「いいですか? 確かに私はあなたの妹ですが、IS適性はCですし、寄って切るしか能がない凡才です。そんなものにこんな高性能なISを渡しても宝の持ち腐れでしょう。あなたは自分が世界に影響を与えすぎることを考えてください。っていうか世界各国が第三世代ISを試作している状況下で世代一つ飛び越えるだなんて非常識にも程があります。個人に与える暇があるなら世界各国に技術協力をして・・・」
「は、はい・・・」
篠ノ之箒が篠ノ之束を正座させて説教していた。
世界でも最高レベルの優秀な頭脳を正座させて説教させるという所業に、その場にいた者たちは声も出ない。
かの千冬ですら唖然としているあたり、その異常さがよくわかるだろう。
「確かに人類は不平等でしかありませんが、しかし平等であるべく努力してきました。実力もわきまえずに専用機など分不相応にも程がある。・・・持って帰りなさい」
「そ、そんな!? せっかく箒ちゃんのために作ったのに!!」
取り合う隙すらない物言いに、束がまた倒れないか全員が心配した。
「今まで迷惑かけてきたお詫びに、せめて世界最高のISを作ってきたんだよ!? せめて受け取ってよ!!」
「なら私がそのISを誰かに譲渡しても問題ありませんね。・・・たしか三組のクラス代表は好成績にかかわらず専用機がなかったな。・・・いるか?」
「あ、今日専用機がとどいたんでいらないデス」
「二重の意味で完全拒否!?」
自らが箒のために作った至高の機体を全否定されて、束ねは顔面蒼白だった。
・・・本当に、倒れないか心配である。
「し、篠ノ之さん。乗ってあげなよ?」
「せっかくお姉さんが頑張ったんだよ? せめて一回ぐらい・・・」
「ずるいと思ったけど、さすがにこれはかわいそうだよ」
一般生徒からも同情の声が上がり、それに箒はためいきをついて態度を軟化させるかのように束と視線を合わせる。
「・・・臨海学校の間だけですよ? それ以上の使用は実力が見合うまで封印させていただきます」
明らかにいやいやであるが、しかし乗ることを約束した。
その言葉を聞いて、真っ青だった束の顔に赤みが差す。
どん底から絶頂へと、束のテンションが一機に変化した!!
「ありがとう箒ちゃ~ん!! さあ調整しようそうしよう!!」
最愛の妹が、自分のプレゼントを受け取ってくれた。その事実に束は狂喜乱舞し、思わずそのままダンスを踊る。
世界最高の頭脳とはいえ、一人の女であることに変わりはない。
それを知ったIS学園生たちは束に温かい視線をむけ、そのISの譲渡を歓迎した。
何せ世界最高のIS研究者が作った新世代ISだ。自分達が乗れなくてもそのすごさをこの目で見ることができるかもしれない。
いつの間にやら空間投影式ディスプレイがものすごい勢いで展開し、それをものすごい勢いで束は処理していく。
簪を以ってしても追いつけないであろうその処理速度は、コミカルな出来事を起こしてもなお、彼女のすごさを証明して見せていた。
「準備OK! さあ箒ちゃん、紅椿を起動させて」
「・・・はい」
不承不承といった感じで箒は紅椿を起動させる。
ふわりと、ゆっくり、しかし素早く紅椿は砂浜から浮くと空を飛ぶ。
そして次の瞬間、衝撃波をまきちらしながら紅椿は空を舞った。
「よぉし、次は武装テストだ!! 今からターゲット代わりのミサイルを・・・」
「ちょっと待つデス」
束の声をさえぎり、ヒルデが一歩前に出た。
その首に付けられたチョーカーは、昨日のビーチバレーでは見なかったものだ。
「ユグドラシル・コーポレーションとしては、いくらかの篠ノ之博士とはいえ、あまり好きにされていい気分がするものじゃないデス」
「ふむふむ。だったらどうするのかな、お嬢ちゃん?」
束が興味深そうに見守る中、チョーカーが光り輝きヒルデの身を包む。
