アースガルズ・コーポレーション。
世界最大級の総合軍需産業。
最大の特徴は、この軍需産業が政府の影響下ではない正真正銘の企業であるということにある。
銃に始まり、戦闘機や戦闘車両、さらには軍艦からISまで開発し、さらに戦力としてのPMCまで保有するこの組織は、政府を顧客とするがゆえに、基本的には一つの国家と直結している軍需産業としては珍しく特定の国を顧客としていない。
本社が置かれているのはアイスランドだが、アイスランド自体は軍隊を保有していない。現在は政府に土地を借りる代わりに、もし軍隊が必要となる事態になった場合は低価格で傭兵として行動し国防を行うことを約束している。
そしてその影響力は非常に幅広い。
ヨーロッパの一部はもちろんのこと、アフリカ大陸や南米などにも手を広げており、そしてそれらの国のISにおいても力を発揮する。
第二回モンド・グロッソでヴァルキリーを何人か輩出しており、その能力は決して低くないことを証明した。
ほかの軍需産業と比較しても、性能の割に比較的安いこともあり、その結果多くの国が主力兵器をアースガルズ・コーポレーションから輸入している。
その性能は質実剛健。特に故障しにくいことにおいてはかの伝説的小銃AK47に次ぐレベルの信頼性を発揮し、過酷な環境下でも使えることから、一部の先進国でも特殊部隊用に調達してるほどだ。
そして、そのアースガルズ・コーポレーションが最新型兵器の発表を行うことを世界各国に通達した。
それだけならまだしも、問題はその内容である。
あの世界中を共学に包んだ対IS兵器。そのデータを基にした量産型陸戦兵器の量産に成功したとの報告があったのである。
それに対して、世界各国が非常に強い反応を示した。
世界中に拡散した対IS兵器だが、解析と生産には非常に長い時間がかかると誰もが判断していた。
先進国内部にはあまり確認されなかったため解析に時間がかかり、数が多く確保できた国は技術面で後れを取っていたためこちらも解析に時間がかかった。
この兵器が量産できるようになれば、世界の軍事バランスは一変する。
超高性能であるが、数に限りがあるISに対抗することができ、しかも量産そのものに関しては限りなくすることができる兵器の存在は、もはや核に匹敵する価値を持つ。
それゆえに世界はこの発表会に注目し、軍事関係の人物が何人も出席する大騒ぎが発生した。
そして、その発表会において、ある密談が交わされている。
「・・・それで、アースガルズは悪魔にその警備を依頼するんですか?」
『まあそういうな。一応こちらからも人材を送るが、あまり送りすぎるとほかの連中が何か言ってくるかもしれんしの。その点おぬしらならヒルデのつながりで招待したといえばいろいろとごまかせるじゃろ?』
「まあ気にはなりますし、例の件もあるから直接見れる機会は貴重ですけどね」
『そうじゃろう? それに、こっちも気になることが多くてのぉ』
「まあわかりますよ。・・・ジーコンをそそのかした悪魔の存在がいまだにつかみきれてないですからね」
『そう。あのリリンの代わりとなる強大な悪魔なぞ存在そのものが危険じゃ。・・・そやつの手が伸びんとも限らんしの。特に新兵器はいくつかあるから手を伸ばしそうで伸ばしそうで』
「まあいいですよ。お土産追加で引き受けましょう」
オーディンにそう返しながら、しかしレヴィアは深く警戒してはいなかった。
確かにISを狙った襲撃は警戒するべきで、そして頻発してもいる。
だが、それはあくまでISの襲撃であってそれだけだ。ほかの軍事兵器においても同じ行動をとるとも思えなかった。
とはいえ無警戒で動くのも危険である。レヴィアは眷属のスケジュールを確保するだけでなく、動かせる悪魔を調べ上げて、それなりに動員することを考えながら、知人に土産にするには何がいいかを考えようと調べるためにパソコンを開いた。
・・・後日、この判断に救われたと感じるのはそう遠くない。
「・・・これが我々が開発した自走対空砲『ブリュン』の戦闘データとなります。見ての通りこの機体は世界各国に流出した対IS兵器のデータを参考にしており―」
「正直見てもよくわからないな」
「それは一夏に問題があると思う」
新兵器の映像を見ての一夏の感想に、簪は軽くため息をつく。
レヴィアに戦力拡充を狙って誘われたのにもかかわらず、二人そろってレヴィアとはぐれているので何となく一緒になったが、これは確かにいろいろと微妙である。
