VTシステム。
正式名称Valkyrie Trace System。
最強のIS乗りを求めた結果、最強を模倣することを考えて作られた最先端の模倣技術の結晶。
ISの操縦補佐システムであり、モンド・グロッソ各部門の頂点に立つヴァルキリーの行動を模倣するために開発されたそのシステムは、しかし危険性が高く本来は開発が停止された者だ。
つまり完璧な違法品であり、そんなものを使えば国際社会に非難されることは当然である。
そんなものをよりにもよってIS学園に送り込んだドイツ政府にはアラスカ条約加盟国による共同捜査が入ることになる。
とはいえ、欧州の今後に深くかかわるドイツの第三世代機に違法システムが使われていたという事態は非常に重い。下手をすれば複数の国家を巻き込んだ金融恐慌を生みだしかねなかった。
それゆえに、各国政府はあくまでこの事件をシュヴァルツェア・レーゲンの暴走ということにして、裏取引でドイツをフルボッコにすることとなるが、それは学生達には関係なかった。
この騒ぎによってトーナメントは中止となり、とりあえずデータ取りのために一回戦だけすることとなる。
レヴィアによって奮起した一般生徒の努力と、結局織斑千冬による説教だけは逃れきれなかった代表候補生の精神的疲労が重なった結果、代表候補生との戦いは一年生とは思えない接戦となり、意外と専門家からの評価も高かった。
そして専用機持ちの代表候補生を秒殺したレヴィアには各IS関係者からスカウトがひっきりなしに持ちあがったが、彼女の立場を考慮した各種異形関係者がそれに関わる政府高官の協力による圧力によりそれらはすべて立ち消えとなった。
結果、目立ち過ぎてレヴィアは各国政府の要望を受けた魔王直々に説教を喰らうこととなり、数日の間始末書に忙殺されることになるが、それはまた別の話。
また数年後、彼女たちは大きな変革を余儀なくされたIS業界に置いて実力者を多数生みだし、豊作の世代とすら評価されることになるが、それもまた別の話。
力とは、いったい何なのだろうか。
少なくとも、ラウラ・ボーデヴィッヒにとってそれは強大な力だった。
だが、教官はそれは強さではないという。
それはどういうことなのだろうか?
―お前は、それがわかるのか?
―分かるわけないだろ。俺はそんなにすごくねぇよ
どこかもわからない空間で、ラウラと一夏は互いの意識と共感し合っていた。
クロッシングアクセスという現象がISにはあるとされているが、それは二人とも気付かない。というか一夏は分からない。
ただ、お互いがちゃんと腹を割って話し合っているのは分かっていた。
―だがお前は強い。なら強さを分かっているんじゃないのか?
―俺が強い? 馬鹿言うなよ。俺は完璧弱い奴の側だって
その言葉は信じられない。
ドイツ軍IS部隊隊長である自分を倒しておきながら、それを弱いなどというのはもはやドイツに対して喧嘩を売っているに等しい。
そもそも自分は中国とイギリスの代表候補生相手に渡り合ったのだ。よくわからない事態で最終的にレヴィアに救われたが、しかし途中まではやり合った。つまり自分に勝った一夏は二人を合わせたよりも強いということになる。
―あ、あれはノーカンにしとけ。鈴はものすごい反則技使ったからな。いや、説明はできないけど。
そう前置きしてから、一夏はさらに続ける。
―話を戻すけど、俺は本当に弱いよ。少なくとも、俺なんか足元にも及ばない強い奴ってのは本当に多い。単純な戦闘能力で次元違いの奴なんてごろごろいる。
見えているわけではないが、どうにも冷や汗をかいている風に思えた。
この男がそこまで震える相手がいるとは、どういうことなのだろうか?
―だけど、強さって言うのはそういう戦闘能力が強いってことじゃねえと思うぜ?
―同じようなことを教官も言っていたが、どういうことだ?
―俺だってわかんねえよ。だけど、俺が本当に強いって思える奴は、戦闘能力だけじゃなくて、心の在りかたってのがちゃんとしっかりあると思うんだ。
その言葉に思い出すのはレヴィアの姿だ。
確かに彼女は強い。確固たる信念をもって、それを実証するすごさもあった。
―思い出したか? たぶんだけどさ、それが本当の強さだって思うぜ?
