【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた 作:一森 一輝
倒れたカノンから、一人でにミョルニルが舞い戻る。それをアイギスは、なんてことのないようにキャッチした。
「あーしんど……ごめん、テクト。ちょっとこれ以上戦えないかも。全身の骨が砕けてるわ」
「そんなヤバい状態なのか!? いやでも、カノンに勝ってくれて良かった。すげぇよアイギス。やっぱお前は最高だ」
俺が安堵と共に言うと「でしょ……?」と力なくアイギスは微笑んだ。俺は急いでアイギスから岩鎧を脱がせ、近くの木陰に横たえる。
そこで、マレデウスに動きがあった。見ればセラフィが、俺目がけて落下してくる。
「テクトさぁぁぁぁぁん! 避けて欲しいのでぇぇえええ!」
「この場で避けるかぁっ!」
俺はセラフィを受け止める。それセラフィ「えっ、嘘。テクトさんの力すご」と驚く。
「って、それどころじゃないので! ごめんなさい、テクトさん。ぼくの力不足で、もうあの大きいの止めていられなくなってしまって」
「いや、十分だ。カノンはアイギスが片付けてくれた。それに、地龍もまだ―――」
そう言った時だった。
『地龍、お前はもはや力不足だ。私の前に跪け』
マレデウスの肘から、炎が噴出する。かと思いきやマレデウスが高く飛び上がり、そして肘のブースターの勢いを利用して、地龍の頭を脳天からカチ割った。
「グギュォォオオオオオオオオ……!?」
地龍が沈む。俺とセラフィは、その有り様に目を剥いて絶句する。
『ふむ。動けない間に、操作方法を確認できてよかった。せっかくカノンが稼いでくれた時間だ。有効に使わなくてはな』
マレデウスが屈んで、倒れて動かないカノンに手を伸ばす。そっと優しく回収して、コックピットに匿った。
「お疲れ様だ、カノン。お前にはいつも、私のワガママで苦労を掛ける」
慈愛にあふれた顔で、チャミーがカノンを受け止める。それからコックピットを閉じ、マレデウスが俺を見下ろした。
『さぁ、形勢逆転だ。そちらには瀕死の「小さな要塞」、力の尽きた聖女候補筆頭殿。そしてテクトしかいない。先ほどのように、不慣れな操作で優位を取れると思うなよ』
「……ッ」
俺は歯噛みする。ただでさえカノンとの戦いで疲弊しているのに、もう一度マレデウスを、それも先ほどより動きの良くなった奴と、戦えるのか……?
その時だった。
森が、ざわめき始めた。何だ、と思う。するとちょうど、森の中からウィズが走ってくる。
「テクト君! リンドホルムさんの準備が完了しました! 適当な木に掴まってください!」
「ウィズ!? それはどういう」
「いいですから! やれば分かります! 他の人達は、私が守っておきますから!」
俺は頷く。ウィズがそう言うなら、任せよう。俺は適当な木に登る。
すると、驚くべきことが起こった。
すべての木々が蠢き、俺は見る見る内に木の籠のようなものの中に納まっていた。そして目の前には、木で出来たハンドルのようなもの。
触れる。すると、木の感覚が伝わってくる。
『聞こえてますか、テクトっ』
「リーフィ!? これはどういうことだ!?」
『敵に倣ったんです! 本当に苦労したんですけど! っていうかデルフィアさん強くないですか!? ワタクシが無防備な間、寄ってくる魔獣を動きもせずに薙ぎ払って』
「いやだから、どういうことだよ『敵に倣った』って!」
『アレ? 共感覚が上手く行ってない? ちょっと待ってください。はむ。えーと……あ! これですね。ホント大変なんですけど!』
通信越しにリーフィが何か食っている。するといきなり、俺の視界に別の光景が重なった。
それは、巨人の視点のようだった。マレデウスと並ぶような巨大な巨人の視点。どういうことだと疑って、俺は手を見下ろす。
そして、気付くのだ。
俺の全身。その動きに連動して、海神もかくやというほどの木の巨人が、屹立している。
「何だこれぇええええええ!?」
俺、絶叫である。何これ。本当に何これ!
