ISが世界を席巻する兵器となった理由は何があるのだろうか。
最高速度? 否、ISに匹敵する速度を発揮する航空機は確かに存在する。早さという土俵に置いてなら、未だ航空機はISと同じ領域だ。
火力? 否、ISは人を一回り大きくしたサイズでしかない以上、傾向できる火力には限りがある。少なくとも第二世代までなら、航空機の対地ミサイルや、戦車や軍艦の砲撃の方が強力。
人によって意見は分かれるだろうが、その中の一つにこういったものがある。
運動性能と防御力が圧倒的であるからだ。
かつて、戦争の一つに置いて、最高速度に比重を置いていた戦闘機が、運動性能で勝る戦闘機に敗北するということがあった。
PICと搭乗者保護機能によって従来のGの限界をはるかに超えたISは、最新鋭戦闘機の最高速度で、運動性能に特化した戦闘機をはるかに凌駕するほどの旋回性能を発揮し、減速及び加速に置いても凌駕する。
シールドエネルギーと絶対防御に守られたISは、下手な装甲をはるかに凌駕する堅牢さを持つ。
この二つの土俵に置いて、ISは究極といっても過言ではない性能を発揮し、それらを活かすことによって既存の兵器体系をはるかに超越したのだ。
さらにそこに人の延長線上の形状が、銃器を応用した武装の仕様という形であり得ない武器変更能力を発揮する。これにより戦術は大きく変化した。
戦闘機に匹敵する速度を持ち、
軍用ヘリをしのぐ運動性能を持ち、
戦車を上回る堅牢さを持ち、
そして歩兵のような柔軟な運用能力を発揮する。
そんな兵器、たとえISのような性能を発揮できなくても世界でも最高峰の兵器体系になるだろう。
そして、それゆえに一つの疑問が残る。
もし、その土俵に踏み込む程度でもできる性能の軍用兵器が完成されたらどうなるのだろう。
その答えが、今IS学園を襲っていた。
「そういうわけで、これを見ている世界各国の方々? 今ならプレゼントでそんな新兵器の型落ちバージョンを全世界にばらまいてるッス。早い者勝ちッス」
そんなとんでもないことをのたまっている人型ISをかばうように、異形のISが前に出る。
そのビーム砲には既に光があふれている。どう考えても臨戦態勢だ。
「・・・一夏、下がってなさい」
「やだね。幼馴染をほうっておけるわけがないだろう」
同時に前に出ようとして、一夏と鈴はぶつかり合う。
なるほど、確かに代表候補生はこんな時に前に出なければいけないのだろう。
反面、こちらはむしろ貴重品ともいえる男性IS操縦者だ。普通に考えれば守られる側が自分であり、守る側が鈴だ。
ふざけるな。そんなふざけた理屈はいらない。
男尊女卑だろうと時代錯誤だとも隙にいえばいい。織斑一夏は男で、そして男は女を守る者だ。
この意地だけは死んでも捨て切らない。だから一夏は下がらない。
「あのね一夏。あんた。・・・自分の種族が分かってるわけ?」
「ああ、分かってるよ」
もちろんそれだってわかっている。
織斑一夏は悪魔であり、それゆえに下手に目立ってからその事実が異形の社会に知られれば、殺されることだって十分にあり得る。
だが、それがどうした。
「これは俺がしなきゃいけないことじゃない。俺がやりたいことだ。それに鈴を放って逃げたりしたら、その時点で織斑一夏は死ぬんだよ」
かつて、レヴィアは一夏にこう告げた。
悪魔は欲望と共にある。それをちゃんと理解しろと。
男として胸を張って生きるのが一夏の欲望だ。ゆえにこの場に置いて逃げるだなんて選択肢は存在しない。
「お二人同時に来ていいッス。どうせ逃がさないからッス」
ISの合成音声がそんな二人をあざ笑うかのように軽く超でそうのたまい。
黒のISが、ビーム砲を乱射した。
「織斑君! 凰さん!?」
管制室で、麻耶は大声で呼びかけていた。
所属不明のIS2機による襲撃という時点で前代未聞だというのに、外側ではIS以外の兵器でISとの戦闘が成立しているという非常事態。もはやIS学園の許容量をはるかにオーバーしている。
