IS学園の屋上で、その戦いを観察している物がいた。
20歳程度の風貌の、無愛想な男だ。
彼は常人では視認することなど不可能な距離から、クラス代表決定戦を最後まで見届けていた。
「見事・・・」
見に来て正解だったと男は思う。
本来ならIS学園に潜入すれば怒られるのは間違いなかったが、自信の潜入能力なら可能だった。自分の主からも要所要所のタイミングでは潜入を許可されている。
だから、彼をこっそり応援することにした。
そして、だからこそ牽制ができたならいいと男は思う。
「・・・出てこい」
今この屋上には男しかいないはずなのに、彼は誰かに命令した。
犯罪者というのは、犯罪を防止する能力も高いものだ。
どうやって潜入すればいいのか知っているということは、裏を返せば、どこを警戒すれば潜入しにくいのかを知っていることになる。
優れた隠密能力を持つものは、隠密能力を持つものを探すことにも長けている。少なくとも男はそうだった。
「あっちゃ~。気付かれてたんだね~」
その言葉とともに、男の隣の空間がゆがむと、一人の人物が姿を現した。
桃色の髪を持ち、外見年齢から判断して頭おかしいのかと言いたくなるようなウサミミを付けた美人の女性。
ISの開発者、篠ノ之束である。
「・・・何用」
「君と同じだと思うよ。・・・いっくんこと織斑一夏の初試合を観戦してたんだよぉ」
「・・・・・・」
男はかなり本気で警戒していた。
束の言うことが嘘だと思ったからではない。
束が恐ろしい実力者であることを察知したからだ。
天才という言葉を百重ねても足りないほどの頭脳を持っているとは聞いていたが、まさか肉体に置いても超人だとは思わなかった。
自分の能力なら五分に持ち込むことはできるだろうが、それでもこの間合いでは自分が不利だ。
ゆえに警戒だけは続け、いつでも距離をとれるようにしながら男は視線をアリーナに向ける。
「一夏、勝利」
「うんうん。束さんがこっそり試作機を改造していっくんに与えようとしたのを邪魔された時はどうなるかと思ったけど、まさか勝つとはね。さすがはいっくん」
今、とんでもないことを聞いてしまった。
いくらなんでも倉持技研の行動は不義理だと思っていたが、この女が関わっているとなれば話は別だ。
たとえ世界から苦言を呈されたとしてもお釣りがくる。誘惑に乗ってしまっていてもおかしくない。
一夏の話を聞いていて、人格面に多大な問題があると思っていたが、それにしては今の反応は話と違う。
彼女の態度は友好的といっても過言ではなかった。少なくとも、自分のような口べたすぎる者相手にここまで話をするような人物ではなかったはずだ。
そう警戒している男の方を向くと、束は静かに頭を下げた。
「・・・ありがとう」
なにがどうなっているのかわからず、男は隙を作らないようにするので精いっぱいだった。
「いっくんのことを守れるように待機していたんでしょ?・・・他にもいるみたいだけど、わざわざ潜入してまで助けに来てくれた君には特に感謝しないとね」
「一夏は仲間。当然」
「うんうん。そんなふうに言ってくれるような友達ができて、束さんは嬉しいよ」
満面の笑みを浮かべながら、束は歓声を浴びる一夏の方を向く。
「・・・これから、たぶんいっくんが卒業するまでに世界は大きく動くかもしれないんだ」
それは当然だろう。
世界の根幹を変えたISの、それまた根幹を変えてしまったのだ。
例えるなら、バランスを崩して取り戻そうとし、勢い余って逆方向にバランスを崩すようなものだ。それらが繰り返されて大きく揺れ動くことは予想できる。最悪の倍大きく倒れることだって十分にあり得るのだ。
しかも一夏の場合、旧魔王血族の眷属であるという爆弾が控えている。それがばれたら異形の業界から集中砲火を喰らう可能性も存在するのだ。
彼は、いわば起爆スイッチがオートで入りかねない核爆弾だ。
「だから、これからもいっくんを助けてくれると嬉しいな。私は残念だけど表だって動くのは難しいから」
とてもつらそうにいう束は、しかし表情を素早く変えると、探るような視線を男に向ける。
「・・・そういえば、お兄さんの名前はなんなのかな?」
・・・本当に、彼女は篠ノ之束なのか?
