The Deadly Pride ~不遇悪役貴族に転生した俺は大罪魔法『傲慢』で最強へ至る~   作:嵐山田

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第百六十一話 皇帝たる資格⑱

「殺さぬのか?」

 

 その首元へ刃を当てたまま動かさずにいれば、どこか憑き物が落ちたようなあっさりとした声でモラクは聞いてきた。

 

「ああ、殺さない。俺が求めたのはお前の首ではなく、最強の証明だからな。ここで()()モラクを殺せば国はかなり荒れるだろう。それは俺の望むところではない」

 

「フッ、それに関しては余を殺さずとも大した変わりはないだろうがな」

 

 軽く笑いながらモラクは空間を解除した。

 再び、辺り一帯が俺の『傲慢』もとい『煉獄』に満たされていく。

 

 それを確認した時点で俺も剣を降ろした。

 この状態で空間を解除することは降伏に等しい。

 さて、後は……。

 

「王冠はどこにある?」

 

「……どうやら探す必要はないようだな」

 

 俺の質問に意味ありげな微笑で返すモラクに怪訝な視線を向けると、その奥の方で五人分の足音が聞えて来た。

 

「良い臣を持ったな。ファレス・アゼクオン」

 

「ああ、そのようだ。だが、臣と言うには近すぎる。彼女たちはそうだな……」

 

 俺は駆け寄ってくる彼女たちの方へ視線を向ける。

 

「仲間、と言うのが一番良いのだろう」

 

 モラクにそう告げると俺はリジルを納め、駆け寄ってくる彼女たちの方へ自らも歩み寄る。

 

 先頭を走ってくるのはもちろんサラ。

 いつもより、どことなく腰のあたりを庇うような走り方に見えるが、負傷でもしたのだろうか?

 だが、それでもその表情からは痛みなどは一切感じられない。

 両手にはいつもの白い手袋が嵌められており、王冠を抱えるようにして運んできている。

 

 サラの後を続いてくるのはサンとクイン。

 サラのように身体のどこかを庇うような走り方には見えないが、少なくない疲労の色が特にクインには強く見て取れる。

 でも、今はそれ以上に少しでも早くこちらへ、と言う意志が強く感じられた。

 

 そして、そんな三人に少し遅れてついて来るのはセレスティアとリューナス。

 セレスティアは本来ならサラと競い合うように飛び出してくるかと思っていたが、俺の空間に初めて足を踏み入れたリューナスが度々立ち止まるのを何とか引っ張ってこちらへ連れてきてくれている。

 二人は流石と言ったところか、負傷どころか疲労の色も見えない。

 

「ファレス様!!」

 

 真っ先に俺の元へと辿り着き、こちらへ飛びつこうとしたサラが自分が手にしているそれの存在を思い出し、寸でのところで思いとどまると、その隙を逃さないとばかりにサンが疲れを感じさせないジャンプで俺の首へ抱き着いてくる。

 

「お兄ちゃん!」

「ファレスさm……ファレスさん!」

 

 サンを抱き留めていれば、いつもは控えめなクインも思い切ったという感情がありありと伝わってくる声音で俺を呼び、サンとは反対側から優しく抱きしめて来た。

 

「サラ、サン、クイン、それからセレスティアにリューナスも、しっかりと勝って来たようだな」

 

 二人へ抱擁を返しながら、しかし視線ではそれぞれと目を合わせるようにして言う。

 努めて真面目に言ったつもりだが、言葉尻に少しの笑みが混じってしまったのは今の俺が感じている達成感のせいだろうか。

 

「流石ですわ、ファ……ファレス」

 

 すると、リューナスの手を引きながらようやく足を止めたセレスティアが珍しく照れながら賞賛の言葉を贈ってくれた。

 両親以外からはあまり呼ばれ慣れない呼び方に、思わず俺の頬も熱を持つ。

 だが――

 

「ああ! 流石はファレス殿だ! それより、この空間? ここの全域がファレス殿の魔力で満ちているのはどういうことなのだろうか? これもファレス殿の魔法か!?」

 

 良い意味でも悪い意味でも空気を読まないリューナスの一言で俺の頬からはスッと熱が消えていく。

 

「……それについてはまた教えよう」

 

「ああ!」

 

 俺がそう言えば、現在の俺たちの中で、最も嬉しそうな顔をして見せるリューナス。

 その瞳に強さ以外の何かが映ることはあるのだろうか?

