島流し令嬢   作:もちもち物質@布団

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帰還3日目:

 帰還から3日目の朝。

 マリーリアは騎士達に囲まれて、戴冠式を行っていた。

 ……というのも、『こういうのは早い方がいいですよ!』『大丈夫!王になってから地方を巡幸すればいいんです!』『そもそも、地方こそマリーリア様のお力で生活が良くなっているんですから、大丈夫ですよ!』と騎士達に押し切られたからである。

 マリーリアとしても、まあ、自分が即位したとして、平民からの反発は無いだろう、と分析している。バルトリアの侵攻から守っていたこともあり、特に国境沿いの地域の人々には、マリーリアは随分と良くしてもらっている。

 貴族からの反発は間違いなくあるだろうが……少なくとも、今、この時点で民衆の暴動を完全に押さえ込んで国を導けるのは、マリーリアただ1人であろう。マリーリアとしても、なんとなくそれが分かってしまっている以上、ここで王になることについてはもう腹を括った。

 ……だが、心配は、無いわけではない。

「マリーリア様。いかがなされましたか」

「うーん、まあ、王になっちゃう時点で大分いかがしてるけれど……まあ、心配だらけよねえ」

 マリーリアを心配して声を掛けてくれたシリルにそんな返事をしつつ、マリーリアは、こて、と首を傾げた。

「これから、貴族達の反発を思うと、ねえ……」

 ……そう。

 マリーリアはこれから、フラクタリアの貴族の反発に晒されることになるだろう。

 

 

 

 だがまあ、ここまで来ちゃった以上は仕方がないので、マリーリアはもう割り切って、王冠を頭に乗せた状態で玉座の間のバルコニーに出て、民衆に手を振った。

 民衆の歓声と秋の朝陽とを浴びて、マリーリアは『随分遠いところまで来ちゃったわぁー』というような気分になったが、それはそれとして民衆に対して、『ここまで来ちゃったからには多少なりともいい国にしましょ』と決意を新たにする。

 ……なんだかんだ、マリーリアは貴族であり、ゴーレム使いだ。つまり、誰かを動かし、誰かの上に立つ性分なのだろう。

 そして、上に立つ者として、その責務は果たさねばならない。マリーリアは民衆に手を振りながら、その重い責務に不安4割……そして、新しいことが始まるわくわくとした心地6割程度で微笑んでいた。

 

 

 

 さて。

 こうしてマリーリアが即位してしまうと、いよいよバルトリアの処理が必要になってくる。

 が、マリーリアはそれらの処理を、大雑把に任せてしまうことにした。

「じゃあ、あなたがバルトリアの王ね。これからよろしく。よい隣国同士でありましょうね。よくない隣国になっちゃうようなら、今度こそ潰しちゃうからその気で居なさいな」

「あ、あああ……た、確かに……」

 マリーリアは戴冠してその日の午後には、バルトリアを訪ねていた。そして、目の前の少年……バルトリアの王子であったその人に、にっこりと笑いながら『無条件降伏』を突き付けてサインさせているところである!

 ……バルトリアの一番の問題点であった死霊術師は、今、灰になって粘土に混ぜ込まれて、ゴーレムの部品の形に成形されて……そして、フラクタリアで天日干しされているところである。秋の日差しと爽やかな風によって乾燥させられている気分はどんなものであろうか。

 まあ、そういうわけで、バルトリアは問題無かろう、と判断したのだ。

 よって、順当に次の王になるべき者にバルトリアを任せることにした。島ゴーレムや、バルトリアに駐屯しているアイアンゴーレム達が物理的ににらみを利かせているので、バルトリアがこれ以上何かできるはずもない。マリーリアは安心してバルトリアの王子……否、今日から『王』となった少年に、にっこり笑いかける。

「あなたがあなたの魂のままでよかったわぁー。もしバルトリアの王族が全滅してたら、誰にバルトリアを統治してもらうか、考えるだけでも大変だったと思うもの」

「そ、その、魂というのは……本当、なのでしょうか……」

「ええ。塵になった人々はあなたも見たでしょうし……心当たりは、あるんじゃないかしらぁ。どう?」

「……そう、ですね。もう、この国は……100年前から、滅んでいたようなものだったのですね」

 バルトリア新王には、このバルトリアを約100年に渡って統治し続けてきた死霊術師について、既に説明してある。……つまり、この少年の父にあたるバルトリア前王が殺され、その中身は死霊術師の魂であったことについても。