映像を見る限り動かせるISはほぼすべて動かしているようだし、これではどうやっても増援の動かしようがない。
だからどうしようもないが、だからといて生徒を見捨てるようなまねをするわけにもいかなかった。
今映像で映し出されているのは、IS同士での試合ではない。正真正銘の実践なのだ。
下手をすれば命にかかわる。
観客席には防護シェルターが展開されているので、流れ弾程度ではびくともしないだろう。しかしそれはシェルターが展開されていないところでは話が別だということだ。
真正面から戦闘を行っている二人は、通用しない。
「一夏さん! 早く下がってください!!」
セシリアも呼びかけるが、やはり反応はない。
不味い不味い不味すぎる。
「落ち着け。どうせ対処できるのが現状では二人しかいない以上、あいつらが戦う以外の選択肢はないんだ。やらせてみればいい」
織斑千冬だけが、ぱっとみで冷静さを失っていなかった。
「お、織斑先生! これは試合じゃないんですよ!?」
信じられないものを見ながら麻耶が怒鳴るが、千冬は肩をすくめると、珈琲を入れ始めた。
「珈琲でも飲んで落ち着いたらどうだ? 糖分でも足りないからいらいらしているんだ」
スプーンをつまんでそのまま粉を入れるとかき混ぜて溶かす。
その風景はまるで授業の間の休み時間に、一息入れるための行動にも似ていた。
「こういう時だからこそ冷静になるべきだ。さあ、飲みたまえ」
「・・・」
「・・・」
本当に落ち着いている風にしか見えなかったのだが、ある一点が原因で、二人は硬直してしまっていた。
「どうした? 混乱した次は硬直しているのか? 動揺するにも程があるぞ?」
「「いやそれ塩です」」
異口同音にそう言われて、千冬はゆっくりと瓶を見た。
はっきりと、『塩』と書かれていた。
「な、なんで塩が・・・?」
「い、いえ、私にいわれましても」
「でも塩ってはっきり書かれてますし」
とても微妙な空気が流れた。
「あれ? 一番動揺しているの織斑先生じゃ?」
「織斑君はもちろん、凰さんとの付き合いも長いみたいだし、当然といえば当然よね?」
「こういう時こそ冷静に対応できると思ってたのに、なんか意外・・・」
ひそひそ声が聞こえてきた。
今、戦闘中という空気を無視して、とても微妙な空気が流れていた。
「・・・い、一夏と鈴の救助準備を急がせろ!! 外との連絡網を繋いで何機かこちらに割り振らせるんだ、急げ!!」
―逃げた。
皆の心が一つになった。
そんな漫才が繰り広げられているとはつゆ知らず、一夏と鈴は追い込まれていた。
接近すれば剛腕で強引に振りほどき、距離を取られればビームが浴びせられる。
さらにその巨体に見合わずスラスターによる強引な軌道は俊敏であり、二人を見事に翻弄していた。
真上から急降下しての一夏の攻撃も、後ろから回り込んでの鈴の衝撃砲も意味をなさない。
しかもビームの破壊力はクレーターを作った上でその表面をガラス状にするほどだ。
一発でも当たれば、ただでは済まない。
―切り続ける一夏
―切りかかり、時には撃ち放つ鈴
―砲撃を作業的に続ける黒いIS
それらを丸で歯車のように続けながら、三人の戦いは続いていく。
そしてそれを見ながら、残り1人は楽しげに観賞していた。
「なかなかやるッスね。でも、その程度じゃ勝てないッス」
「「うるさい!!」」
挑発としか思えないISの言葉を振り払い、二人は一旦黒いISから距離を取った。
「くそ! 『IS』以外もありでなら、勝ち目あるのに!!!」
「それはアタシも一緒よ。・・・でも、それをここでやる?」
そう、二人には相応の切り札というものがある。
それさえ放てればあの黒いISをぶちのめすこともできるかもしれない。
だが、それにはあのISが邪魔だ。
追加でいえば、今この場はみられている。
こんなところで異形の領域を見せれば、間違いなく大騒ぎだ。レヴィアの力と権力を以ってしても、防ぎきれない。
だが、それを使わずにこの化け物を倒すことができるのか・・・?