しかし一夏は軍事に詳しいわけではないので、今のを見てもすごいかどうかの区別が非常につかない。
こんなことならレヴィアが保有しているPMCでも見学に行けばよかったかもしれない。いや、PMCに自走対空砲があるのかどうかはわからないが。
「そもそも自走対空砲っていうのがよくわからないんだけど、どういう分類なんだ?」
「読んで字の通り、自分で動くことができる対空砲のことよ」
その言葉と一緒に、料理が乗った皿が突き出される。
そしてその持ち主は、その勢いのまま簪に抱き付いた。
「一夏君もどう? 材料も厳選されているから、食べないともったいないわよ?」
「お姉ちゃん・・・」
離れようかどうしようか微妙に迷っている感じの簪の声を聴きながら、一夏はとりあえず上に載っている料理に手を伸ばす。
「それで、自走対空砲でしたっけ? たしか襲撃してきたのって戦車ですけど、なんでそんなのにしたんですか?」
そこが一夏にはわからない。
戦車で送られてきたものを再現するなら、当然戦車で作ったほうが好都合だろう。
そこがよくわからないので、どうしてもそのあたりで首をひねってしまう。
「まあ、一夏君は軍事方面じゃ初心者だもの。そのあたりはわからないわよね」
そういいながら楯無は扇子を開く。
書かれているのは博学審問。
「じゃあお勉強タイムね。生徒会長がやさしく教えてあげる」
「まあ、対空砲とはアースガルズ・コーポレーションも考えたものだ」
料理を食べながら、ラウラはそう感心する。
「そうなの? あたしもそんなに軍隊に詳しいわけじゃないからわからないんだけど」
同じく料理に手を伸ばしながら、鈴はそう聞き返す。
その隣にいるヒルデも、プロモーション映像を見ながら首をかしげていた。
「そこは同感デス。自分もISについてしか教わってないのでその辺の軍事上がよくわからないデス」
IS中心で勉強してきた身ではよくわからないことに、ラウラは嘆息すると二人のほうに向きなおる。
「そもそも自走対空砲というのは、ISが登場する前の社会において、現代戦で航空機に対抗するために生み出されたものだ」
航空機がいるところで陸戦を行うためには、航空機に対する備えがなければならない。
最初から対空設備が万全な基地などにこもっていれば大丈夫かもしれないが、攻める場合は相応の体制が必要になる。
そこで、軍の進行速度で進むことができる、対空武装をもった陸戦兵器が必要となった。
その結果が自走対空砲である。
「ISがほかの軍事兵器とは一線を画し、さらに地上での高速戦闘を可能にするとはいえ、大局的な視点で見たらISは空戦兵器だ。陸戦兵器である戦車より、対空武装である自走対空砲で対応するほうが当然だろう」
「だったらなんであのテロリストは戦車でやってきたのよ。そんなもの設計するからには、そういった兵器の特性を理解してたんじゃないの?」
「おそらくは、プロパガンダ的な視点を基にして開発したからだろうな」
鈴の疑問にもラウラは平然と答える。
「戦車というのは陸戦においては代名詞扱いされていた兵器だ。自走対空砲がISを打倒するより、戦車がISを打倒するほうが一般人のイメージ的にはヒーロー的視点で見れることにより受けがいいのだろう」
確かに、機関銃がいっぱいついたよく知らない兵器より、誰でも知っている戦車のほうがイメージ的にはいいだろう。
「・・・まあ、あの大立ち回りはいろいろとからくりがあるのだがな」
「からくり・・・ですか?」
「うん、そうだよ」
セシリアにそう答えながら、レヴィアはオレンジジュースを口に運ぶ。
度数の低い酒なら飲んだことはあるが、今はIS学園で募集された発表会の参加者という名分で来ているし、魔王血族としてのメンツもあるため、飲酒はしない。
まあ、飲酒可能年齢が国によって違うのを利用して飲んだことは普通にあるが、とりあえず怖いお姉さん《織斑千冬》がいるのでその辺は気を付ける。
「・・・まあ教師全員で会議したことときの結論と同じだな。あれはかなり相手側に有利な状況だった」
大人の特権と言わんばかりに酒を飲みながらの千冬の言葉にうなづきながら、レヴィアはアースガルズ・コーポレーションの説明を聞き流す。
「まあ一つは不意打ちかつ初めてってことだよね。混乱状態で今までやったことがないことをするように言われたら、たいていの人はろくにこなせないよ」
それはまあ当然だろう。
