【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
アイギスはハンマーを投げ、今手元にない状態だ。
そんな俺たちに投げられたミョルニルに対応できる手は、俺には一つしか存在しなかった。
「パイルッ、バンカーァァアアアアアア!」
パゴォォオオオオオン! と金属音が響いて、ミョルニルが爆風に弾かれる。そんなこと初めてだったのか、カノンは「む」と声を漏らす。
俺は言った。
「アイギス! ハンマーを回収しろ! その間、俺がアイギスを守る!」
「分かったわ! 行くわよッ!」
アイギスが飛び出す。その後を、俺がグラップルで追う。
もちろんカノンはミョルニルを回収して、再び俺たちに狙いを定めている。次なるパイルバンカーを構えるが、パイルバンカーの熱が引いていない。
「っ、ごめんアイギス! あいつ回転率高すぎて、パイルが間に合わん!」
「それはちょっと想定してたわ! とりゃああああっ!」
俺が告げると、アイギスが手に持った岩のような盾をぶん投げた。ミョルニルにぶつかり、軌道が変わる。俺たちの背後の地面をえぐり、再びカノンの下に戻っていく。
「アイギス! 盾、良かったのか!?」
「いいのよ! 『小さな要塞』の秘宝、ミョルニル相手に量産品の岩盾じゃ意味ないもの!」
アイギスが走り抜く。そして再び、巨大な岩ハンマーを手にした。
「もちろんハンマーもだけどね! でも、これで勝負になる!」
ぶぉん、とアイギスがハンマーを構え、前に出る。
そこに、カノンがミョルニルを投げつけた。
「武器を取り戻したから何だというのか。その辺の木っ端『小さな要塞』など、これで終わ」
「らぁぁああああッ!」
ガゴォンッ! と激しい音を立て、アイギスはミョルニルを、ハンマーで地面に叩き潰す。
「っ」
それに、カノンは目を見開いた。「そうか、お前、覚えているぞ」と呟く。
「私が第一席に座って以来、毎年席次考査で最終戦に現れる奴だ。源流の血。名を―――」
「アイギス・グロリア・アラゴニア! 血統次席! アンタに数年負け通しの女よッ!」
アイギスが名乗る。それに、初めてカノンが、笑みを見せる。
「そうか、お前だったか。悪かったな。『小さな要塞』はみな、小さくて見分けがつかん」
カノンが片手を上げる。するとミョルニルが再びカノンの手に戻る。
カノンは構えを取り、名乗った。
「『小さな要塞』第一席、カノン・ブラストクロム。源流の血、血統次席殿。非礼を詫び、今一度勝負に臨もう」
カノンが、ミョルニルを振りかぶる。今までよりも、長い
それに、アイギスは震えた。構えてはいるものの、先ほどの自信がない。きっと今まで、対処しきれなかった一撃なのだ、と俺は気付く。
だから、俺はアイギスの腰を抱いた。
「っ、テクト!?」
「アイギス! グラップルじゃハンマーは運べん! 投げた方向に飛ぶ!」
「―――分かったわ!」
俺の短い言葉で意図を掴んで、アイギスは上空にハンマーを投げた。木はない場所。だが、今の俺ならそこに飛べる!
俺は地面に向けてグラップルを放つ。アイギスを抱えて強烈に引き寄せられる。
そこに向かって、ミョルニルが放たれた。
今までとは、更に数段上の勢いだった。直撃すれば、俺は肉片も残らないだろう。
そして、直撃する寸前。距離にして数メートル。
「開け、パラグライダー」
俺はグラップルの勢いをそのままパラグライダーで斜めに変換し、アイギスのハンマー目がけて上昇する。
「なにっ」
「アイギス! 行けっ!」
「ありがとっ、テクト!」
アイギスが俺から跳躍してハンマーを握る。空中で縦にぐるんと回転する。
「カノン、アンタは強いわ。でも―――『小さな要塞』に、無防備なまま、ハンマーを投げつけられたことはないでしょッ!?」
そして、アイギスは空中から、カノンに向けて巨大ハンマーを投げつけた。
「ぬっ、ぐぅっ!」
アイギスのハンマー投擲は、カノンに及ばないとはいえ、それでも威力絶大。カノンは素手で受け止めかね、抱えるようにしてズザザッと地面を後退する。
「よしっ! 今の内にミョルニルを押さえれば勝てる! テクト!」
アイギスが俺に手を伸ばしてくる。俺はその手を掴みながらパラを仕舞い、俺たちが躱し地面にめり込んだままのミョルニルに、グラップルを飛ばした。
グラップルの先端が地面に刺さる。高速移動。からのアイギスを投げ出し、アイギスが先にミョルニルを押さえに掛かる。
「ミョルニル! アンタのことは知ってるわ! 『小さな要塞』に伝わる秘宝! いい子だから、これ以上暴れんじゃないわよ!」
アイギスはがっしりとミョルニルを掴み抑える。「テクト!」と呼ばれたから、俺は「任せろ! カノンは俺が―――」と方向転換しようとした瞬間だった。
ミョルニルが、一人でアイギスを振り払い、カノンの下へと舞い戻った。
「え……っ」
「次席殿」
カノンが、アイギスが放ったハンマーを捨て、ミョルニルを手にする。
「お前の敗因は、他人に決定打を譲ってしまう、その弱さだ」
そして構え、アイギスに放った。
