海上200メートル。福音はそこで退治のように丸まっていた。
まるで眠るように筋かにたたずんでいた福音は、しかしその顔をあらぬ方向へと向ける。
・・・レーダーに反応はない。しかし、確かに何かの存在を感知した。
これではいけない。よくはわからないが強力な存在が近付いているのはわかる。
それでは死んでしまう。自分ではない。自分のことを大切に思ってくれている大切な主が死んでしまう。
ゆえに離脱しようと翼を動かし―
その背中に弾丸が直撃した。
「・・・まずは、意趣返しだ」
5kmもの距離からそれを当てたのは、砲撃戦用パッケージ、パンツァー・カノニーアを搭載したラウラだった。
大型のレールカノンを両肩に装備し、機動性能の低下を二つのシールドで対処するその姿は、大艦巨砲主義を思わせる。
その号砲の直撃を以ってして、しかし福音は動揺しない。
まずはこの敵を排除することから始めなければならないと割り切り、その機動力をもって接近する。
放たれる砲弾を正確にかわす。そしてかわしきれないのは撃ち落とす。
そして自身の間合いに入ったと判断した瞬間、横合いから光が直撃する。
いつの間にか、自らの速度に介入する存在がいた。
「そして、ここからが反撃ですわ」
超音速の速度に介入するのは、ビット全てを推進力に変換した、高機動パッケージ、ストライク・ガンナーを装備したブルー・ティアーズ。
その売りであるビットによる多方面攻撃を捨てた代わりに、彼女は福音に並ぶ速度に到達する。
その腕にになう大型BTレーザーライフルが、光の豪雨をかいくぐってピンポイントで福音を狙う。
足を止めての大火力砲撃と、高速移動を組み合わせた精密狙撃。
それらの攻撃をかわしながら、しかし福音は狙いを定める。
確かにこの組み合わせは厄介だが、しかしこの機体は爆発的なまでの面制圧を目的とした機体。当然センサーも強化され、弾幕に対処することも可能である。
ゆえにまずは火力の大きい方から撃破しようとして、しかし福音は頭上に迫る影に気づく。
「人の惚れた男に手を出して、まさかただで済むとは思ってないでしょうね?」
機能増幅パッケージ、崩山を身に包んだ甲龍が、二機に翻弄された福音の懐に飛び込む。
不可視という利点を捨て去る代わりに、その攻撃力と数を増やした衝撃砲が、銀の鐘にも負けぬ弾幕となって福音を叩きのめす。
それに対して福音は、その衝撃に吹き飛ばされることを自ら受け入れた。
幸い下は海面である。一度水中に潜ってから機動を変えれば仕切り直しは十分にできる。
なにより脅威はまだ残っている。それならここから逃げるのも一つの手だろう。
そう判断した福音はスラスターを加速して海面へと飛び込み―
「つかまえたデス」
海面から飛び出て来たイチイバルに抱きつかれた。
ISという空をかける兵器としてはにあわない、水中戦用パッケージ、ミドガルズダイブ。亀の甲羅を思わせる水流水圧干渉用PIC偏向機関を背負い、イチイバルは福音を抱きしめて拘束した。
「今デス、簪さん!!」
「・・・あなたのせいで一夏は傷ついて、そしたらレヴィアもきっと泣く」
そしてここまでの行動は全てこの隙を作るためのもの。
最後の本命が四人の努力を以ってして舞い降りる。
・・・山嵐・朧を利用して用意した、増加ミサイルポッド系240発。五倍近い量のミサイルが、正確に銀の鐘を狙って叩きこまれる。
それらはマシンガンのように連続して、しかしその制御能力によってスナイパーライフルのように精密に砲門に叩きこまれた。
シールドエネルギーの防御を超え、しかし搭乗者の生命に危機を及ぼさない精密攻撃。叩きこまれたミサイルの連劇が、銀の鐘を粉砕する。
・・・これこそが、銀の福音を撃墜するために全員が即席で組み込んだ最後の手段。
四機総出で協力することで動きを封じ、とにかくミサイルを用意した簪の制御能力で叩き伏せる。
