一般の方も興味があればどうぞ。
月見うどん=恋に夢見系の草食系男子
いなり寿司=お人好しの甘い性格だけど麺類のことがわからない女子
byきりこちゃん
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透き通るような黄金色のだしに身を浸して、つやつやの卵をひとつ添える。ああそうだ、今日は鮮やかな緑のねぎと、紅白のコントラストが美しいかまぼこ、ついでに揚げ玉もつけてもらおうか。なんてったって愛しい愛しい『いなり寿司』とセットで頼まれたのだから。
『うん、そうそう、トッピングはバランスを大事にね。ちゃんと黄身を真ん中にしてほしいな。万一にもカラで傷つけて黄身を割ったりしないでよ?』
大将がいつものように丁寧に早く盛り付けてくれる。大丈夫、とても良い感じだ。
そっと器が持ち上げられて、トン、とお盆に乗せられる。だしがタプリと揺れてお店の蛍光灯を反射する。
『あれ、釜玉?やっほ〜!』
!!
いなりの声だ。先にお盆にいたんだ。
『いなり!ぼく、月見だよ。ほら見て、だしがあるでしょ?卵もつやつやの生卵』
『あーそういえば、だしがあるのが月見、ないのが釜玉、だっけ。ごめんね〜〜!!』
『ううん。よく間違えられるから』
『似すぎなんだよぉ〜。でもたしかに、よく見たら違うかも?月見くんってキラキラしてるよね!』
『······っ、え?』
楽しそうな声が、ぼくを、キラキラしてるって。
湯気がふわりと風になびいた。
『だしが反射するから?めっちゃ光ってるよ!角度変えて見ると、ころころ変わって、万華鏡みたい!』
『そ、うかな。ありがと······』
きみも破れず丁寧に包まれたふっくらした丸みが素敵だよ、だなんて、恥ずかしくて言えない。褒めてくれてありがとうと言うのさえ照れくさい。
ぼくがもっとぐいぐい行ける性格だったらいいのに。いなりのことを素直に褒めて、好きだよのひとことを、言えたら。
トン、とまた衝撃。さっきより強くて、揺れただしは器に当たって跳ね、いなりの皿のほうまで飛んでいった。ぼくたちを買った人はずいぶん乱暴らしい。
『わっ、』
『いなり······!大丈夫?』
『へーき!でもお皿ちょっと濡れてる〜』
『えっ、ごめ、』
『いいってば!月見のだしならいーよ、あたしに掛かっても』
ぼくのだしなら。
それって、どういう意味?ぼくのだから許してるの?他の、ぶっかけとかきつねとかのだしでも、許すの?
(ぼくのだけ特別であってほしいな。)
そんなことを思いながらチラリといなりを見たら、たしかにその皿は僕のだしで濡れていて、ちょっとずつ広がって、皿の形に沿って流れて、あぁ、どうしよう。
あと少しでいなりに届きそう───
『あっ』
ぼくの声か、いなりの声か。
いなりは持ち上げられて先にひと口、食べられた。残念、もう少しで僕のだしがいなりに············
いやいや!何を考えているんだろう!
せっかく美味しく作られたいなりに、ぼくのだしが染み込んだら味が変わってしまうじゃないか。ごはんもベチャッとしてしまうし。これで良かった。
『えへ、あたしが1番乗りだ〜!』
ころころ笑いながら戻ってきた。半分かじられて、お揚げで隠れていたパールホワイトが蛍光灯のまぶしさに晒される。
あれ、なんか、いつもと、
『気づいちゃった?今日はトクベツに揚げ玉入りなの!』
いつもはごまなのに。
ぼくと一緒の今日に限って
『───ぼくと、おそろいだね』
『え?·········あっ、ほんとだ〜!月見くんって揚げ玉ついてるんだ』
『うん。うん、そうだよ』
きみと会えるからいつもよりトッピングを欲張ったんだ、と。そう言ったなら、きみはどう反応するんだろう。
照れる?ただ笑う?
そうなんだ、と流すだけかもしれない。だってきみは
でも叶うことなら、きみもぼくみたいに、ささやかな事にさえ一喜一憂してほしい。ぼくはこんなにもきみに夢中。
『ねえ、いなり───』
きみに何か言いたくて呼びかけて。けれど、それよりも早くきみは、2本の棒にはさまれて遠ざかっていく。
待って、
なにか伝えたい
きみはほほえんだ
『───先に行くから、あとから絶対、来てね。そしたらその先はずっと一緒だよ』
ぱく、とぼくときみのいる空間が肉壁で隔たれた。
どういう意味なのいなり。ずっと一緒だなんて、そんな、とんだ殺し文句だ。どうしようもなく浮かされた。
ふう、と風を吹きかけられたけどそんなちっぽけな風圧じゃぼくの熱は冷めていかない。
あつっ!
あークソ、冷ましたのに
早くその暗い筒をくぐり抜けて、いなり、きみに会いに行きたいよ。