 未だ幼さの残る少年王には中々厳しい現実であったようだが、『確かに、急に父は変わってしまいました。そうか……あの時、もう父は死んでいたのですね』と涙を零しながら語る彼にもそれなりの覚悟があるように見えた。

 ……まあ、マリーリアが貴族であるのと同じように、この少年もまた、王子であったのだ。国の頂点に立つ覚悟は、マリーリアよりずっとずっと、できていたのだろう。敵国のことながら、天晴である。

 

 バルトリアについては、この新王の外、塵にならなかった……つまり、死霊術とは無関係であった者達が、『あれの引継ぎが無かった!』『こっちも引き継ぎ無く塵になられた!』と大慌てしながらなんとか立て直していくことになった。

 マリーリアは『がんばってねー』と完全に他人事である。他国のことなのだから当然である。自分の方だってどう考えても大変なのに、敵国の処理までやっていられないのである!

 

 

 

 ……そんなこんなで、帰還5日目。

 マリーリアは、大掃除の最中である王城の真ん中で、シリルが運んできた手紙を読んでいた。

「……やっぱり来たわねぇ」

 それは、貴族達からの書状である。

 即ち……『下級貴族の出の娘など、王に相応しくない』『フラクタリア王家の血縁が居る以上、王位はそちらに譲られるべきである』『貴族の意見を蔑ろにするようであれば、各領の貴族は離反する』といったものであった。

 尚、貴族達の連名の中には、マリーリアの生家、オーディール家のものも、当然のようにあった。彼らとしても、マリーリアが王であるのは喜ばしくない、らしい。まあ、他の貴族からの圧力もあるのであろうし……何より、彼らは分かっているのだろう。

 血縁であるマリーリアが王になったとしても、自分達に利は齎さないだろう、と。

 

「無礼ですよね!こんな連中、切り捨ててしまいましょう!死刑!死刑です!」

「ううーん、あなたのその、真っ直ぐなところは魅力的だと思うわぁ。でも流石に死刑はちょっと待って頂戴なぁー」

 まあ、幸か不幸か、マリーリアは怒る必要が無い。マリーリアより先に、シリル他、騎士達が怒り狂っているからである!

「マリーリア様よりも王に相応しい方はおられない!これほど民に愛され、信頼を得ている王などかつて居たでしょうか!?いや、無い!」

「そう言ってくれるのは嬉しいけれど、貴族は困ってると思うわぁー。そこは分かってあげなくちゃ」

「マリーリア様はお優しい!あいつらは優しくない!死刑!」

「うん、うん、落ち着いて頂戴なぁー」

 ……騎士達が怒り狂いつつも理性を失わないのは、ひとえにマリーリアが居るからである。マリーリアが居なかったら、彼らは暴走していることであろう。さながら、彼らが海賊になった時くらいの思い切りの良さで……。

 

「まあ、今までの王家にすり寄って甘い汁を吸っていた連中からしてみれば、ぽっと出の私が王、っていうのは、ねえ……困ると思うわぁ」

 マリーリアは、貴族達の要求を『まあ、妥当!』と受け入れた。彼らには彼らの信条、そして損得があるのだから。

「あんな奴ら無視しましょう!ほら!ここに名前の無い貴族も居ます!彼らに所領を与えて……」

「うーん、でも、今、各領を治めている人達を総とっかえするのも、現実的じゃないと思うわぁ。王城内部だって、麻薬とバルトリア侵攻のせいで随分人員不足なんだもの。それに、貴族達の反感を買って各地の領地経営が滞ったら、困るのは私じゃなくて、民よ。だからそれは絶対にだめ」

 マリーリアの言葉に、騎士達は『おお、なんと慈愛に溢れるお言葉……』『貴族連中がマリーリア様の半分ほどでも聡明であったなら……』と涙を流す。

 ……そして、騎士達とて、分かってはいるのだ。何せ、騎士達の少なくとも半数程度は、貴族の出である。彼らとて、貴族というものがこの国で如何に重要な役割を果たしているかは知っているのだ。だからこそ、彼らを簡単に死刑にすることも、蔑ろにすることもできないのだ、と。

 

