『お前、ギルドから監視されているぞ』
ダンジョンで一週間ほど好き勝手に暴れ回って戻ってきた、その朝のことだった。
突然入ったライラからの通信は、そんな物騒な内容をさらりと告げてきた。
『へぇー』
ナナシの反応はいたって淡白。心底どうでもよさそうな声色に、ライラがむっとする。
『へぇーって、関心ねぇのかよ』
『ファイたんやデメテルちゃんから、そういう話は前にも聞いてたし。僕の邪魔をしないなら別にいいよ。……邪魔してきたら、ちょっと気にしちゃうかもだけど』
その“気にする”の程度によっては、アストレア・ファミリアの門前がちょっとした“ゴミ置き場”になりかねない。
『そうかい。お前が気にしねぇなら、アタシから言うこともねぇが……こっちはこっちで忙しいからな』
『ライラって、なんだかんだで面倒見いいよね。いいお母さんになると思うよ』
『それ、アタシの愛しの勇者様に言ってやってくれ』
『どこかで会ったら伝えておくよ。イトシノ・ユウシャサマさんに』
『誰だよ、ソイツ』
話は終わりと、ライラが通話を切ろうとした時、
『あ、ライラにお願い、というかアストレア・ファミリアに依頼があるんだけど』
ナナシがふと思ったことを口にした。
そして、こういった思い付きが、アストレア・ファミリアの団員たちのトラウマを作り出していることをナナシは知らない。
◆
「やってきました、三〇階層。ピクニック日和だよね」
背後に屍が築きあがるが、一人だけ暢気な発言をしている。
彼の後ろにはぜぇぜぇと息も絶え絶えなアストレア・ファミリアの面々。
日帰りで採取を手伝ってというナナシの何気ない依頼を安請け合いした結果、地獄を見る羽目になった。
「か、かいふく~」
アーディが死にそうな顔で訴える。
寄り道不要とばかりに、この三〇階層まで全員全速力で走ってきたのだ。
ナナシが体力の尽きたものから復活させて、無限ランニング(全速)が行われたため、驚異的なスピードでこの階層まで訪れることが出来た。
この光景を上位階層で見た経験の浅い冒険者たちは、
――アストレア・ファミリア、マジでヤバイ。何がヤバいって、そりゃあ、ヤバいってことだよ。
そんな噂がささやかれたのだった。
そんな悪評が広がったことには全く気付かず、この階層についた時点で体力を失ってしまった面々はナナシからの回復スキルを受けていた。
「それで。木の蜜集めだっけか?」
復活したライラが今回の目的を尋ねる。
「それもある」
「それも?」
他になにをやるつもりだと、不穏な空気を感じ取ったアストレア・ファミリアの面々がナナシに視線を向ける。
「実は鉱石の採掘もしたいんだよね。なんで、こんなものを用意してみました」
掘削機。一言で表現するなら、地面に穴をあける魔道具である。
「あらあら、またけったいなものを。地面を掘るのは良いと思いますが、下の階層までぶち抜いてしまうのでは?」
輝夜が魔道具を見て、感想を述べる。
「それはそれ。そしたら下の階層に行きやすくなるじゃん」
「でも、ダンジョンって確か自動修復するって定説があったような。たまに見る大穴は例外で、冒険者が故意に傷をつけてもいつの間にか戻ってるっていう報告があった気がする」
団員の一人がそのように語る。
「ダンジョン生きてる説ね。魔法で壊した壁が、修復されるのはダンジョンが生きているからだって学説があったね」
「まあ、モンスターを生み出せるんだから、壁くらい直せるだろ」
「しかし、ライラ。それなら、中層の大穴はどう説明するのです? ダンジョンが生きていると仮定すれば、侵入者を逆に招くような仕組みでは?」
「そこはあれね! わざと誘って、そこにモンスターを配置してボコっちゃえ、みたいな!」
アリーゼがリューの考察にちゃちゃをいれる。
「ダンジョンをたくさん傷つけたら、どうなるんだろう? 生きてるという仮定が正しいなら、普通怒るよね?」
アーディが当たり前のように疑問を浮かべる。
「そもそも魔力がもったいないから、わざわざダンジョンで魔法をぶっ放す奴とかあまりいねえだろ。練習とかはあるかもだけどよ」
誰にも被害を出さないという意味ではダンジョンは練習場としては最適だ。
