一度やってみたかった、短期間の大量放出♪
スタートダッシュは大事ですもんね。
夕暮れ時のIS学園の屋上で、数人の男女が集結してした。
IS学園に入れる男性など織斑一夏を含めたごくわずか。事実、そのほとんどは非合法の手段で潜入していた。
「ようやく事情聴取も終わってひと段落。情報については緘口令が敷かれたようだね。・・・主権限で僕は聞くけど」
アリーナの方に視線を向けながら、レヴィアが軽くため息をつく。
誰がどう考えても想像の斜め上を行く事態が発動してしまった。
女性にしか乗れない兵器に乗れる男性が現れたと思ったら、それと張り合うことすら可能とする兵器が全世界に公表された揚句その設計図と現物が全世界に提供された。
主に技術的に後進の国家を中心としてばらまかれており、アラスカ条約に関わらないIS戦を可能とする兵器の数々は、世界のパワーバランスを一変させるだろう。
正直にいえば、これで織斑一夏の価値は暴落したともいえる。
どうしてできるのかまったくわからない特例より、誰もが使用することができる道具の方が注目されるからだ。
「おかげで、好都合」
アストルフォが皆の共通認識を短く言葉にする。
実際、これで織斑一夏が人間社会から抹消されたとしても揺り戻しは少ないのだ。それを選択肢に入れている側としては好都合だろう。彼らは人間社会に悪影響を与えたいのではないのだから。
「だからってあんなやり方は無いだろうが。・・・今度あったらウィンターとかいうやつはぶったおす」
一夏は殺意すら浮かべて元凶たちに報復を誓う。
あの大騒ぎによって生じたパニックで、少なくない数の怪我人も出た。
クラスメイトにも怪我人が出た以上、ただで済ますのは彼の矜持に関わる。
そして、それに意見するのは残りのひと組の兄妹。
「お前って、本当に大変なことに巻き込まれすぎだよな一夏。・・・羨ましいと思ったけどやっぱないわ。いや、俺も巻き込まれまくったけど!!」
織斑一夏の悪友、五反田弾。
数少ない一夏が悪魔になったことを知る者の一人で、レヴィアの協力で鈴と同じように異形の技術を身に付けた男。
移動が楽になるというくだらない理由で空間転移関係に手を出していたが、おかげで安全に潜入及び離脱ができた。彼を呼び出していなかったら、あのタイミングでの援護射撃など不可能だっただろう。
そして、その援護射撃をした少女が弾の後頭部をはたく。
「お兄、ちょっとは一夏さんを心配しなさい!!」
五反田蘭。五反田弾の妹にして、砲撃を叩きこんだ今回のMVP。
総合的な戦闘能力なら、この中でも上位に入る相応の実力者だ。
そして・・・。
「今回は大活躍だったね蘭ちゃん。さすが僕の秘蔵ッ子にして最高の戦車《ルーク》だ」
レヴィア・聖羅のもう一人の戦車である。
「はいっ レヴィアさん! ありがとうございます!!」
レヴィアに褒められ、蘭は顔を赤くしててれるが、素直に勝算は受け入れた。
・・・それを見て、男性陣はほほえましい感じになったが、そのタイミングで屋上に乱入者が現れる。
「・・・お待たせ」
鈴の姿を目にして、五人の表情が鋭くなった。
別に鈴を警戒しているわけではない。五人とも鈴とは付き合いが長いし、彼女が悪人でないこともわかっている。
問題は、彼女が持ってきた難題だ。
この場で最も位が高いこともあり、レヴィアが代表して鈴の正面に立つ。
「じゃあ鈴ちゃん。僕たちにあいさつしたい人を紹介してくれ」
「うん。・・・爺ちゃん、連れてきたわよ」
そう言って鈴が取りだすのは大きめの鏡。
そして、その鏡面に猿の姿が映った。
だが、それはただのサルではない。
ただのサルならサングラスをかけないし、そもそも服を着たりもしない。
そして、鏡越しでわかるような気も発しない。
『悪かったな嬢ちゃん。儂も悪いとは思うが、さすがにちょっと聞いとかないといけないからよ』
そう言って、鏡を持っている猿こそ、この場に置いて最強の存在だった。
それがわかっているからこそ、レヴィアは敬意をもって猿に向かい合う。
「お初にお目にかかります、闘戦勝仏・・・孫悟空どの」
彼こそ、中国の伝説存在、孫悟空だった。
『・・・魔王の嬢ちゃん、女の子に挙げるお守りはちゃんと考えなきゃいかんぜ? たまたま儂が近くにいたからとりなせたもんを、下手したらこの子殺されてたぜい』
「・・・・・・・・・本当に面目ない」
孫悟空のたしなめる言葉に、レヴィアは心底恐縮した。
鈴が孫悟空とつながりがある理由は簡単。レヴィアのせいである。
鈴が中国に帰ることになってから、レヴィアは鈴のために相応の支援をした。
