「蘭ちゃん! こうなったらアレを使う」
援護に回るために移動しようとして、蘭はレヴィアの指示を聞いた。
聞いて、そして度肝を抜かれた。
「え、いいんですか!? あれは魔王さまから許可もらわないと使わないって言ったじゃないですか!!」
レヴィアがいうアレというのは、この状況下ではよくわかる。
確かにあれなら戦局をひっくり返すどころか一気に終了させることも可能だろう。
だが、あれはその威力と原理不明の現象から使用を控えていたはずだ。
そしてレヴィアは、相応のわがままと通すときは必ずしかるべきところに相談する。
この場合なら、その使用許可をだす権限をレヴィア自らなげた魔王の許可が必要だ。
あのレヴィアがそんな判断をとるとは思わず、信じられない者を見るようになってしまった蘭を責めるのも酷だろう。
「・・・仕方がないだろう。このまま僕のわがままで旅館にいる皆を危険にさらすわけにはいかない」
軽くため息をつきながら、レヴィアはそう断言する。
「それもそうですね。・・・でも、それだと私もレヴィアさんも動けませんよ?」
蘭の懸念はその一言だ。
ジーコンの戦闘能力は間違いなく脅威で、ゆえにうかつに戦力を減らすわけにはいかない。
どうすればいいかと考えたが、しかし力強い声がそれを砕く。
「良いからやれ、二人とも!!」
「それぐらい時間稼いでやるわよ。ぶっ放しなさい!!」
その言葉を聞いて、そして決意する。
自分の大事な友達は先ほどまで倒れていた。
だが、そこから立ち直って、今度は負けないと気合を入れている。
ならその意地に応えよう。
「やりましょう、レヴィアさん!」
「ああ、やろうか」
そう頷きあい、レヴィアは己の左腕を軽く切った。
切り口から血が流れ、そしてそれは魔力を流され発光する。
「数分間持ちこたえてくれ! それですべてを終わらせる!!」
「「了解!!」」
同時に腕を弾き飛ばしながら、鈴は一夏に続いて戦闘を開始した。
相手は一度自分を瞬殺した相手が、暴走状態に陥った物。
どういう理屈かわからないが、戦闘能力は桁違いに上昇している。
まあ、以前聞いた覇龍とかいう特殊能力の応用だろう。
莫大な生命力の消費と引き換えに、戦闘能力を桁違いに上昇させる竜封印型神器の究極にして最後の切り札。
悪魔は一万年ぐらいの長い寿命を持っているのだから、それだけの生命力を一機に燃焼させれば相応の戦闘能力は得られるはずだ。
旧魔王派は数が少なく不利になっているというし、そういったドーピングの研究も盛んにおこなわれているのだろう。ご苦労なことである。
それだけの攻撃を相手にしながら、しかし鈴と一夏は食い下がっていた。
一夏が食い下がる理由は単純な武器の性能である。
量産型魔剣、カレドヴルッフ。
強大な伝説級の魔剣と同等の性能を持つ武装を量産しようと、長い間研究がされた物を、レヴィアが出資している武装の一つ。
その研究の結果、最大出力を発揮すれば相応の性能を発揮することに成功した。
だが、その分性能を引き出している間は急速に劣化するという欠点を持ち、さらに使いこなすためにはそのために特化した体質になる必要があるという難度の高い武装にもなった。
己の才能が自然に高まるのを待つ傾向が強く、部下も含めて鍛え上げるという発想が少ない傾向にある上級悪魔界ではあまり好まれる武装ではない。
だが、その分鍛え上げれば効果は絶大だ。
故に一夏はそれを選んだ。レヴィアの眷属という立場と、そのための調整を受けるという覚悟を決め、カレドヴルッフを使うというより、カレドヴルッフに使われる悪魔になることを選んだ。
無論、カレドヴルッフを活かすために剣の修行もさらに高めた。その結果、わずか数年で下級悪魔としては過剰なまでの攻撃力を得ることができるようになったのだ。
今、その力は最大限に発揮されてジーコンの攻撃を連続して弾き飛ばしている。
無論、それだけの攻撃にカレドヴルッフは砕け散るが、すぐさま異空間から引き出して即座に態勢を立て直す。
刀剣が砕けたらすぐ変えることを前提とした意識。多数確保するための異空間の確保。そして同調するための肉体と魔力の調整。
それらすべての組み合わせにさらにISの機動性能が組み合わさったことで全ての攻撃を迎撃する。
