ちなみにレヴィア側のヒロインが出ます。
更識簪にとって、IS学園というのはプレッシャーがかかる場所だ。
IS操縦者日本代表候補生。そんな自分の肩書など、所詮は非才の身であることを証明しているようなものだ。
更識楯無の妹として、その程度ではあまりにも無能だ。
IS学園生徒会長という、学生最強の証明を行い、ロシア代表。
裏の顔として日本を守る暗部用暗部の担い手であるい彼女は、世界でも有数の天才だろう。
天は二物を与えずという言葉を粉砕し、栄光をほしいままにしている正真正銘の現代の英雄。
その美貌は誰もが目を引き、その人格は人を引き寄せ、その強さは人々を高ぶらせる。
おそらく、同じ年で比較すれば織斑千冬とだって張り合えるだろう。それだけの実力が彼女にはある。
・・・ゆえに、自分という影は浮き彫りになる。
「・・・・・・っ」
最新型の空間投影式キーボードを自在に操りながら、簪は自分の心が曇っていくのを感じる。
ああ、いつからこうなったのだろう。
ただ姉がすごいと感じて、姉の勝算をほめられているだけだったあの時はよかった。
だが、姉と同じように勉強をし、努力をし、運動をすればそれは変わる。
圧倒的な高み。自分が同じように鍛える立場になって初めて、その大きな差を思い知らされた。
姉がどれだけの努力をしているのかは知らない。だが、少なくとも自分がくじけそうになるほどの努力をして高く昇っても、彼女はそのはるか先に立っているのだ。
代表候補生など所詮は候補どまり。正真正銘の国家代表に比べれば、ベテランとルーキーぐらいの差があるのだ。それも学生の身分でなっているというのならなおさらだ。
そしてそんな高みにいる者の家族ともなれば、嫌でも色眼鏡がかけられる。
どれだけ努力して結果を出そうと、それを簪個人としてみる物はごく少数で、そのほとんどは楯無の妹としてみてくるのだ。
あの更識の妹なのだかそうなってもおかしくはない。そんな意味の言葉をかけられたことなど何度でもある。
あの更識の妹とは思えないレベルだ。そんな風に罵倒されたことも何度でもある。
自分はどこまで言っても更識楯無の影が付いて回るにもかかわらず、未だ追いつくことも出来ない。
それに代表候補生といっても、自分の機体は不完全だ。
史上初の男性操縦者、織斑一夏。
彼の存在により、倉持技研は自分の専用機である打鉄弐式の開発に関わっていた人材全て投入してでもデータ収集を急がせようとし、結果として開発は一時凍結した。
最も、その時は大株主の一人が「後続が出るかもわからないのに主流を遅らせるなど言語道断。代表候補生との契約を優先しろ」として持ち株すべてを他国のIS企業に売ると恫喝。指示を出したものすべてが降格・左遷・減俸などの処分を下され、生体データ以外のメンバーは全て戻ってきたのだが。
しかし、それでも現在の第三世代技術は未完成。これで代表候補生など笑わせるといわざるを得ない。
そもそも、更識楯無は自分の機体を自分で作成しているのだ。誰かに作ってもらった時点で隠したの証明でしかないではないか。
だから少しでも自分で作れる部分を作らねばならない。
別に姉を超えようなどというつもりはない。つもりはないが、それでも姉に負けない自分が欲しい。
更識楯無の影ではなく更識簪として見てもらうためには、それぐらいできなければ話にならない。
だから、今日中にせめてこのプログラムだけでも完成させなければと考え―
「簪ちゃ~ん? ・・・てい」
「ひゃわっ!?」
脇腹をつつかれて奇声を上げてしまった。
「・・・・・・なにするの」
「いや、いつまでたってもそこでちょっとびっくりするぐらいのスピードでプログラムを組み立ててたから。・・・もう九時だよ。女の子なんだからそろそろ晩御飯を食べないと」
ルビーのような赤い髪をなびかせ、ルームメイトのレヴィア・聖羅が苦笑していた。
その両手にはお盆があり、その上にはうどんができていた。
「プログラムの組み立てもあるみたいだから、食堂で食べるよりここで食べた方がいいと思って作ってみたよ。・・・根を詰め過ぎると逆にうまくいかないし、息抜きがてら食べてみて」
「い、いただきます・・・」
どうにも気を使わせてしまったらしい。
最初にあいさつした後は、何やら怪しい雰囲気を纏わせていたが、どうやら悪い人ではないようだ。
「適当に勝ってきた物しかなかったからこれぐらいしかできなくてすまないね。・・・こんど買い出しに言ってくるよ」
「気にしないで。・・・ありがとう」
器を使わせてしまったことが恥ずかしくて、顔が真っ赤になるのが自分でもわかる。
出あったばかりの女の子に、ここまで気を使わせてご飯まで作ってもらうのは甘えでしかない。
だけど、彼女は気にするどころか、満面の笑みを浮かべていた。
「気にしなくてもいいよ。僕は可愛い子が大好きだからね。これぐらいのサービスは大歓迎さ」
・・・マグマもびっくりするぐらい、顔が赤くなったと思う。
可愛いだなんて、そんなことないのに。
「・・・そういうのは、お姉ちゃんに言った方がいいと思う」
対そんな憎まれ口を叩いてしまう。
だけど実際その通りだろう。
更識楯無の美貌など、入学式でよく見ているだろう。
自分より彼女の方がはるかに女性として質が上だ。言っていて情けなくなるが、それは断言出来てしまう。
「・・・いや、簪ちゃん可愛いと思うけどな」
だから、そんなことを言われるとは思わなかった。
「え、えぇ!? わ、私が可愛い!?」