鈴に教えた魔術をより鍛えられるようにするための今日本や魔導書はもちろん厳選して用意した。さらに身の安全を守るために、魔王血族の権力を我がままといわれないレベルで使用して相応のお守りも用意している。
そして、それだけのお守りとなれば相応の力を放出する。
それが中国神話業界に勘付かれて睨まれたのだ。
幸か不幸か、たまたまその近辺にいた孫悟空がとりなしてくれたおかげで、悪魔業界からの回し物とされかけていた鈴は命を拾うこととなり、それどころか仙術の修練すら受けられることになったが、これは明らかにかなり幸運な部類で奇跡といってもいい。
念を入れなければなにがあるかわからないと思っているレヴィアだが、念を入れ過ぎても逆に失敗しかねないと今反省した。
世の中はなかなか上手くいかないものである。若輩者である自分でできることなど高が知れていると、レヴィアは本当に心底反省した。
だが、今はそれを続けている場合でもない。
・・・今現在、神話体系や宗教体系は、冷戦状態といっても過言ではない。
各種宗教体系によって多くの神話が創作扱いされ、それにを恨んでいる神話体系の存在は数多い。
目の前にいる孫悟空はどちらかといえば宗教側についているが、それでもその信仰を奪い合っている聖書の教えに基づく悪魔である自分は、どちらかといえば敵に近い。
油断をすれば殺される可能性も十分にある。気を引き締めなければ自分以外の仲間たちにも危害が加わる。
ゆえに、決して油断しないように気を引き締めながら、レヴィアは視線を鋭くした。
「それで、本来の目的は何用でしょうか?」
『ま、聞きたいことは一つだけでい。・・・悪魔は、人類社会により深く手を出すつもりかい?』
鋭い視線で投げかけられるその言葉に、レヴィアは正面から向かい合った。
この存在は自分などはるかに凌駕する年月を生きている。
嘘でごまかせる存在ではない。
ゆえに、心の底からの本音でのみ相手をする。
「違います。今回の事象は本当に偶然によるもので、我々悪魔はISを利用するつもりはございません」
そう、これは我がままだ。
「あくまで我が眷属である織斑一夏の、人間としての側面を可能な限り守るための入学であり、在学中にISを発動できた仕組みが解明されなかった時点で、彼は人類社会から消えてもらいます」
できる限り、眷属の人生を守りたいという、ただのわがままでしかない。
「ゆえに、悪魔について了承している組織にのみ限定されていますが悪魔の体質についても調べた上で解析しています。・・・今現在、男性悪魔で使える者もいないので織斑一夏が悪魔化したこととの因果関係はないと考えております」
そのために、今まで積極的に利用することがなかった魔王の血筋すら利用したのだ。
「中国政府には須弥山を通じて情報が提供されるようにすることも可能で」
『いや、もういいわい』
いたわりを感じる声が、レヴィアを遮った。
『幸い天帝も今回のことには興味がない。ISぐらいなら対処できる連中は多いしな。嬢ちゃんたちがたくらんでないってわかりゃあ、こっちからは手を出すつもりはないぜ?』
まるで孫をいたわるような口調に全員が戸惑うが、孫悟空に裏はないようだった。
無論、自分達若輩が読み切れるような人物ではない。
それでも、なんとなく信じてしまいそうになる雰囲気を彼は放っていた。
『鈴の嬢ちゃんのことたのんだぜ? そっちの戦車の坊主のこと気にいっとるみたいだからよ?』
「ちょ、爺ちゃん!?」
鈴が思いっきりあわてるが、孫悟空はカラカラと笑うと鏡から消え去る。
あとは、鏡らしくその風景を写すのみであった。
「「「「「「・・・はぁ~」」」」」」
どっと疲れが出てきて、全員の口からため息が漏れる。
闘戦勝仏、孫悟空といえば伝説に名を残す極めて強力な存在。悪魔で相手をするならばレーティングゲーム上位ランカークラスは絶対に必要であり、魔王を以ってしても隙を見せればただでは済まない実力者だろう。
そんなのと内密に会談をしなければならない緊張は、全員の精神を確実にすり減らしていた。
「いや、本当にゴメン!」
鏡を取り落としそうな勢いで、鈴が勢いよく頭を下げた。
「まさか一夏がIS動かすなんて思ってなかったから、爺ちゃんとの世間話で一夏たちのこと話してたの!!」
なんで中国神話がこんな情報を知っているのかとも思ったが、冷静に考えればそれしかなかった。
とはいえ、それで鈴を責めるのはお門違いだろう。
「・・・仕方が、無い」
アストルフォが静かに断言して、レヴィアもそれに頷く。
「須弥山に重要機密が知られてるのは怖いけど、そもそも想定できなかったしねぇ」
今まで男性でISが操縦できるようになるなど夢のような話だった。それが動かせるだけでなく、まさか一夏がそうなるなど予測するのは不可能に近い。