口調から、なにか笑顔のようなものがあふれているのをラウラは感じる。
自分が彼女に何かを感じたように、この男も彼女に思うところがあるのだろうか。
―そう、俺はレヴィアや千冬姉に比べればどこまでも弱い。
話がまたそこに戻った。
―だから俺は守られてる。・・・どこまでも守られてて、そのほんの少しも俺は守り返せていないんだ。
―守る・・・?
―ああ、俺は守られるんじゃなくて守りたいんだ。
その言葉は今までで一番何かがあって、同時にそれが手に入らない悔しさに満ち溢れていた。
―昔の人類が男尊女卑だったのは、男が女をきっちり守ってたからだってレヴィアは言ってた。なんか古い考え方だけど、俺が望んでいるのはそういうことなんだって思う。
照れくさそうにそういい、そして・・・
合うはずもないのに、視線があった。
―もしそれができるようになったら、お前のことも守ってやるよ。
・・・そういえば、教官がこんなことを言っていたのを思い出した。
一夏に油断しない方がいいと、戦闘とは違う意味でそんなことを言っていた。
ああ、それは・・・。
―そうか、それは・・・ありがたいな
きっとこういうことなのだろう。
ああ、敬愛する教官の注意を聞いておきながら見事にその通りにくらってしまった。
確かに、自分はまだまだ弱い。
「聞こえるかクラリッサ。ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐だ」
『如何しましたか、隊長?』
意識を取り戻し、千冬から見舞われて事情を聞いた後、ラウラは秘匿回線で副官を呼び出した。
『本日はIS学園でトーナメントを行っていたそうですが、優勝のご報告でしょうか?』
固いクラリッサの声が聞こえる。
ラウラ本人は気にも留めていなかったが、子どもとしか言えない年齢で高圧的な態度を行い、千冬以外をみ下している節がある彼女は部隊内でも好まれてはいない。
しかしそれでも実力は認めているので、尋ねる内容がそうなるのはおかしくなかった。
「いや、大会自体は一回戦のみで中止になったのだが、私は敗北したよ」
『・・・失礼します。通信の調子が不調なようなので聞き間違えました。・・・一回戦敗北ですって?』
だから、そんなことを言われても信じられない。
「ああ、見事に失態をさらしてしまった。済まない、黒ウサギ隊《シュバルツェア・ハーゼ》の名に傷をつけてしまった」
しかも殊勝なまでに謝罪までしてきた。
今この瞬間、これは第三世代武装による精神攻撃ではないのかと思ったクラリッサを誰が責められようか。
いや、たしかドイツ以外にも三か国が専用機もちの代表候補生を送っているし、初の男も専用機あいてに勝利するほどの使い手で専用機を持っているから敗北の可能性が無いわけではない。
だがだからと言って隊長の子の姿はなんだ? おかしいだろう。いや見えてはいないけど。
あまりの驚きに普段の嫌悪感が吹っ飛んだクラリッサは、この通信を全員に聞こえるようにしたうえで、ハンドサインで現状を部隊に説明する。
そして全員が理解した。
これは非常事態だ。
『い、いったい何が起こればそんなことに!? は、そういえば今年はタッグマッチになったとのことでしたが、まさか男にほだされたパートナーが裏切って三対一に持ち込まれたとか!?』
そう思うのも無理はないだろう。
実際反則手段を使われなければ二対一でも互角だったであろう戦いぶりを見せていたし、のちにその映像をみたクラリッサはそれゆえにまた後に首をひねったほどだ。
だが、ラウラはそれを否定する。
「それは違う」
そう、彼女は決して裏切りなどしなかった。
「確かに心情的にはレヴィアは私ではなくアイツの味方だったが、奴はあの戦いに何ら妨害を加えていない。むしろこのトーナメントで最大の勝者といえば誰もがレヴィア・聖羅と答えるだろう」
そう、誰がどう見ても最も成果を得たのはレヴィアだ。
「信頼する友を栄光あふれる戦いへと導き、一般生徒の目を自らの技術で覚まさせ意識改革を行い、そしてその信頼にその友は答えた。あの試合の勝者は確かに敵だったが、最も戦果をあげたのは私のパートナーのレヴィアだ」
まぎれもない事実ゆえにラウラはつらつらとそういい切り、それがまたクラリッサ達を驚愕させる。
織斑千冬を絶対と仰ぐあのラウラにここまで言わせる人物に、彼女たちは畏怖すら覚え始めていた。