「まあ、しょうがないわね。会談の席を設けましょう」

 マリーリアは、ぽん、と手を打つと、近くに居たジェードに『紙とペン、持ってきて頂戴な』と命じる。すると、ジェードはすぐに書状用の上等な紙と羽ペン、そしてインク壺を持ってきてくれた。

「貴族達を集めて、そこでちょっとお話ししましょ。うーんと……」

 そこで、マリーリアは少し考える。考えていたら、さっ、と、メモ用の紙が差し出されたので、マリーリアは『やっぱりあなた優秀ねえ』とジェードを褒め、早速、考えを紙の上でまとめ始める。その横では、シリルが『ぐぬぬ……』とゴーレム相手に対抗心を燃やしていたが、マリーリアは特に気づかず、メモ用紙に向き合う。

 貴族の要求。現在のフラクタリア。そして、マリーリアの望む国の姿……。

 それらを考えていけば……上手く収まりそうな案が、まあ、出てこないでもない。

「……戻ってきたと思ったけれど、やることはあんまり変わらないのねぇ」

「へ?」

「こっちの話よぉー」

 マリーリアはくすくす笑いながら、各領の貴族達へ、王城へ召喚する旨の書状を書いていくのであった。

 

 

 

 ……そうして、帰還10日目。

「1年半か、それくらい……まあそんなに待たせないつもりよ。だから、もう少しだけ待って頂戴な」

 マリーリアは冒頭で、貴族達相手にそう言った。

 

「……1年半?」

「ええ。私が島流しになっていた期間とおんなじ期間よ。それくらいで、この国を立て直してみせるわ」

 王城へ召喚された貴族達は、マリーリアの言葉にざわざわとざわめく。『随分と大胆なことだ』『随分と勝手なことを仰る』といった囁きがマリーリアの耳にも届いたが、マリーリアはそれらを無視して、続けた。

「それが終わったら……フラクタリア王家の血筋に、玉座と王冠をお返ししようと思うの。どうかしらぁ」

 

 

 

 マリーリアが貴族達を黙らせつつ、かつ、フラクタリアのために動こうと考えて出した結論は、これだった。

『引退までの期間を設けて、玉座に残る』。

 これならば、やりたいことをその間にできる。そして、ごく短期間の王であるならば、貴族達も納得する。

「あ、ああ……それならば。まあ、ごく短い間のお飾りの王、ということならばまあ、フラクタリア王家の血筋の方々もご納得されることでしょう」

 貴族達は『拍子抜けだ』というような顔をしている。……だが。

「それで、私はこの国を監視する立場に就くわ」

「え?」

 マリーリアは、引退する。引退するが……やりたいことは、やるのである。

「この国が腐敗するようなら、いつでも滅ぼす。そういう機関を作りましょう」

 

「……え?」

 貴族達が青ざめる。それは、マリーリアが『救国の英雄』であると知っているからだ。

 ……マリーリアがバルトリアを滅ぼしたことは、彼らとて知っている。その結果、今、バルトリアが大変なことになっている、ということも。

 つまり。

 マリーリアがその気になれば……この国は、それだけで滅ぶのだ。

「前王にして救国の英雄たる私が監視者となれば、民もきっと、安心してくれると思うの。それに……あなた達も、愚かな真似はしないでしょう?……だって私、バルトリアは簡単に滅ぼせたわ。フラクタリアだって、そうよ?」

 貴族達は竦み上がった。マリーリアが『武力』という絶対的な力を持っている存在だということを、思い出したから。

 そして……。

「私が王になる意味は、きっと、これだったのねぇ」

 ……ころころと笑うマリーリアを見て、彼女が王であることを、思い知ったからである。

 

 

 

「マリーリア様!こちらにおいででしたか!」

 貴族達との会談もとい、一方的な通告と脅しを終えたマリーリアは、中庭に居たところをシリル達に声を掛けられた。

「い、1年半で退位されるというのは、本当ですか!?」

「ええ。まあ、1年半あれば案外色々できるものだって分かったことだし。あんまり長く玉座に居るのも、ちょっとねえ……」

 マリーリアが朗らかに笑えば、騎士達は皆、戸惑い、迷子のような顔になってしまった。

「そんな……それでは、マリーリア様はその後、いかがなされるのですか!?」

「私?そうねえ……とりあえず、この国を監視する立場に就くと思うけれど……その場合、あんまり国の中枢に近い位置に居るのも、ちょっと、ねえ。辺境にお引越し、かしらぁ……。でも、実家には帰れそうにないし、帰りたいとも特に思わないし……」

