日常に潜む詐欺に気を付けてください。
「あー今日も疲れたぜ」
「お疲れ様ですご主人様」
俺の名は田中
ある日トラックに轢かれて死んだと思ったら、
神様にチート能力を貰って漫画的なヨーロッパ風の剣と魔法の世界に転移した。
ありがちな設定だろ?
目の前の獣耳の少女はクロ。
猫みたいな黒い耳が生えてるからそう名付けた。
元奴隷だ。
これもまあよくあるやつだ。
違う文化で育った連中と仲間になるのは難しい。
なら買っちゃえって訳だ。
奴隷は良い。
酷い扱いさえしなければ逆らわない。
そういう魔法がかけられている。
元日本人の俺が行うような雑な扱いは、
この世界ではお行儀がいいレベルである。
「しかし冒険者ってのは割に合わないな。
今日殺したモンスターの素材を加工した製品の市場価格は100万のはずだ。
でも冒険者に支払われるのは20万」
「それは加工したり運搬したりでお金かかるのでは?」
「そうだ。
学が無い冒険者どもはそれで納得する。
だがこの世界は思った以上に工業化が進んでる」
電気じゃなくて魔法で、だけど。
「つまり加工は人の手ではなく機械で行ってる。
初期投資さえ出せる奴なら安く大量に加工できるんだ」
「はあ」
「商人だって移動が命がけという訳じゃない。
魔導列車を1両リースして運搬してる。
大したリスク無く中抜きしてやがるんだ」
「それではご主人様もやってみては?
お金はあるのですから」
「バカ。
中古の機械だって2000万はするぞ?」
「え!?」
「しかもそれを買ったからって競合は存在する。
結局コネと営業力がなけりゃあ客は寄ってこない。
俺にみたいに戦うしか能がなくて奴隷相手にしか饒舌に話せないような内弁慶には無理だよ。
優秀な人間雇うって手段もあるが、独立された瞬間終わりだしな」
「なるほどー」
分かってねえなこいつ。
適当に相槌してる。
内弁慶という自己評価も否定しないし。
まあそんな奴だから上から語れてストレスフリーなんだが。
しかし困った。
俺は神様からチートを貰った勝ち組だが、一生安泰というわけじゃない。
負傷している時にドラゴンにでも遭遇したら手足を持って行かれるかもしれん。
そうなったら今までのように稼げなくなる。
加齢で体力も衰えるしな。
異世界に来た時点でおっさんだったのだ。
俺の黄金期は短い。
「あーあ。
なんか簡単に儲かる方法ねーかなあ。
モンスターの影響でグローバル化が進んでないから詐欺で金集めて国外逃亡とかさ。
というか敵国なら大量に外貨持ち込めばワンチャン好待遇で受け入れてくれるかもしれん」
「そうですねー」
俺の居る国の司法では殺人や強盗は厳しく処罰されるが、詐欺に対しては緩い。
法整備も緩い。
ねずみ講でもやれば儲かるかもしれんが、あれは時間がかかる。
時間をかけていたらそれだけリスクも上がる。
司法が未熟だからこそ違法かどうかなんて関係なく拘束される可能性もある。
やるならギリギリまで詐欺だと気づかれずにでっかく稼いでサクッと逃げる。
これしかない。
「なんかいい方法ないかなあ?
久々にアレを見てみるか」
俺は自室に机の中からスマートフォンを取り出した。
転移した時に持っていたものだ。
バッテリーの問題は魔法家電で解決している。
でもネットには繋がらないので対して役には立たない。
適当にダウンロードしていた漫画や小説を読める程度だ。
その中に何か使えそうな知識はないかなあ、ということだ。
「あー、サブスクで適当にダウンロードしてるだけあって大した本はないなあ。
投資の本とかもなあ。日本とはルールが違うしなあ」
ちなみにこの世界にも株式会社は存在する。
じゃあ株式投資で儲ければ良いって?
庶民には無理だ。
この世界ではまだ上場という概念がない。
金持ち同士のコミュニティで事業投資をしているだけだ。
現代で言うところのスタートアップ投資的なやつ。
「投資の本も沢山あるなあ。
FIRE目指してた名残だな」
「……?
炎の魔法なら私が使えますよ?」
クロが指先にライターみたいに火を出す。
魔法だ。
いいなあ。
俺には適性がなかった。
いや、そうじゃない。
「違う。
Financial Independence, Retire Earlyの略語だ」
「お金に困らないように準備して仕事を辞める、ですか。
それは確かに夢ですねえ。」
俺と現地民のコミュニケーションは翻訳魔法でなりたっている。
だから英語でも日本語でも現地語で伝わるし、
クロのような学のない人間にも伝わるように勝手にかみ砕いてくれる。
ちなみに本来はFIREの意味は経済的自立と早期リタイヤだ。
現代日本では『節約しながら投資をして複利の恩恵で資産を増やし、
一定以上になったらそれを取り崩して生きていく』という意味で使われることが多い。
「うん?