襲ってくるモンスターがいなければの話だが。
練習であれば、モンスター相手に魔法を放つのが普通であろう。
わざわざ壁を壊そうとする奇特な者は少ない。
「…………」
「輝夜、どうしましたか?」
団員の意見を聞きながら、眉間にしわを寄せていた輝夜に、リューが反応した。
「覚えているか? 私達が全滅しかけたときのことを」
さきほどまでの猫被りをやめて、真剣な表情で言葉を口にする。
「ええ。化石のような骨のようなモンスターだったわ。ナナシが居なかったら今頃――」
アリーゼが当時のことを思い出しながら語る。
その時居なかった、アーディやクロエたちは、話だけは聞いていたようで、危険なモンスターがいるなという印象を受けていた。
「あの化け物が生み出される前、ルドラ・ファミリアが大規模な爆発を起こした。アーディがさっき言ったように、ダンジョンの自動修復が間に合わないほどのダメージを受けた場合、
「怒りによって生み出されたのがあの化け物だと? 輝夜はそう言いたいのですか?」
リューの問いに輝夜は小さく頷いた。
「確かめてみればいいじゃん。疑問に思ったら即確認」
シリアスクラッシャーのナナシが、不謹慎な発言を放り込む。
「バカ者! もう一度あの化け物が出て対応できなければどうするのだ!?」
「僕がやるよ」
絶対的強者からの発言。
慢心も奢りも油断も存在している。
しかし、アストレア・ファミリアが感じたのは、あ、これ大丈夫な奴だという安心感だった。
「いや、まあ、うん、そうだな」
否定できない輝夜が何とも言えない表情を浮かべる。
試しにやるにはリスクが大きいが、そのリスクを限りなくゼロにしてくれる存在が近くにいる。
ある意味確かめた方が良いのでは? いざという時に、対応することがあるかもしれない。
そう思ってしまった。
そしてそのような打算的思考をしたのは輝夜だけではなかった。
「やりましょう」
リューからの言葉だった。
こういった無駄に命を懸ける行為を嫌う彼女であるが、ナナシと関った影響か、毒されてしまったらしい。
なにより、あの当時に感じた絶望感と無力感。それを克服するチャンスがあるならと、彼女の信念よりも未知への挑戦への好奇心に天秤が傾いてしまったようだ。
「反対ニャ! ミャーは命を大事にする派ニャ!」
クロエが反対の声を上げるが、賛同者はなし。
件の怪物に対面していないルノアは、バトルジャンキー気質なのか、拳を叩いてやる気を見せている。
アーディは、しょうがないよねと、諦めながらも気力は充実している。
そうなれば、最後の一人の言葉ですべてが決まる。
「やりましょう! リベンジマッチよっ! あの時より成長したって胸を張ってモンスターに叩きつけてやりましょうっ!」
アストレア・ファミリアの団長がそう言ったことで、全員の覚悟が決まるのだった。
「まあ、狙いのモンスターが出ると決まったわけじゃないんだけどね」
空気を読まないナナシの発言は、誰にも聞こえない。
◆
「実験開始」
ナナシが得意げに広げたのは――とんでもない数の掘削機。
魔道具のくせに、唸り声をあげて地面に食らいついていく。
「うおぉぉ……って、ちょっと!? これ何台あるんだよ!?」
ライラが頭を抱える。
気づけば、二十台以上が床を掘り進め、地鳴りが鳴り響いていた。
「この階層の地質、珍しい鉱石があるんだよねぇ。掘れば掘るほどレア素材がザクザク!」
「おいコラ! 素材より命だ! 止めろ、今すぐ止めろ!! 振動がヤバい!」
「安心安心。安全設計だから!」
「一度でも安心って言葉で信用されたことあるのかお前はッ!」
しかし、遅かった。
轟音と共に、大地が抉られ、崩壊の音が三十階層を揺らす。
そして――。
「……来たか」
輝夜の目が細くなる。
黒き影が、ダンジョンの天井から這い出してきた。
全身を骨の外殻で覆い、魔力を纏った巨体。かつて彼女たちを蹂躙しかけた存在。
ダンジョンの厄災――ジャガーノート
「前衛、構えてっ!」
アリーゼが叫ぶ。赤毛が揺れ、仲間を鼓舞する声が響いた。
クロエとルノアが大地を蹴り、剣と拳でモンスターを牽制。
