出撃!庶務騎士団   作:nocomimi

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昇給で誤魔化されるにはこの案件重すぎじゃない?

ハァイ、また会ったわね。あたしあたし。ジョバンニよ。

 

でね、そんときふと見たら国王陛下が食堂の入り口に立ってたわけ。

 

さすがビビったわよ。反射的に席を立って直立不動になっちゃたもん。

 

ラファエロの奴はもちろんよ。それにジュゼッペおじさんもルクレティアちゃんもね。

 

横目で厨房の中を見るとフレデリコも同じ姿勢になってたわ。

 

でも、陛下はすぐこう仰ったの。

 

「いやいや、くるしゅうない。皆の衆、座りたまいよ」

 

そして陛下の後ろからレティシア姐さんが入ってきたわ。手にメモ帳を持ってね。

 

「皆さん、この案件は本日付けで国王陛下直属プロジェクトとなります。これからはそのつもりで動いてください」

 

あたしたちが座るとレティシア姐さんがそう言ったわ。

 

「直属...と申しますと。どういうことでしょうか、レティシア嬢?」

 

ラファエロの奴がおずおずと尋ねたわ。

 

「ま、こうなった原因が一部わしの所為でもあるからの。そういう意味じゃ。他に深い意味はなくての」

 

レティシア姐さんが答える前に、誕生席に腰かけた国王陛下が仰ったわ。

 

「原因....って...陛下...。教えてくださいな、どういうことなのかしら?」

 

あたしは思わずそう言ったわ。ちょっと不敬気味だったかも知れないけど、もう何度も料理の感想聞いてるうちに気安い仲になっちゃったもんだから、ついついね。

 

「うむ」

 

陛下は少し間を空けた後、お話を始められたわ。

 

「ヴァルグはわしの遠縁での。まあこの国の貴族たちの殆どはどっかしらでわしの家系と繋がっとるから、珍しいことではないんじゃがの.....じゃが.....」

 

あたしたちが注目する中、陛下はちょっと咳払いされたわ。

 

「あれはわしがまだ皇太子だった時代じゃ。四十年前じゃからヴァルグは七十歳じゃな。ヴァルグは自らの兵を指揮して国境地帯の魔物の襲撃を何度も独力で退けており、この国の英雄とされておったのじゃ。ところが、わしが奴の所領を視察しておったときじゃった。何度も戦闘があったという割には、国土も荒れ果てておらん。農民たちも皆平穏な顔をしておる。わしはちょっとおかしいと感じたのじゃ。そこで一計を案じて、装束を着替えて一介の剣士志望の若者の振りをして覆面調査をしたのじゃよ」

 

あたしたちはびっくりしたわ。あたし、また不敬気味かも知れないけど、陛下ってただの...いや...何でもないわ...その...純粋な...?グルメで甘物好きの可愛いおじさまだとばっかり思ってたから。まさか若い頃とはいえ陛下がそんな大胆なことをしておられただなんてね。

 

「そうしたらのう、わしが駐屯所を訪ねて兵士の職を希望しても、人は足りていると言われるばかり。酒場に行っても、戦場の近くの酒場に特有の殺気だった雰囲気もない。わしはいよいよおかしいと思って、村人たちに金を渡して聞き込みをしたのじゃよ」

 

話しがいよいよ面白くなってきたから、あたしも皆も固唾を飲みながら陛下を見つめていたわ。

 

「そうしたらのう、何人目かの村人がとうとう吐きおったのじゃよ。襲撃は全て自作自演だったとな。しかしなんでそんなセコい手がそれまでバレずにおったのか、わしは不思議で不思議でならなかった。じゃが調べを進めているうちにわかったんじゃよ」

 

陛下はちょっと難しい顔をされたけど、また口を開いてこう仰ったわ。

 

「わしの父、先代ルーラル王は........」

 

そこで陛下は口をつぐまれたわ。

 

そしてしばらくすると、陛下はこう仰ったわけ。

 

「わしの父、先代ルーラル王がヴァルグに命じたのじゃよ。魔物の脅威を演出し、国民の目を内政から逸らせ、とな」

 

あたしたちはあまりのことに目を真ん丸にしちゃったわよ。息をするのも忘れちゃったくらいだったわ。

 

「わしの父王は妾が二十五人おって、その派手な暮らしぶりはかねがね国民の間の噂話となっておった。ヴァルグの所領は王都からは遠い。じゃから、王都におる者が戦闘の噂を聞いてもその実態を見聞きする機会は少ない。これはわしの父にとってもヴァルグにとっても願ってもない取引じゃったのじゃ」

 

あたしは自分が唾を飲み込む音が聞こえたかと思ったわ。

 

それによ?.........こんな超、超、超、超国家機密をこんなところで話しちゃっていいわけ?

