まだ未熟すぎたレヴィアの罪の物語
区切るタイミングがなかなかつかめなくて超長くなってしまいました。マジすいません。
近接戦闘用ブレードが一閃し、その少し後に歓声が上がる。
『織斑選手、圧倒的勝利!! 初代ブリュンヒルデの異名を見せつけ、準決勝もストレート勝ちだぁあああああ!!!』
実況のレポーターが興奮しながら声を上げる。
第二回モンド・グロッソ個人戦部門において、観客たちはその姿を目に焼き付けていた。
初代ブリュンヒルデ、織斑千冬。
その姿はその場にいる多くの者を魅了し、ISという最強の兵器をより際立たせていた。
しかし、その光景を素直に楽しめない者もいる。
レヴィアはその一人だった。
「・・・あれがISか、確かに早いけどそれだけだな」
冷静にその性能を見ながら、レヴィアは落胆する。
現代において最強の代名詞とされるIS。それを自分の目でしっかりと見てみたいと思い、わがままを言ってモンド・グロッソを見に来たが、しかし期待外れだった。
確かに織斑千冬は強い。ISでの戦いなら最強の名をほしいままにするだろう。他のISも人間の軍事技術なら非常に高いのだろう。その機動力と運動性能は、確かに自分達の世界の側が相手にしてもてこずるだろう。
だが、自分の世界で見るのならその程度でしかない。
防御力が足りない。自分の堅さと比較するのはイジメだろうが、しかしあの程度の防御力ではこちらの実力者からすれば紙も同じだ。
攻撃力が足りない。核と勝負しろとまでは言わないが、機体のサイズが大きい分これまでの軍事兵器の方が威力だけなら上回るだろう。無論、この程度では自分はもちろん中堅の存在にだって脅威とはならない。
科学の発展は悪魔にも大きな影響を与えたが、戦闘という分野ではこちらの方が圧倒的に上だろう。
上層部が危険視していないのもうなづける。広範囲攻撃をちゃんと習得すれば、ISを倒せる存在など数えきれないほどいる。
それなのに人類の半分しか使うことができないという制約を持ち、挙句の果てに数は数百しか作れないと来ている。数の多さが取り柄の一つである人類の利点をまるでいかせていない。
『レヴィア、どうだ?』
声をかけてくるアストルフォに対し、見ているであろう方向に手を振ることで返す。そのままトイレに行こうと席を立った。
レヴィアの心は乾いていた。
ただ権威だけを求め、権威にふさわしい存在になる努力を一切見せない旧魔王派。
そこから逃れるために同士と共に逃げ出し、そして迎え入れられたが、その心は乾いていた。
同胞たちは、一番若く、重要な立場になるであろう自分を守るために全てが命を散らした。そしてその結果得た今の立場に不満は大きい。
自分はただ象徴として、人々の心を支えるだけでよかった。逃げる時に持ってきた財があれば人並み程度の生活はできる。それが足りないと思った時のために、勉強も修行も人並み以上に行っている自信はあった。
だが、彼らはそれ以上の物を自分に与え続ける。
人が一生暮らしていくには十分どころか、その程度足元にも及ばないほどの財を流し込み、その命を捧げようとしてくる者が多すぎた。
旧魔王という名はそれだけの重さを彼らに与えており、そして現魔王に与している旧魔王へと、その忠誠心はあらゆる形となって捧げられる。
無論ある程度は覚悟していたし、その分力になるよう努力はしている。
与えられる財宝はその半数近くは貯蓄に回すが、半数以上は様々な事業に出資して経済を活発化させる。
様々な技術について研鑽を深め、便利だと思ったものはよく調べて価値を見極め、自ら出資したり信頼できる人物に教えたりする。
家庭教師事業は成功しているだろう。満足に教育を受けられない冥界の下級悪魔にたいし、採算度外視で教師を派遣するこのシステムは感謝の手紙が数えきれないほど送られ、全部読むために速読のスキルを鍛えたほどだ。政治的影響を与えないために小規模にしか展開していないが、ある意味自分という名のブランドを与えられた彼らは冥界の事業に貢献して活性化させるだろう。
