インフィニットストラトスD×D   作:グレン×グレン

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ちょっと六話があれだったので、続けていきます。


第七話 それも過去のことだ

 金糸による刺繍が施された白い衣に朱の袴。さらに金の飾りをまとった美しい少女が静かに舞う。

 

 鈴のついた扇と刀が弧を描き、静かになる鈴の音が神々しさすら感じさせる。

 

 その場には多くの者がいて、しかしざわめきは一切聞こえない。

 

 それはまさしく神にささげられる舞であり、

 

 扇はまるで風に舞う木の葉のように軽やかに、しかし確かな意思を感じさせる意味のある動きをとる。

 

 刀は鋭く、叱り美しい曲線を描いて振るわれ、空を切っているのにもかかわらず、何かを切り裂くかのような幻影を見るものに感じさせる。

 

「・・・・・・」

 

 一夏はその光景をみて息をのむ。

 

 目の前にいるのは、幼馴染の箒のはずだが、まるで別人のように感じさせる。

 

 以前の、なんというか感情的だった彼女が冷静な大人の雰囲気を感じさせるIS学園での姿も見違えた感覚だったが、この舞を踊る箒の姿も、今までにないものを感じさせる。

 

 女の味を知ったからこそ分かる、幼馴染の女としての魅力を隠すことなく見せるその姿に、一夏は目を奪われた。

 

「・・・なんだろうな」

 

 そして、どこか遠く感じる。

 

 それは確かに美しい姿なのだが、一夏の目にはその姿は舞を奉納する巫女ではなく、戦いの姿を再現する女武者のそれに見えてしまう。

 

 彼女が剣術をたしなむ女であるからには当然なのだが、しかしそれはどこか戦いのにおいを感じさせる。

 

「あいつ・・・」

 

 幼馴染が、どこか手が届かないところに行ってしまったような気がして、一夏は夏であるにもかかわらず寒気を感じて少し震えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう。お守り一つ」

 

「ああ、ではこちらを」

 

 顔を見せに来たのは自分だが、一切驚かれないというのもなんというか寂しいものをかんじる。

 

「来てたのか、一夏」

 

「まあな。久しぶりに来てみようと思ってさ」

 

 お守りを受け取りながら、一夏は苦笑する。

 

 本当は友人たちと一緒に行こうと思っていたのだが、あいにくみな都合がつかなかった。

 

 特にレヴィアとヒルデと楯無は最近特に忙しいようだ。

 

 なんでもアースガルズ・コーポレーションがかかわっているらしいが、どういうことなのだろうか?

 

 まあそれはいいとして、今は幼馴染との付き合いを深めよう。

 

「来てるとは思わなかった。いつからだ?」

 

「六時前だよ。神楽舞見たぜ、なんていうか・・・見違えたな、色っぽかった」

 

「・・・・・・」

 

 照れながら言った言葉に、箒は茫然とした表情を浮かべて沈黙で返した。

 

 何か変なことを言ったつもりはなかったが、何かしただろうか。

 

「お前がそういう言い方で女をほめるとは思わなかったな」

 

「悪かったな」

 

 ・・・自分はどこまでのレベルで朴念仁扱いされているのだろうか。

 

 最近自分でも反論できない気がしてきたが、しかしここまで言われるのは納得いかない。

 

「まさか、すでにそういった方面でも経験済みだとでもいうのか? お前がそっち方面でなれるにはそれぐらいしないとどう考えてもおかしい―」

 

「ケンカ売ってるのかお前!?」

 

 本当にどんなレベルで思われてるのだろうか。

 

 いや、実際経験済みというか豊富ではあるが、しかしそうでなければおかしい扱いされるのは納得いかない。

 

 不条理を感じていると、売り場のほうの扉から、中年の女性が姿を現す。

 

「あらカッコいい子ね? 箒ちゃんのお友達」

 

「まあそんなところです。幼馴染でして、昔はこっちにもよく来ていましたよ」

 

 箒の言葉にうなづいていた女性だが、少しするとなにやら目を輝かせ始める。

 