次の瞬間には、両腕がまるで剣のようになった、灰色のISをその身にまとっていた。
「・・・イチイバルのならしも兼ねて模擬戦デス!! いくデス、篠ノ之さん!!」
同じく一瞬で加速すると、空中でバランスをとっていた箒に向かって肉薄する。
その剣から光の刃が伸び、そのまま紅椿を一刀両断にしようと迫り―
「悪いが、この距離なら負けてやれん」
紅椿に装備された二振りの刃が、それをかろうじて受け止めていた。
「「「「「「「「「「おぉおおおおおお!!」」」」」」」」」」
空中で展開されたつばぜり合いに、生徒たちの歓声が上がる。
次の瞬間、二機は高速で移動しながらその刃で切り合いを始めていた。
戦闘能力なら代表候補生にも匹敵するヒルデに対し、性能の差を活かしたのか箒は何とか肉薄する。
もとより二刀流は難易度が高いが、剣の道に生きる箒はそれを使いこなしていた。
「なかなかやるデス。なら今度は遠距離戦デス!!」
量子状態の武装が展開し、イチイバルに格納されていたアサルトライフルがその姿を現す。
両手の無いイチイバルはしかし、そのアサルトライフルを取り落としはしなかった。
「・・・銃が宙に固定された!?」
その光景を眼前にして、箒が目をむく。
両手に保持されていないアサルトライフルはしかし、確かに宙に浮かんでイチイバルに追随していた。
「これがイチイバルの第三世代武装。テレキアム、デス。PICの応用による念動力と考えるデス」
不敵に微笑むヒルデに応えるかのように、アサルトライフルは小刻みに震える。
しかしそれはすぐに収まり、その銃口を箒へと向けていた。
「ちなみにこれの練習そのものはやりまくってるデス。失敗するとは思わない方がいいデス!!」
アサルトライフルから銃弾が一斉に放出される。
それを回避する箒はしかし、さらにイチイバルの両手から放たれたビームが掠めて眉をゆがめる。
「その両腕、まさか銃剣一体なのか!?」
「そうです。第三世代武装に頼り、本体の汎用性を犠牲にしてでも頑丈さを売りにしたのがこのイチイバルデス!!」
近接戦では互角だった二機はしかし、遠距離射撃に変化したことで一気に逆転する。
「ま、負けないで箒ちゃん!! その雨突と空裂は動きに合わせてレーザーとエネルギー刃を放つから!!」
しかしそれを、機体を開設する束の声援が変革する。
それを聞いた箒がぎこちなく、しかししっかりと刃を振るうと、レーザーとエネルギーの刃は確かにそれに答えた。
それをあっさりと回避するヒルデだが、その表情は鋭くなる。
「なかなかの威力と命中精度デス! やっぱり戦いは張り合いがないとデス!!」
「姉に振り回されているようで気に入らんが、わざと負けるのも性にあわんのでな!! 悪いが倒す気でいかせてもらう!!」
灰色のイチイバルと深紅の紅椿、二機の戦闘はさらに白熱さを増してきた。
「た、大変です!! 織斑先生!!」
それをかき消すように、山田麻耶の悲鳴が響き渡った。
「山田先生? いったいどうしたと・・・」
「こ、これを見てください!!」
落ち着かせようとする千冬にたいし、麻耶は手に持っていた小型端末を見せることで返答する。
そこに映るのは非常事態を現す文字列。
特命任務レベルA、現時刻より対策を始められたし
その文字を見た瞬間に、千冬は暗号手話で麻耶と会話する。
それはほとんどのメンバーには分からない内容で、IS学園教師用なため代表候補生でも理解できない。
だがしかし、1人だけその情報を理解できるものがいた。
自らの眷属の安全確保のため、そして何より政治的に非常に危険な扱いとなる自分自身によるIS学園への悪影響を避けるため、その暗号手話の基礎的部分を完全に把握している物がいた。
(IS、活動、ここに接近? まさかこの時代に戦争でも仕掛けようとしているのか?)