人類社会の弱者の立場にも積極的に配布し、それによって感謝状を贈られたことも一度や二度ではない。
だが、それらはすべてレヴィアタンの血筋だからこそできたことでしかない。
自分の判断に相応の自信はあるが、それでも若輩らしくミスも何度も起こしてきた。
出資した事業が調子に乗って大きな背信行為を起こしたこともある。教育を受けた物が増長して犯罪を犯したこともある。そもそも芽が出ずに結局潰れた者だって多い。
だが、それが問題になったことは一度もない。
個人的に現魔王にたしなめられたことはあるが、子供のしたこととかいう次元ではないレベルで冥界政府からは意識されていない。
それは自分がレヴィアタンだからだ。
努力を行うレヴィアを評価するのではなく、レヴィアタンがやることだから評価している物が多すぎる。
分かってはいたし覚悟もしていたが、しかしレヴィアもまた子供だった。
その重圧にゆがまないのは評価に値するだろうが、しかし鬱憤はとても溜まっていた。
これがただの子供ならば、不良になるなり騒ぎを起こすなりして発散することもできたかもしれない。誰かに当たり散らすことで発散することもできたのかもしれない。
だが、レヴィアは聡明だった。
自分がそういうことをすれば発言力が強すぎて迷惑をかけることは理解していたし、誇りが強いためにそういった行動も自粛していた。
そして、自分の立場を深く理解するがために友人も作れない。
それは、子供にとって負担が大きすぎることだった。
この観戦はそのストレスを発散するためのちょっとした遊びだった。
だが、それでも悪魔の実力者たちと比較してしまって楽しめない。
「つまらないな。何もかも」
レヴィアはふと、現レヴィアタンが出演している番組のことを思い出す。
魔法少女という正義の味方として、悪いことをする犯罪者たちをバッタバッタとなぎ倒す。
自分もそういうことをしてみたいが、しかし大人はそう言ったことに関わらせないようにしているからしたくてもできない。
正直、お忍びで来ている今の状況で犯罪者が現れてくれれば、無銘の人間として解決できるのにと思ってすらいる。
レヴィアタンではなくレヴィアとして人から感謝される。
そんな甘美な響きを内心で求めながら、ふとあいている窓から顔を出して下を覗いてみる。
・・・子供が二人、大人に運ばれていた。
「・・・・・・おや?」
子供は見た感じではどうやら日本人のようだ。まあ、国際大会となれば外国から来るものも多数いるのだから全くおかしくない。
だが、十二歳かそこらの年齢の子供を、脇に抱えて運ぶ大人は普通いない。
加えて言えば、子供たちはさるぐつわと目隠しをされていた。
誘拐事件。その四文字が脳裏に浮かぶのは当然だろう。
「やれやれ。これは一民間人として相応の対応をしないとね」
口では冷静に言いながら、しかしレヴィアは歓喜していた。
人知れず誘拐犯から少年少女を救い、そして何も言わずに立ち去る正義の味方。
それは自分のことだと知る者はいないだろうが、その称賛は必ず残ろう。そして新聞の小さな片隅にでも、それはきっと書き記されるはずだ。
そう思うと翼を生やして飛び降り、気付かれないように隠行のマジックアイテムを起動させる。
この時レヴィアは有頂天になっていた。
たかが誘拐犯に大した能力はないだろう。少なくとも、自分の防壁を抜くには人が持つサイズの武装では通用しない。ISが相手でも攻撃を防ぐ程度なら十分すぎる能力をもつ自身がある。
だが、そもそもレヴィアは思い違いをしていた。
事件を見たのなら警察に連絡するのが筋であり、民間人はあくまで補助に回るべきだ。
そして、その傲慢のツケをレヴィアは払うこととなる。
中心部から離れた廃工場、誘拐犯はレヴィアによって全員叩きのめされていた。
「もう大丈夫。助けに来たよ」
サングラスとスカーフで顔を隠しながら、レヴィアは誘拐された少年と少女の戒めを解きながら笑顔を見せる。
想像通り、誘拐犯はろくな武装を持ってはいなかった。
人が少ないとはいえ、近辺には居住している者もいる。そんなところで派手な音を出せばすぐに警察に連絡されてしまうのだから当然だろう。