「ちょうどいいわ。こっちはもう大丈夫だから、箒ちゃん、ちょっとその子と一緒に遊んできていいわよ」

 

「いや、そういうわけには―」

 

「いいからいいから、ほらちょっとこっち来て・・・」

 

 箒は断ろうとしたようだが、何やら強引に引っ張られて連れていかれて行ってしまう。

 

「・・・いや、俺の意思は?」

 

 別に反論があるわけではないが、なんというかある意味で無視された形になったのはどうかと思う。

 

 もしかすると彼氏と勘違いされたのかもしれない。

 

 これはどうしたものだろうか。

 

 レヴィアに何度も言われたりして最近ようやく自覚したが、どうにも自分は持てるタイプのようだ。

 

 とはいえ箒とは一緒にふろにも入ったことがあるような関係だし、今更恋愛感情がもたれているとも思えない。

 

 それに、すでに一夏の周りには、一夏に想いを寄せている女性が何人もいるのだ。

 

 蘭はもう何年も答えを待ってもらっているような形だし、鈴やラウラもそうだ。

 

 最近もしかするとといった形だがセシリアも危うい気がしてきたし、さらにこの上箒までそうなるというのは問題がある。

 

「こ、ここはレヴィアに相談したほうがいいかもしれないな・・・」

 

 あの主はエロ方面で暴走するきらいがあるが、しかし暴走しなければむしろ自分のストッパー役になっている。

 

「・・・待たせたな」

 

 そんなことを思っていたら、箒が浴衣に着替えてこちらに来ていた。

 

 正直言ってかなり美人だ。

 

「お、おう。じゃあい、行こうか」

 

 割と本気で周りの視線を気にしながら、一夏は箒を促す。

 

 ここは迷わないように手をつなぐべきなのかもしれないが、しかしそれはなんというかデートに見えたりしないだろうか。

 

 いつもなら全く考えないことを思いながら、一夏はどうしたものかと戸惑ってしまう。

 

 そんな一夏の手を、箒が無造作につかんだ。

 

「ほ、箒!?」

 

「お前も久しぶりなのだとしたら、はぐれるとあとが面倒だ。・・・男に寄り付かれても面倒だしな、虫よけ代わりに手を貸してくれ」

 

「お、おう」

 

 そういわれては反論する余地もない。

 

 ちょっと戸惑いながらも、その手を握り返す。

 

 久しぶりに触れたその手は、思ったよりも固く引き締まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・今日のところは私の勝ちのようだな。約束通りリンゴ飴をおごってもらおうか」

 

「くっそぉ・・・。今度は勝てると思ったんだけどなぁ」

 

 たこ焼きを食べながら勝ち誇る箒に、一夏は力なく崩れ落ちる。

 

 これで射的と金魚すくいの双方で敗北してしまった。

 

 まあ、別に金銭的な負担は大したことがない。

 

 レヴィアは眷属の面倒はしっかりと見るタイプで、本当に必要不可欠な出費などはむしろ積極的に出してくれる。

 

 それにカレドヴルッフを使うということは、冥界の魔剣研究に非常に貢献しているということもあり、むしろテスターとしてかなりの報酬を提供されている。

 

 実際蘭も神器研究の貴重な例として、すでにかなりの量の報酬が振り込まれている。

 

 だから別におごってもよかったのたが、しかし勝負に負けての出費だとプライドが傷ついてしまう。

 

「まあそうすねるな。ほら、たこ焼きでも食べて落ち着け」

 

「お、おう」

 

 箒が差し出したたこ焼きを食べながら、しかし一夏は首をかしげる。

 

「しっかし強くなったよなぁ。前は金魚すくいとか得意なタイプじゃなかっただろ?」

 

 少なくとも、昔の箒は苦手だったような気がする。

 

「まあ大したことじゃない。私も数年間別々に過ごせば成長するということだ。これでもだいぶ落ち着いたほうだと思うぞ?」

 

「確かになぁ」

 

 なんというかクールビューティという言葉が似合うのが今の箒だ。

 

 昔はどちらかというと感情的な印象があったが、人は変わるものだ。

 

