「やれやれ、酷い目にあったよ」
寮の一室で、シャワーを浴びたシャルルは髪をふきつつ水を飲んだ。
まさかあそこまでするとは思わなかった。おかげで非常に濃い思い出ができてしまった。
「まったく、彼女はいったい何者なんだろうね?」
そういうと、シャルルは部屋の住人に問いかける。
「・・・・・・」
部屋の住人に反応はなかった。
それどころか、明らかに尋常な様子でもなかった。
腕は力なくだらりと下げられ、ぽかんとあけられた口からはよだれがこぼれている。
完全に、正気ではないもののそれだった。
「あれ? もしかして留守かい?」
「ああ、すまん。飲み物を買いに行っていた」
ドアを開けて、シャルルの話相手が戻ってきた。
「待たせてすまんな『サマー』」
「『シャルロット』でもいいよ、『スプリング』」
そう言葉を交わし、二人はベッドに腰を下ろすと、スプリングと呼ばれた方が買ってきたジュースを飲む。
やはり潜入任務は非常に疲れる。そういったことを中心として鍛えられてきたから何とか乗り切れたが、この調子であと数カ月も過ごすのかと思うと、少しやる気がそがれる。
とはいえ、その監視対象が善人だったのは功を奏した。
個人的には、アレぐらいまっすぐな方が好感が持てる。こういった任務でなければ好意を抱いていたかもしれないし。周りの人々も悪い人たちじゃなさそうだ。
おかげで、表の事情だけで見事に同情してくれた。
「あの方はお前のその辺も考慮して潜入させたのかもしれないな。やはり素晴らしいお方だ」
「だよね。でも、わざわざ『性別』をいじくる必要はなかったと思うけどなぁ」
スプリングに答えるシャルルの姿は、先ほどから大きく変わっていた。
その胸には確かに存在を主張している二つの白桃があるし、体の線も僅かにだがやわらかくなっている。なにより、その股間には、触れれば感触がわかるようなものが何一つなかった。
今の彼もとい彼女こそが、シャルル・・・否、シャルロット・デュノアの真の姿だった。
「しかし大丈夫なのか? レヴィア・聖羅は悪魔だと聞いているが・・・」
「大丈夫。神器の研究は盛んにおこなわれていないみたいだし、だとしてもこれはまだ誰も想定できてないはずだよ」
心配してくれるスプリングを安心させるように、シャルロットは努めて明るく笑う。
「
妖精の杯。
肉体の特性を書き換えることで、運動しやすい体、勉強に集中しやすい体、風邪をひきにくい体などといった恩恵を与える、かなり下位の神器。
それらを彼女たちの組織は徹底的に解析し、応用の幅をしらべ、科学も当然のように使って新しい使用法を見つけ出した。
それこそが、肉体を構成する物質そのものをある程度いじることによる肉体変化だ。
変化した物体が体から離れても、それは変化したままだから、スプリングの部屋でだけ元の姿に戻れば誰にも怪しまれないし勘付かれない。彼女のルームメイトは菜のマシンと薬物の組み合わせで、いつでも意識をシャットアウトできるから安心できるし、記憶操作も学んでいる。そして、警戒対象であったセーラ・レヴィアタンも安心していた。
ゆえに、この潜入工作は誰にも気づかれてはいない。
後は念のためにこのルームメイトと関係を深くすれば万が一の時もごまかせるだろう。
自分のルックスがスペック高めなのは知っている。今の立場を利用して甘い言葉の一言でもいえば、ころりと落とせる自信はあった。
女であるが故に女が望む男を想像することなどたやすい。さすがに悪い気もするが、しかし躊躇するつもりはシャルロットには無かった。
どうせ主の目論見が成功すれば、その過程でIS学園は死に絶えるのだ。そこまでするとわかって行動を共にしている自分に、同情する資格はない。
「全ては我が主の望みのままに。僕らは銃であり剣であれってね」
「私はどちらかといえば刀だがな」
いまだ誰にも気づかれぬ闇の中で、しかし戦乱の火種は既に奥深くまで潜入していた。
「あの、レヴィアさんは大丈夫ですか?」
「え? あぁ、セシリアちゃんか。大丈夫大丈夫・・・ぐぅ」
アリーナで、レヴィア達はIS操縦の訓練のために集まっていた。
ちなみに一夏は来ていない。シャルルが射撃訓練をするということで、不知火の拡張領域に射撃武装を入れたりなどで遅れている。
そして、レヴィアはものすごい疲労して眠かった。
「や、やっぱり今日はもう帰って休んだ方がいいよ」
「駄目駄目。一般生徒がIS使うのは大変なんだから。予約した時はちゃんと使わないともったいないよ」
今まででは一度も見たことがない姿に、簪も止めるが取り合わない。
ここまで疲労している理由はとても簡単である。
デュノア社に指導を叩きこんだ代償である。
レヴィア・聖羅は普段はあまり使わないが、財力も権力もチートクラスである。
それゆえに、一大企業を黙らせることもやろうといえば可能で、自分に関係する悪魔と契約しているということもあってデュノア社に脅しをかけて行動を自粛させることには成功していた。
だが、物事には成果に対する代償が存在する。
会社に経済的打撃を与えるためには、こちらも相応の経済的損失を受けねばならない。それを今回は金銭的利益がないのだ。
それに、やり方も強引だった。
不用意に自分の領域の外側にいる相手を殴り飛ばせば、周囲にいる者から非難されるのは当然だ。
しかも、この場合の周囲とは教会勢力と他神話体系。絶賛冷戦中の相手でもある。
・・・事情を説明して納得してもらわなければ、多方面から袋叩きに合う。
いろいろと欲求不満だったのをガス抜きしたことで気が抜けていたレヴィアが、それに気付かなかったとしても仕方がない。
そのためわび状を書いたり魔王に頭を下げたり、事態解決のために奔走してくれた人にお礼の差し入れを誠意を見せるため直接顔を出してしたりなどして、睡眠不足であった。
「アンタもアンタで大変よね」
だいたい事情を把握してくれている鈴が、そっと肩に手をおいてくれる。
その気づかいに涙が出そうになるぐらい感謝しながら・・・。
「すー・・・ぴー・・・」
ついに本格的に眠りに落ちた。
「こりゃ本気で大変だったみたいね」
鈴は友人の苦労を思うと、目頭が熱くなるのを感じた。
一夏のサポートをするためにわざわざIS学園に入学するという無理を行い、そしてその問題を解決するために普段使っていないレベルの権力すら行使する。
理由は痛いほどわかっているが、レヴィアは一夏と蘭のためならば、自制している権力行使を行うことすらできる。
・・・ふと、思うのだ。
もし自分が同じように例の事件に巻き込まれていたとして、彼女は自分にも同じようにしてくれたのだろうか?