『HOW TO ポンジスキーム』?
なんだこれ。
なんで投資の棚に入ってるんだ?」
なんか聞き覚えのある響きだな。
取りあえず読んでみるか。
~1時間後~
「これだ!!」
今まさに俺が求めていた投資詐欺だ!
しかも偉大なるチャールズ・ポンジ氏のトラブル対応まで載っている。
現代日本ですら逮捕は難しい投資詐欺だ。
司法の緩いこの世界なら逃げ得間違いなし!
「早速準備するぞ!
コンを呼べ。
話があるってな!」
「わかりましたー」
ふふふ、俺も勝ち組になるときが来たぞ!
***********************************
「お待たせしましたタナカ様。
本日はどういったご用件で?」
クロが俺の命令で連れてきたのは狐の獣人の美女。
名をフィリコ・アンティローゼという。
面倒だから略してコンと呼んでる。
元はブイブイ言わせていた新参の商人だったのだが、
大手商会の支部長に妬みを買ってしまい、
数々の妨害工作の結果客が離れてしまっていた。
俺はその状況に目を付けて近づいた。
武力で支部長を牽制し、商会の本部を脅迫して強引に和解。
その後は護衛として金をとり、素材を相場の1割増しで買い取らせている。
極道じゃん、って?
そうです。
極道漫画を参考にしました。
ぶっちゃけ強引に手籠めにしたのだが、
なんでか知らんが割と好かれてる。
ヤンキーがモテるの法則なのかね?
強いオスには本能的に惹かれる的な。
まあそこはいいや。
便利で綺麗だし。
「俺は商売を始めようと思っている。
コンにはそれを手助けして欲しい」
「商売ですか?
お金に困っているようでしたら融通しますが……」
「違う。
小銭が欲しいんじゃない。
もっとデカく金を稼ぐんだ。
当然、お前にも恩恵はあるぞ」
「失礼しました。
では、どういった商売でしょうか?」
コンが深々と頭を下げる。
なんか俺の発言って売れないバンドマンみたいだな。
まあいいや。
「うむ。
俺らの住む国は今隣国と緊張状態にあることは知ってるな?」
「はい。
ですが、戦争には発展しないでしょう」
「ああ、お互いそんな余裕はない。
だが、いがみ合ってきた歴史から加熱する世論ゆえの緊張だ。
戦闘なしには収まらない。
よって、経済戦争の兆しがある」
「隣国の主要産業の1つである果実の種を我が国の農家が盗んだ件ですよね?」
日本のシャインマスカットが盗まれた!事件を思い出したよね。
世界は変われど人間のやる事は変わらないなって。
「うむ、今後もこういった事例が多数発生するだろう。
俺はそこに目を付けた」
さて、ここからがポンジスキームにおいて最も重要だ。
チャールズ・ポンジ氏はイタリア-アメリカ間の
切手と為替のレートの違いに目を付けて説得力を得た。
しかし、まったく同じ事象はないし、
証券取引が一般的ではないので、投資をするという概念が薄い。
故に俺は隣国への敵意を利用することにした。
「隣国の基幹産業である魔導車の技術を盗んだ俺は、
これから隣国と同水準の魔導車を作る。
そうすれば隣国からの輸入は減り、嫌いな奴らに金を払わなくてよくなる」
「それは誠ですか!?」
驚くコン。
無理はない。
魔導車は自動車と違い、分解しても構造が理解できない。
魔導回路は完全なるブラックボックス。
独占市場なのだ。
この国でも似たものは作れているが、クオリティが著しく低い。
よく燃える。
「今でも魔導車は作れるが、
もっと沢山の魔導車を作るには大きな工場がいる。
故に俺は出資者を募る。
この産業は確実に儲かるから出資者には毎月2%の配当を払う」
「毎月2%……ですか」
「ああ」
「魔導車は月にどれくらい作れるのですか?」
「作れん」
「……は?」
固まるコン。
何言ってんだこいつ、って表情である。
モ○ハンのキ○ン装備のコスプレして致そうと提案した時にも同じ顔をしていた。
「だから隣国の中古車を輸入してガワだけ綺麗にして売る」
「……では工場は?」
「作るぞ。
ガワを交換する為にな」
「配当は払うので?」
「勿論だとも。
最初の数カ月はな」
「返金には?」
「ケースバイケースだ」
「……」
黙り込むコン。
完全にポンジスキームを理解したようだ。
流石は商人。
頭がいい。
ポンジスキームとはそれっぽい投資案件と通常ではあり得ない高配当を餌に金を集めて、
実際には投資をせずに集めた金の中から配当を支払い安心させ、
目標金額に達したら金を持って逃走するというものだ。
かなり簡略化して話したが理解に大きな違いはないはず。
現代日本ではテレビCMをやるような大規模なものから、
キャバクラなどで羽振りの良い男がキャストに、
「俺は経済界に知り合いが沢山いるから株の値動きが分かる。
俺にお金を預けてくれれば増やしてあげるよ?