 ……『その後』のことを考えると、なんとも悩ましい。

 貴族達との会談には、マリーリアの父も出席していた。だが、彼はマリーリアのことを『多大なる功績を上げた実の娘』ではなく、『貴族社会を破壊しにかかる無法者の新王』として見ているようであった。まあそうよねぇ、とマリーリアも当たり前に受け入れた。彼らは、そういう存在だ。ずっとそうだった。

「ああ、そうだわぁ。国を監視する機関なのだけれど、『大聖堂』ってことにしようと思うのよ。そうすれば、民衆の救済も兼ねられるし、清貧を貫いていれば新しい王権もそうそう目の敵にできないでしょうし」

「清貧、だなんて……それではマリーリア様があまりにも報われません!どうか、どうかお考えください!」

「隠居するにしても、どこか、暖かくて過ごしやすいところに……そこで平穏にお過ごしいただけますよう、全力で手配いたしますので!」

「ですので……マリーリア様も、何か、ご自身への褒美といいますか……何か、やりたいことをなさるとよろしいのではないでしょうか。どうか、退位の暁には……いえ、その前から、余暇をお楽しみになることがあってもよいのでは……」

 だがやはり、マリーリアは仲間に恵まれた。

 マリーリアが割を食っている、と憤ってくれる優しい仲間達を見て、マリーリアは考える。

 ……全て終わった後に、何をするか。何を、したいか。……そんなこと、マリーリアは今まで、考えてこなかったのだ。

 

 考える余裕なんて無かった。無人島生活していた1年半についても、その前の戦争中も、そして更にその前、オーディール家に居た時も。

 自分がやりたいことが何かなんて、マリーリアには分からない。何かを望める環境になど無かった。今まで、そんなことを夢想することすらほとんど無かったのだ。

 自分は何が好きで、何をしていると楽しいのか。そんなことがマリーリアにはよく分からない。

 恐らく、『この国を監視する』という目標は、マリーリアにとってそれなりにやり甲斐のあるものであろうが、責務であって、余暇ではない。

 ……だがやはり、思いつかない。なにをやりたいのか、と言われても、今一つ、思いつかないのだ。

 これは、自分自身をゴーレムにしてしまったが故、なのかもしれない。自分で自分を操るあまり、自分が徐々に失われていく。ゴーレム化とは、そういうことかもしれない。

 

 まあ、考えても仕方なさそうである。マリーリアはそう割り切ると……中庭の片隅にあったそれに、向き合った。

「とりあえずこれ、焼いちゃいましょ。ずっとほっとけないものねぇ」

 マリーリアが向き合った先。それは……中庭に建設された、炉である。

 そう!マリーリアはようやく、バルトリア前王とフラクタリア前王の灰が入ったこれを、焼き上げるのだ!

 

 

 

「ま、マリーリア様ぁ……それは一体……」

「ああ、これ?粘土よ。干しておいたの。まあつまり、ゴーレムの部品よ。バルトリア前王とフラクタリア前王の処刑場、兼、お墓でもあるわぁー」

 色々と兼ねすぎな説明をしつつ、マリーリアは遺灰入りの粘土板を炉の中へ突っ込んでいく。バルトリア前王の抗議の声が聞こえてきたような、こないような、そんな気分である。

 それから、火格子の上に薪をつっこんでいく。そして解した麻紐を火口にして、そこに火打石で火花を飛ばして……。

「……ふふふ。こうやって火を熾すの、久しぶりねえ」

 かち、かち、とやるだけで、火口に火がついた。吹いて火を大きくして、細い枝に火を移し、もう少し太い枝、更にもう少し太い枝……とやっていけば、やがて、火が明々と燃えるようになる。

 火が揺らめくのを見て、マリーリアは微笑み……。

「楽しいわぁ」

 ……マリーリアは半ば無意識に、ぽろり、とそう、零していた。

 

 

 

