インフィニットストラトスD×D   作:グレン×グレン

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男子生徒のルーキーデビル
第一話 あのねえ一夏君


「・・・さて、それで一夏君。君はつかみを思いっきり失敗したようだね」

 

 ISを教える国際組織、IS学園。

 

 その屋上で、赤い髪の女性が、織斑一夏に呆れた視線を向けていた。

 

 一夏はその視線から逃れようとするが、しかし無理だと気付いてあきらめることにする。

 

 あの時、人生が変わったその瞬間から、彼女にはかなわないというか叶ってはいけないのだから。

 

「・・・ごめん、レヴィア。思いっきり漫才をやらかした」

 

 レヴィア・聖羅。IS学園新入生の一人。今年の所属クラスは4組である。

 

 彼女と一夏の付き合いはもう三年近くになるが、よりにも寄ってこんな場所で離すことになるとは、一夏も彼女も思ってもいなかった。

 

 それは当然。このIS学園の入学基準はISに乗れることなのだから。

 

 IS唯一の欠点は女性にしか乗れないこと。ゆえにIS学園は正真正銘の女子校であり、男子生徒などという言葉は存在しない。

 

 それなのになぜ一夏が入ったのかといえば、つまりはこういうことだ。

 

 ・・・世界初の、IS男性操縦者。

 

「いくらひらがなでの読みが一文字違いとはいえ、藍越学園とIS学園の試験会場を間違えるかい? 漢字二文字と英語二文字だよ?」

 

「それはもうさんざん言われたから勘弁してくれよ!!」

 

 思いっきり彼女を巻き込んだ身としては本来文句も言えないが、さすがにいまさらすぎることを言われてはいい加減反論の一つもしたくなる。

 

 まあ、本来一夏が彼女に口答えするなど、あってはならないことなのだが。

 

 しかし、その事実を前にしても彼女はそのことでは怒らなかった。

 

「あのねえ一夏君。君は別にこの学園で活躍する必要はない。だけど、どう考えても注目を浴び過ぎるほど浴びるであろう状況下で情けないことはしないでくれたまえ。正直僕が恥ずかしい」

 

 本当に恥ずかしがっているのだろう。口調は冷静だが頬には赤みが差している。

 

 その姿は十人中十人が通り過ぎたら振り返るような美貌だったが、一夏は顔を赤らめたりはしない。

 

 彼女はとても立派な人物で親愛の情も持っているが、問題を起こすときはとても問題を引き起こすし、何より周囲を無理やり引っ張っていく素質もある。

 

 これからも長く長く付き合っていくであろう彼女の美貌にいちいちドギマギしてはいられない。

 

 それに・・・。

 

「なあレヴィア。・・・いい加減反応してやろうぜ?」

 

「まあそうだね。・・・出てきてもいいですよ、そちらの方?」

 

 ・・・見知らぬ他人に監視されている状況下で、ラブコメをする趣味もない。

 

「・・・あら、気付いていたの?」

 

 現れるのは青い髪を持った不思議な雰囲気を持つ生徒だった。

 

「・・・誰かと思えば、生徒会長の更識楯無先輩ですか」

 

 特に驚きもせず、レヴィアはにこやかにあいさつをする。

 

 ・・・一夏はそんな中で呼吸をするのに全神経を注ぎたくなった。

 

(・・・プレッシャーが半端ねえ!?)

 

 まるで一秒後に撃ち合うかとでもいうべき緊張感。西部劇の決闘を思わせるような、無言の争いがここにあった。

 

 入学前に聞かされていたが、IS学園の生徒会長は生徒で最も強くなければならないとされている。

 

 しかも、楯無の家系は日本における暗部だ。それも対暗部用というとんでもない組織なのである。

 

 そしてもちろん・・・。

 

「始めまして、レヴィア・聖羅・・・もとい、旧魔王レヴィアタンの末裔、セーラ・レヴィアタンさん」

 

 ・・・悪魔の業界についても知っているということまで把握している。

 

 開いたセンスに書かれた「悪・魔」の文字には突っ込まない。ツッコミたくない。

 

「やはり楯無の名を持つものは伊達ではありませんね。まあ、隠すつもりもありませんでしたが」

 

「ふふふ。どうせあなたもそれぐらいは調べてきてるでしょうしね。別に何の問題もないでしょう?」

 