何度も練習してやり方も教わった行動を事前に言われたとおりにやるのと、一度もやったことがないやり方も知らないことをいきなりする羽目になるのとでは、どう考えても後者が不利だ。
セシリアだって、初めてISを動かしたときはいろいろと四苦八苦したものだ。想像してみて確かにいやな気分になった。
「次は向こう側の圧倒的有利さ。・・・どう考えても対ISドクトリンが完成されている状態で仕掛けてきたのはわかるしね」
これもよくわかる。
つまりはさっきの話の逆だ。どうやったらうまくいくかを最初から知っていれば、しかもそれを何度も繰り返していれば最初にやるよりもはるかに上手にできるだろう。
いうなれば異種格闘技戦において素人と玄人が戦うようなものに似ている。そう考えると前代未聞の奇跡ともいえそうなあの戦いが、実は徹底的にいかさまを仕込まれた出来レースに見えてきた。
「とどめに言えば、あれは兵器的に完全にIS戦に調整されていた結果だ。現実的に運用する場合どう考えてもうまくいかん」
だが、最後の千冬の言葉がよくわからない。
世界最高の兵器であるISを打倒できる兵器ならば、IS以外にも十分な効果が見込めるのではないだろうか。
少なくとも超高速の戦闘を可能とするISに攻撃を当てれるような戦車、戦車同士の戦いで使用すればもうチートではないだろうか。
「これは各国家の上層部クラスにしか伝えていないデータだがな? あの戦車は砲弾に散弾を使用していたんだよ」
「散弾ですか!?」
その言葉にセシリアは驚いた。
自分もIS以外の軍事方面において玄人というつもりはないが、それでも戦車というものは散弾を使わない兵器だというのは知っている。
「しかも砲身は短く切り詰め、いまどき使われていないライフリングまでされている。徹底的に広い範囲に弾丸を叩き込む、近距離での高速飛翔物体攻撃用の設計で作られているんだよ、あれは」
半ばあきれた口調で千冬は言うが、これについては誰もがそう思うだろう。
戦車というものは、基本的には長距離にいる敵に高い威力の弾丸を直接叩き込んで破壊する兵器だ。基本的に平地での長距離戦闘こそが本領を発揮するといってもいい。
その運用を捨ててまで近距離戦闘用の武装を組み込んだ。確かにこれでは本来の目的では使えないだろう。よくて接近してくる歩兵の迎撃程度でしかほかの運用ができない。
そしてそういった運用はどちらかといえば装甲車の役割だ。加えて言えばそんな広範囲攻撃では歩兵を随伴することもできないだろう。
ISと戦えるという意味では突然変異といってもいい画期的な代物だが、兵器として考えれば数が限られ女性にしか使えないISなど足元にも及ばない欠陥兵器だ。
「とどめにアレ、本格的に作ろうとしたらそれこそIS数十機作っても余裕でおつりがくる値段になるんだってさ。いや、誰が金出して作らせたんだろうね?」
明らかに企画倒れしないとおかしいよと、レヴィアは乾いた笑い声をあげた。
確かにそう考えるとアースガルズ・コーポレーションの行動はとても納得だ。
戦車で作るとそんなものになってしまう。そんなことになればだれも買わないというか、誰も作らないのは明確だ。
だがあれは違う。
あれは自走対空砲としても極めて高い性能を発揮するほどに完成されてるので、対IS以外の用途にも十分に使用できるようになっている。
テスト時の対IS成績はIS一機につき勝負になる数は約12両。間違いなく対IS性能は低下しているが、しかしISと戦って勝負になるというだけで規格外の価値を持っている。
かの白騎士事件のとき、戦闘機数百機や艦隊が束になってもかなわなかった代物に、数十機でかなうことができるようになるのだ。それだけあれば十分すぎる。少なくとも自分だったら購入を検討するぐらいはするだろう。
それはその場にいる軍事関係者の相違なのだろう。その映像をみた者たちは、みな真剣な表情で新型自走対空砲に視線を向けていた。
「そういえばレヴィア言ってたな。・・・あの戦車をそのまま生産する馬鹿はいないとか」
すべての説明を聞いた一夏の感想はそれだった。
あの時はよくわからなかったが詳しく説明をされると納得だ。
現実では超高性能機の開発は難しいということだろう。確かにISのようにどう頑張っても数を用意できない兵器ならともかく、普通の兵器なら作りやすさや価格も考えるべきだ。高すぎたらその分損をすることもある。