 だが、それこそリューナスの良いところでもある。

 とは言え、今はそろそろ空間を納めておこう。

 

 ――なんて、そんなことを考えていれば、最初に俺の元に辿り着いて以降、珍しく動きのなかったサラが力を込めて一歩を踏み出した。

 

「皆様……先に約束しましたよね? まずは、ファレス様に戴冠していただくと」

 

 静かな口調に籠る確かな怒気。

 王冠を掴む手は怒りに震え、あれ以上力を掛ければ砕け散ってしまいそうに見える。

 

「……そ、そうでした! 私としたことが、すみませんファレスさm……さん! ほら、サン。一旦降りて」

 

「う、うん。分かった」

 

 そんなサラを見て、おずおずとクインとサンが俺の元を離れ一歩引いた。

 そうやって空いた俺の元へサラがゆっくりと歩いてくる。

 

「ファレス様……」

 

 そして、サラは手に持った王冠を俺の方へ差し出してくる。

 だが、その手はあくまで王冠を俺へと手渡そうという手で、サラが俺へ戴冠させてくれるわけではないようだ。

 サラの血筋が明らかになった今、サラから戴冠しても良い気がするが……なんて思って彼女の方を見れば、サラは軽く首を振った。

 

 なるほど。

 どうやら、そのことは承知した上であくまで俺は俺の手で戴冠をすべきと、サラはそう言いたいらしい。

 

「ああ」

 

 目線だけでそんなやり取りをした俺は震えるサラの手から王冠を受け取る。

 確かに、この王冠は誰かから貰ったものではない。

 俺が、俺たちが掴み取ったものだ。

 だとすれば、俺が自ら被ることが、最もふさわしい。

 

 慎重に受け取ったそれに一瞥をしてから、再度彼女たちの方を見据える。

 リューナスから順番に視線を交わしていけば、皆、コクリと一つ頷きを返して来た。

 

 よし。

 俺は満を持して、王冠を頭上へ持って行く。

 そして、遂に、それを頭の上へと下ろした。

 

 ◇◇◇

 

「仲間、か……」

 

 駆け寄って来た少女たちと歩み寄っていくファレスを見つめながら、モラクは短く言葉を漏らした。

 モラクのそこそこに長い人生において敗北を味わうのは本当に久しい経験だった。

 

 モラクが初めて敗北を味わったのはあの時……今ではすっかり顔を合わせることが無くなってしまった旧い友人との……。

 

「ハッハッハ! 滑稽だな! まさか生きているうちにお前のそんな顔がまた見られるとは、長生きもして見るものだな!」

 

 回想を始めようとしたモラクの背後から、丁度彼らには聞こえない程度の声量でそんな声が聞こえて来た。

 

「……スレイドか。いつから見ていた」

 

 声の主は丁度回想にも現れようとしていた相手。

 モラクが失ってしまった唯一の存在。

 スレイド・ファルシアンだった。

 

「孫の晴れ舞台だぞ? 始めからに決まっておろう!」

 

「フッ……そんなことにも気が付かなかったとは。余もまだまだだったという訳か」

 

 モラクは言いながら天を仰ぐ。

 その見上げる途中、王城の頂上付近にはもう一つの人影が見えた。

 

「……アゼクオンの結束は凄まじいな」

 

「ファレスのカリスマがあってのものだ。だが、我が娘の執着心はそれはそれで親として不安にならなくもないがな」

 