輝夜が太刀を振るい、鋭い斬撃で関節を狙う。それだけで空気が切り裂かれ、地響きが重なる。
「ミャーッ! 前衛はきっついニャー!」
「踏ん張ってクロエ! 後衛に迫られたら大変だよっ!」
初めての対戦であるにもかかわらず、ルノアとクロエはなんとかジャガーノートの攻撃を捌いていた。
「にゃあぁぁ! プレッシャーがすごいニャ!」
後衛では魔法詠唱が響き渡る。
アーディが全体にバフを張り巡らせ、仲間の身体を光が包む。
彼女自身もヒット&アウェイで前衛の負担を減らしていく。
「支援は任せてください! 今の私なら――!」
「おぉー頼りにしてるよ、顔だけポンコツじゃない方のエルフ様」
リューとは違い親しみやすいエルフとして認識されているセルティに団員の言葉が飛ぶ。
それに対し、ポンコツの方のエルフが反応する。
「誰のことですかっ!」
ライラは中衛で鋭い投げナイフを飛ばす。さらに、ナナシから購入したゴーレムを操作しながら、前衛のフォローも行うシゴデキ。
「氷よ、拘束せよ――!」
ノインが放った白銀の鎖がジャガーノートを絡め取る。だが、その膂力は常識外れ。数瞬と持たず鎖は粉砕された。
そこに物理担当のイスカとアスタが詰め寄るが弾かれる結果となった。
「やっぱり強化されている……!」
高速戦闘を行っていたリューの額に汗が浮かぶ。
一方で。
ナナシは岩に腰掛け、掘削機で荒らした地面から入手した鉱石を鑑定していた。
「ふむふむ、なかなかいい素材が取れた。今度椿と面白武器作ろ」
「「黙っててナナシィィィ!!!」」
全員の叫びがハモった。
「だって僕が出たら、戦闘にならないじゃん?」
「その理屈は正しいが腹が立つ!!」
「ならがんば」
彼は一切戦闘に加わらない。
しかし、その余裕が逆に全員の安心感につながっていた。
「はぁっ……はぁっ……!」
アリーゼの肩が上下する。
前衛の必死の連携でも、決定打には至らない。
「押し込めねぇ……っ!」
ライラが奥歯を噛みしめる。
後衛の魔法も、厚い魔法障壁を貫けない。
その時、アリーゼが声を張り上げた。
「全員、魔力をリューに集めて! 練習の成果を見せましょう!」
かつてナナシの検証によって習得した技術。
いざというときのために鍛え上げた、アストレア・ファミリアの最終奥義。
「えっ!? まさか――」
アーディの目が見開かれる。
そう、かつての「魔力譲渡」実験。
仲間から魔力を預かり、一人がそれを束ねる――。
「オラに魔力を分けてくれってやつだねっ!」
ナナシが嬉々として言う。
それに対し、リューの瞳に驚きと決意が同居する。
その瞳を見た仲間全員がうなずき、次々と行動を移した。
「私が止める!」
輝夜が全力で身体強化を行い、剣を閃かせる。
鬼神の如き気迫で、ジャガーノートの突進を正面から受け止める。
「私も行くわ!」
アリーゼが紅蓮の炎をまとい、空を駆け抜ける。
赤髪を翻し、炎の翼に押し上げられるように宙を舞う姿は、まるで戦場を翔る女神。
火焔を帯びた蹴りが巨体を弾き、迫る腕を焼き払った。
「アリーゼ!」「輝夜!」
仲間たちの叫びが響く。
二人は一歩も退かず、あの絶望の象徴を正面から押し止めていた。
その間に、アストレア・ファミリアの面々が次々とリューの身体へと手を触れる。
本来、詠唱を不要とするはずの魔力操作。しかし流れ込む魔力はあまりにも膨大で、自然とリューの口から祈りの言葉が零れ落ちていく。
【今は遠き森の空。無窮の夜天に鏤む無限の星々。愚かな我が声に応じ、今一度星火の加護を。汝を見捨てし者に光の慈悲を】
リューの澄んだ声が響き、空気が震える。
その詠唱を守るように、輝夜は刃を閃かせ、アリーゼは炎の翼で空から蹴りを叩き込む。
「頑張って、輝夜! アリーゼ!」
仲間たちが魂を振り絞るように声を届ける。
すでに全員の魔力は限界を超えていた。
輝夜も「無茶を言ってくれる!」と毒づきながらも、刀を振り続け、
アリーゼも「ここで退くわけないでしょ!」と炎を燃え上がらせる。
二人の背中を見ながら、リューは光に包まれた。
【来れ、さすらう風、流浪の旅人。空を渡り荒野を駆け、何物よりも疾く走れ。星屑の光を宿し敵を討て】