そんなものを想定いたうえで世間話を白などとムチャにも程がある。
責めるとするなら、そんな運命を一夏に背負わせた髪にこそある。そして、悪魔にとって神とは本来敵である。
つまり責めることはできない。
「ま、その須弥山と鈴ちゃんに繋がりができたのは僕のミスだし、気にしなくていいよ」
それよりもこれからのことを考えるべきだ。
先ほどの会話のとおり、一夏の影響力が下がるのならそれでいい。
だが、IS推進派が焦った場合状況は悪化する。
強硬な手段で男性がISを使える理由を解析しようとすれば、大きな問題が起きる可能性は非常に高い。
それは絶対に警戒しなければいけなかった。
(だけどおかげで鈴ちゃんの告白云々が流れたことはよかったなぁ。・・・さすがに合われすぎる)
対抗戦の大惨事を思い出し、レヴィアは内心冷や汗を流す。
なんかうやむやになった気はするが、まあこれで当分は大丈夫―
「・・・鈴。酢豚のことで話がある」
一夏が地雷を踏みぬいた。
「「「「「ブッ!?」」」」」
まさかこのタイミングでいってくるとは思わず、全員が思いっきり噴き出す。
「ちょ、ちょちょちょちょ一夏!? あ、あんたいきなり―」
「・・・時間をくれ!!」
動揺する鈴を遮って、一夏が勢いよく頭を下げた。
その思い切りの良さに思わず呑まれ、全員が一夏に視線を集中する。
「俺は、弱い。あのISとの戦いでも、鈴1人守れない程度の強さしかなかった」
あの場を見ていたものならば、むしろ上出来とすら言っただろう。
ISにのって一年にも満たないものが、テロ行為を実行するほどまでに修練を積んだ敵と渡り合ったのだ。その訓練期間を考えれば誰がどう見ても上出来だというだろう。駄目だしするのはよほど見る目がないかてれ隠しだ。
だが、それを織斑一夏は認めない。
「女1人守りきれないような強さで、彼女を作るなんて俺には考えられない。・・・いや、考えたくもない」
織斑一夏は古風な人間だろう。
この女尊男碑の社会でなお、女を守る男に憧れ、そんな自分でいようとする。
そして、誰かを守れない辛さを嫌というほど知っている。
だからこそ、今このような状況下で愛する女を作るという行為を行えない。
「俺がちゃんと大切なものを守れる強さができたら、その時は必ず真正面から正々堂々答えを出す。だから、それまでは・・・答えられない」
もしかしたら一生来ないのかもしれない。
その間に愛想を尽かされるのかオチだとも思っている。
だけど、これは譲れない。
それが織斑一夏のせめてもの意地だった。
「・・・はあ。なんかそういうと思ってたわよ」
そして、
「良いわよ。どうせIS学園だって三年間もあるんだし、少しぐらい待っててあげるわよ」
そんな男に、鈴は惚れたのだ。
「仕方がない男だね、君は」
「それが、一夏」
「マジで持ったいない奴だよ、お前」
それを理解者たちは呆れながらも温かく見守り、
「でも、それが一夏さんです。・・・ええ、素敵です」
恋する乙女はますます惚れる。
「あ、こら蘭! ここは私がほれなおすところでしょうが!! 邪魔よ!!」
「鈴さんこそ邪魔です!! 私の方がこの返答されたの先なんですからね!!」
「・・・え? ちょっと待ちなさい一夏!! アンタ告白の返事が二番煎じってどういうことよ!! 仙術叩きこむわよ!!」
「え!? いや、だって答えは同じだし・・・た、助けてくれレヴィア!!」
「自分でやりな。ねえ弾君?」
「っていうか、何が悲しくて妹の惚気を聞かなきゃいけないんだよ」
「・・・未熟」
世界の歴史に残りかけない大騒ぎが起きた後とは思えないほど、和やかな空気が流れた。
この戦いが、後に表と裏の歴史に刻まれるISを巡る大きな闘争の始まりだということを、今はまだ誰も知らない。
闘戦勝仏はあくまで世界観を広げるためのゲストです。
魔法だけでなく仙術まで習得している鈴ちゃん。その特性上対人戦では非常に役立つでしょう。
そして魔改造五反田兄妹。とくに蘭ちゃんは一夏の正妻ポジションを半ば確立している上に、戦闘能力もかなり反則な設定にしております。
ここまで蘭ちゃんをピックアップしている作品も他にないんじゃないだろうか・・・。
あ、とりあえずこれで一巻編はおしまいです。次からは二巻編が始まります。
まだD×D色はあまり出せませんが、それでもちょくちょく小ネタレベルで出せるように努力するので、長い目で見守ってくれると嬉しいです。
あと、これを投稿した少し後に活動報告でアンケートをやります。
もしこの作品を気に行ってくださったのなら、ぜひ一筆お願いします。