インフィニットストラトスD×D   作:グレン×グレン

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第九話 レヴィアさんの戦車として

 

 

 その衝撃は非常に強大だった。

 

 対応のためにはなった障壁はいくつも重ね合わせた多重結界。

 

 それらすべてを粉砕し、とっさに張った迎撃の減衰障壁ですら相殺しきれず攻撃が入る。

 

 その威力は確かに少ない。少なくとも、何発喰らったとしても致命傷になるには程遠いだろう。

 

 だが通った。今まで障壁を抜けることも、直撃でダメージを与えることもできなかったジーコンの攻撃が、確かに通ったのだ。

 

 その事実にレヴィアは戦慄する。

 

「やってくれるね!!」

 

 反撃として今まで以上に密度も数も濃くした砲撃を叩きこむが、ジーコンはそれを防ぎきった。

 

 完全に戦況が逆転している。

 

 今までは、ジーコンの攻撃はほぼ通じず、しかしこちらの攻撃はダメージとして十分なものだった。

 

 だが、今は違う。こちらの攻撃はろくにダメージが通っておらず、逆に向こうの攻撃がこちらに通じている。

 

 アストルフォを呼ぼうか考え、しかしそれを否定する。

 

 今の状況下でアストルフォを呼べば、旅館はがら空きになりかねない。

 

 研究のデータとジーコンは言っていた。それつまり、データ取りを行う部隊が別に存在する可能性があるということである。

 

 万が一そいつらが動いて旅館に被害が生まれるのは避けたい。教会の悪魔祓いも動いているようだが、無条件で頼るのは危険だ。

 

 などと考えている間にも、ジーコンはその腕をふるって攻撃してくる。

 

 幸い障壁を張れば防げる程度の物でしかないが、しかしあの砲撃は危険すぎる。

 

「・・・聖羅!!」

 

 状況の変化を悟ったのか、千冬の叫びが聞こえてくる。

 

「結界の後方を解除します! 先に避難してアストルフォと合流してください!!」

 

 この状況下でそれをやって流れ弾が来る可能性は十分にあったが、今はそんな状況でもない。

 

 今までは障壁を張っていれば完全に防げると確信していたから張っていた。

 

 だが、今の攻撃は下手をすれば障壁を貫通しかねないから逆に危険だ。それなら逃げれるようにした方がまだ安全である。

 

 しかし、そのために振り返ったのが不味かった。

 

 視線を戻せば既に振るわれた腕が眼前に来た。

 

 回避は不可能。障壁を展開する暇もない。

 

 ゆえに我慢することを選択し―

 

「・・・どういう状況だ、これは」

 

 眼前で腕が停止した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 停止した理由は簡単だ。

 

 腕には細い銀線のようなものがからみついており、それが進行を食い止めていた。

 

 そして、その銀線の先には目を疑うようなものがあった。

 

「・・・男?」

 

 ISらしきものを纏った初老の男。

 

 それだけで前代未聞の文字がいくつも浮かぶが、さらにその隣から見知った影が、見知らぬ姿で現れる。

 

「一般生徒にこんな大変なことを任せるだなんて、生徒会長としてすっごく遺憾だわ」

 

 水を纏ったISを纏った淑女。

 

 IS学園生徒会長、更識楯無がそこにあった。

 

 しかし、その両腕はISを除装し、一振りの日本刀が握られている。

 

 そして、それは大量の水を刀身に付与してIS用ブレードのような形状を維持していた。

 

 ついでに言えば、その表情はかなりキレていた。

 

「よくも私の可愛い可愛い可愛い簪ちゃんに手を出そうとしたわね!! 私の可愛い可愛い可愛い簪ちゃんに!!」

 

「ゴメン生徒会長、鈴ちゃんの心配もしてあげて!!」

 

 レヴィアのツッコミをさらりと無視して、楯無はその刃をジーコンに叩きつける。

 

 ジーコンは腕の一つを盾にするも、その固い外殻に鋭い切り込みが入る。

 

 その姿を見て、初老の男がその刀を観察した。

 

「・・・触れた水に応じて力を強化するも、しかし水をとどめておく力がないため欠陥品扱いされたという最新の霊刀『清水』か。魔法などで制御すると反発するので本当に扱いが悪いらしいが、まさかISの第三世代武装で補うとは思わなかった」

 

「今までにない発想でしょう? 真似しちゃダメよ?」

 

 そういいながら、楯無はジーコンを牽制しつつレヴィアの側へと回り込んだ。

 

 楯無にかばわれる形になりながら、レヴィアはジーコンを警戒しつつも初老の男に鋭い視線を向ける。

 

「これはこれは。教会合同技術研究室室長殿が、まさかこんな所に来るとは思わなかったよ。一応礼を言っておこうか」

 

「会談を了承してくれればそれでいい。そもそも、これ以上の介入は上から何かを言われるだろうから防衛に徹したいしな」

 

 ため息交じりにそう返答し、男は後ろを振り返る。

 

 男が使用したISなどという尋常でないものによってもはや限界以上に驚愕していた者たちだったが、その中でもひときわ驚いているのがいた。

 