ちょっとした贅沢用に毎月配当として5%くらい振り込んであげる」
といって金を集める小規模なものなど様々だ。
防ぐ方法はシンプルだ。
大手証券会社以外で投資をしない。
これに限る。
というか俺と違ってネットで調べられるんだから調べろ。
YouTubeやXにいくらでも情報転がってるから。
「……この国にいられなくなりますよ?」
「問題あるか?
俺は力が有る。
何処に居ても問題はない。
お前もいい加減この国の財閥体制には嫌気がさしているだろう?
隣国は多少マシだと聞くぞ。
この件で大きく儲ければ今後にもつながる」
「ですが詐欺師の汚名を受けます」
「どうだろうな。
このスキームは誰にでもできる。
模倣がしやすい。
情報共有するかは半々といったところか?
ましてやいがみ合っているしな」
この国は貧富の差が激しいので、ターゲットはある程度の金持ちだ。
そうなると奴らはプライドが高いので騙されたことを声高に言わない傾向にある。
国としても模倣は防ぎたいだろう。
まあこれは楽観的な推察だが。
普通に指名手配されるかもしれん。
それでもいがみ合っている隣国に逃げれば問題ないと踏んでいる。
詐欺の刑罰は緩いからな。
ましてや被害者は仮想敵国の国民だ。
再犯さえしなければ問題ないだろ。
「……」
「不安だというならお前も被害者という形にしようか?
そうなるとあまり分け前はやれんし、
離れ離れになってしまうので少し寂しいが」
「……いえ、やります!
やりましょう!」
一大決心みたいな覇気だ。
やることは詐欺なんだがな。
「よし、じゃあ作戦開始だ」
俺はテーブルに地図を広げた。
「まずここの土地を俺が切り開く。
死にかけのババアの土地だが、バレやしない。
出資者には俺の土地だということにしてくれ。
どうせ遊ばせていた場所だし問題ないだろう。
そして工場を建てる。
ここでは隣国から買った中古車の外装を交換してクロが内装を綺麗にする。
あいつの魔法は威力はないが繊細だからな。
魔導車の外装は鍛冶屋を雇って作らせる。
そして新車が10台出来たらお前の伝手で情報を流す。
高品質な国産魔導車の開発に成功。
量産に向けて出資を募る、といった具合にな。
興味を持った人間の中から影響力のありそうな者を数名選んで工場に呼べ。
そして試乗させろ。
その際に耳打ちするのだ。
実は隣国から魔導車の回路情報を盗んだのだ、と。
後は配当の話をして情報を拡散させる。
目標額に達成するまで似た手口で客を呼ぶ。
工場は俺が適当に作るから大した金はかからんが、
中古車の購入と人件費で2000万は必要だろう。
これは俺が出す。
代わりに儲けは7:3だ。
目標金額は20億ってとこかな。
それだけあれば俺は遊んで暮らせるし、お前も新たな地で余裕をもって商売ができるだろう。
意見は有るか?」
一気にまくし立てた。
短期で一気に稼ぐつもりなので、見る奴が見れば穴だらけだ。
でも上手くいくと思っている。
本にそう書いてあった。
「実際に車は売らないのですか?」
「ああ。
故障の対応とかできないしな。
販路をつくるのも面倒臭い」
「タナカ様の知り合いで著名な方に譲って宣伝代わりに乗ってもらうのはいかがでしょう?
その方が私も話しやすいですし」
「うむ」
なるほどね。
それは良い考えかもしれん。
それなら領主の馬鹿息子と元S級冒険者の極貧ジジイに譲るか。
前者は貴族の癖に冒険者になりたいとか言ってる馬鹿なので、
ここらへんで敵なしの俺の頼みなら聞くだろう。
後者はレジェンド冒険者の癖にカジノに入り浸って稼いだ金を殆ど溶かしたアホだ。
タダでもらえるなら喜ぶに決まってる。
「それは良い案だな。
2人ほど適任がいる。
魔導車が出来たら渡して、乗り回すように言っておこう」
「よろしくお願いします」
「他にはないか?
