空亡「どうした?禍刻」
禍刻「いや、アイツの方から微かに声がした気がして…」
空亡「声?」
空亡がそう聞いた瞬間に、正気を取り戻したシドが口を開く
シド「あ、あれ?僕は一体何を…」
六華「ん?正気に戻った?」
シド「え!?君誰!?」
六華「え?さっきアンタと戦ってたでしょ!?」
シド「戦う…うっ…頭が…!」
禍刻「苦しんでるみたいだな…なぁ、お前に何があったのか、俺達に聴かせてくれないか?」
シド「わかった…」
そう言うと、シドは自身に起こった事を話し始めた
それは、禍刻達の時代から約数十年前の事
その時のシドは祟り神ではなく、周辺の地域に恵をもたらす豊穣神だった
シド「さて…今日の仕事はこんな所かな…」
自身の祀られた社の上に腰掛けたシドは、社に供えられた茶菓子を齧る
シド「ん?味が前より美味しくなってる…」
そんな生活を続けていたある日の事
シド「なんだ…?これは…」
いつしか、豊穣神シド・ラフェールに対する信仰心が薄れ、供物を捧げられなくなったどころか、供えられる物は濁った泥水や腐った食べ物へと変わってしまった
シド「まさか、麓の村に何かが!?」
そう考えたシドは、急ぎ麓の村へと向かう
しかし、村は廃れたりするどころか、今まで通りの和やかな村のままだった
シド「どういう事だ…?村には何も起こっていないのに、一体何故あんな供物が…?」
それからと言うもの、捧げられる供物は次第に酷いものとなっていき、いつからか供物すら捧げられなくなってしまった
シド「なんで…なんであれ程土地を豊かにしてやったのに、こんな仕打ちをされるんだ!」
その瞬間、シドの身体から黒い霧の様な物が溢れ始めた
それは、平安の時代に妖怪達を苦しめた瘴気だった
六華「嘘…」
禍刻「そんな事があったのか…」
霊華「確かに、そんな事があったら闇堕ちしてもおかしくないか…」
空亡「シドよ…」
シド「何でしょうか…?」
空亡「お前、この後も話が続くであろう?」
シド「何故それを?」
空亡「先程、お前の口から茜という名の少女を呼ぶ声が聴こえたからのう」
シド「茜ちゃん…そうですね、それも話しておかないと…」
そう言って、再びシドは自身の過去を語り始める
シドが村に対しての憎悪を向けてから、村には大飢饉が起こった
しかし、シドはそれでも尚村に再び恵をもたらす事はなかった
シド「恩を仇で返す様な奴等は、くたばってしまえばいいんだ…」
それ以降、シドは社の上で空を眺めるだけの生活をしていた
そんなある日の事、社の前に一人の少女が倒れていた
シド「ん?何故こんな所で倒れてるんだ?村の人間…いや、だとしてもこんな少女を見殺しにはできない…」
シドは少女を介抱し社の傍で座り、自身の膝の上に少女を寝かせた
シド「しかし、酷くボロボロだなこの子…虐待でも受けていたのか?」
暫くすると、少女が目を覚ました
少女「んっ…あれ?ここは…どこ?」
シド「ん?目が覚めたのか…」
少女「へ!?誰!?」
シド「え?君僕が見えるのかい?」
少女「はい…」
シド「へぇ?こりゃおもしろいや、けど何でこんな所で倒れていたの?」
少女「倒れて…あ、そうだ!私ここの近くで置き去りにされて…それで…それでっ…」
少女は、自身がこの場にいる事を説明している内に泣き出してしまった
シド「そうか、子捨てか…ここまでとはね…」
少女「私…これからどうすればいいの…」
シド「そうだな…なら、この社で暮らせばいい」
少女「え?ここで?」
シド「うん、幸いここには生活できるだけの場所はあるしね」
少女「いいんですか?ここって、お兄さんのお家じゃ…」
シド「お家…か、確かに君からしたらそうなるのかな?」
少女「どういう事?」
シド「僕は、この社に祀られた神なんだ」
少女「神様…?」
シド「そう、かつてこの社の麓にある村に恵をもたらしていた豊穣神」
少女「ほうじょーしん…?」
シド「君には少し難しい話だったかな…?」
少女「神様って事は、お兄さんなんでもできるの?」
シド「んー、なんでもは難しいかな…けど、君の願いは叶えてあげられるよ?それに、僕の事はシドって呼んでくれていい…」
少女「じゃあ、私のお母さんを探してくれる?」
シド「本当にいいの?君多分捨てられたんだよ?」
少女「捨てられた?」
シド「そう、多分君はお母さんに捨てられたんだと思う…でなきゃ、こんな所に置き去りにしたりしないだろ?」
少女「そんな…うっ…うっ…」
シド「な、泣かないでよ…参ったな…」
自身が親に捨てられた事を知り、少女は再び泣き出してしまった
シド「そうだ!他に願い事はない?」
少女「他に願い事?」
シド「そう!他の願い事」
少女「今はない…」
シド「そっか…」