リューの澄み渡る詠唱が完成する。
その身体に仲間の魔力が収束し、星々の煌めきを宿した光がほとばしった。
「アーディ!」
輝夜とアリーゼが同時に叫ぶ。
「任せて!」
アーディが両手を広げ、詠唱と共に転移の魔法陣を展開。
リューの身体が一瞬にして空間から消え、次に現れたのは――無防備に天を仰ぐジャガーノートの頭上だった。
「ルミノス・ウィンド!」
リューの叫びと共に、集約された光が一斉に解き放たれる。
星河の奔流が夜空を裂き、白銀の滝のようにジャガーノートへ降り注いだ。
圧倒的な光と熱。
咆哮を上げる暇すら与えず、ジャガーノートの巨体は焼かれ、砕かれ、消滅していく。
光が収まり、静寂が訪れる。
全員が膝をつき、息を荒げる中、最後に立っていたのは、光を纏うリューの姿だった。
その横顔は、絶望に沈んだかつての彼女ではない。
仲間と共に勝ち得た勝利に、凛として笑みを浮かべていた。
リベンジを果たしたアストレア・ファミリアの面々がナナシを見てドヤ顔を浮かべる。
「いやぁ、完璧だったね。感動したよ。……まあ、僕ならもっと派手にやれたけど」
「最後の一言が余計よっ!」
「まったく、素直に褒められないのか、貴様は!」
アリーゼと輝夜が同時に怒鳴り、残された力でナナシを追いかける。
戦場に再び笑い声が戻り、崩れた瓦礫の上に、アストレア・ファミリアの笑顔が広がっていた。
◆
オラリオに戻ったアストレア・ファミリアは、アストレアに報告し、最初は無茶はダメと叱られたが、リベンジが成功したことに関しては抱擁をもってほめたたえた。
ジャガーノートの発生条件はギルドの上層部に秘密裏に報告し、
しばらくして、アーディはガネーシャ・ファミリアに戻る。
もともと、ガネーシャが恩恵を刻めず、出向という形でアストレア・ファミリアに在籍していた。改宗後、1年以上経ったため、再改宗が可能になり、姉がいるガネーシャ・ファミリアに戻ったのだ。
ただ、彼女の胸中にはアストレア・ファミリアもまた“帰る場所”になっていた。
結果、両ファミリアを行き来する、ちょっと変わった立場に。
それから数年が経過した。
アストレア・ファミリアの日常は、相変わらず騒がしく、しかし温かかった。
「今日も清く正しく美しく、ちょっとだらけた正義をなしましょう!」
能天気に胸を張るアリーゼの背後で、輝夜が静かに握っていたペンをへし折る。報告書が悲鳴を上げそうだ。
「うちの団長なんだよな……」
ライラが吐き捨て、クロエが即座に
「ミャーは巻き込まれただけニャ!」
と反論する。団員たちの笑い声が絶えない日々。
リューはその中で、ふと思う。
「最近、ナナシを見ませんね。胸騒ぎがします。こう、大問題を起こしそうな」
平和な日常に一抹の不安。リューの直感は……。
◆
ナナシは相変わらず研究に没頭し、時折街に“妙な魔道具”を生み出しては冒険者や市民を混乱させていた。ギルドはついに彼を「要注意人物」に指定。監視体制を敷くも、当人はまるで気にしない。
「僕の邪魔をしなければ、好きにすればいいんだよ」
そう言って笑う少年に、誰も正しく楔を打ち込むことはできなかった。
暗黒期を乗り越え、オラリオが平和を取り戻したそんな普通の日。
宿願。ナナシという少年がどうしても成し遂げたい思い。
いずれ出会うだろうという絶対的な直感。
運命の出会いというのであれば、そうなのだろう。
視界の端に映った人影。ああ、今日は良い日だと、ナナシは笑みを深めた。
見覚えのある橙黄色の髪と旅人帽子。
「……ようやく見つけた」
そこに立っていたのは、どこか軽薄そうな神――ヘルメス。久しぶりの帰還なのか、街の女性たちに声をかけては、曖昧な相手をされている。少し落ち込んでいる。
そんな彼の事情を一切考慮しない。
狂喜乱舞で踊りだしそうな気持ちを落ち着けることなく、その気が向くままに己の欲望を解放する。
もし出会ったら――そう考えて、数多の拷問を考えたナナシの頭でさえ、殺意が最高潮に達したおかげか、思考がたった一つに集約される。
そこに相手の弁明の余地も慈悲も、何一つない。