仲間から聞いた話と違いすぎて、男は本当に混乱した。
とはいえ自分がこの学園に姿を現すことは業界関係者にはばれている。
触りを話しても問題ないと考え、男はぽつりとつぶやいた。
「兵士、アストルフォ」
「そっかそっか。それじゃあ、いっくんをよろしくね」
その言葉と同時に、彼女はまるで蜃気楼のように消え去った。
追撃はしない。彼女を負うのは自分の役目ではないし、それ以上にこれからの警戒に力を入れねばならない。
「・・・困難、来襲」
どうやらこれからは、退屈だけはしない毎日のようだ。
そのアストルフォからの報告を思い返しながら、レヴィアは少しためいきをついた。
(偽物か何かだろうか?)
篠ノ之束の人間性に問題があるのは、本気で調べればすぐにわかることだ。一夏から聞くまでもなく、レヴィアはその情報は把握していた。
それが人並み程度の会話を他人と行うどころか、無口なアストルフォとコミュニケーションをとるとは思わなかった。
まさにミッシングリンク。行方不明になっていた間に何かあったとしか考えられない。
(後で一夏君に聞いた方がいいかもしれないね。さぁて、かの篠ノ之博士は今後どう動くか・・・)
「・・・どうかしたの?」
「あ、何でもないよ簪ちゃん」
隣を歩いていた簪に心配されて、レヴィアは表情を笑顔に変える。
最近は登校タイミングも同じになり、こうして一緒に歩くのも日常茶飯事だ。
・・・時折殺気が浴びせられるのは気のせいだと信じたい。と、いうか仕事している時間帯だろう生徒会長。
そして空気はちょっと桃色だった。どうも簪から発せられているようだが、一夏が好みのタイプだったりするのだろうか。
だとすると心底苦労するだろうなと、レヴィアは同情した。
「最近機嫌がいいみたいだけど、何かいいことでもあったのかい?」
「う、うん。ちょっといいことがあったから。・・・プログラムの方も最近は進んでるし」
「そっか。そこまで言うならすごいプログラムなのかい? 今度教えてくれると嬉しいな」
自分もプログラミング関係の知識はあるので、純粋な興味本位で聞いてみた。
「そうなんだ! じゃ、じゃあ完成したら、ちょっとだけ見せてあげる」
「ありがとう、簪ちゃん」
お礼の意を込めてにっこりすると、簪の頬が真っ赤に染まった。
・・・あれ? フラグ立てた?
そう察して、レヴィアは内心でものすごい勢いで冷や汗をかいた。
別に女の子に恋愛感情を向けられることに戸惑っているわけではない。自分は男も女もそういう対象として見れるし、現に友愛の感情を持った相手に対してそういったことをしたことは何度もある。追加でいえばどっちかといえば女の方が好みだ。
だが、自分がIS学園でことを起こすのは非常い不味い。
何度も書いているがレヴィアは悪魔である。そしてIS学園の生徒は国家のエリートと言っても過言ではない。加えていえば簪は代表候補生だ。
悪魔による内政干渉だといわれてしまう可能性は十分にある。
これが悪魔と人間のただの契約関係ならまだ問題ない。だがそれ以上の関係となれば教会が敵意を向けるのには十分な理由だ。
だから、彼女との距離はちゃんと把握して、場合によっては壁を作らなければならないのだが・・・。
「そういえば、今日の予習はできた? まだなホームルームの前に簡単に教えるけど」
・・・人の純粋な好意を断るのは、どうにも苦手だ。
そして、そのあたりの腹芸ができないということで情報を伝えられてない一夏は、SHR前にある話を聞いた。
「中国から転校生?」
「そのようですわ。何でも2組に編入されたとか」
すっかり仲良くなったセシリアからそう聞いて、一夏は首をかしげた。
普通入学式の直後といってもいいこのタイミングで転入だなんておかしい。
しかもIS学園の転入試験を受けるには、国からの推薦が必要だといってもいいのだ。
どう考えても代表候補生クラスだろう。さすがにそれを想像できるほどには、一夏もレヴィアからいろいろと叩きこまれている。
「ようやくわたくしの存在を危ぶんだ・・・といったところでしょうか?」
セシリアらしい自信に充ち溢れた言葉を聞くが、一夏としてはそれ以上の嫌な予感を感じていた。
(中国って言ったら仙人とか多いって聞いたよな。・・・まさか俺の正体に気付いて刺客がやって来たとか言わないよな!?)