 表面上はすっごくにこやかだが、内面はものすごい争いが行われているんだろうなぁ。

 

 現実逃避しながら、一夏はとりあえずレヴィアの後ろに隠れることにした。

 

 男の矜持は確かに泣くが、この場に置いて会話に口を挟むわけにはいか無いのだ。

 

「・・・織斑君とはとっても親しいみたいだけど、なぜ、あなたは入学したのかしら?」

 

「大したことではありませんよ。悪魔として当然の行動をしたまでです」

 

 楯無の追及にもレヴィアは動じない。

 

 嘘ではないが真実を言っているわけでもなく、しかし介入は許さなかった。

 

「一夏君とは親しい間柄でしてね。・・・三年間サポートしてくれと言われたんですよ」

 

「そ、そうなんです!! ほ、ほら、千冬姉は教師ですから、あまり頼るわけにはいかないでしょう!!」

 

 付き合いの長さによる以心伝心で相槌を打てと言ったので、慌てて補足するように一夏は続けた。

 

 これも、嘘ではないが真実でもない。

 

「・・・そういうことね。ま、悪魔が入学してはだめなんてルールは表も裏も作ってはいなかったし、仕方ないか」

 

 楯無も現時点では追及する気はないのか、扇子を閉じるとそのまま踵を返す。

 

「・・・・・・まあ、頑張ってね二人とも。IS学園は二人を歓迎するわ」

 

 言外に含みを持たせつつ、楯無は屋上から去っていく。

 

 数分後、一夏はためいきをつくと頭を下げた。

 

「ゴメンレヴィア。俺が馬鹿やったせいで迷惑かける」

 

 思えば数年間はずっとこんな感じだ。

 

 時々振り回されるところはあったが、基本的に彼女はあらゆる面で一夏を支え続けてくれていた。

 

 本来自分が彼女を支え続けていかなければならないというのに、本当に情けない限りである。

 

「構わないよ。君はまだまだこれからなんだ。先達として手助けするのは当然さ」

 

 そんな心中を察してか、レヴィアは不敵に微笑むと一夏を抱き寄せる。

 

「僕は君を評価している。そして、君はそれに答えてくれると確信しているんだ。これぐらいの投資はするさ」

 

 投資。まるで物に向けるような言い方だが、一夏は腹を立てることはない。

 

 一夏は知っている。彼女の、時折自分を所有物にするような物言いは、自分の立場を知っているからこその愛情表現なんだと。

 

 そして、だからこそ一夏は申し訳なく思う。

 

「とはいえ気をつけてくれよ。世界初の男性IS操縦者は間違いなく歴史に残る存在だ。それが・・・」

 

 ・・・自分は未だに、何の恩も返せていない。

 

「・・・現魔王に下った旧魔王血族の眷属悪魔だなんて、本来なら神が直接殺しに来るかもしれない一大事なんだから」

 

 ・・・文字通り、失われたはずの命を拾い上げてくれた恩を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっとくいきませんわ!!」

 

 教室中に響く声で、苛立ちを隠そうともしない怒声が響いた。

 

 まるで純金を思わせるような金の髪を縦ロールにした、どこから見ても貴族の令嬢といった雰囲気を思わせる女子生徒が、その髪を振り乱していた。

 

 イギリス代表候補生、セシリア・オルコット。

 

 その不満だらけの意見に対して、一夏は内心でエールを張り上げていた。

 

 理由は簡単。クラス代表にされそうになっているからである。

 

 クラス代表とは、読んで字のとおりクラスの代表である。生徒会の会議や委員会の出席が主な仕事であり、いわば委員長とでもいうべきだろうか。

 

 ただしここはIS学園。そんな学園のクラスの顔ともなれば、それなりに大きなイベントにも出席しなければいけないかもしれない。

 

 前述のとおり、一夏は人間ではなく悪魔である。

 

 厳密にいえば、人間から悪魔になった存在である。

 

 話を変えることを覚悟で説明すれば、この変化はある意味でとても重要である。

 

 聖書の教えに存在する、天使、悪魔、堕天使。

 

 彼らは長きにわたって争いを続け、悪魔の長である四大魔王の死によって、一時的にその戦争は休戦状態へとなった。

 