料理でも、味を気にして高級品ばかり使っていたら家計が火の車になる。その辺は家事と同じだということか。
「レヴィアさんもそういってたのね。相変わらず頭がいいのね」
苦笑まじりにそう感心する楯無を見ていると、どうやらかつてのような敵意は薄れているようだ。
その事実にちょっとほっとしているのか、楯無をみる簪の視線も柔らかに見える。
「あら、愛しのレヴィアさんがほめられて簪ちゃんうれしいのかしら?」
「え? いや、別にこれはそういうのじゃ・・・」
「も~♪ 照れる簪ちゃんもかわいいんだから~??」
「も、もう! お姉ちゃんなんて知らない!」
「あ、ちょ、ちょっとまって簪ちゃん!!」
顔を真っ赤にしてその場からさる簪に、楯無は顔面を蒼白にして絶句した。
「きょ、距離のつめ方を間違えた・・・」
「・・・ドンマイ、楯無さん」
姉弟仲はまあまあの身としてはそうとしか言えなかった。
しかし予想はしていたが非常に人が集まっている。
パッと見るだけで白人から黒人、黄色人も多数いて国際色豊かだ。
「やっぱりロシアとかアメリカとかいろいろ来てるんだろうなぁ」
「アメリカは微妙ね。あそこ戦術ドクトリン的に自走対空砲は重視しないもの。世界最強国のプライドもあるから今回は様子見じゃないかしら」
早くも復帰した楯無がそう補足してくる。
「立ち直り早いですね」
「生徒会長を舐めないでくれる? ・・・それで話を戻すけど、今回の発表は世界各国が本気で動いてるわ」
そういう楯無の視線は鋭い。
暗部用暗部という日本の国防にかかわる立場であり、かつロシアの国家代表という存在からしてみれば、こういう動きも大事ということなのだろう。
「パッと見るだけで世界各国の軍事関係者がゴロゴロいるわね。なぜかプロテスタントの信仰者が八割超えているのが驚きだけど」
「そんなことまで知ってるんですか?」
「裏の活動っていうのは、相手の個人情報をどれだけかき集められるかが肝なのよ?」
とても知りたくない事実だ。
「一夏君も少しは覚えたらどうかしら。戦車ということはレヴィアさんの楯として動く必要だってあるのだし、相手の行動に対する警戒は必要よ?」
その言葉は確かに説得力がある。
本来戦車は耐久力とパワーの強化を行うタイプの悪魔だ。本来はネットゲームでいうタンク的運用をすることがメインになるだろう。実際転生悪魔の中でも打たれ強いものが多いのが基本だ。
そういう点においてレヴィア眷属は特殊だろう。耐久力重視の悪魔を強化するのではなく、将来的に危険に耐えられる耐久力を与えるために戦車の駒を使ったあたり、あの短時間で、レヴィアがどれだけ自分たちに気を使ってくれたかがわかる。
「・・・ちょっと違いますよ、楯無さん」
ただ、その運用は一夏には当てはまらない。
一夏は力を手にするにあたってその耐久力を捨てた。それどころか駒の特性そのものを捨てたといっても過言ではない。
カレドヴルッフの肉体影響によって、一夏の肉体はカレドヴルッフを使うことに特化した悪魔につくりかえられている。そのためその特性を真の意味では発揮できない。
それは自分が力を求めたからだ。それは自分の戦闘スタイルから考えて、剣術を学んでいた自分の経験を最大限に生かすためでもある。
そしてそれは、一つの思想を一夏に与えてくれた。
「・・・俺は、剣です」
そう、楯ではなく、剣。
「俺は、レヴィアを守る盾じゃない。そういうやり方を選ばなかったんだって、臨海学校で気づきました。」
防御力が低い? 剣術とは本来一撃必殺が思想だ。くらうことそのものが敗北だと考えればワンチャンある程度で十分だ。
悪魔としての特性を生かせない? そもそも死ぬところを救ってくれただけで御の字だ。特性はおまけと割り切れば問題ない。
守る側としてはおかしい? 確かに言われてみればそうだが、そもそも攻撃が入ってからじゃ遅いだろう。大事なものに攻撃が入るより先に、先手必勝で切り捨てる。
そもそも自分が傷つくことで傷つくものがいるのだ。ダメージを受けるという発想を可能な限り捨てるべきだ。
「レヴィアが、蘭が、誰かが、そして自分が傷つくよりも先に、脅威を切り捨てることで人を守る、そういう剣に、俺はなりたいです」
本作において、ISが表の軍事力で最高であることは変えるつもりはありません。
少なくとも総合バランスであれに勝てる兵器は絶対に出しません。束博士は間違いなく時代における最高の科学者です。それに聖遺物が混ざっている状態でどうやって勝てと