「お前と別れた後、人生の師ともいえる人と会ってな。あの方が色々教えてくれたおかげで自信がついた」

 

 自分もたこ焼きを口に放り込みながら、箒は過去を思い返しながら微笑みを浮かべる。

 

 その表情は、箒がその思い出を心から大切に思っているのを証明するかのように華やかだった。

 

「自信がつけば落ち着きが生まれ、落ち着きが余裕を生んでくれる。今の私があるのはあの方のおかげだよ」

 

 まぶしいものを語るかのようなその言葉に、一夏は共感を覚えた。

 

 自分の場合はレヴィアがそれだ。

 

 誘拐されておびえる自分の心を救い、失態からの回復とはいえ自分たちの命を文字通りよみがえらせ、さらには強い力を与えてくれた。

 

 問題はあるが、それを補って余りあるほどの人格者だし、十分すぎる価値があるだろう。

 

「ああ、わかるよ箒。そういう人がいるって、すっごい力になるよな」

 

「わかってくれてうれしいな。ほら、もう一つ食べろ」

 

 差し出されるたこ焼きを口に放り込むべく、一夏は口を開ける。

 

「・・・一夏さん!?」

 

 その手が後ろから掛けられた声に、即座に止められた。

 

 二人が声のほうに視線を向ければ、そこには硬直状態の蘭の姿があった。

 

「お、蘭じゃないか。今日は友達と用事があるって言ってたけど、このお祭りに来る用事だったのか」

 

「一夏、そういうタイミングじゃない」

 

 後ろから箒のあきれたような声が来て、一夏はふと我に返る。

 

 今の状況は、一夏が箒が差し出したたこ焼きを食べようとするタイミングでかけられたものだ。

 

 別に友達と一緒に楽しんでいただけだし、特に問題はないと思うのだが。

 

「・・・一夏さん。一応言っておきますけど、はたからみたらバカップルにしか見えませんからね、ソレ」

 

「なんだって!?」

 

 どうやら世間はそうは思ってくれないようだ。

 

 蘭からの冷たいその言葉に、一夏は視線を箒に向ける。

 

「・・・虫よけだといっただろう? まあ、気づかないと思って何も言わなかった私にも非はあるな、スマン」

 

「おぉい!?」

 

 よりにもよって確信犯だった。

 

 まずい、これはまずい。

 

 告白を待ってもらっている状態で、バカップルにしか見えない行動をとっているところをその待っている相手に見られた。

 

 馬鹿でもわかる。これはまずい。

 

 見れば、蘭からは静かに、しかし激しいオーラが漏れているのが悪魔の感覚でよくわかる。

 

 後ろにいるのは蘭の友達か何かだろうか? 

 

 ああ、そんなにおびえなくても大丈夫だ。あくまでこの殺意が向けられるのは俺だけだから、だからそんな震えなくても被害は来ないから落ち着いてくれ。

 

 そして箒、お前なんで五歩も下がっている。視線をそらしながら両手を合わせるな。なんだその自分の失態でひどい目に合うやつにするような態度は。

 

「いいんですよ。一夏さんはそういうところがダメなのは知ってますし、知っていていても私の想いは変わりませんから問題はありません」

 

 蘭はにっこりと笑顔を浮かべるが、はっきり言って怖い。

 

「だから、これはちょっと発散が追い付かないことによる暴発です」

 

 そして許してはくれないらしい。

 

「い・ち・か・さんの・・・馬鹿ぁああああああああっ!!!」

 

 打撃音は一発だが、音量は交通事故のそれレベルだったことを付け加えておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・なんというか、悪かったな、一夏」

 

「そう思うなら止めてくれ・・・」

 

 いまだに鈍痛が癒えない脇腹を抑えながら、一夏はへたり込んでいた。

 

 割と本気でその高い身体能力を発揮して攻撃されたので、そのダメージは一般人がくらってはいけないレベルだ。しかも人体急所の一つである肝臓を見事に貫いている。もう下手すれば死人が出る。

 

 これだけの近接格闘戦闘能力を教え込んだアストルフォを恨みながら、しかし一夏は少し期待していた。

 