 だが、その戦争の爪痕は深い。悪魔は大きく数を減らし、滅亡寸前にまで追い込まれた。

 

 その自体を打破するために生み出された者、それが転生悪魔。

 

 新たなる魔王の一人が生み出した悪魔の駒というシステムを使うことで、あらゆる存在を悪魔へと生まれ変わらせることができるという優れものである。

 

 一夏はこれによって、人であることをやめ悪魔へとなった。いな、ならざるを得なかったといった方が正しい。

 

 そして、それは今の自分の立場と重ね合わせると非常に危険なことである。

 

 悪魔は人間社会と深くかかわっており、政府とのパイプも存在するが、同時に天使の側も同じようにパイプが存在する。そして、戦争は休戦したのであって終戦したのではない。

 

 ありていにいえば、あまりに露骨な干渉を行えば戦争再開が起こり得るのだ。

 

 転生悪魔によって数が増やせるとはいえ、旧い貴族的思考を持つものが多い悪魔社会に置いて、その駒を使うことができるのは上級悪魔に到達した者のみ。そしてその数は少ない。挙句の果てに悪魔の出生率は人間より少ないのだ。

 

 ゆえに悪魔は未だに打撃から回復しておらず、今の状況で戦争を起こすのは悪手以外のなにも出もない。

 

 ゆえに、会社の社長などをする場合は、表の人間の力を借りてあくまで人間の起こしていることとして処理をしなければ、世界最大宗教の力が襲いかかってくる。

 

 そんなところにISという人間社会の頂点ともいえるそんざいの歴史を変えてしまったのだ。

 

 女性しか使えないはずのISを使うことができる男子など、どう考えても歴史に残る。

 

 それが悪魔であるなどと知れれば、下手をしなくても天使にとって挑発以外の何物でもない。実際、はたからは事情を知っている親友程度の認識しかされていないのにもかかわらず、何度か神の教えに従う教会の悪魔祓いが殺しにやってきた。

 

 悪魔側もこのイレギュラーをいっそ自分達で殺して無かったことにしようという動きもあった。それこそ悪魔で少数派だが、本来なら、事故に巻き込まれて死亡したことにして、人間としての一夏を抹殺しようという意見が主流派なのだ。

 

 それを防いだのはひとえにレヴィアの影響力の高さによる。

 

 戦争継続は困難だと判断した現政権側に対し、旧魔王の血族は徹底抗戦を主張した。

 

 ただでさえ弱体化した悪魔の数をさらに減らす内乱の末、先代魔王の血族とそちら側についたものは辺境へと追いやられ、魔王の名は称号と化して当時最強の四人に受け継がれた。

 

 そう、称号として受け継がせねばならないほど、四大魔王の名は重いものなのである。

 

 戦争継続という困難を除けば、かつての魔王の血族に仕えたいと思う者は大勢いる。それは間違いなく現政権にとって目の上のたんこぶになり障害となる。

 

 それを唯一変えるのがレヴィア―セーラ・レヴィアタンなのだ。

 

 かつての魔王の血を継ぎながら、徹底抗戦ではなく平和路線へと賛同、実家を出奔して現政権へと転がり込んだ彼女は、かつての魔王に仕えたい者たちにとって象徴となった。

 

 それゆえにその影響力と存在による恩恵は悪魔の業界でも絶大であり、しかし彼女はそれをひけらかすことなく、むしろ率先してその恩恵を下々のものへと与え、そして度の超えたわがままなどは決して行わなかった。

 

 そんな彼女が、一夏のために無理を通したからこそ、今の自分はこうして人の社会で生きていくことができる。

 

 だからこそ、ISを動かしてしまったという事実以上の影響を人類社会に与え、レヴィアにこれ以上のわがままを通させるようなまねはしたくなかった。

 

 ところが、

 

「では、クラス代表を決めたいと思う。自薦他薦は問わんぞ、候補はいるか?」

 

 そんなことを、我がクラスの担任であり、そして世界最初のIS操縦者であり、世界最強の称号を持っているISの使い手であり、そして一夏の姉である千冬が言ってしまった。

 

 それに関しては問題なかったが、クラスメイトは年頃の女の子である。

 