 もはや意識すら失いそうなレベルで驚愕しながら、麻耶が震える唇を何とか動かす。

 

「なんでいるんですか・・・叔父・・・さん?」

 

「「「「叔父さん!?」」」」

 

 千冬すら含めて驚愕の事実に大声が出て、それを聞いたヒルデが同情するように首を振る。

 

「まあ知らないに決まってるなデス。教会合同技術研究室は極秘機関だから、表の人間はほとんど知らないからデス」

 

「正直山田先生の存在を知ったとき、教会からのスパイの可能性を本気でうたがったけれど、まさかマジで無関係だったとは思わなかった。世界は狭いね」

 

 同意するようにうなづいたレヴィアが、しかしジーコンを睨みつける。

 

 そして、ものすごい嫌そうな表情を浮かべた。

 

 空気を呼んだかのように沈黙していたジーコンは、既に外殻の傷を癒し、新たな手段を構築していた。

 

 悪魔の翼を人型の山羊の形をしたオーラとでも形容すればいいのだろうか。

 

 そのような人型が無数に表れ、そして翼を広げて飛ぼうとする。

 

 その方向を理解し、レヴィアは舌打ちをした。

 

「明らかな暴走状態でも目的は覚えているのか。狙いは旅館か!!」

 

 ISを狙うために行動し、そのために学園生徒が集まっている旅館を狙っていた。

 

 その意識が残存しているためか、ジーコンによって作られた分身たちは旅館へと進軍を開始しようとしていた。

 

 その無数の山羊の群れに、魔力砲撃、水の刃、そして銀線が食らいつく。

 

 穿ち、切り裂き、貫いてなお、相当の数が潜り抜ける。

 

 アレが旅館に到達すれば、相応の被害が発生する。

 

 レヴィアはそうはが見して、しかし笑みを思わせる音が響いた。

 

「一応準備は完了ずみデス。さ、思う存分鬱憤を晴らすデス」

 

 その瞬間に、砲撃が、弾幕が、光線が放たれ、残る山羊を打ち貫く。

 

 最後の一匹を両断し、その刃の持ち主が感嘆した。

 

「こうもたやすく倒せるとはな。悪魔というものはここまで付け入る隙が大きいのか」

 

 そう漏らす千冬の視線の先、そのブレードには薄く輝く文字がえがかれていた。

 

 その視界に映るのは日本語で、しかも単純な言葉。

 

「・・・聖別。この力を加えられれば、そのへんのブレードだって聖剣に早変わりです」

 

 得意げな笑顔を浮かべるヒルデの姿に、ろくに自我も消え去っているであろうジーコンが身じろぎする。

 

「ルーン魔術を母体に自分が考えた、文字媒介型魔術の味はすごいだろデス」

 

 微笑を浮かべて胸を張るヒルデのいうとおり、戦況は一機に持ち直していた。

 

 ISがジーコンクラスを相手に圧倒的不利なのは、その攻撃力がダメージをろくに与えられないからである。水鉄砲で核シェルターを破ることなど不可能といってもいい。

 

 だが、彼女の魔術はその水の中身をシェルターの装甲を溶かす薬物へと変換する。

 

 そうなれば水鉄砲すらは脅威へと変わり、その機動力もあって十二分に通用する。

 

 加えて言えば、この山羊の戦闘能力は暴走前のジーコンに大きく劣る。それゆえに、ISでの打倒が十分可能な領域へと変化していた。

 

「お姉さま! 有象無象はこちらに任せてくれ!」

 

「いってレヴィア! 私達も頑張るから!」

 

 ラウラと簪の激励を受け、レヴィアはジーコンに向き直る。

 

 ジーコンもまた、状況ゆえに敵をせん滅しようとレヴィアに向かい合っていた。

 

「・・・さて、頑張るしかないけどどうしたものかね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ん」

 

 体に違和感を覚えて、一夏の意識は浮上した。

 

 何かが体の中に入って、力に変換されるような感覚を感じる。

 

 これはなんだろう。自分にいったい何が起こっているのだろう。

 

 確か福音という暴走したISを止めるように言われていたはずだ。

 

 そして戦うことになって、攻撃をかわそうとしたら後ろに船があるのに気がついて―

 

「箒とヒルデは!?」

 

 覚めた。

 

 慌てて飛び起きて、そしてふと気付く。

 

 自分の体に両手をあてて、そして今驚いて目を開けた少女がいる。

 

「ら、蘭? どうしてこんなところにいるんだよ?」

 

 自分と同じレヴィアの下僕悪魔である蘭の姿がそこにはあった。

 

 おかしい。

 

 部屋の風景から見て、ここはまだ臨海学校の旅館のはずだ。

 

 ここは関係者以外立ち入り禁止だから、表向きは民間人のはずの蘭がここに来るなど普通に考えてあり得ない。

 

 そこまで考えて、傷口に思いっきり爪を突きたてられた。

 

「いってぇええええええええ!?」

 

「こんなところにじゃないです! 一夏さんのバカ!!」

 

