住所が変わることに興奮を覚えた人が、行くところまで行く話。
規模が大きいようですごく小さいSFです。

作者xはこちら。
https://x.com/ZAT23_A0

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2200文字くらいのSF短編です。


住所変更ってワクワクする

かつて日本と呼ばれた場所。島国だった面影はすでにないここにも、まだ人が生きている。

 

二つの銀河が交差する夜空はあまりに明るい。かつての満天の倍以上の星空を眺めて日記を綴る。

記念として最初からの全てを残しておきたくなった。だから書いてみようと思う。親族へ手紙として送ってもいいかもしれない。

 

私は生まれてから何かに強く心惹かれることがなかった。

勉強や運動をそつなくこなし、褒められても当たり前。強く惹かれることはない。

 

決して忘れない原体験。小学一年生のあの時、初めて心が動いたことがあった。

 

住所が唐突に変わったのだ。埼玉で生まれ育った私は、大宮市に住んでいたが場所は変わらないのに、急にさいたま市へと住所が変わった。

 

なんだかよくわからない高揚感が止まらずに、自分の所在が変わってないのに変わったことへの違和感がたまらずニヤニヤと住所をずっと見ていた。

それをなぜだか人には知られてはいけない気がして、自分一人でその胸の高鳴りを味わっている。

 

それからは一人暮らしをすることを目標に勉強し、大学をきっかけにそれを実現した。応援してもらえるようにその真意は隠して、最難関の大学に入ったというのは我ながら効率的とは言えない。けれどその時はそれが最善だと思っていた。

 

住所を変える手続きは、まるで新天地に向かう開拓者のような気持ちで。そして自分が変わったような感じがして最高だ。

 

家族は好きだし地元の友達も仲が良い。でも次は国を変えてみたいという思いが止まらない。

 

流石にそれはと止められる気がして決心はつかなかった。でもノーベル賞を受賞した科学者の話を聞いてこれだと思った。賛否はあっても彼はその移籍を世間から祝福されていたし、日本人としても認められていた。

 

これなら誰も不幸にせずに国籍を変えられるかもしれない。だから研究に没頭した。

 

動機は誰にも理解されないだろうが、それでも私は研究が得意だった。発見した理論で核融合発電が実現。胸を張ってアメリカ国籍を取得する。

 

統一理論を完成させ、重力制御の一歩を踏み出す頃にはノーベル賞のメダルが何枚も手元にあった。それでも自分が見ていてニヤけるのは賞状の一部分である。住所がアメリカになったアドレス欄だった。

 

よし。じゃあ次だ。

 

月面の開発に全力を注ぎ月面都市を達成することは統一理論に比べれば楽な仕事であった。

そして10回目の火星探査及び基地の作成が済んだ時、ついに核融合炉を宇宙で組み立てることに成功した。

 

多くの人から止められたが、自分が立候補して火星基地への移住を押し切る。私はただ、新しい住所に住んでみたいんだ。前人未到のその火星の住所にはかつてないほど興奮する。

 

だってそうだろう。私が火星に住めば、以降地球のみんなは国の前に地球という言葉を住所に入れることになる。私が世界中の全員をいっぺんに変えてしまうようで、そんな魔法のような機会を逃すわけがない。

 

そして私は人類初の火星の住所を手にいれる。月から火星への住所変更届は最高だった。

まだ終わりじゃない。でも今すべきことは終わった。あとは後進に任せよう。

 

オリンポス山の麓で、私は長い長い眠りにつく。

 

目が醒めると300年が経っていた。地球の資源を全てコントロールできた人類は、すでに火星だけでなく木星の衛星にも拠点を移し、ついに別の恒星系へと進もうとしている人類。私は人類史を変えた偉人として若返りの施術まで受けていた。

 

じゃあ、次の目標は当然これだ。

 

四光年先の一番のご近所さんプロキシマケンタウリという恒星へと向かう。あまりに近いその惑星への移住に志願する。たったの約37兆8,430億 km先にあるそこは宇宙から見れば本当に目と鼻の先である。

 

すでに寿命を克服しているからここからの時間制限はかなり余裕がある。しかし無限じゃない。色々としているうちに到達し、気づけば全人類の住所に太陽系という文字が追加されてた。

 

最初のプロキシマ人として気さくな挨拶を地球へ送った。

 

さて、45億年が経った。そろそろ天の川銀河の近傍にアンドロメダ銀河が来る時期だ。どうにか合体の寸前でアンドロメが銀河に移り住み。そしてそのまま合体する。ミルキーウェイ銀河とアンドロメダ銀河が合併し、ミルコメダ銀河住みに自動的に変更される。

 

そういえば一番最初。大宮市がさいたま市に変わったことから始まったのだ。スケールの違いに笑えてくる。

 

一度戻ってみたくなって日本だった場所に戻ってみる。

恒星の制御を実現し、水素をいくらか抜いたことで太陽はその寿命を大きく伸ばしている。プレートテクトニクスまで制御された母なる地球は、科学技術によってまだ健在だ。

 

すでに大陸と融合して離れ、また合体して別物になっているがかつての記念に自分の生家の場所には記念館が建っている。ある時まで隠していたこの想いは、思念対話の実現で隠せないものになっていた。

 

気を利かせた統治者が観光を目的として埼玉県という地名を復活させてくれたのだった。銀河団を超える事業の前に良い機会になったと思う。

 

ミルコメダ銀河 太陽系 第三惑星地球 ヤマト超大陸 ニホン地方 サイタマケン サイタマシ ニシオウギ 3381ー5

 

住所変更が趣味の私より。子孫のみんなへ。

 

親族向けのプライベートな超光速通信が、全部合わせて80億を超える親族たちに向けて飛んでいった。

 

本来はないはずのそれには銀河郵便の粋な演出が付いていて、色とりどりの光が束のように天に向かう。地上から打ち上がる流星群のようであり、大地から天球へと根を伸ばす大樹のようでもあった。

 

宇宙へと広がる家族、今生まれたであろう新たな子孫へ。このワクワクが届きますように。

 




住所変更手続きのために待っていたときに思いついた1話完結の短話でした。
村山斉さんの『宇宙はなぜ美しいのか』を読んだこともきっかけかも。

宇宙って、いい……

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