『我が「ヤドリギの魔女」の血統奥義・「巨木兵」! でもワタクシはうまく操作できる自信がないので、テクトにお任せします!』
なるほど、そういうことか。どういうことだよ、という気持ちはまだあるが、まぁいい。
ともかく、これで対等。まっとうに戦える!
『ふっ、はははははっ! 何だそれは! おいテクト! お前こそズルではないのか!』
「うるせー! 最初にズルしたのはチャミーなんだ。こっちだってズルでいいんだよ!」
マレデウスが向かってくる。ドシンドシンと地面が揺れる。俺は真っ向から組み合う。
ずぉぉぉん……っ、とそれだけで鈍い音がこの場に広がった。足元で、ウィズが「きゃっ」と余波に耐えるようにしている。
「ウィズ! なるべくみんなを連れて離れてくれ!」
「はっ、はい! セラフィさん、動けますか!? ちびっこは私が背負います!」
「うっ、うん! 魔力切れなだけで、体は動くので!」
「陰キャよろしく~……」
ウィズがみんなを連れて脱出に移る。これで何とか、気にせず戦えるというもの。
俺は正面にしたマレデウスに力を籠める。僅かにマレデウスが押し込まれるが、それだけ。出力はマレデウスの方が上か。
『ははははっ! 楽しいな、テクト! 領地継承権もなく、希少な男でありながら誰にも見向きもされなかった私たちが、こんな大きな戦いを演じようとは!』
その物言いに、俺はブチギレる。
「何が楽しいってんだ! みんなを巻き込んで、アイギスもカノンもあんなにボロボロにさせておいて!」
例え正気を失っているとしても許せなくて、俺は巨木兵でマレデウスを突き飛ばす。だがマレデウスは怯まず、ガッシリと重心を安定させている。
『楽しいだろう! 女を魅了するのも男の力! 正真正銘、我らの全力のぶつかり合いだ!』
マレデウスが、拳を振りかぶる。肘にブースターの炎が上がる。
俺は咄嗟に、巨木兵にガードさせた。マレデウスの拳が、ガードを正面から打つ。その勢いに、巨木兵が大きくたたらを踏む。
「ぐぁっ、クソ!」
『テクト! お前は楽しくないのか!? 楽しんでいるのは私だけか! 誰にも見向きもされなかった幼少期を、お前は味わっていないのか! テクト! テクトぉっ!』
マレデウスのブースターパンチをうまく使って、チャミーは巨木兵に連打を叩き込む。俺はどうにか巨木兵を操作して、僅かでもダメージを軽減するようにパンチを捌く。
『あれだけ酷い第一王子のスペアとして、私は生まれた! 誰にも見向きもされず、なのに努力をすれば睨まれ暗殺されかけ、私を見てくれたのはカノンだけだった!』
「がぁっ!」
防戦一方の巨木兵に、マレデウスが死角から蹴りを放ってきた。巨木兵はもろに食らって、巨大な振動が俺を揺らす。
『お前だってそうじゃないのか! 騎士家の生まれで、継ぐ領地もないのにハーレムの義務があるお前も、冷遇を受けたのではないのか! 違うか、テクト!』
「っ、そうだよ! 俺だって最初は、見向きもされなかった!」
マレデウスの猛攻を潜り抜け、俺は巨木兵でタックルを仕掛けた。マレデウスがよろめいて後退する。木々が踏みつぶされ、葉が舞い、幹が砕ける。
だが、マレデウスにはダメージらしいダメージは入っていない。
『なら、もっと楽しめ! 大義あるこの戦いを!』
「はぁ!? 大義ってなん、がぁっ!」
ブースターで加速した拳が、巨木兵の顔面に突き刺さる。今度は巨木兵がよろめき、周囲の木々が巨木兵を支える。
『テクト! 聞け! 私は、あの愚かな第一王子を下すつもりだ! この海神の力があれば、それができる! 奴の非道を、悪辣を、お前も知っているだろう!?』
