繰り返して言うが、織斑一夏は悪魔である。
人とは圧倒的に異なる寿命を持ち、人とは異なる時間で生きる存在である。
時には人間を妾とすることもあるが、その多くは一種の遊びであり、人を利用する形がかつての主流だった。
今ではそんなこともだいぶ落ち着いているが、それでも悪魔の側に引き込んで転生させるといったことが非常に多い。
そして、織斑一夏は自分を弱いと思っている。
あのモンド・グロッソで己を弱さを痛感し、それを乗り越えるために相応の努力を積んできた。
だが、それでも自分はまだまだなのだ。
だから、彼女の告白に対して、こう答えたのだ。
「・・・ゴメン」
そしてクラス対抗戦当日。
『はい、対に始まりましたクラス対抗戦。第一回戦のゲストとして、初日に一組で名解説を行い一目置かれた、両クラス代表の共通の友人であるレヴィア・聖羅さんをお呼びしております』
『こんにちわ。いつもニコニコあなたのそばに、お耳の恋人レヴィア・聖羅です』
何をやっているんだ我が主は。
一夏は内心でそう突っ込んだ。
「あの方は一夏さんの応援にも鈴さんの応援にも回らないようですね」
セシリアは一夏のそばでセッティングの手伝いをしながら、かつ小型の端末を操作する。
そう、よりによって対抗戦の相手は鈴なのだ。
あの後、昔したとかいう約束のことを引き合いに出され、何とか思い出したのだが、なぜか思いっきり泣かれてしまった。
「料理が上手になったら酢豚をおごってくれる」であってると思うんだが、いったいどこを間違えたのだろう。
箒もものすごい絶対零度の視線を向けていた。「お前は本当に変わってないな。馬に蹴られて殺された方がいいぞ?」とまで言われた。解せぬ。
しかもレヴィアに徹底的にぼこられてしまった。千冬が止めに入るまで容赦なく殴り続けているし、本人も始末書を書いた上で「反省も後悔もしたくありません」と断言したらしいしなにが原因だろう。
「まあ一夏さんが大罪を犯したのは事実ですが、それは別として鈴さんの情報をお伝えします」
「セシリアまで!?」
なぜだ、そう違って覚えていない自覚があるのに、一体どうしてこうなった。
「中国製第三世代型、甲龍。近接格闘戦向けのパワータイプのようですが、肝心の第三世代兵器は不明ですわ」
「そこが厄介だよな・・・」
ブルー・ティアーズとはまた違う、中国独自の技術で開発された高性能は武装が隠されている。
一方こちらの不知火は、設計思想的には第一世代だ。
セシリアに勝てたのは対銃戦闘を叩きこまれたことと、そもそも三次元での一対多になれていたことが非常に大きい。
本来なら、アラスカ条約によってISの情報はすべて公開されることになっている。
だが、そんなものは建前だ。試作型ということもあって未完成だと言い張ればそれで十分ごまかせる。また、IS学園内で開発された者には適用されない。この組み合わせてほぼ完成した機体をIS学園で完成させれば、最高で三年間はデータをこっそり取り続けることができる。
政治の分野はさっぱり分からないが、レヴィアも「いろいろややこしい」と言っていたし大変だ。
まあ、そんな政治のことはわかる者に任せればいい。
織斑一夏のできることなどたかが知れている。
寄って、切るのみ。
「・・・サンキューな、セシリア。・・・言ってくるぜ」
「はい。行ってらっしゃいませ。そしてできれば、勝ってください」
最初のころからは想像も出来ない柔らかな笑顔が返ってきて、ちょっと照れてしまった。
気付かれてないと良いが、たぶん気付かれてるんだろうな。
「・・・ま、頑張ってみるよ」
深呼吸をして、気分を落ち着ける。
今は余計なことを考えるな。
織斑一夏はレヴィア・聖羅の戦車だ。
戦いを前に、余計なことを考える余裕はない。
「織斑一夏。不知火、行くぜ!!」
赤みがかった黒のIS。両サイドにある一対の非固定部位。
第三世代IS、甲龍を纏った鈴が宙に浮かんでいた。
「よく逃げずに来たわね」
「逃げる? それはこっちのセリフだよ。お前こそ、負ける覚悟はできたんだろうな」