 スレイドもモラクと同じ方を見上げる。

 そこでは、スジェンナが涙を流しながらファレスのことを見守っていた。

 

「……して、モラク。お前はこれからどうするつもりだ?」

 

 スレイドはそんなスジェンナから、頭痛の種から離れるように視線を背けて、話を変えた。

 

「さてな。死んでもおかしくないと思っていたが……。まあ、敗者の処遇は勝者が決めるのが道理だろう。お前の孫の沙汰を待つとしよう」

 

「フッ……負けた途端に丸くなりおって、まあ、儂としては今のお前の方がらしい、と思うがな」

 

「……歳を考えて物を言え、気色が悪いぞ」

 

「ハッハッハ!」

 

「フッ、ハッハッハ!」

 

 立場を忘れ、二人の老人は笑い合う。

 その視線の先では、正に今、ファレスが己が頭上に王冠を乗せんとしているところだった。

 

 ◇◇◇

 

 皆に見守られながら、俺は王冠を被った。

 手に持った時にも思ったが、想像以上にずっしりとしており、ずっと被っていては首が疲れそうだ、と言うのが率直な感想だった。

 

 だが、そんな感想も、一度魔力を通してみれば一変する。

 

 まるで元から俺の物であったかのように、そこに在るのが正しいかのようにしっくりと来る感覚。

 先に到達した『心剣一体』の境地とはまた別の、だが確かなつながりを感じられるような妙な感覚だった。

 

 そんな感覚に感想を抱いていれば、サラがうずうずと何かを待っているような表情をしているのが目に入った。

 そうか……そう言えば、そうだったな。

 サラの夢は俺を皇帝にすることだったか。

 ならば、俺はサラの主として、婚約者として、そして、ここまで付いてきてくれた仲間に報いなくてはならない。

 

 この王冠の性能は既に知っている。

 声を帝国中へ渡らせる最高峰の魔道具。

 さて、では勝利宣言及びに俺の即位を知らしめるとしよう。

 

 王冠のおかげかイメージしなくとも、勝手に帝国の地図が俺の脳内へと浮かび上がった。

 俺はその全域に向けて、語り始める。

 

 

「帝国の民よ、聞け! 俺は、俺こそはグラーツィア帝国が皇帝、モラク・ルー・グラーツィアを打ち破り、新たに帝位に立つファレス・アゼクオンだ!」

 

 太陽はまだ燦々と輝き、穏やかな昼過ぎの帝国に俺の声が響き渡る。

 途端、それまで聞こえていた風の音や諸々の環境音が全て、停止したかのような感覚に陥った。

 しかし、すぐにそれらの環境音が消えたのではないことに気が付く。

 

「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」

 

 言葉にならない感情を乗せた声が波のようにあちらこちらから聞こえてくる。

 その音はリューナスの音魔法に顔負けしないほどに力強く、熱いものだった。

 

 俺はその熱狂があらかた落ち着くのを待って、言葉を続ける。

 

「今、熱狂している者たちも、そうでない者も、内心には今後の帝国がどうなるのか不安に思う者もいるだろう。だが、その心配は必要ない! 確かに俺は皇帝になったがこの国を大きく変えようだとか、そのようなことを考えているわけではない。無論、モラク・グラーツィアにも勝利したが、血を流すような結果にはなっていない」

 

 これはずっと考えていたことだ。

 皇帝になったその先。

 俺は何を為すのか、何をするのか。

 しかし、何度考えても、何かが浮かんでくることなかった。

 それは何故か?

 

 だって、当然だろう?