「ああ。確かに生徒会長は美人だけど、簪ちゃんも可愛さなら負けてない。世の中にはメガネっ娘萌えという言葉もあるし、そもそもベクトルの違う美しさを比べる方が間違ってるよ」
冗談だとしか思えなかったが、彼女の表情は真剣で、だから本当に言っているのだと分かってしまう。
「お姉さんが羨ましいよ。僕も簪ちゃんみたいな可愛くてすごい妹が欲しかったね」
だから、そんな言葉もつい信じてみたくなってしまうのだ。
更識楯無が姉で更識簪の立場が羨ましいといわれることは何度もあったが、逆を言われたのは初めてだった。
「あ・・・う・・・」
だから、胸にあふれてくるこの感情が何なのかよくわからなくて。
「ご、ごちそうさまでした」
そんな風に、話を変えることしかできなかった。
クラス代表決定戦当日、一夏と、付き添いできたレヴィアは途方に暮れていた。
「来ないな、IS」
「まさか入学前に最終調整のオーバーホールが来るとわね。・・・ま、一週間は練習したんだし何とかなるとは思うよ?」
一夏のISが遅れているのである。
まあ仕方がないといえば仕方がない。
かつても言ったが、織斑一夏は男性初のIS操縦者であり、専用機を用意しようという話があった。
それで研究中の第三世代機を放棄して、一夏専用機を用意しようという話になったのを、レヴィアが止めたのである。
当然といえば当然の話ではある。
一夏はレヴィアの下僕悪魔であり、IS学園にいるのはかなりイレギュラーで、在学中に男のIS操縦者のめどがつかなければ卒業後に事故死を装って人類社会から退場願うことになっているのである。
・・・そんな者のために新型IS一機開発させるなど止めるに決まっている。
追加でいえば、人間と契約をして対価をもらう悪魔として、レヴィアは契約は可能な限り順守し優先する主義である。
一度開発して軌道に乗っていた機体を停止して、ぽっとでの素人のために機体をつくろうなどという不義理な真似、許すわけがなかった。
結果として持ち株がたくさんあったことを利用して力技で止めており、さらにありとあらゆる手段を使ってそんな真似をした者達に制裁を加えている。
とはいえ、一夏が悪魔であることは秘密にしなければならないため、ISを用意すること自体は止めることができなかった。
・・・それほどまでに、男性IS操縦者というのは重いのである。
冥界に転移する用意はしてあるし、近接戦闘ならISにもまけない戦闘能力を発揮できるように一夏を鍛えているレヴィアだが、それを説明するのは自殺行為でしかない。
ゆえに、護身用も兼ねて専用のISを用意することは必然であった。
仕方ないので倉持技研のテスト用及び実験用のISを引っ張り出し、とにかく追手から逃れることを優先し、一夏が一番使いやすく、かつ将来的に弱い機体として認識されそうなものを選んで使用することになった。
「まあ、一次移行はできているし何とかなるんじゃないかい? 肩の力を抜きなよ一夏君」
「いや、代表候補生が相手なんだろ? ・・・なんでお前はそんな冷静なんだよ」
当事者じゃないからだとは思うが、一夏としてはそう思わずにはいられない。
「当たり前だろう。・・・正直君がコテンパンに負けてクラス代表を降りてくれた方がマシではあるんだから。むしろ負けろ」
「そりゃそうだけどさ!! 少しは男の矜持って奴を持たせてくれよ!!」
一夏はあんまりなレヴィアの本音に泣きたくなった。
事実その通りとはいえ、一夏にも勝負を挑んだものとしての意地というものがある。
なにも出来ずに無様に負けて、男の価値を暴落させるような真似だけは絶対にできない。
なにより・・・。
「お前の物として、なさけない姿は見せられないだろ?」
「・・・君はその悪癖をなおしたまえ」
レヴィアはためいきをついた。
この全自動フラグメーカーはこういうところがあるから困る。
正直恋愛対象としては全く持って見ていない自分でもグッとくるのだ。ただでさえ男に飢えているこのIS学園で、どれだけの数の女子を惚れさせてしまうのかと思うと、頭が痛くなってくる。
「お、織斑く~ん!」
そんな時に慌てて走ってくるのは、一夏の副担任山田麻耶。
回文みたいな名前の先生が、息を切らしてこちらに走ってきた。
「き、来ました。来ましたよ!!」
「で「出前がとかくだらないダジャレを言ったら張り倒して不戦敗にするよ一夏君?」ごめんなさいマスターレヴィア!!」
機の聞いたジョークで和ませようとしたのだが、レヴィアに読まれた揚句ダメ出しされて断念。
「い、織斑君のIS、到着しました!!」
そういう麻耶の後ろから、それは到着した。
・・・汚れや損傷をすぐにわかるようにするため、純白で塗られた機体。
倉持技研が第三世代に手を出すまでに、とにかく基礎性能を出せる最大限まで出そうとして開発された、テスト用IS。
分類としては第一世代だが、その技術は第三世代と同等の、一夏の専用機。
白をベースとする織斑一夏の専用機が、ここに参上した。
「・・・久しぶりだな、不知火」
今ここに、織斑一夏の最初のIS戦闘が始まろうとしていた。
本作品もう一人の主人公であるレヴィア。
そのメインヒロインは簪です。
そして一夏は白式ではなくオリジナル機体。
いや、レヴィアの正確設定を踏まえて行動する場合、一夏の専用機の流れは当然推測するし、今後のキャラを確定するためにもここでそんな行動を見逃すわけがなかったので。
まあ不知火も相当にとがった設計思想の機体ですので、主人公機としては相応の物になっておりますのでご期待ください。