一夏はそういうところも含めて理解者なのです。
「楯無さん。俺がそれ言うと思いますか?」
一夏はどうしたものかと本気で思った。
レヴィアはエロ方面において結構問題児だが、それでも立派な主だと思っている。
正義感はあり責任感もあり、多くに人の面倒を見て、慈善団体にも多大な寄付を行う。
エロ方面では非常にアグレッヴだが。だからと言って強姦とかをしているわけではないのだ。
防御術式の儀式に関しても、当時の若かった一夏がレヴィアの色仕掛けに屈して、蘭はそれに乗せられたというのが近い。
・・・その後で、エロくなる御香とかたいて色々な道具まで使って自分達を攻め立てたが、合意の上ではある。
本当に合意の上ではある。そのうえでこっちを流れに乗せてアグレッシヴに攻め立てるのだが。
合意の上なのだ。こちらを口車に乗せるなど、合意させるためにかなりきわどいことをしてはいるが、本当の本当に合意の上だ。
だから別に報復をするつもりはない。たいていの場合は落ち着いた蘭がしっかりしかるのでその気はない。
まあそういう意味では問題があるが、基本的に敬愛しているし信頼している。大事な友人であり姉である主なのだ。
だから、悪意をもって行動するのであるならばそれ相応の行動をとるつもりではある。
思わず掴みかかりそうになるのをこらえながら、一夏は楯無を睨んだ。
「・・・あまり侮辱しないでくれませんか? 政治的な理由があるならともかく、それ以外の時で俺は基本的にあいつの味方だ。だてに戦車やってませんよ」
「・・・そんなに怒らないでよ。こっちだって本当に仕方がないんだから」
頬を膨らませながら、楯無は視線を後ろに向ける。
三週目に突入した三人を追いかけて、レヴィアが簪を通り過ぎる。
だがその一瞬、確かに視線が交差していた。
そしてレヴィアを見送る簪は、僅かに、しかし明確にわかる笑顔を浮かべていた。
「あんなに簪ちゃんに想われているのよ? 私が欲しくて欲しくて欲しくてたまらない簪ちゃんの信頼を、警戒しなきゃならない上級悪魔に取られてるのよ?」
小さな声を漏らす楯無からは、明らかにどす黒いオーラが漏れていた。
というか血涙を流している。
美人ゆえに声をかけようとした男たちが、その様子を見て慌てて下がっていく。
「お願い一夏君! 殺気ぶつけたり後ろから針なげて攻撃したり足元にバナナの皮こっそり置いたりすれ違いざまに足出したりしても全部さばかれるのよ!」
肩をがっしりと掴まれて、ものすごい形相で見据えられる。
美人が台無しだ。正直に言って非常に怖い。
「しかも分かってるはずなのに一切告げ口も報復もしてこないし! 先日なんて激マズお菓子を食べさせたのに平然と平らげるし! どうすればいいの!!」
・・・ここは制裁するのが眷属悪魔としての正しい行動な気がしてきた。
とはいえ、それはやっぱりできないだろう。
だって・・・。
「やめときましょうよ楯無さん。レヴィアは楯無さんの味方ですよ。心情的にも」
レヴィアはそれを望んでいない。
「・・・あんなに簪ちゃんといちゃいちゃしてるのに?」
「だって簪に告げ口してないんでしょ? それって、そんなこと言ったら簪に知られて楯無さんが嫌われるからですよ」
どうせそういうことなのだろう。
レヴィアは別に味音痴というわけではない。
一夏が中学の時は結構安売りのカップラーメンとか食べてアストルフォがたしなめていたが、別にゲテモノ好きでもない。
料理は上手いし行きつけの店は値段以上の味の店ばかりだ。
蘭の家によく言っていたのも、彼女の舌がその味を認めていたからだ。
だから当然その攻撃で大ダメージを喰らっていたはずで、しかし決して表に出さなかったのだ。
出したら、間違いなく目の前にいたであろう簪が気づく。そんなことをしたら簪は楯無を恨むだろう。
それがいやだったから、レヴィアは一生懸命耐えたのだ。
「・・・なんで、そこまで気を使うのよ」
まあ、そういう風に思われるのは当然だろう。
一方的に嫉妬心で嫌がらせを受けているのは当然なのだ。普通は報復するだろう。
そして、それもよくわかっている。
「レヴィアって、信念に殉じちゃう性格なんですよ」
殉じるではなく、殉じちゃう。
意識して行うのではなく、心のままに湧き出る衝動として存在する。
特権階級は特権に見合う実力をもち責任を果たすべき。
その信条に従い、レヴィアはそうしていない旧魔王派から離脱し、特権を不用意には使わず、そして振るえるだけの存在になるべく努力を重ねていた。
そして、そういった存在を心底嫌悪し、そういった存在に対して敵対することをいとわず、そういった存在になる人が少なくなるよう、身を以って誇り高い姿を見せているほど徹底している。