二人の思考にそんな弱きが浮かぶ。
『聞こえるかい、二人とも』
それを吹き飛ばすように、希望の光は舞い降りた。
『ああ、返事はしなくていい』
これは念話の類だ。
いつか非常に巻き込まれてもいいように、異形の力による通信能力を二人には与えられていた。
そして、それが意味するのは一つ。
『今から僕の合図で一時的なハッキングで監視設備を無効化し、煙幕を張る。同時に不意打ちをあの黒い奴に叩きこむから、一気にたたみかけるんだ』
王の指示が、聞こえた。
『ああ、ハッキングの準備は念のために用意してもらった奴を使うし、煙幕もアストルフォが事前に準備していたものだ。そして不意打ちはもちろん』
『私がやります』
そして聞こえるのは、懐かしい友達の頼りになる言葉。
『で、その辺のフォローは俺がすることになってる。・・・レヴィアも俺を巻き込むなよ』
しかも二人もいた。これなら恐れる者はなにもない。
『いやいや、二人の激突を間近で見たいと思ってね。おかげで何とかなったよ。マジ助かったね』
反撃の準備は整った。
『さあ合図だ、3・2・1!!』
見ているかテロリスト。
世界には、貴様たちの知らないものがいくらでもあること教えよう。
まずアリーナの全ての観測機器が一時的にシャットアウトされ、同時に人型のISの周りに一斉に煙幕が発生した。
その煙幕は一時的にハイパーセンサーすら無効化し、そのISに一瞬のすきを作る。
「へえッス。思った以上のものッス」
そして次の瞬間ピットの出入り口から無数のビームが放たれた。
それらは科学的には認識できな必殺の魔弾。ゆえにISでも反応しきれずに黒のISに全段叩きこまれ、さらに連続で発射され続け動きを封じる。
「もらったぁああああ!!」
「え、おい鈴!!」
最初に動いたのは鈴だった。
無論、それに気づいた一夏が一気に瞬時加速を発動させるが、それでもなお鈴の方が早い。
「あの一年であたしが手に入れたのは・・・」
甲龍の腕部が除装され、鈴の素でがあらわになる。
「ISだけじゃない!!」
そして、その掌打がISに叩き込まれた。
本来なら、ISのパワーアシストすら使われていない格闘打撃など何の通用にならないだろう。
そして、動きを封じられているとはいえ、射線に隠れている腕を動かすことはできる。
だからISは片腕のビーム砲を向け。
「無駄よ、アンタはもう積んでる」
―力なく、だらりと垂れ下がった。
それはもう片方の腕も同じで、今まで盾にするようにかばっていた腕から力が抜けていた。
まるで、搭乗者自身に直接ダメージが入ったかのように。
「よくわからないけど行くぜえええええ!!」
そして一夏も鈴に習う。
両腕を生身のものにして、そして腕の先から光が輝く。
その光は空間をゆがめ、一振りの両手剣を取りだした。
ああ、ようやく反撃の一撃を叩きこんでやれる。
覚悟しろよこの野郎。絶対防御で済むことを祈るといい。
俺は、殺し合いの覚悟ぐらいで来てるんだよ。
「カレド・・・」
とりだされた剣から、莫大なオーラがあふれ出る。
それは、それらを感知する機能がないはずのISすら怯ませ、
「・・・ヴルッフ!!」
装甲を叩き切った。
「・・・つーわけで、アレは負けたッス。ま、二対一であそこまで渡り合えるならそれなりの実力ッスね」
逃げたISは通信を行いながら、これまでの情報を報告する。
今回の目的は既に達成している以上、自分達の勝利といってもいい。
ISと勝負できる兵器システムはこれで全世界に公表されるし、新型機のデータもとることができた。
それだけなら『あまり意味はなくなる』が、それでも情報があるにこしたことはないのだ。
