これは彼が魔法に至るまでの物語である。
その男は魔法を使ってみたかった。
大人になってもその思いはなくならず。
それどころか魔法を求める気持ちは大きくなっていた。
そんな時、映画を観た。
不思議な力で戦う若者が登場する有名な宇宙戦争の映画。
それを観た時、宇宙のどこかの惑星には魔法が存在するのではないかと考えた。
遠くの惑星に行くためにはどうしたらいいのか?
調べると、近場ならロケットで行って帰ってで行けるが、
遠くに行くなら大量の物資がいる。
だから、宇宙に物資を運べる宇宙エレベーターの開発が必要だとわかった。
しかし、宇宙エレベーターの開発には1点だけ現代の科学技術では解決できない問題があった。
エレベーターを上下させる丈夫な綱がないのだ。
厳密に言うとあるにはある。
名前をカーボンナノファイバーという。
だけど、まだ宇宙エレベーターに使えるほど長いものを作れないのだ。
男はカーボンナノファイバーの研究者となった。
30年の月日が流れ、
カーボンナノファイバー研究の第一人者と呼ばれるまでになった男は、
ついに10万㎞を超える長さの製造を可能にする。
そしてついに宇宙エレベーターの建設が始まった。
しかし、既に男は50代となっていた。
宇宙エレベータ―の完成には間に合ったとしても、
そこから魔法の存在する惑星を探し当てるだけの時間は
ないように思えた。
そこで男は再度考えた。
魔法とは何か。
神話やお話、アニメやゲームなどで描かれた魔法。
だいたいに共通していたのが「何か不思議な力」が変質して様々な現象を引きを越している。
では「何か不思議な力」とは何か。
時には眩く周囲を照らし、
炎の様に灼熱を生み出し、
ある時は万物を凍結に至らしめ、
雷を落とし、
嵐のような強風をも操れる。
そんなものが世の中に存在するのか…
ん?いやいや身近にあるじゃないか!
電気だ!それもう電気だ!
魔法陣の代わりに回路によってさまざまな事象を引き起こす、
電気はまさに魔法におけるマナ、MPと呼ばれるものに等しい。
そこから男は電気を使った便利な道具をいくつも開発した。
しかし、
電気が切れると使えなくなる
そもそも大量の電力が確保出来ず動かない
など、その道具たちに男は満足できなかった。
そこで男は思い出す。
その頃には完成していた宇宙エレベーターを。
それを使い、太陽光から無限の電気を得ようと決意する。
そこから男の行動は早かった。
宇宙エレベーター開発最大の功労者という地位を利用し、
隠密裏に大量の太陽光発電装置と送電機を宇宙に送った。
そしてエレベーター周辺の作業部門を丸ごと賄賂で買収し、
超大型のソーラー発電所を作ってしまう。
電力会社をはじめとするエネルギー関連の業界は
後になって事態に気づき慌てだしたが、
既にその時には無尽蔵の電力が地上へ
送電開始された後だった。
その後、男は電力会社を失業したという刺客の凶弾に倒れるが、
倒れ際、男の指から放たれた電撃が刺客を倒すのを見ると
満足げな顔で息を引き取る。
かくして数千年も前の神話の時代を経て人類は魔法を取り戻す。
はるか空高くには宇宙一杯にソーラーパネルを広げた発電所。
人々はそれを、
男が呼んでいたのと同じように
「世界樹ユグドラシル」と呼んだ。