そこに、マレデウスは突進してきた。巨木兵を素早く動かし、どうにか俺は回避する。
『お前ならこの大義が分かるはずだ! 見向きもされなかった我々が、国の頂点に立つ! 思い上がった、唾棄すべき男どもを押しのけてだ!』
方向転換し、再び迫るマレデウスが、大きく拳を振りかぶる。強力な一撃だ。
だが、それは隙でもあった。
「うるっせぇえええええ! このっ、バカ王子がぁぁあああああ!」
『なっ、ぐぁあああっ!?』
大振りを回避、空のカウンターパンチを叩き込む。マレデウスの頭部に巨木兵の拳が炸裂し、マレデウスが大きく仰け反る。
「国だの何だの、俺が知るかァ! 確かに第一王子のひどさは俺も聞いてるが、そんなことは関係ねぇんだよ!」
俺はつい、巨木兵にマレデウスを指ささせてしまう。戦闘的には意味がないのに。
「こっちはなぁッ、正気を失ったお前を元に戻すために奮闘してんだよ! それを何、説得みたいな雰囲気出してんだ! お前が正気を失ってる限り、首を縦になんか振るかぁ!」
俺が言うと、チャミーは呆気に取られたように沈黙する。それから、笑った。
『お前はいい奴だな、テクト。だが、これも私の本性だ』
「うるせぇ。まじめな話は、ぶっ飛ばしてから聞いてやる」
お互いに距離を取り直し、睨み合う。するとそこで、『あっ、あの!』とリーフィが言葉を挟んだ。
『テクトに、言い忘れてた機能があるんですけど! 巨木兵は木で作り出してるので、ある程度自由が利きます! つまり、テクトがこんなものが欲しいっていう要望があれば』
「なるほど。なら―――――を頼めるか?」
俺の頼みに『ちょっと難しいですけど、頑張ります!』とリーフィが承諾する。
直後、巨木兵の右腕に、木々が蠢くのが分かった。構築にある程度時間がかかりそうだが―――完成した時、俺の勝利は確定する。
『……何か仕込み始めたな。まぁいい』
マレデウスが手を広げる。マズイ、と俺は慌てて巨木兵を横に避けさせた。
マレデウスの光線が、巨木兵をかすめる。高熱に火が付くから、俺はそれを巨木兵の手で叩いて消した。
『この通り、海神にも他の手はある。さぁ、仕切り直しだ!』
マレデウスが両手を構える。巨木兵は身を屈めて、必死に光線を躱す。
「っ、クソ! さっさと正気に戻れよチャミー!」
『買い被りだテクト! 何を根拠に言うのかは知らんが、本来私はこんなものだ!』
光線を放って俺を追い立てながら、チャミーは言う。
『私は元々鬱屈した半生を送り、虚栄と悪辣さでもって身を立てた! 王になりたいのだって、本当は復讐したいからだ! 連中に! あの愚物どもに!』
俺が光線を潜り抜け接近すると、マレデウスの膝蹴りが巨木兵に炸裂する。
「がぁっ! クソ!」
『この世は間違っている! 愚かな男たちが権力を握り、それを老婆たちが持て囃す! 大多数の女たちは男どもの傍若無人に苦しみ、その最下層で私たちは誰にも見向きもされない!』
チャミーの声に、涙が混じる。正気じゃない……というか、宝玉を求める根源となる欲求が、復讐欲が肥大化して、混乱状態にあるんじゃないかと俺は睨む。
『なのに何故、こんな私をお前は助けたいと言う! お前ほどのすごい奴が、何故! 私にはお前の心が分からない。誰の心も分からない! カノンですらそうなんだぞ!』
「―――この、バカ野郎、がァッ!」
『ぐぬぅっ!』
仰け反ったところに後ろ脚を突き立て、反動で巨木兵は、マレデウスに拳をぶち込む。
「カノンは分かりやすいだろ! お前一筋で、他に何も見えてねぇんだよ! おごっ!?」
