の治療をしている。己の片割れの実質的な子でもあるデイビッドに、エイハブは何を思うか。
1995年、南アフリカでロケット弾を叩き込まれたの日。
同胞を殺されたと同時に全てから解放された日を回顧する。
「………デイブ…先生、は?」
生まれつきの頑丈さとしか説明ができないが、こんなにも早くヒナの意識が戻った。
「生きていますよ。一命は取り留めました。」
「そう……」
ヒナは虚ろな目をして、そのまま上を向いたきり黙ってしまった。
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アリウスの装甲車は、数を減らしながらも追走を続けていた。
ゲヘナ、トリニティ、その他闇市場へ違法に流れた車両…その寄せ集めだ。
「
『───、校舎100m手前で引き返せ。それまでは攻撃を継続。』
「こちらも戦力持ちません、間もなく撤退───!?」
ワカモが運転席を吹き飛ばすと同時に、車両は縦に裂けた。
「貴方は………」
「君は……ワカモだったか、あいつから聞いてる。」
「…ジャック、先生?」
「ここからは俺が。…君は中に。」
「後を頼みます。」
ワカモは置き土産とばかりに、装甲車たちに手榴弾を投げつけてから救急車の中へ滑り込んでいった。
OBJECTIVE:追跡部隊の無力化
「かかって来い……!」
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「意識戻りません───、投与…───」
「──。彼を──────は確…」
「───っうぅ…ごっ……!」
「…!?あなた様、気がついて…!───いえ、起き上がってはいけません。どうか横に…」
ワカモはナースコールを連打した。
「……何が起こった?」
「私が間に合わなかったばかりに……あなた様を命の危機に
晒してしまい、申し訳ございません…!!」
気持ちのままに泣き謝る彼女は、駆けつけたセナとセリナに宥められてから引き剥がされた。
「先生、失礼します。」
セナがスネークの傷口を確認している。触診までされたが、さほど痛くない。
「ここまで治りが早いとは……これならしばらくで復帰できるでしょう、おおよそ五日。」
「…なあ。」
「セナ、セリナ、ワカモ。一体何が起こった?何時間経ってる?」
セリナがカルテと思わしき書類への手を止めて、彼の手を取った 。
「…先生、あなたが撃たれてから既に…十二時間経過しています。」