「がぁ……っ」
ミョルニルはアイギスに直撃し、アイギスを吹っ飛ばした。俺は「アイギス!」と叫んで近寄る。戻ってくるミョルニルが俺を狙ってきたから、パラグライダーで避ける。
「アイギス、アイギス! 大丈夫か、アイギスッ!」
ぐったりとしたアイギスに駆け寄る。「ぅ……ぁ……」と虚ろに呻いている。その口からは血が垂れ、このまま死んでしまうのではないかと危惧する。
「躱したか。確かに、次席殿が言う通り、お前は特別らしい」
カノンが、俺を見る。俺はアイギスに触れながら、歯を食いしばってカノンを睨む。
アイギスは気付けば、屋外で大の字になって寝転んでいた。
「……ここ、どこ?」
起き上がる。そして違和感に気付いて、振り返る。
そこには、かつてカノンに吹き飛ばされた、席次考査決勝戦のアイギスが倒れていた。
『負けを認めるか』
目の前には、カノン。その、かつての姿だ。今よりも僅かに小さい。いまだに成長してんの? とアイギスはその身長を羨ましく思う。
それに、倒れたままの過去のアイギスは言うのだ。
『アタシはまだ……! 負けて、ない……!』
アイギスはそれを見て、「ああ」と呟く。
「これ、カノンと最初に戦ったアタシだわ。まだ、やる気満々のアタシ……」
過去のアイギスが、傷だらけになって立ち上がる。それを痛ましい目で見て、今のアイギスは呟く。
「この時は、まだまだやる気だったのよね……。一番、カノン相手に食い下がって」
それが、いつの間にか、どんどんと諦めが良くなってしまった。だってカノン相手なのだから。今しがたの戦闘も、テクトがいなければもっと早くに諦めていただろう。
「……弱くなったわね、アタシ」
自嘲する。どうしてこんな風になってしまったのだろう。カノン以外には負けないが、カノンにだけはあっさりと負けてしまう。
きっと、心が負けているのだ。何度も何度も負け、心が敵わないと決めてしまった。
「仕方ないわよね。だってカノンよ? 物語の主人公みたいな、特別な奴。優秀でも普通のアタシには、勝てるワケないわよ」
首を振ってため息を吐く。本当に、無謀な戦いに身を投じてしまったものだ。いくらテクトを守るためとはいえ……。
「……このまま立ち上がらなきゃ、もう、二度とテクトのこと、守るだなんて言えないわね」
ぽつり、と思ってもなかったことを呟く。それが自分の耳に入って、ゾッとした。
ああ、そうか。ついに、ついに恐れていたことが起こってしまったのだ。
特別なテクトに、優秀なだけのアイギスがついていけなくなる時が。ついに今、来たのだ。
「……う、うぅ、うぅぅぅぅうううう」
全身が、震える。涙がこぼれる。頭を抱え、その場にうずくまる。
「もう? もうなの? アタシは、アタシはもう、テクトの傍にいられないの?」
泣きながらかぶりを振る。ツインテールが、ふるふると揺れる。
「嘘、そんな、早すぎる。嫌、嫌よ。アタシは、アタシはもっと、テクト一緒に居たいのに」
でも、立ち上がれないという事は、そういうことだ。テクトはきっと、アイギスなしに勝つだろう。他の特別な女たちと共に、アイギスを置いていくのだろう。
「やだ、やだぁっ! そんなの嫌! アタシは、アタシはテクトさえ居てくれればいいのに」
だが、それすら敵わない。それが女だ。弱い女には何も与えられない。
そうして頭を抱えて震えているアイギスの横を、通り過ぎる者がいた。
それは、過去のアイギスだった。傷だらけになってなお、過去のアイギスは前に進んだ。
「……もう、止めなさいよ。死んじゃうわよ? 相手は、あのカノンなのに」
案の定、前から飛んできた巨大ハンマーで、過去のアイギスは吹っ飛ばされる。
それでも過去のアイギスは、立ち上がって、何度でもカノンに挑みかかった。
「何でよ。何で倒れないの? 何で挑めるのよ! 相手はあのカノンなのよ!? アタシごときじゃ太刀打ちできない、特別な―――」
『カノン! 確かにアンタは特別よ! 戦って肌で分かった! でもね!』
過去のアイギスが、カノンに叫ぶ。
『それでもアタシには、守りたい男がいるのよ! アンタごときに負けるようじゃ、テクトのことは守り切れない!』
「あ――――」
過去のアイギスが吹っ飛ばされる。それを、今のアイギスはじっと見つめていた。
過去のアイギスは、よろけながら、なおも立ち上がる。アイギスは、実力そのものは絶対に今の方が上なのに、今は失ってしまったその反骨心に震える。
「アタシ、アタシは……」
その時、テクトの声が響いた。
『アイギスっ、アイギス! 起きろ! 起きてくれ!』
「っ? テクト!? どこ? どこにいるの?」
パゴォォオオオオオン! とテクトのパイルバンカーの音が響く。それで、アイギスは理解した。自分の意識が、覚醒に向かっているのだと。これは、現実世界の音だと。
「テクト……アタシのこと、守ってくれてるの?」
アイギスは気絶する寸前のことを思い出す。カノンとの戦闘。ミョルニルに吹っ飛ばされ、気絶していたはずだ。
なら、テクトは、男の身でありながら、一人でアイギスを守っている……?