その結果、福音はその性能の根幹ともいえる銀の鐘を失った。
翼をもがれた鳥は地に堕ちるしかない。そして、そのまま墜落するのに任せるつもりは毛頭ない。
「人の嫁にあれだけのことをしたのだ。覚悟はできているだろう?」
「このセシリア・オルコット。友の仇を討つ程度のことはさせてもらいますわ」
「代表候補生の意地ってもんがあるのよ。諦めなさい」
「ちょっと気になる報告もあるので、さっさと片付けさせてもらうデス」
「レヴィアの分もしっかり殴り返す。・・・悪く思わないで」
五機が五通りの火器を構え、福音に全ての弾丸を叩きこんだ。
次の瞬間、福音が光に包まれる。
崩壊した銀の鐘は光の翼へと生まれ変わり、瞬間的に今まで以上の光の嵐を五機へと叩きこむ。
土壇場で二次移行を遂げた福音が、最大級のカウンターを叩きこもうとし―
「いや、そこまでだ」
その顔面にブレードの一撃を叩きこまれて空中で回転した。
「ち、千冬さん!?」
丁度真横を通り過ぎる形になった鈴が顔を真っ青にさせるが、さらにグレネードが続けざまに顔のすぐ真横を通り過ぎて失神寸前になる。
それらは福音に全弾叩きこまれ、その動きを完全に封じていた。
「油断しないでください五人とも!! ボーデヴィッヒさんはAICで動きを封じてください!!」
後ろから珍しく剣のある声で叫ぶ麻耶の言葉に、五人はすぐに冷静さを取り戻す。
直後、海面に叩きつけられた福音がAICで動きを止められる。
その拘束された白銀の体に、容赦なくブレードが突きいれられた。
「あいにく、生徒を傷つけられて黙っているつもりもない。・・・機嫌が悪いのだ、覚悟しろ」
絶対零度の視線をもって、打鉄をまとった千冬が宣言する。
その視線に、福音は機械であるにもかかわらず一度震えを見せた。
それでも福音はこの場から逃れようとその翼を広げ―
「・・・温すぎる」
その前に三連続でブレードを叩きこまれて空中に打ち上げられた。
その身にグレネードが再び叩きこまれて、福音は今度こそ動きを止める。
「この程度の奴に苦戦するとは仕方がない。怪我が治ったら一夏は基礎から鍛え直しだな」
そのまま千冬につかまれ、福音はそのまま崩れ落ちた。
「ち、ちちちち千冬さん?」
「お、織斑先生。こ、これはそのですね?」
「・・・覚悟はできました教官。さあ、お好きにどうぞ」
「で、できれば遺書はアーズガルズ・コーポレーションに届けてほしいデス!?」
「・・・反省はするけど後悔はしません」
五人がそれぞれ恐怖に震えるなか、福音を抱えた千冬はためいきをついた。
「専用機持ちがそろって命令違反で無断出撃とはいい度胸だ」
福音すら震え上がらせた絶対零度の視線が突き刺さり、五人は死を覚悟した。
「・・・だが、よく生き延びた」
だから、まさかそんな優しい言葉がかけられるとは思わなかった。
「「「「「・・・・・・・・・・・・え?」」」」」
思わず聞き返してしまった。
「本当に皆さん心配したんですからね! 織斑先生だって顔色悪くて大変だったんですから」
後ろから苦笑交じりの麻耶の言葉が聞こえ、そしてその肩をゆっくり叩かれる。
「お説教は帰ってからじっくりとします。でも、その前にゆっくり休んでください」
・・・戦いは終わったのだ。
戦士たちは全力を持ってその脅威に立ち向かい、そして脅威は排除された。
ゆえに一時の安らぎを得る程度のことは許されるだろう。少なくとも、それぐらい許せる度量は確かに残っていたのだろう。
「説教が終わったら一夏を病院に搬送するぞ。見舞いは始末書を書き終えてからにしてもらう」
福音を抱え直しながら、千冬は僅かに口元をゆるめると、五人に向き直った。
「これで状況は終了だ。・・・ご苦労だったな、五人とも」
そして、戦いは終了した。
「いや、ここからが本番だよ」
そして、全く別の戦いが勃発する。
そして終了。
この作品において、福音は前座にすぎません。
さあ、派手に行きますよ?