見つけた=殺す。彼の脳内で最速の方程式が成立した。
「死に晒せぇっっーー!!」
次の瞬間。問答無用で“送還”。空を裂くように、天へと光柱が立ち昇る。
人々は騒然とし、神々は顔を見合わせた。ただ一人、ナナシだけが「スッキリ」と呟いた。
その光を、遠く離れた場所から一人の少年が見上げていた。白髪赤目の少年――ベル・クラネル。
「すごい……。あんな光を生み出すなんて……オラリオって、本当にすごい場所なんだ……!」
胸を高鳴らせるその瞳には、確かに“冒険”への憧れが灯っていた。
そして物語は――この少年を中心とする世界へと繋がっていく。
◆
「ナナシっ!」
ナナシの研究拠点の一つ。勝手知ったるとばかりに、一人の美女が当然のように中に居た。
アーディは腰に手を当て、仁王立ちでナナシを待ち構えていた。
「ご機嫌斜め。二十歳を超えたんだから、気持ちの制御くらいできないと」
「誰のせいだと思ってるの!? 君が神さま一人ぶっ飛ばした所為だよ! ギルドの人たち、最初めっちゃ慌ててたんだから!」
「見つけたら排除。僕はずっと宣言してきたでしょ」
「そうだけど!!」
ぷんすかと怒るアーディに、ナナシは耳をかいてごまかす。
「でもさ、不思議なことに誰からも非難されなかったんだよね」
「そりゃそうだよ。だってヘルメス様、めっちゃ嫌われているもん。みんな“よくやった!”って顔してたし」
「ひどい話だ」
「ひどいのはナナシだっての!」
言い合いながら、アーディはどこからか紙束を取り出した。
「ほらこれ! 神さまたちからの嘆願書! “ナナシを無罪にしてください”って! ヘファイストス様も、デメテル様も、アストレア様もサインしてるの!」
「……あ、だからアーディ以外誰も来なかったんだ。神殺しって大罪らしいから、ガネーシャ・ファミリアとアストレア・ファミリアとやり合うつもりだったんだけど」
「やめて! 勝てないからっ! ヘルメス様には悪いけど、ナナシと戦うなら、ヘルメス様に祈りを捧げるよ」
「それがいい。もともとはあの外道が悪い。成仏させる前に、あの修羅の国に送り込めばよかった。失敗、失敗」
「少しは反省してよ」
ため息をつきながら、アーディはナナシの胸を軽く小突いた。
「ほんとさぁ……君ってムチャばっかりで、見てるこっちの寿命が縮むんだよ」
「へぇ、じゃあ僕と一緒にいると長生きできないね」
「ばかっ! そういう意味じゃない!」
顔を赤くして怒鳴るアーディ。けれど、その瞳は優しかった。
「……でも、そんな君だから、放っとけないんだよなぁ」
「お断りで。下の世話をした人を女性として見れない」
「違うよ! ……でも、友達として、お姉さんとしては、めっちゃ大事」
そう言って、にかっと笑う。
その笑顔に、ナナシも「そっか」とだけ答えた。
すると、アーディのお腹が小さくなる。
ごはんに行こうかと、ナナシが提案する。
二人は並んで歩き出す。数年で背はナナシの方が大きくなった。
ただナナシの生来からの子供っぽさのためか、アーディは姉という立場を譲らない。
「ねぇアーディ、晩ごはん何食べたい?」
「魚! ニョルズ・ファミリアのおかげでかなり美味しい魚が食べれるようになったんだよね!」
「ムキムキの野菜を食べたいと思わない?」
「思わない♪」
そんなやり取りを繰り返しながら、二人の笑い声は街の喧騒に溶けていった。
後に、ヘスティア・ファミリアの団長が、二人の仲の良さから、お付き合いしているのですかと尋ねると、
「「姉弟」」
と即答される。そのあまりに自然な回答に、初心な少年でもこれは違うやつと判断できた。
その少年が、ダンジョンで金髪の少女――森の妖精との噂あり――に助けられて、ときめいてしまうのは、遠くない未来の話。
それはまた別の話。
お疲れさまでした。
今回の最終話は最初から出来てていて、そこに向かって話を作った感じです。
AIを駆使しながらは初だったので、普段と違う感じがあったかもです。
誤字もあり、修正報告をしてくださった方々には感謝です。いつもありがとうございました。
また、時間が出来たら、気分転換に別作品をお見せしようかなと思います。