少女「ごめんなさい…」
シド「謝らなくていいよ、元々は僕のせいなんだし」
少女「シドのせい?」
シド「うん、いつからか供物な捧げられなくなって、それにムキになって村に恵をもたらすのを辞めたんだ…そのせいで、君をこんな目に」
少女「気にしないでシド、そのお陰で私シドと会えたもん!」
シド「嬉しい事言ってくれるね…えっと…」
少女「私は茜!天喰茜だよ!」
シド「天喰…?それって確かこの社を建てた人の名前だった気が…」
それから暫くして、シドと茜は次第に仲が良くなっていった
そんなある日の事
茜「シド、そろそろ村に恵をもたらしてもいいんじゃない?」
シド「そうだな…けど、また信仰が薄れたら…」
茜「そんな事、仕方ないじゃん」
シド「え?」
茜「人間は、死んじゃったりして言い伝えが途切れたりするんだから…」
シド「どういう事?」
茜「実はね、私のおじいちゃんがよく言ってたの村の上には神様が居て、この村を護ってくれてるって」
シド「なら、なんで…」
茜「けど、おじいちゃんの言う事を、みんな信じなかったの…それでそのまま…」
シド「おじいちゃんが死んじゃったと…」
茜「うん…」
シド「なるほど…なら…」
茜「どうしたの?」
シド「茜ちゃんは、村に恵を与えたい?」
茜「うん…できることなら…」
シド「わかった…なら君に、僕の力を分け与える」
茜「え?」
シド「そうすれば、君にもあの村に恵を与える事ができるから…」
その後、茜は村を訪れ村に恵をもたらした
それから暫く経ち、シドと茜の暮らす社に一人の青年が訪れた
青年「ここが例の社か…」
茜「誰だろうあのひと…?」
シド「駄目!隠れて!」
青年「ん?誰かいるのか!」
シド「しまった!」
青年は、社の扉を勢いよく開けて叫んだ
そして足元に倒れ込んだ茜を見て
青年「あ、貴女は!アマジキサマですか!?」
シド「は?」
茜「アマジキサマ…?」
青年「こんな所にいらしたのですね!さぁ、私と共に来ていただきましょう!」
茜「え?どういう事!?離して!離してよ!」
シド「茜ちゃん!」
茜「し、シド!助け…」
抵抗も虚しく、茜は青年に連れ去られてしまった
シド「ど、どういう事なんだ…?」
それから暫く経っても、茜が社に戻ってくる事はなかった
シド「茜ちゃん…一体どこに…まさか、村に?」
シドは、村へ向かい茜を探すが、どこにも茜の姿は見当たらない
すると、何処からか少女の悲鳴が聴こえてきた
シドは悲鳴が聴こえた方へ急いだ
シド「今の声は、確かに茜ちゃんの声だった!」
悲鳴のした場所へ着くと、そこはちいさな物置部屋だった
シド「なんだここ…埃っぽいな」
シドが服で口元を覆いながら埃を手で払い除けていると、物置部屋の中央にある蓋のような扉が開き、先程の青年が出てきた
青年「フフフっ…これで、この村は安泰だ!」
シド「この村が安泰…どういう事だ…?」
シドは、青年の隙を見て扉の中へと入る
扉の先には地下へと続く長い階段が続いていた
シド「なんだ?この階段…」
シドは階段を進んでいく
すると、目の前に広い空間が広がった
その中央に、茜が無惨な姿で吊るされていた
シド「あ、茜ちゃん!?」
シドが必死に呼びかけるも、茜は返事を返さない
シド「そんな…茜ちゃん…」
茜『ずっと一緒だからね!シド!』
シド「あの言葉は嘘だったの…?いや、違うか…ごめん…ごめんね…茜ちゃん…僕が君に力を分け与えたが故に…ごめん…ごめんなさい…」
その話を聞いた一同は、皆絶句していた
シド「その後の記憶は、あまりない…」
六華「無理もないよ…」
空亡「のう禍刻」
禍刻「どうした空亡?」
空亡「妾には、彼奴を完全に滅する事はできぬ」
禍刻「あぁ、俺もだ…ましてや、悪いやつでもないし、こんな話を聞かされちゃ余計に…」
シド「気にしなくていいよ…僕はもうこの世に未練なんてないし…茜ちゃんの元へ行けるなら、悔いは無い」
その言葉に、一同は顔を見合わせる
霊華「ねぇシド」
シド「ん?何?」
霊華「茜ちゃんは、それをどう思うかな?」
シド「どういう事?」
霊華「もしかしたら、茜ちゃんは貴方に自分の代わりに生き続けて欲しいって思ってるかも…少なくとも、わたしが茜のちゃんの立場だったらそう思うし…」
シド「そうか…確かに、あの子ならそう考えてそうだな…わかった!僕が茜ちゃんの分まで生き続けて、今度はこの土地を僕の力で満たしてみせるよ!」
次回 仮面ライダー逢魔ヶ
禍刻「これで一件落着だな」
空亡「共にこの世界を守り抜いていこうぞ」
シド「気をつけて…誰かが憎しみを抱く限り、瘴気は消えないから…」
閻魔「そうか…終わったか…」
絶望の先に待つ未来は、終焉か安寧か