 この世界は俺が廃プレイヤーになるほどに魅せられた、そのままの世界なのだから。

 

「俺は皇帝として、その務めは果たそう。だが、国を大きく変えるつもりもなければ、国名さえ変えるつもりはない。だが、格は必要だからな。ここに宣言しよう。今、この時を持って、俺、ファレス・アゼクオンは、ファレス・ルー・グラーツィア・アゼクオンを名乗り、このグラーツィア帝国の皇帝となることを!」

 

 だから、変わるのは俺だけでいい。

 俺と言う個人が帝国の頂点に立つ。

 それが、俺の出した結論。

 皇帝として俺が為すことだ。

 

「それから、グラーツィア家についてだが、皇族の地位は無論はく奪とする。だが、代わりにベリル・グラーツィア、お前に王の称号を与える。せいぜいその名に恥じぬ働きをして見せることだ」

 

 そして、もう一つ。

 これはつい最近考えついたことだ。

 俺が皇帝になってもなるべく帝国を揺るがさない方法。

 皇帝の下に新たな役割を作り、皇帝の格上げをしたまま、帝国を変えなければ、そこまで大きな変更はないのではないかと、そう考えたわけだ。

 

 だが、打ち破ったモラクを王として立てるのは流石にまずい。

 と言うことで、俺は騎士たちにも慕われていたベリルを王として立てることを思いついた。

 

 すると、王都のどこかから「はぁぁぁぁっ!?」という絶叫が聞こえた気がした。

 

「その他にも、各々思うことはあるだろう。だが、皇帝は俺だ。文句があるならば、俺に直接言いに来るが良い!」

 

 聞えて来た絶叫は無視して、それだけ付け加えると、俺は大きく息を吸う。

 そして最後にもう一度強く、印象付けるように宣言する。

 

「俺を推して来た者たちよ! 俺は勝った! 大いに叫べ、喜べ、勝鬨(かちどき)を上げよ! 俺こそ皇帝ファレス・ルー・グラーツィア・アゼクオンだ!!」

 

 再び湧き上がる帝国に強固な王城の演習場が揺らぐ。

 それほどの大絶叫が帝国を包み、こうして、帝国史に新たな歴史が刻まれた。

 

 

 

「お疲れ様です。ファレス様」

 

 サラを始めとした五人に囲まれる。

 

「ああ、皆も良くやってくれた。感謝する」

 

 そして、俺は感謝を伝えるように順番に視線を交わしていく。

 

「ふふっ、でもこれからの方が大変ですわよ」

 

「書類仕事なら、お任せください!」

 

「ファレス殿が皇帝と言うことはその騎士である私は近衛になるのだろうか?」

 

「私はお兄ちゃんの妹だよ?」

 

「私は母よ!」

 

「……母上!?」

 

 突然現れた母さんに皆の表情にも笑みがこぼれる。

 ああ……これなら、こんな皆に囲まれているなら、きっとこの先、何があってもやって行けるだろう。

 

 最後にサラと視線を合わせる。

 

「何があってもお傍に。ずっと、誰より、何より愛しておりますファレス様」

 

「ああ、俺もだ」

 

 サラのまっすぐな告白に俺も真っすぐに答える。

 

「サラさん! 今じゃないでしょう!」

「いえ、今こそでしょう?」

「……!」

 

 すると、それにセレスティアが突っかかり、サラが気然と行動を正当化する。

 そして……わちゃわちゃといつもの流れに落ち着いていく。

 

 俺は今日、皇帝になった。

 だが、これからの日々もこれまでの日々もきっと変わらない。

 彼女たちが居る限り、俺は時に支えられ、時に引っ張られ、今後の人生を送っていくのだろう。

 

 もう誰も、(ファレス)のことを不遇とは呼べないな。

 

 

 

 

 これはとある男の物語。

 不思議な記憶を持った少年が、その『傲慢』を力に変えて、運命を変えて見せた、そんな物語のほんの一片。これから先も続いていく、長い物語の先駆け。

 

 だが、今日の一幕は、その記憶風に言うならば――大団円のハッピーエンド、とそう言えるだろう。




 ここまでお読みいただきありがとうございました!
 25年9月からの連載にお付き合いいただきありがとうございました!
 これにて完結となります!
 では、ハメ版はあとがき最小限でやって来たので今回も少なめに(カクヨム版は長めのあとがきが載ってます)
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