そういう心情である存在がレヴィアであり、しかしそれゆえにその信条に引っ張られるのがレヴィアなのだ。
「・・・実の両親や兄妹のことが、生理的に受け付けられないぐらい嫌いだって言ってました」
複雑な感情でもなく、内心では動向とかではなく、本当に純粋に心の底から親を嫌悪する。
レヴィアが昔のことをしゃべる時のことを思い出す限り、レヴィアの家族はレヴィアには優しく接していたと思う。
それでも嫌いにしかなれない。子としての感情を持つことができない。
そのことをレヴィアはなんてことのないように言っているし、自分の親を嫌悪しているという意味では一夏も同じだ。
同じだからこそ、レヴィアの気持ちがよくわかる。
楯無と簪は肉親同士で、そして嫌いあっているわけではないのだ。
「二人は仲良くなれるじゃないですか。だからレヴィアは仲悪くさせたくないんですよ」
肉親同士仲良くできるなら、それに越したことはないのだから。
「だから、レヴィアに嫌がらせするぐらいなら、自分もレヴィアに甘えるぐらいでいいと思いますよ。アイツ、たぶん楯無さんのこと嫌ってないですし」
実際楯無をレヴィアは高評価しているだろう。
生徒最強こそが生徒会長の条件。
それは最強であるという責務を常に背負うということであり、少なくとも楯無はその名に恥じない実力を示している。
その在り方はレヴィアにとって評価に値する物のはずだし、そういう意味ではIS学園の生徒会長とはレヴィアにとって好意を向ける立場だろう。
「・・・・・・・・」
なんとも言えない表情で、楯無は蘭達を追うレヴィアに視線を向ける。
いま彼女は何を思っているのだろう。
できれば、レヴィアに良い感情を向けていればいいのだが。
そう思っていたら、どこからかざわめきが聞こえてくる。
『・・・より、水上ペアタッグ障害物レース。参加受け付けは間もなく終了となります』
どうやらイベントがあるらしい。
しかし障害物レースとはまた大がかりな物をする。
まあ、自分達にとっては関係なことと思い、レースの結果を想像して―
『優勝賞品は、沖縄旅行ペアチケットです!』
とてつもなく、嫌な予感を覚えた。
『さあ、記念すべき第一回ウォーターワールドペアタッグ、水上障害物競争が始まろうとしています!』
司会の女性が大きな声を張り上げ、プール中にいる人々が大歓声をわきあげた。
『エントリーで多少トラブルがあり、開始時間が遅れたことについてはお詫びいたします。その代わり、試合は白熱することをお約束いたします!!』
苦笑交じりの司会の声を聞き流しながら、多くの女性と少数の男性が、タッグを組んで開始の時を待っていた。
ちなみにトラブルとは、「空気読め」という無言のプレッシャーで男を追い返そうとした受付嬢に対し、「そのような事がしたいなら、最初に女性限定とつけろ理不尽だろう」とレヴィアがプレッシャーを返して失神させたことに対するトラブルである。
おかげで30分も遅れてしまったが、その分参加者のバリエーションには富んでいるだろう。
その中でも、特に強烈なオーラを放つ者たちも存在する。
第一候補、鈴&セシリアペア。
急激に上昇したテンションでエントリーしようとした二人は、相手のことを忘れていたことに気が付き、お互いをパートナーとすることで乗り切っていた。
「あたし達が組む以上、優勝は確実ね」
「ええ、どう勝利するのかに重点を置くべきですわね」
代表候補生としてのレベルの高さに裏打ちされ、幾度となく模擬戦を行い動きの癖も把握している優勝候補だ。
((その後でこの女を何とかすれば・・・))
ただし心理的には最大の敵同士なので、空中分解する可能性が非常に高いが。
第二候補、レヴィア・蘭ペア。
鈴とセシリアとは違い、タッグを組む相手のことも考えて冷静に思考した蘭は、レヴィアという最強戦力を選び取った。
レヴィアも蘭を優先しているので、二人に沖縄旅行をプレゼントしようと割と本気である。
「安心してくれ蘭ちゃん。IS学園という壁によって時間がとれない分、アバンチュールで挽回させてあげよう」
「はい! レヴィアさん!!」
やる気を出している蘭は神器の影響すら出して本気を出している。
ちなみに割と本気で反則のような気もするが、蘭が持つ身体強化系の神器は性能を引き出しているだけで区分で言うなら一般社会レベルの代物でしかないので、レヴィアは黙認していた。
三人の水泳のときには蘭はあえて封印していたのだが、現金なものである。目の前にえさがぶら下がられていると人はここまで醜くなれるのだろう。
そして、それをずるいと思う物は確かに存在していた。