……では作戦開始だ!!」
*************************************
あれから3ヵ月。
詐欺は面白いように成功した。
自分が賢いと思っている資産家どもは俺の計画に頷きながら金を出した。
最初は怪しんでいたやつも、
配当を入金して、その後の出金にも応じた結果、
完全に信用して多額の追加投資をしてきた。
これぞチャールズ・ポンジ氏の作戦だ。
人は金を信じている。
楽して金を手にすると欲が出る。
最初に儲けさせて信用させて有り金をむしり取る、なんてのは常套手段。
常套手段ゆえにいつの時代も通用する。
「がはははっ!
好調も好調だな!
おいコン!いまどれくらいだ?」
「40億です。
貴族様はお金持ちが多いですね。
既に目標金額を大きく超えてます」
現代日本だったらもっと稼げたが、仕方ない。
投資家の数が少ないからな。
もう数年は続けないと本当の大口は手を出さないだろう。
だが、それを待っていたら破滅する。
本にそう書いてあった。
「そうか。
じゃあ飛ぶぞ。
準備しろ」
「あ、……はい。
かしこまりました」
驚いた表情をするコン。
かしこいと思っていたが、所詮は人間。
大金を手にすれば欲が出る。
それもまあ仕方ない。
「なんだ、もっと欲をかくと思ったか?」
「……はい、申し訳ありません」
「構わん。
だが、それなりの相手が出資している以上、
実態がバレたら武力行使をされる可能性がある。
その場合は俺以外斬殺されるぞ?」
「今すぐ準備します!」
急いで立ち上がったコン。
商会の支部長に嫌がらせされた経験から暴力沙汰にトラウマが有るのだ。
かわいそ。
「おーい、クロ」
「はい、ご主人様」
「大型の魔導車を持ってこい。
残りの展示用は投資家どもにくれてやろう。
餞別ってやつだ」
「かしこまりましたー」
そんなこんなで準備完了。
この世界では紙幣も金貨も存在する。
日常では紙幣が多いが、貿易では金貨を使う。
信用の問題だ。
それを逆手にとって海外から資材を購入するという名目で大量の金貨に換金した。
これなら海外でも換金しやすい。
勝ったな。
「よーし車に金貨を積むぞ」
コンが台車でかき集めてきた金貨入り段ボールを抱える。
1つ20kgで20箱。
俺はチート持ちなので軽々と持ち上げてどんどん積み込む。
流石に重いのか、車のタイヤが若干沈んだ気がする。
「おー、これが40億の重みかあ。
念の為に大型魔導車を仕入といてよかったな」
金貨運搬用に仕入れた大型魔導車が活躍するな。
中型トラックくらいの大きさだ。
「よーしじゃあ出発するぞ」
「はいご主人様」
「よろしくお願いします」
クロとコンも車に乗った。
さーて夢の逃避行だ!
********************************
あれから。
特に問題なく国境をすり抜け、隣国に移住。
詐欺師である事実が広まることはなかった。
一部のお偉いさんは何となく把握しているようで、
こちらを警戒していたが、俺たちが再犯する様子がないのをみると興味を無くしていった。
今俺は悠々自適に暮らしている。
隣国で暇つぶしがてら冒険者として働いて、
あとは7:3で分けた28億を銀行で運用している。
クロには暇を出した。
報酬として2000万ほどくれてやったら奴隷からの解放を希望したのだ。
そういうことならと許可した。
代わりの奴隷はいくらでもいるしな。
コンは分け前の12億を元手に隣国で商人として活躍している。
今回は最初から俺が後ろ盾として存在しているので、脅しなどのトラブルはないようだ。
そろそろ結婚して跡取りを作りたいと言い出したので、いいんじゃね?と言っておいた。
俺と結婚するのかって?
それはない。
お互いな。
どこぞの商会の次男坊でも捕まえるつもりだろ。
あいつはしたたかだからな。
え?
なんで痛い目に合わないって?
名前の通り串刺しになれって?
ははは。
これもリアルだ。
完成されたスキームを正しく運用した詐欺師は負けない。
現代日本だったら裁判になって資産差し押さえ。
国外逃亡しても国際手配、と不自由を強いられるが、
それでも得た金さえ洗浄していれば金を返さずに乗り越えられる。
まあ連れてこなかった鍛冶屋や雑用をさせてた連中は捕まったかもしれんがな。
蜥蜴の尻尾切りってやつだ。
詐欺の大元は捕まらない。
そういうふうにできている。
お前らも詐欺には気を付けろよ。
詐欺師は負けないが、引っかかる奴がいなければ勝てもしない。
疑ってかかり情報収集を怠らない。
これが鉄則だ。
それじゃあな。
俺は寝る。
労働から解放されて暇だしな。
ハバナイスデイ♪