それが卑怯で最低な想像だとわかっているから、誰にも言ったことはない。
それでも、ふと思ってしまうのだ。
「今度の申請はあたしも手伝ってあげるわよ。・・・だからお休み」
ある意味で手間のかかる友人の頭をなでながら、なんだかほほえましい気持ちになってしまった。
「あれ? ・・・もしかしてこれはチャンス?」
「あ、あ、ああああああ・・・!?」
そして恋する乙女たちは暴走しかけていた。
セシリアは鈴がレヴィアに傾いているのかと思って好機が来たのかと歓喜し、簪は鈴とレヴィアになんだか間に入れないようなものを感じて、思わぬ強敵の出現に彼女の性癖を知ってワンチャンスを感じていた高揚感が台無しになる。
そしてそんな光景を見ていたものはこう思った。
お前らはやくIS練習しろよ。
そしてツッコミとしていいタイミングで、砲撃が叩きこまれた。
鈴がレヴィアをつかみ、そして全員が素早く離脱。
四人の中心だった場所に砲弾が着弾し、地面がえぐり取るように爆発する。
そして、その砲撃の方向にいたのは、一機の黒いIS。
ドイツ軍第参世代IS、シュヴァルツェア・レーゲン
「中国の甲龍にイギリスのブルー・ティアーズ、そして日本の打鉄二式か。・・・データで見た時の方が強そうだな」
あからさまな嘲笑を浮かべ、ラウラ・ボーデヴィッヒが三人に
「三人まとめて相手をしてやろう。・・・かかってこい」
自分に負けはないと確信しているラウラの姿にその場にいた物は茫然となり―
(((まさか本当に・・・)))
レヴィアに前に言われていた通りの展開に、三人はなんというか納得していた。
『ラウラ・ボーデヴィッヒはどうやら一夏君を大衆の目の前で叩きつぶしたいみたいだからね。どうも手段をあまり選んでないみたいだ』
レヴィアは一組の転校生騒動を完全に把握していた。
シャルルという想定がいすぎるイレギュラーと同じぐらい、ラウラの存在に対しても警戒を捨てておらず、僅か数日である程度の情報を集めていた。
『一夏君と親しい代表候補生を叩き潰して挑発することもあり得るから気をつけてね。・・・相手は軍によるIS部隊の隊長をあの年で勤めているスペシャリストだ。IS戦じゃ数でせめても苦戦しかねないって自覚しておいて』
極めて自信を無くすことを言われたが、しかしレヴィアの努力を無に帰すのも気が引ける。追加でいえばここで暴れているとあの鬼教師からお仕置きを受けかねない。
ゆえに、三人は「とにかく相手にしない」ことが肝心としてさっさと離れようとし、
「ふん。あんな腑抜けで他者を貶めるしか能のない堕馬に懸想する雌馬風情には、戦いを望むなど不可能だったか」
最大級の爆弾を叩きこまれた。
「・・・相手のいないところで他者の罵倒など、おなじヨーロッパの者として正さなければいけないようですね」
惚れた相手を罵倒され、セシリアは戦闘を決意する。
そのままライフルを呼び出そうとして・・・。
「・・・おい」
怒り狂う人は、自分よりはるかに怒っている物を見ると冷静になるという。
いま、セシリアはその言葉を実体験としてその身で理解していた。
「・・・さっきから黙って聞いてれば、誰が他者を貶めるしか能がないですって?」
凰鈴音は、レヴィアたちの素性を知っている。
そして、彼女のおかげで異形の力すら身につけている。
ゆえに、彼女たちがどのように己を鍛え上げてきたか知っている。
とくに織斑一夏に関して言えば、惚れた男ということもあってよく見ている。そう、彼が姉の名誉を奪った自分を憎んでムチャともいえる特訓をして、そして己の力にしてきたことをとてもよく理解している。
それを、他者を貶めるしか能がない?
―よし、殺そう。
「簪、レヴィア見てなさい」
そして鈴は思うとおりに動いた。
マジで魔改造シャルロット。本作においては敵側です。
・・・ああやめて石投げないで。彼女のポジションこういう時に超好都合だったのごめんなさい!!
そして鈴VSラウラ。
原作でならラウラの圧勝でしたが、レヴィアの影響を受けた魔改造鈴はそうはいきませんよ?