そうなれば間違いなく大変なことになる。主に刺客とレヴィアが一夏をめぐって殺し合いをする可能性がとても非常に高くなる。
上級悪魔VS仙人。IS学園が消滅しないかどうかすごく心配になる。
次の休み時間にその転校生とやらを確認して、必要ならレヴィアの救援を仰ごう。
そう思っている間に、一夏の周りの会話はあっという間に変化していた。
さすがは女子の会話だ。・・・話が変わるのがマジで早い。
「一夏君には、クラス代表戦頑張ってもらわないとね~。主にデザートのために!!」
「当然ですわ。このわたくしに勝った者が、結果を残せないのでは恥以外のなにものでもありませんもの」
「おりむー頑張って~。あ、でもかんちゃんもいるから大変かも~」
「フリーパスがかかってるんだよ! 気合入れてよね!!」
「専用機持ちはウチ以外じゃ4組だけらしいし、いけるよこれは!!」
「なんでもそこの機体はとらぶってるみたいだし、もしかしたら不戦勝もいけるかもよ! よっしゃアイス食べ放題!!」
「さて、今のうちにダイエットの予定を立てておかないと・・・」
「「「「「それを言うな」」」」」
クラス対抗戦の優勝賞品、学食デザート半年フリーパスに目の色が変わっている女子達。・・・一部例外がいるが。
主もデザートが大好きだったし、女の子はそういったのが大好きなのだろう。
クラス代表としては優勝してクラスに貢献するべきなのだろう。とはいえ悪魔であることを考えれば、優勝して目立つのは避けてほしいところなのだろう。個人的には結果はともかく意地は見せたいところだ。
とても複雑な心境になるが、そこに水を指す言葉がやってきた。
「・・・いくらなんでも油断しすぎだろう」
いつの間にか、箒が自分達の近くにまでやってきていた。
決して孤独に過ごしているわけではないが、積極的にクラスメイトと交流しているわけでもない箒がこういうことを言うとは思わず、皆の視線が箒に集まる。
「セシリアの言うとおり、専用機持ちの代表候補生を警戒しているのなら、あちらも専用機を持っている可能性は十分にある。・・・クラス代表を交代するという可能性は十分にあるぞ?」
それは言われてみればその通りだ。皆が思わず頷いた。
そして、その相槌は外からもやってきた。
「へえ? 少しは頭の回転が速い奴もいるみたいじゃない」
声の主は、ツインテールを揺らしながら、教室の入り口に立っていた。
「さっしのとおり、二組のクラス代表の座はこの私が強だ・・・もとい、交渉の結果頂いたわ。もちろん専用機も第三世代よ」
代表候補生らしい、自信と自負に満ち溢れたその姿に、セシリアは警戒し、一般生徒は気押され、箒は関心する。
「始めましてこんにちわ。私が中国代表「鈴、カッコつけても似合わないぞ」ツカミが肝心って言葉を知らんのかぁああああ!!!」
そして一夏はマイペースだった。
「改めて!!」
怒気と共に踏み込み、
「中国代表候補生!!」
一夏の顔面を少女はつかみ、
「鳳(ファン)鈴音(リンイン)!!」
そのまま勢いよく振り回し、
「一組代表に宣戦布告に来たわよ!! あいさつ代わりにくらいなさい!!」
思いっきり投げ飛ばした。
セカンド幼馴染登場。原作よりもアグレッシブに参ります