『アイギス! ごめん! 俺、男なのに! こんなヤバい奴を相手に、アイギスが守ってくれるって慢心してた!』
テクトの声が聞こえる。アイギスは「え、そんなの、当然でしょ……?」と呆然とする。
だが、テクトは続けた。
『俺、お前を頼りすぎてた! 俺がお前を守らなきゃならないのに! だから、ごめん! 俺がお前を守るから! だから、だから起きてくれ! 死なないでくれ! アイギス!』
アイギスは震える。「ダメ」と呟く。細かく首を横に振る。
「ダメ、ダメよ。そんなのダメ。テクトがアタシを守ってカノンと一人で戦ってるなんて、そんなの絶対ダメ。そんなことしたら―――テクトが、死んじゃうッ!」
アイギスはパニックに陥る。周囲を見る。過去の光景。
何か、何かないか。ここから脱出する方法は。このままではテクトを死なせてしまう!
「出して! 出しなさいよ! テクトが今ピンチなのよ!? アタシをここから出しなさいよ! ぶち殺すわよッ!?」
必死に叫ぶ。その中で、輝くものがあった。過去のカノンが持つミョルニル。
それに、アイギスは飛びついた。
「寄越せッ! 寄越しなさいよ! テクトを守るためなら、アンタなんか―――」
そしてアイギスは、過去のミョルニルを奪い取り、過去のカノンに振り下ろす。
「アタシがッ! ぶっ倒す!!!」
そして、過去の光景が砕け散る。
アイギスは弾けるように起き上がった。目の前には血をにじませたテクトの姿。そしてテクト目がけて飛んでくるミョルニル。今度こそ、ミョルニルはテクトを殺す。
だからアイギスは躊躇わなかった。飛び出す。「アイギスっ?」と呆気に取られるテクトを横切って、アイギスはミョルニルの目の前に躍り出る。
「っ。お前、今度こそ死ぬぞ」
「うるさい! 特別とか弱いとか、そんなの知ったことじゃないのよ! アタシは、テクトさえいればいいのッ! それすら奪おうとするなら、ぶっ殺すって言ってんのよッ!」
ミョルニルを受け止める。カノンの、全力のミョルニルだ。今まで、これに負けてきてた。本気のカノンに叩き潰されてきたのだ。
だが、だから何だ。これでテクトを守り切れなければ一緒に死ぬ。それに比べれば、カノンの本気を受け止める程度のことが、どれだけ軽い事か!
「グッ、ぎ、ぁ、あぁぁぁぁああああああ……!」
直撃。ミョルニルがアイギスの踏ん張りを突き抜けようと荒れ狂う。僅かコンマ一秒の接触が、数分のようにすら感じる。
それを、アイギスはねじ伏せた。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!」
ゴォッ! と音を立てて、アイギスは目の前の地面にミョルニルを叩きつけた。それで、ミョルニルは動かなくなった。
カノンの頬に、冷や汗が伝う。アイギスの岩鎧はバラバラになり、体は全身の骨が砕け、血だらけになりながら、長く長く、息を吐く。
「……ええ、そうよ。分かってんじゃない。これからアタシが、アンタの主よ」
意思疎通。今までよりずっと軽い感触で、アイギスはミョルニルを担ぎ上げる。
「お前、まさか」
「ええ、その通り。だからカノン、もう寝てなさい」
振りかぶる。ミョルニルがアイギスの意思に応じる。壊れかけの全身に鞭打って、アイギスは全身全霊を込める。
「アタシの、勝ちよ」
そしてアイギスは、カノンにミョルニルを放った。カノンが、ガードすらまともにできずに吹き飛ばされる。
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