 今いる場所は神社の裏手。知っているものはごくわずかしかいない、花火見物の穴場だった。

 

 針葉樹林の林の中にある、ぽっかりと空いた開けた場所。ここから見る花火は、近くに人がいないこともあってなんというか宝物のように感じてしまう。

 

「ここは本当に変わらないよな」

 

「同感だな。もう何年も見てなかったが、ここまで変わらないとそれが嘘のようにも感じてしまう」

 

 苦笑を浮かべながら、箒はあたりを見渡す。

 

 何年も前から来ているが、この風景は一切変わりがない。

 

 そのせいか一夏も過去の記憶が思い起こされ、まるで今までのことが嘘だったかのように感じてしまう。

 

 そして、そんな二人を明かりが包み込んだ。

 

「始まったな」

 

「ああ」

 

 空に咲く大輪の花を見ながら、二人は夜の闇を照らす光の花畑を鑑賞する

 

 色鮮やかな火の粉が散り、そして夜空に溶けていく光景は、いつみても本当に美しい。

 

「こうしていると昔を思いだすな。ああ、あのころが手にとれるようだ」

 

「本当だよな」

 

 箒の言葉に自然にうなづく。

 

 今でも思い出せるあの頃の思い出。

 

 あの光景がある限り、きっと自分たちはいつでもあのころの関係に戻れるだろうと、そんな風に一夏は思っている。

 

「・・・だが、それも過去のことだ」

 

 だから、そんなことを言われるとは思わなかった。

 

「箒? どうしたんだよ一体」

 

「いや、やはりこういうことははっきりさせておこうと思っただけだ」

 

 そういう箒んの表情は鋭く、一夏に反論を許さなかった。

 

「一夏、銀の福音との戦いでのあの行動、お前はどう思っている」

 

 あの時のことを思い出し、一夏は苦い思い出だと自覚する。

 

 蘭を大泣きさせたうえ、その尻拭いをしに行ったことがきっかけで鈴は片腕を失うことになった。

 

 それもこれも、一夏が密漁船をかばったことが原因だった。

 

 だが、それでもこれだけは言える。

 

「あの行動は最善じゃなかったかもしれない。だけど、善だと思ってる」

 

 それだけは言っていい。

 

 一夏のなりたいものは守るものだ。

 

 あの場において彼らを守れなかったら、それは織斑一夏としては失敗だ。それだけは言っていい。

 

 だが、箒はそれに首を振った。

 

「無辜の市民を守るために行動しておきながら、あの行動を失敗じゃないというか。・・・なら、私とお前は相いれないよ」

 

「なんでだよ」

 

 正直に言って、そんなことを言われるとは思わなかった。

 

 一夏の知る箒は、感情的なところはあったが自分と同じように正義感のある少女だったはずだ。

 

 だが、目の前の少女は静かな瞳で一夏に向き合っている。

 

「なんでだよ、箒。そんな、力があるなら何してもいいみたいなこと言わないでくれよ」

 

「それはこちらのセリフだ。力があるなら取捨選択を自由にしていいと言っているようなものだぞ、お前のそれは。罪なき市民を守るために剣をとったお前が、道理から離れた罪あるものを優先して、最大の好機を逃すのは間違っている」

 

 その表情は別に非難をするようなものではない。少なくとも、軽蔑の色は一切なかった。

 

 だが、同時に教え諭すような響きがあった。

 

「人は何かを選んで何かを選ばない生き物だ。そんな風に選ぶ物を間違えて行動すれば、お前は自分の人生に胸を張ることなどできなくなるぞ」

 

 そういうと、箒は踵を返して祭りの場へと戻っていく。

 

 それを追いかけたいと思い、しかし一夏の足は動かない。

 

 まるで目の前の幼馴染が、自分が知る彼女とは全く違う存在へと変わってしまったかのような断絶感がある。

 

 それが、追いかけても本当の意味では決して追いつけないかのような感覚を与えてしまい、動けなかった。

 

「選んだ道を間違えるな。少なくとも、私はその道をそれるつもりはない」

 

 そういって闇に消える幼馴染と、一夏は追いかけることができなかった。

 

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