真面目な黒髪清楚少女が、面と要領の良い綺麗なものが汚れるか壊れるのが性癖な許婿に、段々と絆される話。

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第1話

「ふんふふんふふーん」

部屋の中で、作業をしている男の鼻歌が響く。

男が作っているのは、トランプタワーだ。

 

格子状に積まれたトランプは、1段2段どころではなく、男の背丈ほどはあった。

 

完成したのだろうか、男は手を止め己が作ったトランプタワーを眺めている。

ひととおり眺め終わったあと男はうんと頷いた。

 

それを見た私は、トランプタワーの目の前まで行き

手ではたいた

トランプタワーははたかれたところから、バラバラに崩れてしまう。

 

普通、丹精込めて作った作品を、いきなり他の人が壊した時、怒ったり悲しんだりするだろう。

だが、男は手を頬にやり、恍惚とした表情を浮かべている。

 

それを見た私は心底呆れた顔で

「もう二度とやりませんからね」

と言った。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

少子化が進む日本で、政府は少しでも出産する子供を増やすため、お見合い婚制度というものができた。

その制度は、お見合い婚を国民に推奨し、結婚した夫婦に補助金を出すというものだ。

私はこの制度ができ、内容を見たとき、すぐに飛びついた。

というのも、女手一つで育ててくれた母親の負担を少しでも減らしたかったためだ。

私にいい暮らしをさせるため、己の身を削りながら働く母親をとても見ていられなかった。

 

お見合いは順調に進み、お互いに顔を合わせることになった。

 

許婿への第一印象は、一言で言えば好青年だろうか。

シュッとしたまつ毛に、整った顔立ち、清潔感のある服装をしている。

 

「初めまして、あなたとお見合い婚をすることになる園田拓斗です。」

「これからよろしくお願いしますね?結野伊織さん。」

 

期待していなかったといえば、嘘になる。

その時の私は確かに、これから先どうなるのだろうとワクワクしていたのだ。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・まあ、そんな思いは3日で崩れ去ったわけだが。

私の許婿、園田拓斗は綺麗なものが壊れるもしくは汚れるのが大好きな人だ。

彼は自らの性癖を満たすためならいつでも何処でも努力を惜しまない。

そう、どこでもだ。

 

「今日は三角関数をやっていくぞ。」

先生が教卓に立ち、ピカピカという擬音が聞こえてきそうな程磨かれた黒板に、チョークで文字を書き始める。

 

私はもしやと思い、彼の方を見ると・・・ビンゴだ。

うっとりと見つめ、チョークが黒板に触れるたびに口角を上げている。

 

昼休憩中、先程の疑問に答えてもらうため彼のもとへ向かう。

 

「もしかしてあの黒板、あなたがやったのですか?」

「ん、あー黒板ね?そうそう朝イチで学校に来てさ、汚れを落として磨いたんだよね」

「チョークが黒板に触れるたびに恍惚としていたのは」

「必死に磨いた黒板に、無遠慮にチョークで文字を描かれるとすごい興奮するんだよね」

「とても正気とは思えませんね」

 

この3日で、私の脳はこれに遠慮はいらないという答えを弾き出していた。

相手も遠慮なくズケズケ言われるのが良いらしい。なんて業が深いモンスターなんだ。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

家では私と彼の2人暮らしだ。

地方のお見合い制度は、丁度良い空き家を改築し、安価で貸し出すという特典がある。私がすぐに飛びついた理由の一つでもある。

 

学校が終わり、晩ご飯の時間になった。

ご飯は、お互いに料理ができるということで、1日ずつローテーションしている。今日は彼の番だ。

 

「む、やはり美味しいですね。普段から料理をしている私を唸らせるとは」

 

園田のご飯は、まあまあ美味しい。

これは、私が手放しで彼を褒められる要素の一つだ。

 

「それは良かったよ。趣味なんだよねー」

 

そう言って、料理を手に彼は座り、いただきますをしてから、料理を口に運ぶ。

 

「いつもやっているんですね。少し意外です。」

 

彼に料理を振る舞われるのはこれで2回目だが、最初と同じく特になにも起こりそうに

 

「はい、ここで納豆を入れます。」

「は?」

 

彼はおもむろに、皿に納豆を入れだした。

 

「なにを、しているのですか。その料理、に納豆は絶対、合いません」

 

彼は私の言うことを左から右に聞き流し、皿の納豆を混ぜ始めた。

先程まであった食材たちのハーモニーに、それをいれると見栄えも味も台無しになるだろうに

 

「言ったでしょ、趣味だって」

「趣味・・・まさか!?」

「ふふふ、そうさ!鮮やかな色彩を黒で塗りつぶすが如く、僕は完璧な料理に納豆を入れる!」

「な、納豆に謝りなさい!あなたの使い方が悪いだけで納豆は美味しいんですよ!」

「ええ・・・そこ?」

 

私は何を勘違いしていたのだろう。こいつは綺麗なものが汚れるもしくは壊れることに、快感を見出すモンスターなのだということを忘れていたのだ!