『よくやった。・・・これで最初の準備は整ったといってもいい』
そして、ISの主はその報告い満足した。
『スプリングの方向はその所属上最小限にしなければならないしな。今後も定期的に威力偵察を続けてもらう』
「わかってるッス。俺が一番威力偵察向きッス。あんたに拾われた借りもちゃんと返すッス」
この存在は、主によって拾われたものだ。
彼が自分を拾ってくれなければ自分は死んでいた。
彼が自分の肉体の才能を認め、自分が持つ才能を必要としてくれたからこそ、自分はこれだけの力を手に入れた。
ゆえに、全力を持って恩を返す。
自分はあの方の盾であり手駒。ゆえに彼の意に沿って動き、彼の敵を滅ぼし、彼のために彼のものを守ろう。
ゆえに、この作戦は分かり切っていた。
『ではそろそろ帰ってこい。これ以上バカげた時間稼ぎは必要ないだろう?』
「了解ッス」
元より、これは相手をかく乱するためのものでしかない。
敵も『異形の力を使っている』ことが分かったのだ。『こちらも使える』事を知られると、目的の都合上すぐに対処される可能性が非常に高い。
「それじゃあ追っての方々は無駄骨ご苦労様ッス」
黒い霧が、ISを包み込む。
「また会おうッス、『表』の男性操縦者、織斑一夏」
その声及び黒い霧とともに、ISの姿は完全に消え去った。
IS学園の地下には、非常に高い権限を持ったものしか入ることができない区画が存在する。
IS学園を強襲した謎の軍事兵器。その残骸は、その機密区画で慎重に調べられていた。
「・・・それで、敵のデータは回収できたか」
IS学園の最重要機密区画で、千冬は麻耶とともに戦闘の情報を調べていた。
「ISコアそのものは登録がありました。二年前の米軍基地の原子炉暴走事件のさいに行方不明になっていたものです。ですが・・・」
「なんだ?」
「全ての兵器に言えることですが、確かに有人機であり無人で稼働するようなシステムが存在していないのにもかかわらず、『中に誰も乗っていません』」
それは明らかにおかしなことだ。
あの謎の情報遮断の隙を着いたのならば、ISの方はまだ理解できる。
だが、それ以外の兵器は不明だ。
そちらの情報収集は完ぺきに行われており、それゆえに逃げ出しているのならばその情報が残っていなければおかしい。
「・・・今回の事件には箝口令をしいておけ。どうにもきな臭い」
そう、あまりにもこの事件はおかしい。
ISに対抗できるだけの兵器開発など、それだけで世界をひっくりかえせるだけの代物だ。少なくとも、大国がこれを開発できれば、世界を征服することも可能だ。歴史を書き換えれる大発明でもある。
だが、それをこんな形で発動する必要がどこにある。
戦争を起こすのならこっそり開発して数を揃えてから強襲すれば良い。
普通に世界に公表するにしても、自国のISとの模擬戦という形で示せばそれで十分だ。それなら情報を交渉カードにしてかなり利益を上げれる。
わざわざテロ行為で実証試験をする必要はない。無償でその情報どころか実物を提供する必要だってない。
まるでこれは、『情報と現物を世界中に提供するためにわざわざプレゼントしに来たボランティア』ではないか。
「・・・気をつけろ。織斑などどうでもよくなるぐらいに、これから世界は変動するかもしれん」
これからのことを考えれば、もはや暗雲しか存在しない。弟やその友人達が巻き込まれるのかと思うと、千冬の心には不安しか浮かばなかった。
しかし、それは表に出さない。
それは『ブリュンヒルデ』には許されていない。
謎の行動を繰り広げる敵組織。
ちなみに、ウィンターと会話していたのがラスボスです。これは確定。