 

「わしは怒って父王に直談判した。じゃが父王は聞く耳を持ってはくれんかった。この現状を変えてしまったら自身の立場も危うくなるからな。そして父王の崩御とともにわしは王位を継いだ。それが二十年前じゃ。わしは即位式の夜、ヴァルグの奴を呼び出して自作自演のことを問い詰めたのじゃ。じゃがわしは青かったのじゃ......奴のほうが一枚も二枚も上手での...。『それなら全ての真実を国民に明かしてもよいのですぞ。さすれば王家の失脚も免れませぬ』とわしを宥めすかしてきおった。しかも奴は、もしもこれ以上追及するなら国境地帯の警備を全て放棄すると脅してくる始末じゃった。『私がいることで抑止力となっていることを実感いただくため』と称しての....」

 

重苦しい沈黙が続いたあと、陛下はこう話を纏められたの。

 

「以来奴は朝貢の免除から貿易権益の独占まで様々な便宜を要求するようになりよった。わしは苦慮したすえ奴を刺激せんよう次第に言いなりになってしまったのじゃ。だがしかし、まさか奴が自らの手で魔物を飼い慣らしていようとはな‥‥‥」

 

「陛下...恐れながら、気づいたことがありますわ。一つよろしいでしょうか?」

 

そこでルクレティアちゃんが大胆にも手をあげたわ。

 

普通王様が話しているときってさ、聞いてる側は流石に口挟まないわよね?いやぁ、さすが陛下の親戚ってだけのことはあるって思ったわ。

 

「ん、なんじゃなルクレティア」

 

「陛下、陛下が即位されヴァルグ伯と対決されたのが二十年前だとすれば、それはディオさんが伯の養子となられた時期と近似しておりますわ」

 

「ん...そうなのかのう。わしはその話は聞いてはおらなんだ」

 

陛下が仰ったので、ラファエロが慌ててテーブルの上の書面を陛下に差し出したわ。

 

「昨日判明した事実です。ジョバンニは生き別れとなった双子の弟がおります。そしてその弟がヴァルグ伯の養子となったのが二十年前のことです」

 

「ジョバンニさん、ディオさんが伯爵の養子となられたのは何月ごろのことかしら?」

 

ルクレティアちゃんが聞いてきたわ。

 

「そんなこと覚えてるわけ...あ.....ちょっと待って...!」

 

あたしは答えようとして急に思い出したわ。

 

「確かあたしが聞いたところでは、伯爵は学校の進級式にいきなり現れて弟を連れてったってことよ。だから四月だわ」

 

ルクレティアちゃんが陛下に向き直ったわ。

 

「陛下、陛下のご即位は二十年前の一月でしたわ。ですから伯爵は陛下が不正に気付かれて以降反旗を翻す機会を伺い始め、その準備の一環としてディオさんを養子にしたのではないかしら?」

 

「ふうむ」

 

陛下は困った顔をなさって腕組みされたわ。

 

そこでレティシア姐さんが口を開いたの。

 

「皆さん、今回の件は先ほどお伝えしたとおり陛下直属プロジェクトとなります。皆さんにはチームメンバーとして後で正式に辞令をお渡しします。本来業務に加えてのことですので負担がやや重くなりますが....」

 

あたしはここで弾かれたように顔を上げたわ。

 

「ちょいと姐さん、あたし言いたいことあるんだけど」

 

「何ですか、ジョバンニさん?」

 

「あたし、あくまでもシェフとして城に雇われたわよね?そりゃ魔法は使えるけど、あたしにしてみれば趣味以上にはしないつもりだったわ。だって魔法にハマって実験で死んだ親父の二の舞になりたくないもの。だけどこんな重たい案件抱えちゃったら業務の比重が狂っちゃうわよ」

 

あたしはこうまくし立てたんだけど、レティシア姐さんは眉ひとつ動かさなかったわ。でもあたしは食い下がったわけ。

 

「ね、悪いことは言わないから、専属の魔法使い雇ったら?それにほら、あたしは料理で王様を笑顔にするっていう仕事があるしさ?それだって王国にとって大切なことでしょ?ね?」

 

すると陛下がやおら口を開いて言われたわ。

 

「ダンジョンに行っている間お主の料理を食べられんのは残念だったが、わしはフレデリコのでも我慢できるのう」

 

あたしは二重の意味で信じられなくって固まっちゃったわよ。

 

あんなに大事な仕事----あたしを三ツ星ホテルの厨房から引き抜くほどの大事な仕事----がいつの間にか「我慢できるのう」ってレベルに格下げされちゃったわけ?

 

しかもあたしがいま手塩にかけて育ててる弟子、あの慌てんぼうで集中力がないけど素直で努力家のフレデリコの料理が「我慢できるのう」って程度の代物なわけ?

 

あたしは殆ど泣きそうになっちゃったわよ。

 

それで思わず視線を厨房の中に移したら、あの子と目が合っちゃったわ。

 

あの子もマジ泣きそうになってたわよ。

 

そしたらレティシア姐さんが冷徹な口調で言ったわ。

 

「業務の比重について詳細はお任せしますが、プロジェクト内で処理すべき個別案件に応じて柔軟に変えるようにしてください。いいですねジョバンニさん?」

 

あたしは怒りと失望で震えがきそうだったけどなんとか我慢したわ。

 

すると、ジュゼッペのおじさんがボソっと呟いたのよ。

 

「ワシは難しいことはわかりませんが、ダンジョンで冒険するとたまに死にそうになることがあるです。息子はもう大人になったですが、ワシが死んだときに少しだけでもお金を残してやりたいです」

 

それを聞いた陛下は、顔を上げてレティシア姐さんに合図されたわ。

 

それでレティシア姐さん、こう言ったの。

 

「プロジェクトメンバーの皆さんについては昇給といたします。金額は15,000ルピー。これも後で正式に内示をお渡ししますから」

 

「有難き幸せに存じます」

 

それを聞いたラファエロの奴、律儀に立ち上がって陛下とレティシア姐さんに対して一礼してやがんの。

 

..........ッたくチョロすぎなのよ、あんたわ!

 

「昇給は来月の締め日分からです。あ........あとそれから」

 

レティシア姐さんが付け加えたわ。

 

「住民税、社会保険料、年金保険料および介護保険料相当額が差し引かれますから、明細をご覧になったとき混乱しないでくださいね」

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