『では、敗北条件の確認でしょうか? とはいえ報告書と映像がなければこちらでも解析はできませんが』
「いや、実は軍人としてではなく一個人として相談が・・・ある、のだ」
『何でしょうか?』
「・・・好きな女と教官の次ぐらいに敬愛する女ができた。ど、どどどどうすればいい?」
この時点で、黒ウサギ部隊は別名『ラウラ親衛隊』の異名を自負するようになる。
そして次の日、ある駄目な人物によって大騒ぎが起きる。
『レヴィア助けてくれ!! ラウラがいきなり俺を嫁にするとか言って来たんだ!!』
『・・・分かった。とりあえずそれは置いといてセシリアちゃんと鈴ちゃんから逃げられそうかい?』
『理解が早くて助かるぜ!! ・・・四組に匿ってくれ!!』
『残念だけどそれは無理だよ。なぜなら・・・』
「レヴィア・聖羅。今日からあなたをお姉さまと呼ばせてくれ!! クラリッサがそう呼んで慕った方がいいと教えてくれたんだ!!」
「れ、レヴィアが、妹で、お姉さま・・・きゅう」
「簪さんが倒れたわ! だれか衛生兵!!」
「メディック! メディイイイイイック!!」
「私達の可愛いマスコットである簪さんによくも!!」
「レヴィアさんの妹は簪さんのものよ!!」
「レヴィア×簪は鉄板よ!!」
「レヴィアさんと仲良くなってからの更識さんは犬耳としっぽが見えるのに!!」
「生徒会長の妹? 日本代表候補生? そんなものはどうでもいいくらい可愛いのに!!」
「たとえ織斑君にだって渡さないわ、同姓など論外!!」
「武道関係の部活生徒は全力で迎撃! 相手は軍人らしいから遠慮は無用よ!!」
「訓練用のISを持ってこい!! 相手は専用気持ちだ油断すんな!!」
「良いだろう、レヴィアお姉さまの妹の座は誰にも渡さん! 見ていろクラリッサ、私はお前のアドバイスを無駄にはしない!!」
『むしろ死ぬからこっちこない方がいいよ。あと織斑先生呼んで来てくれない?』
IS学園。
時代のエリートを育てる学校とは思えないほど、普段は平和な学園である。
いや、実弾が飛び交うのが平和というのは語弊があるが。
そのころシャルルは、プライベート・チャネルで通信を行っていた。
『それで、上はなんて言ってるのかな、スプリング?』
『VTシステムのデータはドイツの賛同者を経由して奪い取るから気にするなとのことだ』
『そっか。今後の戦闘を考えると通常機用にVTシステムを組み込むかと思ったけど、当分は使わないんだね』
『もともと少数精鋭だからな。通常機は砲撃戦闘向けになっているし当然だろう』
『まあ本気でそういった方面でIS学園を攻略するのは大変だし、仕方がないか』
『そもそも武装の問題もあるしな。現代の科学は近接戦闘に置いては冬に時代だ』
『ジャパニーズ・サムライとしては不満かな?』
『まさか。私には獅子王丸がある。何も問題はない』
『あれチートだもんねぇ。絶対防御じゃ防げないかな』
『お前のアレもチートだろう。・・・ラファール程度では不満じゃないか、サマー?』
『アレはあれでいい機体だよ。あの方がチートなだけさ』
『まあ、あれを超える機体を作れるのはこの世界でも一人しかいないだろうしな。当然といえば当然か』
『・・・あの人のこと、やっぱり嫌い?』
『好きではないだけだ。半ばどうでもいいしな』
『そうだね。僕も父親はどうでもいいからそれは当然かな?』
『お互いそれ以上に大事なものがあるというのはいいことだ。あの人があるから私は『生きて』いられる』
『ゾッコンだね。たぶん忠誠心では組織でもトップだよね? 恋する乙女って感じかな』
『これはそんなものではないさ。しいて言うなら、心酔だ』
『ふふふ。そこまで来ると羨ましいよ』
「篠ノ之さん。幼馴染が追いかけられてるけど助けなくていいの?」
「あいつはいつもあんなところがあるからな。・・・いい加減懲らしめられた方がいい」
『・・・そういえば、今度は臨海学校かな』
『ああ、なにもないと良いがな』
『いや、たぶんまた何かあると思うよ?』
『そうなのか?』
『・・・・・・その時期に丁度いいタイミングであることが起きるらしいからね? 気を付けた方がいいと思うよ?』
クラリッサさんはラウラを暴走させてくれるからすごい使いやすいです。
そして簪ちゃんは四組のマスコット。異論は認める。