 目に涙を浮かべて怒られるが、それ以上に激痛が酷い。

 

「レヴィアさんから一夏さんが大怪我したって聞いて、心臓が止まりそうだったんですからね!! だから戦車らしく防御面も鍛えようって言ったんですよ! 一夏さんの一芸特化バカ!! バカバカバカ!!!」

 

「ご、ゴメン! ホントに悪かったから、防御、もちゃんと、する、か、ら!! だから爪を突きたてないでくれ! 刺さる!?」

 

 思わず悲鳴を上げてのけぞるが、それでも蘭ははなれてくれない。

 

 そのまま涙をぽろぽろこぼすと、胸に頭突きをする勢いで顔を押し付け、そのまま震えだした。

 

 そこまでされて、一夏は思わずこぶしを握り締める。

 

 守る側になりたくて力をつけた。そのための道が見えたからひた走った。自分を守る者が傷つくのを見て、だからもっと集中した。

 

 それで大事なものを泣かしてどうする。

 

 大事なものを守るなら、体だけでなく心も守らなくてはならないだろう。

 

 今の自分は驚異を叩き伏せることしかできない未熟者だ。本当に道はまだ遠い。

 

「ゴメンな、蘭」

 

 そっと肩を抱いて、一夏は改めて決意する。

 

 こんなのはごめんだ。何があっても守りとおせる力を手に入れると。

 

 さすがに脅威を払うことに意識を向けすぎた。

 

 一度脅威に耐える力も身につけよう。そのためには先達の極みであるレヴィアに師事を受けるべきだろう。

 

 そこまで考えて、ふと気付いた。

 

 ・・・外がなんだか騒がしい。

 

「・・・なあ蘭。今はどんな状況なんだ?」

 

 その言葉に答えたのは、蘭ではなく後ろからの言葉だった。

 

「・・・いささか厄介」

 

「アストルフォ? アストルフォまで来てたのか?」

 

 黒髪の長身の男の姿に、一夏は目を見張る。

 

 てっきり治療のために蘭を連れてきただけなのかと思ったが、まさかアストルフォまで来ていたとは。

 

 だが、そんな思考もアストルフォが差し出した紙を見て止まる。

 

 そこには現状を表にまとめられており、今の状況が簡単に分かった。

 

 自分が倒れたことで鈴達が暴走したこともそうだが、さらに旧魔王派まで動いているとは思わなかった。

 

 しかも教会側から悪魔祓いが来て会談の要請が行われているなど、今までの悪魔生活でも体験したことがないような事態の推移である。

 

 さらに、旧魔王派の狙いがこちらにもあるうえに教会の意向が読めない以上、うかつに動くわけにもいかない。

 

 この状況下で最も残るべきなのは、実力が安定して経験も豊富なアストルフォだろう。自分達では攻撃力が高すぎる上に加減がきかず、旅館を巻き込むからもめごとが起きたら足を引っ張ってしまう。

 

 さらにレヴィアが敵リーダーと交戦中だと聞く。このまま黙って任せるわけにはいかない。

 

 ―傷だらけになって血を流しながらも、こちらを安心させるために笑顔を無理に浮かべるレヴィア。

 

 嫌な姿を思い出して、一夏の全身に力が入る。

 

 かつて自分達を救い出して、しかしそれを心の底から後悔しているレヴィア。

 

 その眷属の一人として、黙っていることなどできない。

 

 それをわかっているのか、アストルフォは頷きを返すと、改めて一夏を見た。

 

「・・・いけるか?」

 

「・・・蘭、マジでゴメン」

 

 返答は、蘭に対する謝罪で返す。

 

 自分の未熟を痛感し、蘭を泣かした直後にもかかわらず、しかし一夏はこのまま黙っているわけにはいかない。

 

 あの主は防御力は規格外すぎるがそれ以外がちょっと見劣りする。

 

「・・・どうせ言っても聞きませんよね。一夏さんってそういう人ですから」

 

 ため息まじりの声が聞こえて、一夏は胸が痛くなった。

 

 全く本当に自分は未熟だ。これだけ人を心配させたというのに、さらに心配をかけさせるのだから。

 

 だが、それでも逃げるわけにはいかなかった。

 

 今友人達や姉が戦闘に巻き込まれているのは、元をただせば自分の未熟のせいだ。

 

 ここで助けなければ自分が自分でなくなってしまう。

 

 ・・・だが、同時に自分は未熟だ。

 

 いまだ誰かを守るには自分では手が足りず、しかしそんなことを言っている場合でもない。

 

 だから、頭を下げるしかないのだ。

 

「手伝ってくれるか、蘭?」

 

 自分の情けなさに腹を立たせながら、眼下の少女にそう訪ねる。

 

 年下の少女にこんなことを頼むなどもはや言語道断だが、しかし返答は決まっていた。

 

「・・・このまま一夏さんを放っておくわけがないじゃないですか。それに―」

 

 彼女も同じ苦しみを持っている同士であり―

 

「―レヴィアさんの戦車として、片方だけに任せるなんてできません」

 

 同じ戦場に立つ同胞でもあるのだから。

 

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