消音機をつけた拳銃やナイフていどで傷つけられるレヴィアではなく、体術の心得もあり身体能力が常人をはるかに凌駕する彼女にとって、男たちは簡単に叩きのめせる程度でしかなかった。
実行犯である一部以外はチンピラ程度でしかなく、ほとんど役に立っていなかったこともあって、数分で沈黙させることに成功していた。
念には念を入れて服を使って拘束してから、レヴィアはもったいぶりながら助けに入った。
「あ、ありがとう! 本当にありがとう!!」
「うぅ・・・怖かったぁ」
少年は突然現れた正義の味方に興奮しながらも礼を言い、少女は緊張が解けたのかへたり込むと涙をぽろぽろと流す。
正反対の反応ではあるが、それも全て危機から逃れたことによる反応だ。レヴィアにとっては待ちに待ったものでしかない。
自分はレヴィアタンで無くてもこれだけのことができる。その実感に、なにより自分に感謝したいのはレヴィア自身だった。
自分はレヴィアタンの血に関係なくこれだけのことをすることができる。子供じみた自尊心だが、しかし確かに満たされていた。
「な、なあ。アンタ、いったい誰なんだ?」
泣きじゃくる少女を抱き寄せながら、少年がレヴィアにそんな声をかける。
その視線にさらに自尊心をくすぐられながら、レヴィアは口元が隠れていることも忘れて恰好をつけてにやりと笑う。
「名乗るほどの者じゃない。ただの通りすがりの正義の味方と思ってくれ」
恰好をつけながら、レヴィアはしかし冷静さを失ったわけではなかった。
誘拐犯が、わざわざ外国人を誘拐するのは不自然だ。欧州なら日本人は目立つだろうし、そんなものを誘拐しても犯行を伝えることが困難なのは自明の理だろう。
あえて異国の人間を誘拐したのには理由があるはずだ。だとすれば、急いで救出したことを伝えた方がいいのかもしれない。
「とりあえずここから離れよう。一応拘束しているけど、もしあいつらが抜け出したりしたらややこしいことになるからね?」
「わ、分かった! ほら、蘭」
まだ緊張を解くには早いことを教えられ、少年は少女を立ち上がらせると、その体を支えながら歩き出す。
レヴィアもかばうように周囲を警戒しながら歩き出し、そして気付いた。
「・・・二人とも、止まるんだ」
数年前から何度も浴びた冷たい気配。
自分の存在を厄介に思う現政権の一部。裏切り者の制裁を狙う旧魔王派。その立場ゆえに付け入る隙があると判断した教会や堕天使。
その刺客が等しく放つ、相手の存在を消去しようとする否定の気配。
その名前を、殺気という。
そして、それを放つものは上から来た。
「木偶の棒だけとはいえこいつら全員叩き潰すだけあるじゃねえか。少しはできるみたいだなぁ、ガキんちょ」
少年と少女と一緒に、レヴィアは上へと視線を向ける。
そこにいるのは1人の女性。ただし、身につけている物が一味違った。
その身を覆う装甲。背中から生える八本の腕。そして宙に浮かぶ腕と足を肥大化させたその姿。
無限の成層圏をその名に関す機動兵器、インフィニット・ストラトスがそこにあった。
「マジ・・・かよ」
少年の目が大きく見開き、その顔色が絶望に染まる。
まあ当然だろう。
誘拐犯がISを持っているなど、その時点で太刀打ちできる存在ではないのだ。人間が想像できる最悪の部類なのは間違いない。
「・・・この子たちはそんなに重要なのかい?」
だが、自分にとってはそうではない。
「アァ? ま、こっちも上からの依頼でな。ドイツの連中が感づいてブリュンヒルデに伝えるまでは、捕まえたままにしておくように言われてんだよ」
恐怖心を一切感じさせないレヴィアに妙なものを感じながらも、ISはその絶対的余裕からペラペラと喋ってくれる。
「・・・ブリュンヒルデ? 君、織斑千冬の関係者なのかい?」
魔王の血筋ゆえに策謀渦巻く世の中にもある程度なれているレヴィアは、大体予想がついたので一応の確認を少年に問う。
「あ、ああ。俺は織斑一夏。それがどうしたんだよ、なんで千冬姉に誘拐したこと伝えるのが目的なんだよ!?」