 その手の類が、ものすごい注目を集めているであろう自分と同じクラスにいて、そんなカッコイイ称号を選ぼうとしたらどうなるか。

 

「はい! 絶対に織斑くんがいいです!!」

 

「私も同感!!」

 

「私も~」

 

 ・・・こうなる。

 

 不味かった。

 

 とても不味かった。

 

 品行方正とは言わないが、あれで悪魔社会に対して大きな我がままを言わないレヴィアに意に沿わぬわがままを言わせてしまうかもしれない。

 

 それどころか、下手すれば政治的な取引でとりあえず停止した教会からの刺客がまたやってくるかもしれない。それどころか今度は天使とか聖剣使いとかがやってくるかもしれない。

 

 上級クラスの実力者は、少なくとも火力と耐久力に置いてISを凌駕するどころか、下手をすればクリーンな核兵器と言ってもいいレベルの破壊力を持っているのだ。レヴィアも相応の実力者であるし、彼女は一夏を守るために行動する可能性が非常に高い。

 

 ・・・IS学園が地図から消える!?

 

 あまりにも重すぎる責任に、一夏はいっそ気絶してしまいたくなった。

 

「ち、千冬姉!! 辞退させてくれ!!」

 

「織斑先生だ。選出された以上、お前に拒否権は無い、選ばれるということはそういうことだ」

 

 公私はしっかりと区別する姉は冷たかった。

 

 ここにきて、一夏は姉に真実を告げていなかったことを後悔する。

 

 実の弟が自分を邪魔するために誘拐されたあげく、そのトラブルが原因で人間でなくなったなど、言えるわけがない。

 

 それぐらいは分かっていたから内緒にしていたが、それがここにきて仇になった。

 

 このままでは、世界大戦クラスの戦乱が起きてしまうかもしれない。それもクラス委員長を決めるノリでだ。

 

 転んだ拍子に核ミサイルの発射スイッチを押してしまったクラスの非常事態だ。

 

 ゆえに、イギリス代表候補生というネームバリューを持つセシリア・オルコットの反論は一筋の光明だった。

 

「わたくしはこのクラス唯一の国家代表候補生。ただの物珍しい男なんかよりも、よっぽどクラス代表にふさわしいですわ!!」

 

 とても正論である。

 

 たかがクラス委員長のノリとはいえ、この学園は存在そのものが人類社会の代表を育成する学園である。クラス委員長レベルでも相応の重さがあるだろう。

 

 政治的な場所や理由がない限り、友達として接させてくれている主の教えもあり、このまま彼女に任せたいと一夏は思った。

 

 だがしかし、ここにきて二つの致命的な事態が発生する。

 

 一つは一夏自身の性格である。

 

 この一夏。一言でいえば正義感が強いのだが、いささかやりすぎるきらいがある。

 

 クラスメイトをいじめる輩を懲らしめるのはいいのだが、ボコボコにしすぎて親が出て、保護者変わりである千冬が頭を下げるというのもよくあることだった。レヴィアが面倒を見るようになってからは上手いタイミングで止めたり、場合によってはやりすぎを理由にさらに派手にボコボコにすることでとりなしてきたのだが、性分な物でなかなか治らない。

 

 さらに第二の理由として、セシリア・オルコットはプライドが高かった。

 

 幼少期のころから努力して実力を磨き、今や故人の母親は男尊女卑のころから女の身で大成してきた傑物。さらに幼少期に両親を無くしたことから苦労も重ね、それらを乗り越えてきた自負がある。

 

 しかしこの時代の女性としてはありがちなことに男を下に見る傾向があり、父親が母に比べて情けない一面があったこともありそれが加速している。

 

 しかも愛国心が強いと来たことが重なり・・・。

 

「そもそもたかが男と同じクラスというだけでも不満ですのに、わざわざ文化的にも後進の国に来ているという屈辱を重ねたうえでこの扱い! いくらなんでも無礼が過ぎるというもの・・・」

 

「おいちょっと待て。そっちだってメシマズ国ランキング殿堂入りじゃねえか」

 

 ・・・点火した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園一年四組に、この話が届いたのは少し後。

 

「皆大変! 一組で例の男子とイギリス代表候補生が、クラス代表をかけて決闘するんだって!!」

 

「ブフォ!?」

 

 レヴィアは椅子から転げ落ちた。

 

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