【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
グラップルでセラフィの下に辿り着くと、「テクトさん!」とセラフィが俺を出迎えた。
「セラフィ! 助かった。セラフィがいなかったら危なかったぜ」
「えへ、テクトさんの役に立てて良かったので」
「他のみんなは?」
「アイギスさんは少ししたら来ると思うので。リンドホルムさんは秘策があるとかで、離れた場所で準備。デルフィアさんはリンドホルムさんを守ってるとか」
リンドホルムはリーフィの名字だ。確かに魔獣島の森は、リーフィの魔法の浸透が済んでいる。もっと大規模なことができるのだろう。デルフィア、つまりウィズはその補助か。
「分かった。なら、一緒にやろう、セラフィ」
「うんっ! でも、地龍は強いし、多分余裕なので」
セラフィは珍しく強気だ。しかし、俺は首を振る。
「いや、油断するな。チャミーのマレデウスも、カノンも、今まで戦った中じゃ最強の敵だ」
直後、地龍の足元が揺らぐ。
「っ!? なっ、何が起こってるので!?」
俺はグラップルで素早く飛び出し、確認する。そして唇を引きつらせる。
カノン。筋骨隆々の偉丈婦が、岩鎧をまとい、地龍の足を持ち上げている。
「ホントっ、何者なんだお前!」
地龍のサイズ感は、いくら怪力でも持ち上がる範囲を超えている。例えるなら高層ビル数棟とか、そういうものだ。それを、カノンは足一本とはいえ、持ち上げていた。
そしてカノンは、俺の問いにこう答えるのだ。
「私は、何者でもない。ただのチャミーの婚約者だ」
「――――ッ」
地龍の足が投げられ、俺は飛び出す。地龍なら頑丈だから、と投げ出された足の向かう先に、頭から落下する。
このままいけば、俺は頭から地面にぶつかり落下死だ。だがそんなの関係ない。
俺は、パイルバンカーを振りかぶる。
「パイルッ、バンカーァァアアアアアア!」
パゴォォオオオオオン! と軽快な金属音が響き、飛ばされた足が元に戻る。カノンは素早く回避してこれを避け、地龍は転ばずに体勢を立て直した。
さて、あとは体勢を立て直して、戻るだけ―――と我に返り、俺は地上数メートルを切っていることを知る。
「あ、これ死んだ?」
「だから無茶すんなって言ったじゃないッ!」
そこを助けに来たのは、アイギスだった。スライディングで滑り込んで、頭から落ちる俺を優しく受け止め、ズザザザッ、と土をまき散らす。
「アイギス! 助かった! これは死んだなと思ってたんだ」
「テクト! 本当アンタ、帰ったらマジ説教だから! 今日という今日は許さないからね!」
一分ぶり二度目の死にかけるピンチに、アイギスは怒髪天だ。俺は何も言い返せず、「はい……」と甘んじて頷くばかり。
だが、地龍が体勢を崩さずにこの場を凌げたのは、大きなアドバンテージだ。
俺はセラフィに叫ぶ。
「こっちは無事だ! ぶちかませ、セラフィ!」
「テクトさんはまた無理して! 王子たちを早く倒して、ぼくからもお叱りがあるのでッ」
ゴ―――ン、と鐘の音がどこからともなく響く。同時、地龍が駆け出した。
狙うは海神マレデウス。『来たか、地龍!』と受け止める体勢を取る。
そこに、地龍が激突した。ズゴォォオオオオン……! と鈍く大きな音が、島中に響く。
「うくっ、どうだ! 効いたか!」
激突に舞い上がる砂煙に、目を細める。砂煙が晴れた時、戦況が露わになった。
マレデウスは、地龍を受け止めていた。いくらか外装は剥がれて、無傷とは言えないが―――なお、健在。
『ハハハッ! 今のは慌てたぞ、聖女候補筆頭殿! よくもこれだけのことをしたものだ!』
チャミーの笑い声に、俺たちは歯噛みする。しかし、セラフィは淡々と言った。
「? 何を勘違いしてるので? 地龍は、ただ
『はっ?』
セラフィが地龍の上を駆ける。そして、飛び出した。
セラフィの体が空中に舞う。小さな体は飛翔の手段を持っていないはずだった。
だが、それでもセラフィは動じなかった。ただ手を組み、詠唱する。
「主よ、福音をもたらしたまえ」
光が、マレデウスに差す。鐘が鳴り、魔法陣のヘイローと翼がセラフィに現れる。
『!? 何だこれは。海神が動かない!』
チャミーが叫ぶ。セラフィは詠唱と共に空中に固定され、落ちなくなった。
「テクトさん! これでしばらくこの大きいのは動けないので! その間に―――」
その時だった。
カノンが、セラフィ目がけてミョルニルを構えていた。「シィィイイイイ……!」と深く息を吐き、呟く。
「チャミーの邪魔をするのなら、例え友人の連れであっても許しはしない」
ミョルニルが、空を切る。俺はアイギスから離れ、咄嗟に飛び出ようとした。
それを止めたのは、アイギスだった。
「だから、言ってるでしょ。無茶しないの。アンタには、アタシたちがついてるんだから」
岩鎧。巨大ハンマー。アイギスは狙いすまして、岩でできたハンマーを投げつける。
狙いはセラフィの僅かに横。タイミングは完璧。カノンの放ったミョルニルが、アイギスのハンマーに弾き飛ばされ、セラフィは直撃を免れる。
「し、死んだかと思ったので……!」
セラフィが空中で、手を組みながら震えている。聖魔法は強力だが、ミョルニルのような、高速かつ大威力の一撃には対応しきれないらしい。
そして、カノンは俺たちを睨みつける。俺たちも同様だ。お互いに、確信しているのだ。
―――カノンを倒さなければ、チャミーに勝つことはできない、と。
―――俺たちを排しないと、チャミーを助けられない、と。
だから、俺たちは構える。カノンと睨み合う。
カノンは、言った。
「私はチャミーと違い、貴様らに何の感情もない。今まで下してきた敵と、何ら変わらない」
「……そうでしょうね。だってアタシは、アンタにとってその一人だもの、カノン」
アイギスの言葉に、カノンが僅かに首を傾げる。あいつ、アイギスを年一で下している自覚がないのか? と俺は困惑する。
でもね、とアイギスが俺の腕を掴んだ。
「テクトは、一味違うわよ。アンタと同じ、特別。簡単に倒せるだなんて、思わないことね」
「……」
カノンは目を細め、俺を吟味する。そして再び、ミョルニルを放った。
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