恐怖で錯乱しそうになりながらも、少女をかばうように抱き寄せるその姿に、レヴィアは好感を覚えながらも指を立てる。
「まあ大体予想はできるよ。織斑千冬が圧倒的すぎてブリュンヒルデ二冠をとりそうだから、君をダシにして織斑千冬をおびき寄せようとしたってとこじゃないのかな? とりあえず日本だけに栄光を与えてなるものかーって感じで」
「そうらしいぜ。あ、言っとくが依頼人はこっちも知らねえから諦めな。なんでもいろんな国から同時に来てがっぽり儲かったとか言ってたけどよぉ。・・・ああ、ドイツはこんな事件起こったら大打撃だから関わってねえぜ?」
ご丁寧にもISの方から補足説明までしてくれている。
ISという世界のパワーバランスをになう存在のせいで、余計なしわ寄せが発生したということなのだろう。一夏とかいう少年には深く同情する。
「まあつーわけだ。おとなしく捕まるっつーなら、命だけは助けてやっても構わねえが?」
地面へと降り立ちながら、ISは猫なで声で三人に告げる。
狩猟者の笑顔を浮かべているのが、顔を覆う装甲ごしにも分かってしまう。
その気配が読めたのか、一夏にかばわれている少女がさらに震え始める。
「もうだめ・・・もう・・・いやぁ・・・」
震えて泣きじゃくるその姿は哀愁を誘る。
だから、レヴィアは笑顔を浮かべてその髪をなでた。
「・・・え?」
「大丈夫。僕はISなんかには負けないよ」
一歩前に出ると、あえてISに背を向けて、満面の笑顔を二人に向ける。
このISは脅威でも何でもない。だから視線を向ける価値もないと、言外に断言した。
その余裕あふれる姿に、ほおっておかれる状態になったISはもちろんのこと、恐怖にさいなまれている二人もあっけにとられる。
そんな二人をみて、レヴィアは正義の味方らしいことをしてみたくなった。
「さあ、二人とも。こういうとき、この
小さな子供を促す大人のように言うと、二人の表情に小さいながらも笑顔が戻る。
二人は顔を見合わせると頷いて、
大きく息を吸い―
「「・・・助けてください!!」」
「助けるよ!!」
その声をスターターとして、レヴィアは振り返り様にISを蹴り付けた。
その攻撃は自分の年相応の悪魔らしい蹴りで、しかし莫大な魔力を込められた質量兵器だ。
ISはそれを腕で受け止めようとするまあ当然の行動による大失敗を演じ、倉庫の端にまで吹き飛ばされる。
「・・・は?」
そのあり得ない現象に、ISを纏った女は反応できず茫然としてしまう。
まあ当然だろう。世界最強の兵器であるISで武装した人物が、生身の人間の蹴りで吹き飛ばされたのだ。
ISを纏った女―オータムはあまりの事態にこれが現実か疑ってしまう。
今回の一件は先ほど自分が語った通り、織斑千冬の圧倒的実力を打破するのではなく妨害することで優勝を阻止するということだ。
ゆえに使い捨ての人材で誘拐事件を行うというのが手筈で、その人材が妙な仏心を発揮して、その場にいた少女を始末せずに、かといって放っておいて知らされては計画が台無しと一緒に誘拐したところから全てはおかしくなった。
あくまで自分は、想定外の事態が起こった時のための保険であり、織斑千冬以外が救出に来た時に叩き潰して織斑千冬をおびき寄せるための最終手段である。
ゆえに織斑千冬が来た時には即座に撤退できるように機動性重視のカスタムとパッケージを纏っているし、拡張領域も目くらまし用のIS用スタングレネードとスモークグレネードだらけだ。
それでも警察やら機動隊やらが出た程度なら返り討ちにするなど当然だし、何の問題もないはずだった。
明らかに子供でしかない少女が乱入して織斑一夏を助け出すなどという前代未聞のアクシデントに対しても、オータムは驚いてはいなかった。
世の中には神童といってもいい化け物が存在する可能性もある。ISを作った篠ノ之束も、開発当初は十代だったはずだ。それがフィジカル方面に抜き出た化け物がいても全くおかしくない。
そのたぐいだと判断して、万が一ISを持っていたときのために最低限の警戒はプロとしてちゃんとしていた。
だが、あれはなんだ?