レヴィア・聖羅はとぎれとぎれながらも内容を把握し、その表情を険しくする。
ISがこの海岸に近付いているということが分かる。そして先生の緊張具合から考えて、最低でも友好的な理由によるものではない。
まさか専用機もちが多数いて、ブリュンヒルデまでいるこの場所に単騎で強襲をかける馬鹿はいないだろうが、しかしろくでもないことなのは確かだろう。
この状況下で考えると、現在のメンバーによる対IS戦が行われる可能性が高い。
「麻耶、他の先生たちへの連絡を頼む」
「は、はい!! 生徒たちのことを頼みます!!」
麻耶が走り去るのを見送ってから、千冬は両手を鳴らして生徒たちの注意を集める。
「全員注目!! 現時刻より、IS学園教員は特殊作戦行動へと移行する。本日のテスト活動は全て中止、全員、機材を片付けて旅館へ戻れ。なお、指示があるまで各自自室で待機すること。これを破った場合厳罰に処す!」
「え・・・? ちゅ、中止ってどういうこと?」
「っていうか、特殊作戦行動ってなに?」
「な、何が起こってるの?」
「じょ、状況ぐらい教えてくれても」
新型第三世代機と第四世代機の激突に浮かれていたところにこの急転直下の状況変化。その場にいるものはその変化についていけず戸惑った
「何をしている。さっさと作業を進めろ!!」
「「「「「「「「「「は、はい!!」」」」」」」」」」
明らかにいらだちが混じっている怒号に、慌てて撤収作業が開始される。
「織斑、オルコット、ボーデヴィッヒ、デュノア、凰、アースガルズ、更識。・・・あと、篠ノ之も来い。専用機持ちには話がある」
「「「「「「「「はい」」」」」」」」
千冬に言われ、専用機乗りが全員一足先に旅館へと向かう。
「・・・どう思うかね、布仏さん」
「どう見ても非常事態だよね、レヴィたん」
そんな中、一部の物はその状況を正しく理解していた。
明らかに緊張感を増した教師に、専用機持ちを呼び出すという行動。
ISの使用が前提となる非常事態が起こっていることを、レヴィアは正しく理解していた。
代表対抗戦に始まりタッグトーナメントと続き、そしてこの臨海学校。
一学期だけで既に三件も非常事態が起こっている。もはやレヴィアはこの状況を楽観視することなどできなかった。
「・・・たしか君は簪ちゃんとは家族ぐるみの付き合いだったよね? 生徒会長をここに呼び出してくれないか? 念には念を入れておきたい」
「レヴィたんも気をつけてね~? あれ、間違いなく国際問題レベルだよ~?」
あの更識と家族ぐるみで付き合いがあるだけあって、彼女も何気にただものではないようだ。
そして、そのただものではない少女がそんなことを言うほどの事態。
レヴィアは速やかに念話を展開すると、アストルフォを呼び出した。
『・・・アストルフォ。万が一がある、こちらの大規模行動許可の申請とフェニックスの涙の用意をしてくれ』
『・・・フェニックスの涙は品薄。後者は期待できない』
『可能ならでいい。優先順位は許可を得ることだ。できる限り急いでくれ』
『了解。そちらは二時間で済む』
いきなり上層部に微妙な状況の問題での行動を要請するにしては短い時間だが、アストルフォがいうならほぼ確実に成功するだろう。
そういった方面での文書作成能力などは非常に優秀で、実は後方支援ではレヴィアの知る限り上位に入るのがアストルフォだ。
彼ができるといったのなら大丈夫だろう。
とはいえ、驚異的な治癒効果を発揮するフェニックスの涙が難しいのは問題だ。
IS学園という状況下では急速過ぎる回復など怪しまれ、上から小言を言われるだけと判断して調達してなかったが、それが仇とならない保証はどこにもない。
万が一のことがなければいいのだが。レヴィアはその嫌な予感を振りきれなかった。
『・・・それと』
その主の想いを察したのか、アストルフォが小さく付け加える。
『蘭も呼び出す』
アストルフォも、今の状況をある程度察しているのだろう。
頼れる眷属の招集を自発的に行うその姿に、レヴィアは少しだけ安心する。
『いつもすまないねぇ』
『それは、言わない約束』
軽く冗談を交わしあい、念話を終える。
嫌な予感は消えない。だが、それ以上に決意が生まれたのもまた事実。
自分は一夏の王だ。ゆえにそうふるまうのみ。
撤収作業を行いながら、レヴィアは自身も各種方面に対する言い訳の文面を考えることから始めた。
アースガルズ・コーポレーションの機体は、独特な発想の機体を多くする予定です。