 

その後、納豆を入れた料理を食べた彼は「思いつきだけど結構良いかも・・・」と言っていた。

 

知るか

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

お見合い婚をしてから1ヶ月が経った。

あれからは、特に何事もなく、許婿の性癖が爆発しているだけで済んでいた。

 

・・・いやこれ本当に何事もなくか?骨折してるところ以外は平気と言っているのと同じようなものでは?

 

そんなことを思いながら、リビングの充電器を持って行った許婿の、部屋に入った私が出したのはドン引きの声だった。 

 

「げぇ・・・」

私がそんな声を出したのも無理はないだろう。

許婿の部屋は、限りないほど散らかっていた。

 

床は見えず、何かの塗料や工作の道具、A4サイズのコピー用紙が波のように広がっている。

普通なら汚部屋と呼称したいのだが、汚部屋というにはあまりにもおかしい。

 

散らかってはいるもののゴミはなく、散らかっているものはよく見れば規則的で、ちゃんとベッドまでの道が空いている。

この部屋の状態・・・

まさかッーー

 

「おや、伊織ちゃんじゃないか。どうしたのかな僕の部屋まで来て?」

後ろに、私がドン引きしてやまない許婿が立っていた。

 

「・・・充電器を取りにきただけです。それ以上でもそれ以下でもありません」

「ああ、そうだったか。すまない。作業に夢中になってしまい、リビングに返すのを忘れていた」

「それと、汚いものを見せてしまったね。実は僕、片付けるの苦手でさ、物が溜まる一方なんだよね」

 

嘘つけ、ゴミ一つないうえに散らかり方が規則的なんだよ。絶対これ趣味だろ。

と思ったが、どうやら声に出てたらしく

 

「ハハハ、やっぱりバレちゃうか。そうさ!僕は綺麗な何もない部屋が僕のもので段々と汚れ、自分色に染まるのが大好きなんだ!!」

と答えた。

もう駄目だ。この変態。

 

「はぁ、あなたの変態っぷりには脱帽します。絶対に私の部屋に入らないでください」

「大丈夫だよ。今から片付けるから」

「そういう問題ではないんですけど」

 

その後、実際に許婿は汚部屋の主とは思えないほど、見事な手際で部屋を片付けた。

 

なんだコイツと思うと同時に、掃除が出来て多芸で外面良くて、性癖関わらなかったら優しくて、喋らなければ好青年なのはわりかし優良物件なのでは?

と思ったが「これでもう1回汚して楽しめる!!」とはしゃぐ許婿を見て、そんなことを一度でも思った己を恥じた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「あ、そこのスプーンとってスプーン」

太陽の光を受けて、海面は青く輝き。波はゆるやかに寄せては返している。

砂浜を見れば一箇所に人だかりができ、1人の男が作っているものに夢中だ。

 

私は海に来て、小さいピサ大教会を砂で作っている許婿の手伝いをしていた。

 

どうしてこうなった。

 

許婿と元気でやっているか心配な母に、大丈夫なことを示すため、外で何かしら写真を撮ろうと思い、許婿を海に誘った。

 

最初は普通だったのだ。ビーチバレーに、スイカ割りと海でやれることはやり、いかにも付き合いたての男女のような写真を撮れていた。

だが・・・

「海といったら、やっぱ砂遊びでしょ。一緒にピサ大教会作ろ♪」

 

許婿はそう言ったきり、私を巻き込んでピサ大教会を作り始めた。

なんで?

 

ま、まあ段々とただの砂が荘厳な教会になるのは、目を見張るものはあったが、確実に海水浴に来てやることではない。

 

「ここをこうして〜はい完成!!」

 

どうやら完成したらしい。

砂で作られたピサ大教会は、とても精巧で、隣にある傾いた塔まで再現されていた。

 

「すごい、これすごいピサ大教会だよ!」

「横にある塔の傾き具合までドンピシャだ!」

「ククク、聖堂一つ建てたとて教会になることはないが、人を集め一つの信仰共同体を作り、教会の文脈を持たせた、素晴らしいですよこれは!!」

 

一名変なおじさんもいるが、見物人は精巧なピサ大聖堂を見て沸いている。

 

その熱狂を作った当の本人は

「あのおじさん、僕の狙いが通じるとは、在野でも目が良いやつがいるみたいだな」

 

あの怪しいおじさんの言動に感心していた。

いや通じ合わないでくれないか?