「……あ」

 零してから、気づく。マリーリアは、楽しいことをふと思い出す。

 オーディールの屋敷の屋根裏部屋で1人、隠れるようにして本を読み続けるのが好きだった。

 騎士の仲間達と一緒に酒場の2階を貸し切りにして、皆が楽しそうにしているのを眺める時間が好きだった。

 そして……。

「……火を熾したり、土器を焼いたり、木を切ったり、組み立てたり、積み上げたり……そういうの、楽しい、わよねぇ」

 蘇るのは、無人島での日々。

 火を熾すのも大変で、食料を手に入れるのも大変で……そして、ものを生み出し、作り上げ、発展させていく喜びがあった。

 初めて土器が焼き上がった時も。獲物を仕留めた時も。煉瓦ができた時も、家ができた時も。砂鉄を発見した時も、アイアンゴーレムができた時も……全てが楽しく、素晴らしく、色鮮やかな記憶である。

 そうだ。生きていた。マリーリアはあの島で間違いなく、生き生きと生活していたのである。

 

 

 

「……そうだわぁ。私、やっぱり島流しが性に合ってるのかも」

 マリーリアは瞳を輝かせた。

 ここにきてようやく、自分が何をしたいのかを知ったマリーリアは……もう、迷うことが無い!

 

「ということで私、島に流されることにしたわぁ」

「は?」

 が、周囲は大いに戸惑っている!

 

 

 

 シリルをはじめとした騎士達、そして家臣達は揃って、『何故そのようなことを!?』『ご乱心ですか!?』と混乱した。

 だが、それらの中でマリーリアは大変な上機嫌であった。

「そうねぇ。国の監視をする機関を作るなら、島って悪くないんじゃないかしらぁ。あのあたりの海に島を動かせば、バルトリアの監視もできるし。貿易の中継地点としても利用できそうだし……うんうん、悪くないわぁー」

「あの、マリーリア様……?」

「うふふ、楽しくなってきちゃった!これなら私、頑張れそう!」

 マリーリアは困惑する兵士を他所に、にっこり笑ってどんどん元気になっていく。

 ……何せ、マリーリアは楽しかったので!

 

 

 

「ということで、まずはこれ、焼き上げたら組み立てないとね。うふふ、上手に焼き上がるかしらぁ。ちょっと久しぶりだから緊張しちゃうわぁー。うふふふふ」

 まあ、いずれ再び島へ戻るとしても……今のマリーリアがやるべきことは、単純だ。

 火と向かい合い、ゴーレムを、焼く。前王2人の魂のことは一旦忘れるとして……火を眺め、土器が焼き上がっていく時間を存分に楽しむのだ。

 どうも、マリーリアはこれが好きなようなので!

 

 

 

 +++++++++

 

 

 

 ……以上が、後に、『救世の聖女』や『救国の女神』、『稀代の軍師』や『歴代最高の名君』……そして『島流し令嬢』として歴史書に名を残す、マリーリア・ティフォンの物語である。

 後世に語り継がれるフラクタリアの歴史の上で最も大きな転換点は、間違いなく彼女であった。

 敵国からの侵略を退けたこともそうだが、その後、フラクタリア各地に『聖堂』を、そして沖の孤島には各聖堂を取りまとめる『大聖堂』を設立したこともまた、彼女が名君であり聖女と称えられる要因である。

『聖堂』は、各地の平民の陳情を受けたり、貧民を救済したりする目的で運営された。

 そして『大聖堂』は、それら聖堂を取りまとめ……敵国の侵略と国政の腐敗を監視する目的で作られた。マリーリア・ティフォンは退位後、自ら大聖堂に君臨し、『国政の腐敗を防ぐ監視者』として、フラクタリアを守り続けたのである。

 ……歴史は曖昧で、マリーリア・ティフォンの治世が本当に1年半で終わったのかも定かではない。諸説あるが、『民衆にあまりに惜しまれるため、マリーリアの退位は結局ずるずると後ろ倒しになっていった』という説が濃厚である。

 そして、どの歴史書でも、マリーリア・ティフォンは最終的に、半ば無理矢理ついていった仲間達と共に孤島へ移り住み、『大聖堂』で隠居生活……否、開拓生活を楽しんだ、とある。これが『島流し令嬢』の異名の理由だが……。

 

 ……はっきりしていることは、今も尚『大聖堂』を抱く島が、フラクタリアを見守り、バルトリアや他の国に睨みを利かせるような位置に存在しているということである。

 そして……その島は、今も時々、ちょっぴり動くことがあるとか、無いとか。




完結しました。新連載が始まっておりますのでそちらもよしなに。
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