センサーはISの反応を感知していない。織斑千冬の接近を即座に探知するためにIS感知にセンサーを強化しているのだから、至近距離の子供がISを使っているかどうかぐらいは簡単にわかる。
だったら、自分はなんで吹き飛ばされた。
遠距離からの戦車の狙撃? こんなところでそんなものを使うのなら、周囲の住民が大騒ぎをしているはずだ。あり得ない。
ISの誤作動? 念には念をいれてつい数十分前に整備したばかりだ。そもそもこんな吹っ飛ぶような異常、あり得ない。
油断しすぎて操作ミス? 自分だってプロとしての最低限の自負ぐらいある。もしそうだとするなら舌を噛んで死ぬ。
多くの可能性が脳裏をよぎりそして否定され、しかしそれをある者が遮った。
・・・目の前の少女から、殺気が放たれている。
それを見て、オータムは自分があまりにも油断しすぎていたことをいまさらながらに痛感した。
この殺気は、平和な環境になれた子供がはなっていいものじゃない。
自分のような殺し合いを日常にしたことすらあり得るようなものでなければ放てない。それも生き残るのではなく勝ち残るような勝者でなければ放てない代物だ。
それに気づいた瞬間、オータムはその意識を本格的に戦闘へと切り替える。
相手を人と思うな。最低でも人間の姿をした新型のISぐらいには考えた方がいい。
「面白ぇ、楽しませろよクソガキィイイイイ!!」
全ての装甲脚を展開し、さらに両腕も使って目の前の少女に襲いかかる。
それらに対して少女は真正面からの迎撃を選択する。
両の拳と足を使って、先ほどのようにこのアラクネを叩きつぶそうとする。
それに対してオータムはその攻撃を受けるのではなく受け流すことで対処し、そして装甲脚を叩きつける。
ああ、あの光景を見ていれば分かる。
この女は、どんな理由かはともかく雑魚を始末する時の自分と同じようにあの戦闘を遊び半分でやっている。ISを前にしてもその気配は一切変わらなかった。
そんな奴が放ったあの蹴りが、本気のはずがあり得ない。
本気を喰らえばやられる恐れもある。それぐらいはさすがにわかる。
「さすがに調子に乗ってたかな? IS相手だときっついねぇ」
「なにボケてんだテメエ!? 全然効いてねえじゃねえか!!」
余裕だらけの少女に、オータムはいらだち混じりに叫ぶ。
確かにこちらは相手の攻撃を全ていなすことには成功している。
数は力の言葉を体現するかのように、装甲脚は少女の体を打ちすえる。
だが、少女は意に介していなかった。
そういえば雑魚を片付けるときにも、少女は銃弾を意識すらしていなかった。
あの時は最新技術による防弾スーツか何かと思ったが、冷静に考えれば生身の皮膚が露出しているのにあの余裕はおかしい。
この女はその肉体の頑強さ自体が桁違いなのだ。最低でも、アラクネのシールドエネルギーよりははるかに頑丈だろう。
速さならこちらが上だ。手数ならこちらが上だ。今までの戦いで戦闘の技術でもこちらが上だと確信した。威力は不安だが勝負にならないほどではない。
だが、固さが圧倒的に負けている。
どれだけ攻撃を叩きこもうと、それがダメージにならなければ何の意味にもならない。
頑丈さというステータス一つで、本来圧倒的に戦えるはずのISという利点を完全に粉砕されていた。
もし白騎士事件の際にこの女がいれば、白騎士は拘束されていたことだろう。
戦闘不能にするために接近して切りかかったが最後、ダメージ無視で受け止められてそのまま格闘攻撃のコンボでシールドエネルギーを失っていたことだろう。
あらゆる性能において既存の技術を圧倒していたISといえど、接近戦という土俵において彼女にはかなわない。