『何が分かりやすいんだ! 私はあの無表情が怖い! カノンを愛しているからこそ、いつか幻滅させてしまうんじゃないかと怖いんだ! ぐぅっ!』
一発殴っては一発殴り返される。そんな中で、俺たちはお互いの心をぶつけ合う。
「お前はもっと、周りを信じろ! 自分が好かれて大切にされてるって、気付け! がっ!」
『大切とは何だ!? 私にあるのは敵対関係と利害関係だけだ! ぐぁっ! 正妃殿下とは敵対視、イリューシアや他のみなとは利害関係! 例外はカノンとお前だけだ! ぐぬっ!』
チャミーは俺と殴り合いながら、必死で叫ぶ。
『テクト! お前だって本当は、私を殺そうとしているんだろう!? 私の油断を誘って甘言を囁いているだけだ! お前だって本当は、私を殺して海神を―――』
「――――ッ、本当に何も分かってねぇんだな、チャミー! なら、教えてやる!」
右腕に、力が溜まったのを確信する。なら、もう終わりだ。畳みかけるだけ。
俺は攻撃のチャンスを一度捨て、次に来るマレデウスの拳を弾く。
『なっ』
「殺したいほど憎んでるなら、こんなに話してやるもんかよ! お前がケンカしてぇって言うから、それに付き合ってやってんだろうが! 分かんねぇのかよ!」
バランスを崩したマレデウスの、胸元目がけて蹴りを放つ。マレデウスが隙だらけで吹き飛ぶそこに、巨木兵で肉薄し、右腕を振りかぶる。
「お前が俺の友達だからッ! ここまで付き合ってやってんだよ、バカ野郎ッ!」
『――――ッ』
チャミーが言葉を失う。
そうだ。俺はずっと分かっていた。
孤独。それこそがチャミーの核心。そうだ。こいつが俺を煽ってきたのは、ただそれだけ。
混乱状態で理性周りはゆるゆるのようだが、発露する感情は本物だった。隠されてきたチャミーの本音。それはすべて、他人は分からなくて怖い、けど一人は嫌だという、幼い恐怖。
なら、正面からぶつかってやるしかないだろうが。チャミーも本当は分かっていたのだ。ケンカでしか本当の友情に辿り着けない。だから俺たちは、全力でケンカをしたのだ。
だが、もう終いだ。不器用すぎるコミュ障には、適量の痛い目を見てもらおう。
巨木兵の右腕に、うねりができる。そこに、リーフィの構築が完成した。
魔導回路を木々の形で描き出した巨大な箱と杭。木々の魔導回路に木々の魔力が走り、巨大な内燃機関で火が荒れる。
それすなわち―――
『テクトッ! できましたけど! あなたの望む、必殺の一撃なんですから!』
それに俺は、笑った。
「ありがとな、リーフィ。―――行くぞォッ! チャミーぃぃいいいいい!」
マレデウスの中心に、拳が、木で作り上げた超弩級パイルバンカーが、突き刺さる。
「パイルッ、バンカーァァァアアアアアア!」
そして、巨大な杭が、膨大な火が、マレデウス目がけて殺到した。
素のパイルバンカーでは傷一つ入らなかったマレデウス。その外装に、初めて大きな損傷が発生する。コックピットの入り口が壊れ、中からチャミーが露出する。
それを見て、俺は巨木兵から脱出した。
グラップルをマレデウスに突き刺し、コックピットへと強襲する。そんな俺を、チャミーは丸い、ひどく無垢な目で見つめていた。
「テクト」
チャミーが、俺を呼ぶ。
「お前は私を、友達と認めてくれるのか?」
「じゃなきゃ一発殴る程度で、許してやんねーよバ――――カ!」
俺はグラップルの勢いそのままに、渾身の拳を、チャミーの顔面目掛けて叩き込む。
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