織斑一夏は、狭い倉庫に転がされて、酷い後悔を覚えていた。
理由は二つあるが、その根本は一つ。
ありていにいえば、彼は誘拐されたのである。
第二回モンド・グロッゾにて、姉である千冬を応援するためにドイツまできたのに、応援どころか完全に足を引っ張る形になる。
大好きな姉の活躍を阻むという事実に、一夏はいっそ舌を噛み切って死んでしまおうかと本気で思った。
だが、それはなにがあっても出来ない。それこそが、第二の後悔の理由。
「い、一夏さん・・・。私達、どうなるんですか?」
震える声で自分に掛けられた声は、しかし回答を求めてのものではなく、あふれ出る恐怖から意識をそらすためのものだった。
五反田蘭。
何の偶然の因果か、一名様のみとはいえ、抽選で招待券が当たったことから、一緒についてきた彼女まで巻き込んでしまった。
親友の妹を巻き込むなど、男の風上にも置けない。一夏はそう思うとその屈辱だけで死んでしまいそうになる。
ああ、だが、それも当然なのかもしれない。
世界は、女性が主導する形に変わっているのだから。
IS。インフィニット・ストラトス。
幼いころから仲の良かった篠ノ之束が開発した、宇宙開発用のパワードスーツ。
その性能は既存の兵器体系を塗り替えるほどであり、この現代社会に置いて一騎当千をつかさどる存在である。
宇宙開発用から軍事用へと転化していったとはいえ、その影響はすさまじく、その存在は世界の中心となっている。
その兵器の唯一の欠陥こそ、女性にしか使用できないというものである。
故の女尊男碑。
お前たちはISが使えないのだから、ISが使える私達の方が上だ。
その思想が蔓延する世界の中で、世界最初にして最強のIS操縦者の弟である一夏は、そんな現状を憂いていた。
本来、男というものは女を守る者のはずなのだ。
男尊女卑といわれるかもしれないが、一夏はやはりそう思っている。ゆえに守れる男でありたいと思うし、そう思っているから剣の腕を鍛えてもいる。
その結果がこれだ。守るどころか、大事な女性を二人も苦しめる結果になった。
(畜生・・・畜生・・・)
自分が恨めしく、誘拐犯が憎く、しかし何もできない自分が情けない。
ああ、誰でもいい。誰か蘭を助けてくれ。
そしてできるなら、この情けない俺を殺してくれ・・・。
「・・・な、何だ貴様!?」
・・・その声は、確かに届いていた。
人類の科学は目覚ましい発展を遂げた。
陸を駆け抜け、深海を探り、空すら支配し、そして宇宙すらその手を延ばす。
しかし、ISという頂点に到達してもなお、「ただ」の人類の力では足元にも及ばないものが存在する。
神、悪魔、堕天使、妖怪、仙人、竜、魔物。
あるといわれながらもその存在を疑問視され、一部は創作とすら思われている物。
しかし、それは確かに存在した。
聖書の教えは多くの天使によって支えられ、彼らに力を授けられた悪魔祓いが悪魔や堕天使を常に殺し合う。
さらに創作と貶められた各神話体系も、しかしそれを知る人たちと共にその力を蓄えている。
そのような力の数々が、確かにこの世界には存在していた。
「じゅ、銃弾が通用しないぞ!?」
「ISの反応はねえ! 冗談だろ!?」
「や、やめろ、来るなぁ!!」
そして、その一端が、このモンド・グロッソでその覇を見せつけていた。
「・・・人の目の前で誘拐事件など起こすとはいい度胸だ。ストレス発散も兼ねてしっかりと暴れさせてもらうよ」
この日、織斑一夏は運命に出あった。
そして数年後、彼は全世界を飲み込まんとする争いへと深くかかわることになる。
この事件そのものが、それと無関係でないことを知るのは、まだこの時ではない。