そして自分も負けてはいない。
振り下ろされる巨大な腕を、自分達の拳で迎撃する。
全ての打撃は強化魔術を最大限に利用して、一機に放たれていく。
今までなら肉体が耐えきれず断裂し、僅か数回で動かすことも困難になっていただろう。そもそも打撃に腕が耐えきれず、骨が折れていただろう。そして駆動に耐えきれずISが壊れてしまうだろう。
今は違う。
ISの保護機能がそれに特化し、肉体を無理なく使用できる。
ISの装甲が自分の魔術の効果を受けて強靭になり、そして外骨格となり腕の骨を保護する。
そして可動部分の強度そのものがまし、さらに空間そのものが固定化されるようになって衝撃を受け止める。
これが王龍の力、衝撃機構。
衝撃砲の機能を取り込み、全身の機構として組み合わさったこれは、空間干渉により支えとなって機能する。
稼働部位を守るように柱となって衝撃を受け止め、殴るときは足場となることで踏み込みの恩恵を与えてくれる。
単純だが大事なこの機能により、鈴の動きに完璧についてくるどころか、正しい意味で拡張させてくれる。
形状の変化も嬉しい。これによって自分の体に近くなり、打撃の入れやすさが一味違う。
自分もこれにおんぶされ続けるわけにはいかない。これはISの側からの歩み寄りなのだ。自分の歩み寄ってISをつけた状態での格闘打撃になれねばならない。
だが、今はただ感謝しよう。
「これでコイツを殴り飛ばせる!!」
「・・・と、いうことだろうデス」
ジーコンが戦闘に集中して異形を生みだせなくなったことで、ヒルデがそう解説する暇が生まれていた。
「な、なんて言う無茶苦茶な機体ですの」
皆の感想をセシリアがまとめてくれた。
人間に無限の可能性を与えてくれるのがISと行ってもいいが、まさか人間の無限の可能性に合わせて進化するとは思っていなかった。
二次移行が使用者のための進化とはいえこれはやりすぎだろう。
なにしろこれは、異形の力をフルに使うことを前提とした進化なのだから。
「ちょっと待って。それっておかしくない?」
だから、簪はそれに待ったをかける。
「だって鈴が使ってるのって神器とかと同じジャンルでしょ? ISとはかみ合わないと思うけど」
簪の行っていることは極めて正しい。
ISとは、科学者が開発した科学技術の集大成である。
極めて発達した科学は魔法と見分けがつかないとはよく言うが、見分けがつかないだけで魔法と科学は別物だ。
それが混ざり合う進化など、最初から設計されていなければ不可能だろう。
「ところがそうでもない」
それを肯定したのは四朗だった。
「・・・後で説明するが、ISはそういった異形の力全般との相性が抜群に高い。我々の研究ではこういった進化が起きる可能性は十分にある」
「そうなんですか、伯父さん」
伯父の言葉に麻耶が尋ねるが、四朗は薄く微笑するだけだ。
「まあ、今は彼らに任せようではないか」
既に異形たちはすべて倒され、あとはジーコンを倒すだけになっている。
だが、簪達は手を出さない。
四朗がそれを止めたのだ。
「今の戦闘はISを狙っているとはいえ悪魔の襲撃だ。悪魔を知ったばかりの一般人を不用意に戦闘に参加させるとセーラ・レヴィアタン・・・つまりはレヴィア・聖羅にいらん責任追及が出かねない」
簪の視界の中、レヴィアは蘭の背に寄り添い目を閉じている。
力を操る神器の練習をしているからか、莫大な力が放たれているのが分かった。
それだけの力を使わねばならなことに不安になり、手が出せないことがもどかしかった。
「・・・お姉ちゃん、何とかならないの?」
だから、せめて力を貸す人が増えないかと苦手な姉に相談してしまう。
正直どんな反応が変えるか心配で少し視線を向けるのが遅れたが、向けたらちょっと驚いた。
「簪ちゃんが、簪ちゃんがお姉ちゃんを頼ってくれた!」
「「「「え?」」」」
千冬まで含めてちょっと引くぐらい、なぜか涙を流していた。
「お、お姉ちゃん? え、何か悪いこと言った?」
「全然! 全然そんなことないわ!! むしろもっと頼って! これからもっともっともう全部こっちに投げつける勢いで!!」
ものすごい勢いで抱きしめられて、しかも頬ずりまでされた。