開放回線でお互いに挑発をし合う。距離は十メートルもない。ISなか完全に近接戦闘の間合いだ。
「まさかと思ってるけど勝てると思ってるの? データとり用で完成されてる、情報を取り放題のその機体で、データが開示されていないこの甲龍を倒せると?」
「さあな。だけど、俺は無様にはいつくばることだけはしない。・・・知ってるだろ?」
そう、鈴はそれを知っている。
織斑一夏がどういう生き方を選んだのかも、そのためにどれほどの努力を積んできたのかも。
そのほとんどはISでの戦闘には意味をなさないものなのかもしれない。
だけど、それでも鍛えてきた維持はある。
「・・・ええ、そんなの知ってるに決まってるじゃない」
だから、鈴は一夏を馬鹿にしたりも油断したりもしない。
『な、なんだかすごくわかり合っているような会話なのですが、もしかして二人は・・・』
『一言言いましょう。一夏君は極めて厄介なフラグクラッシャーで朴念仁で鈍感でどうしようもありません。・・・違います』
「なんでそこまで言われなきゃならないんだよ!!」
実況担当の生徒にかぶせて答えたレヴィアの毒舌に、一夏は吠えた。
なぜそこまで言われなければならないのだ。泣いてもいいだろうか?
「ええ、本当よ。・・・ヤバいまた泣きたくなってきた」
「だからどういうことなんだよ!!」
挙句鈴は鈴で泣きそうになっているし、もう何が何やら全く分からない。
「だから、「料理が上手くなったら毎日酢豚をおごってくれる」のどこが間違ってるんだよ!! 間違ってるにしても「奢る」が「作る」に変わるぐらいだろ!?」
だからつい言ってしまったのだ。
・・・それが最大級の核弾頭だとも知らずに。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
・・・すごい、沈黙が発生した。
登場者を保護する機能があるゆえに、気温などの調節機能も付いているはずのISを装着してなお、ものすごく冷たかった。
主に日本人から発せられるその空気に、一夏は思いっきり戸惑った。
「・・・え? あれ?」
これは、まずい。
なにが不味いのかは分からないが、とても不味い。
『一夏さん。・・・もう自害なさった方がよろしいのでは?』
「セシリア!?」
『一夏。・・・姉さんが一緒に死んでやる。死んで詫びよう』
「千冬姉!?」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「そこまでわかってるのになんで気付かないの!?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「だ、だからどういうことなんだよ!?」
セシリアはおろか千冬が素で嘆き、挙句の果てに観客の多くから駄目だしを喰らって、一夏は自分が完ぺきにアウェイなことに気付いた。
さすがの自分でもこの視線はどういう意味かよくわかる。
―やっちゃったよ、コイツ―
『・・・一夏君。こうなったらもうみんな気づいてるみたいだしあえて言おう』
ものすごい頭痛そうな声で、レヴィアはものすごく言いにくそうに、しかし口を開いた。
『つまりこれはあれだよ。日本人が「私の味噌汁毎日食べて」的なアレ。・・・遠回しな、愛の告白だよ』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
日本人特有の遠回しな言い方ってやつだね。もう俺にはよくわかんねえよ。ハッキリ言ってやろうぜ? 男だろ。あ、鈴は女か。
つまりこれは、衆人環視どころか公式に記録されている状況下で告白されたといったようなものだ。いな、正真正銘その通りなうえ、国家代表候補生と史上初の男性操縦者のラブロマンスか。
つまりは。
「し、しししししししししし死ねコラァぁあああああああああっ!?」
衆人環視でバラされた鈴が本気で怒るということである。
「うわぁあああああああ!?」
鈴、公衆の面前で恋心暴露。
しかしこれで一夏に悪い虫が寄ってくる可能性は激減するわけで、場合によっては鈴にとっても一夏にとってもいいことなのでは・・・?