「いや、蘭ずるいだろ!? 明らかに神器のオーラ出てるぞ!? 止めないと―」
「いいじゃない。蘭ちゃんのアレは個人の才能レベルだから問題ないわよ。私達が本気を出すならいいハンデだわ」
第三候補、一夏&楯無ペア
「「「「・・・え?」」」」
その事実に気付き、約四名が勢いよく振り返った。
楯無と、一夏がタッグを組んでいた。
「い、い、い、一夏さん!? どういうことですの!?」
セシリアの絶叫も仕方がないだろう。
朴念仁の極みである一夏が、まさかこんなタイミングで、よりにも寄って楯無と一緒に出てくるとは思ってもみなかった。
「・・・へえ、これはつまり、巨乳にほだされたってことでいいのかしらぁ?」
一夏のシスコンぶりから、実は一夏は年上趣味ではないのかと怪しんでいた鈴は割と殺意をたぎらせている。
この障害物競走、プールの上ではなく血の海の上でやることになるかもしれない。
「いや、楯無さんがアナウンス聞いたとたんに土下座で頼み込んできて」
「有用な戦力を自軍に引き込むのは当然のことよ」
楯無はその立派な胸を張って断言する。
「な、何が目的ですか! まさかあなたも一夏さんを・・・!?」
想定外の乱入者に、蘭が警戒心をあらわにする。
ただでさえハイスペックぞろいの一夏争奪戦において、スタイルにおけるぶっちぎりトップの乱入は極めて避けたい。
だが、楯無は静かに首を振った。
「想像力が貧困ね。誰もが一夏君にメロメロになると思ったら大間違いよ」
「・・・そういうことか」
レヴィアはその事情を察した。
「狙いは簪ちゃんだね!?」
簪との仲を修復するために、この旅行を利用しようというのだろう。
「その通り! あなたと簪ちゃんを旅行に行かせるためよ!!」
微妙に外れていた。
「・・・え?」
「何を驚いているのかしら? 簪ちゃんのためならば、私は火の中水の中よ!」
一瞬何を考えているのかわからなかったレヴィアだが、しかし楯無の目が本気なのはよくわかった。
あれだけ徹底的に陰湿な嫌がらせを繰り広げていたにもかかわらず、明らかに手のひら返しどころではない。
一言言おう。
どうしてこうなった。
「私は目が覚めたわ。簪ちゃんを魅了するあなたを排除するのではなく、そのおぜん立てを整えることこそ姉である私の使命! そのためにも学園最強の力を全力で使わせてもらうわ!!」
「一夏君! 生徒会長が壊れたんだけどなぜかわかる!?」
「分かるけど俺も想定外だよ!!」
どうやら一夏が一枚かんでいるようだ。
後でしっかり話を聞くことにするとして、しかしレヴィアは真っ向から対峙する。
どちらにせよ優勝するのはこちらなのだ。その願望は叶わないということを示してやればいい。
「・・・良いだろう。あなたが勝利した暁には、その沖縄旅行確かに簪ちゃんと一緒に行こう!!」
「その言葉に偽りはないわね。簪ちゃん喜んで! レヴィアさんと沖縄旅行よ!!」
「あまりこちらを忘れないでくれませんか? 沖縄旅行にいくのはわたくしですわ!!」
「そう、このあたしが沖縄旅行を手にするのよ!」
「散々IS学園で一緒にいておきながらそうきますか! なら私も全力で行かせていただきます!!」
燃え上がる少女たちのオーラが全体へと伝播し、まるで触発されるかのように他の参加者たちも闘志を燃やし始める。
「・・・どうしてこうなったんだぁあああああ!!」
土下座にほだされて参加するんじゃなかったと、一夏は心から後悔した。
本日のニュースです。
今日午後三時ごろ、ウォーターワールドで行われたイベントで多数のけが人が発生。救急車が多数急行する騒ぎになりました。
沖縄旅行を商品とした障害物レースとのことですが、途中で本格的な格闘戦による乱闘、足場となるフロートの崩壊などが頻発、さらにゴールに同時に飛び込もうとして衝突する人物が複数発生し、レースは中断となった模様です。
参加者の中にはIS代表候補生が数人、さらに国家代表と男性操縦者まで参加していたとのことで、警察では彼らに触発された参加者のテンションが急上昇して、正常な判断能力を失ったものとして捜査を進めています。
幸い死者は出ていませんが、入院の必要があるほどの怪我を負った者も数人確認されており、ウォーターワールドはこの事態を反省し、今後商品を賭けた参加者を募集するスポーツ系イベントは行わないことにすることを発表いたしました。
参加していなかった観客の方の話によると、「姉が変なテンションになったのが原因でごめんなさい」と発言しており、因果関係について詳しく調べていくとのことです。
なお、先ほど申し上げました代表候補生たちは全員ゴール前での衝突に巻き込まれており、今なお意識は戻っていないとのことです。