ちょっと昔を思い出して嬉しくなったが、それどころではない。
そんな風に戸惑っている間に、簪を解放した楯無は日本刀片手に意気揚々とジーコンに向き直っていた。
「ちょっと行ってくるわ」
「やめろ。表向きに監視する立場になっている貴様が過剰に手を出すだけで日本異能組織の駆け引きの材料になるぞ!」
その動きを羽交い絞めにして封じながら、四朗はヒルデに顔を向ける。
「そういえば彼に連絡はついたか? 流れ的にそろそろ会談の準備をしておきたいのだが」
「あ、それは大丈夫デス。直通回線は通信可能ってでてるデス」
その言葉に頷きながら、四朗は視線をジーコンの方に向けた。
「あとは彼ら次第ということか。・・・まあ、この後がさらに厄介になるのだろうがな」
その言葉に、全員の視線がそちらを向く。
これから何が起こるのかは分からない。
どうもレヴィアもこの男も相当の立場の人間のようだし、もしかすると世界に影響が出るのかもしれない。
だけどそんなことよりも、レヴィアが無事でいてくれることの方が大事だった。
何かあれば止められてでも割って入ると決意して、簪は今はまだ見守る。
そして、それは来た。
「・・・いける」
静かに、レヴィアはその時が来たのを理解した。
「・・・いけます」
筋かに、蘭はその準備ができたのを感じた。
「二人とも! ジーコンを足止めしてくれ!!」
レヴィアは声を張り上げ、そして一夏と鈴はそれに答えた。
そしてレヴィアと蘭は意識を同調させる。
今から放つのは最大火力の最終兵器。
それを理解しているから、一夏も鈴も全力を出す。
「「我、目覚めるは八の
カレドヴルッフがまた砕け、しかし今度は二本まとめて出して振るわれる。
二本同時による過剰出力に一夏の腕が悲鳴を上げるが、無視して連続して振るう。
「「王の座に食らいつき、天へと迫り、されど神の座に伏せる」」
その一撃を鈴の拳が加速させる。
それらはもはやジーコンの腕を弾き飛ばすどころが吹き飛ばす勢いで放たれ、大きな隙を作る。
無論、そんなことをすれば今まで二人がかりで作っていた隙のなさがなくなり、反撃の余裕も十分に起きる。
その攻撃が掠めてシールドエネルギーをごっそり減らしていくが、しかし二人とも意に介さない。
「「我、今こそ覇の座へと上り詰め・・・」」
カレドヴルッフが一瞬で砕け散り、しかしその爆発的な破壊力がジーコンの外殻を砕く。
その損傷はわずかですぐに修復されるが、それより早く鈴が前に出る。
「喰らいなさい!!」
衝撃機構でしっかりと地に足をつけ、仙術の一撃がその肉体に叩き込まれた。
それは一瞬のすきを作る程度でしかなかったが、それで十分だった。
明確に動きが止まる瞬間に二人は距離をとり、同時に叫んだ。
「「二人とも!!」」
その言葉に頷き、レヴィアと蘭は最後の
「「汝を無の終焉へと送り込もう――!!」」
八つ首がまるで八角形を作るかのように頂点を作り、その中心に莫大な力が集まる。
それは全てを消滅させる破壊の極意にして、覇を現す頂上の咆哮。
「「
その覇は、放たれた。
一瞬でそのオーラで空間を茶色に染め上げながら、巨体となっていたジーコンを包み込む。
そして、その肉体を消滅させていく。
「「行っけぇええええええええ!!」」
二人の願いを聞き届けるようにその力はジーコンの肉体を塵へと化す。
それに抵抗するかのように、ジーコンは前に出た。
その尾が高速で伸び、その破壊を弾き飛ばそうとするかのように二人へと迫り―
「・・・油断大敵」
紅い光に撃ち落とされた。
「アストルフォ!?」
振り返った一夏の視界に、紅く輝く光の弓を構えたアストルフォの姿が小さく映る。
次の瞬間、覇を示す破壊の力が瞬間的に増幅し―
「・・・さようなら、ジーコン」
レヴィアの別れの言葉と共に、ジーコン・アスモデウスは消滅した。
王龍は鈴ちゃんの戦闘能力のフォローに進化の方向性を全振りした機体です。
説明は後述しますが、その進化の方向性ゆえに素手で叩きつけなくても仙術を叩きこむことが可能というハイスペック機
なお、覇龍砲がちょっと洒落にならない破壊力を発揮しておりますが、アレの原理はヴァーリが覇龍を制御できるのと英雄派の開発した業魔人の原理をレヴィアがやっているとお考えください。