たったひとつ突き抜けた能力によって、オータムは一見自分が押しているように見えて、その実圧倒的不利な戦闘を体験していた。
とはいえこのまま引くわけにはいかない。
この任務は相棒である愛するスコールが頼んできたものだ。
彼女はいろいろと体の事情を抱えて、それを自分に隠しているが、しかしそんなものは知っている。
だからせめて仕事はしっかりとして安心させてやらねばならない。
というか、謎の少女に邪魔されて失敗したなどさすがに心配するだろう。余計な気をかけさせるわけにはいかなかった。
『・・・もういいわオータム。撤退して頂戴』
だから、そんな声をかけられて当惑した。
それを相手に気付かれなかったのは僥倖だろう。
『いいのか? 今とんでもない化け物が邪魔してんだがこのままだと・・・』
『ドイツの一部を買収に成功したわ。あと十分もすれば織斑千冬に連絡が行く。アレを起動させて時間稼ぎをすれば、十分大丈夫よ』
スコールの声は落ち着いていて、その情報が事実だと確信させるには十分だ。
『帰ってきて、私のオータム。あなたが余計な傷を負うところなんて見たくはないわ』
愛する女に言われては引くしかあるまい。
装甲脚をパージすることで相手に隙を作り、瞬時加速で距離をとった。
「おやおや良いのかい? 生身の女の子にこうも後れをとって、あなたの上役はさぞ失望していることだろう?」
「挑発には乗らねえよ化け物。テメエを殺すのは次の機会にとって置くぜ」
ああ、確かにお前は試合には勝った。この戦いは自分の負けだ。
だが、この後起こるであろう事態を予測してオータムはほくそ笑む。
最後に勝ちは狙わせてもらう。目的そのものは達成させてもらうし、貴様の鼻はへし折ろう。
せいぜい守り通せたと油断していると良いクソガキが。
「ああ、そういえば言い忘れてたが・・・」
貴様がどんな荒波にもまれてきたかは知らないが―
「・・・織斑千冬も、可能なら始末するように言われてるんだぜ?」
・・・人間の悪意ってのは意外とそこが知れないんだぜ?
最高速度で離脱すると同時に、証拠隠滅及び、ISごと織斑千冬を始末できるかと用意した爆薬全てを一斉に起爆させた。
轟音とともに工場が吹き飛び、崩れ、炎に包まれる。
それをハイパーセンサーで確認しながら、しかしあの女を仕留めていないことは確信する。
あの化け物がこの程度の爆薬で死ぬわけがない。アレを殺すにはIS一機を戦闘不能にする程度の爆薬では足りないだろう。機甲大隊をせん滅するぐらいの爆撃を収束させる必要がいるのではないだろうか。
そして、こんなこけにされて黙っていられる性分ならそもそもこんな酔狂な真似もするまい。
せいぜい調べ上げて追いかけると良い正義の味方。
言葉で伝えられないが約束しよう。自分もこの借りは必ず返す。
いずれ貴様の領域に足を踏み入れ、貴様を切れる刃を手にしよう。
そう決意し、少し前にスコールにいわれていたことを思い出した。
『ねえオータム。世界の真の裏に足を踏み入れてみる気はないかしら? 上があなたのことを評価しているのよ?』
ああ、あれはきっとこのことなのだ。
良いだろう。愛する女の誘いを断るつもりはないし、それで奴の領域に到達できるなら望む所だ。
この爆発は宣戦布告だ。いずれ貴様の首はもらいうける。
来るべき決着を予感し、オータムは高揚感に身を包んだ。
今回におけるレヴィアの失敗。
1 警察に報告しなかった。
2 アストルフォにも内緒にしていた。
3 こういう事態になれてないのに単独行動。
4 戦闘時に一夏と蘭を逃がさなかった。
当時のレヴィアはまだ子供だったとはいえ、非常に未熟でした。