 

人だかりが人を呼び、気付けば周りを取り囲んでいたところで、私はふと気になり、聞いた。

 

「これも、壊してしまうのですか?」

 

私の許婿は、綺麗なものが壊れる、汚れるのが好きで、それを満たすためなら努力を惜しまない変態だ。今回作ったピサ大聖堂も例外ではないのだろう。

 

だが、ここまで人を感動させたものを、目の前で悦に浸るために壊すのは・・・何か違うのではないか?そもそも許婿が作ったものであるし、趣味に口出しするのは良くないのだが、何か違うのだ。

 

私に壊すのかと聞かれた許婿はきょとんとし、しだいに「あー」と納得した顔をする。

 

「君、僕のことを何か勘違いしてないか?いや言ってないところもあるけど」

「勘違い、ですか。私の印象の、綺麗なものが壊れるのが好きという、控えめに言って終わっている性癖のために何でもする人というのは、間違いなのですか?」  

「やばい何も間違ってない・・・いや違くて、そう

じゃなくてだな。」

 

許婿はわざとらしく大仰に砂で作った聖堂に触る。

 

「このピサ大聖堂さ、1週間後にはどうなってると思う?」

「・・・多分原型留めてません。」

「そうだね。雨なり波なりいたずらされるなりで、崩れてしまうだろう」

「でも僕さ、それがとんでもなく嫌だったのね?汚れるまでは興奮できるけど、自分の手から作品が離れる感じがしてさ?僕が作ったものなのに」

「だから、僕は作ったものを自分で壊す。僕の作品を僕の作品のままにしておくんだ。あ、当然そこまでエンタメとして楽しませるよ」

 

許婿はそう語った。変態にも道理があるらしい。いや、変態ではないのかもしれない。 それは一人の創作者としてあり方だ。 彼はそう、作品と向き合ってー

 

「というのが3割で、残りはやっぱり気持ち良いからかな!汚すのは誰だろうといいし!」

 

やっぱ駄目だコイツ。 私は許婿に呆れたが、もはや安心感すら覚えるのが腹立たしい。

 

「誰に愛されようが汚されようが、最後に僕の手で壊れればそれで興奮できる!!」なんていうトチ狂ったことを言っている許婿を見て頭が冷えた私は、当初の目的を思い出した。

そうだ。写真撮らないと。

 

「今から壊します!!」と満面の笑みで観客に告げる許婿にせめて写真に残らせようと説得し、なんと

か目標を達成した。

 

その写真を母に送ったところ、「アツアツなのね〜」と返されたが、誤解もいいところである。

 

それにしても、なんだか体が熱いような・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

私は朝起きてから、違和感に苛まれていた。体は重く、鼻が詰まっているのか、うまく息が吸えない。

熱っぽくて、全身が火照っているような気がする。

 

風邪だなこれ。

 

「くしゅんっ」

「あー、夏場で風邪になるとは、珍しいね。大丈夫?」

「大丈夫・・・ではありませんね。今日は、私が当番ですし、少し困り、ます。よい、しょっ」

 

風邪とはいえ体は動く、なんとかして、ご飯を作らなければ。ふらつく体を動かしながら前に歩を進める私の前に、許婿が立っている。

 

はて、どうしたのだろう。

今日は私が当番だから、座っていればいいのに。

 

「こりゃ判断力失ってるなっぽいな。ほい」

 

許婿はそう言って、私の体に手を回し

 

「ひゃっ」

 

お姫様抱っこをした。

うん、お姫様抱っこ?

 

「って、あなたは何をするのですか。もしうつってしまったら!」

「いや、風邪引いた状態で飯作るのも駄目だろ。だから、伊織を部屋で寝かせる。」

「部屋って・・・」

 

そう言い、許婿はそのまま私の部屋に向かい、ベッドに寝かせ、「おかゆを作ってくるから、待っててくれ」と言って部屋から出て行った。

 

熱に浮かされた体で、私は考える。

今まで風邪をひいたとき、こうやって誰かに寄り添ってもらったことがあっただろうか。

 

思い出すのは、私が8歳ぐらいの頃。

風邪をひき、母も仕事に出ざる負えなかったから、だだっ広い部屋で、一人きりで寂しく苦しんでいた苦い記憶。

 

私は風邪が嫌いだ。

怖いし、苦しいし、孤独だ。何一つ良いことがない。

 

ガチャリ、と部屋のドアが開く。

「おかゆ作ってきたよー。あ、何も怪しいもの入ってないから、本当だよ!」

そこから、おかゆを持ったアホ面が出てくる。

 

その姿が母親の姿と重なる。仕事で忙しいのは分かっていた。手が空いてないのも分かっていた。でも、ずっとこうして欲しかった。

 

「母さん・・・?」

ついそんなことを口走った。

 

「え、ええ?その反応は僕でも困るぞー?」

珍しい許婿が困っている姿を見るのが、少し面白かった。

 

その後は、許婿は付きっきりで看病をしてくれ、私の症状も少し楽になった。

 

「家事の大部分をあなたにやってもらって少し悪いような気がします。やはり、私も何か・・・」

「大丈夫だよ。風邪なんだから安静にしときなさい。それに」

「それに?」

「普段の几帳面で真面目な君が弱っている姿が、中々良くてね。ずっと見ていたいぐらいに。」

「あなたの性癖って、私にも反応するんですか。ですが、不思議と悪い気はしません。」

 

まったく。と私は思う。

大変な許婿と当たったものだ。

綺麗なものが汚れる弱る壊れることに快感を見出す変態だし、発言は気に障るし、何より変態だ。

まったく、これからもこれと付き合うことになるとは、大変そうだが、悪い気はしなかったのはなぜなのだろうか。

 


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