出撃!庶務騎士団   作:nocomimi

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地球にやさしいエコシステムの裏側はちょっと見たくないのです

庭師のジュゼッペです。

 

ワシは難しいことはわかりませんが、ともかく意識を取り戻すと目の前にぎょろりとした目玉と巨大な顔があったのです。

 

そして、その顔の持ち主の口からは想像もできないような悪臭が漂ってきたので思わず指摘してしまったのです。

 

初対面の間柄でそのような指摘をするのは礼を失しているということはワシもわかっていたです。

 

しかし、あまりにその臭いが酷くて耐えられなかったのです。致し方ないことです。

 

そしてその相手が怒って噛み付こうとしてきたので抵抗していると、

 

そいつはワシを放り出して今度は棍棒のようなもので殴りかかってきたので、

 

ワシは必死で抗って押し返し、気が付くと相手を殴り倒してしまっていたのです。

 

ワシには害をなすつもりはなかったのです。向こうが噛み付こうとしたりしてくるからいけないのです。

 

ともあれ、ワシが荒い息を鎮めていると、ラファエロとジョバンニの旦那がた、それにルクレティアお嬢様が駆け寄ってこられました。

 

「ジュゼッペおじさん、大丈夫?何ともない?痛くなかった?」

 

ジョバンニの旦那はさも心配そうにワシの頭を何度も撫でてくれたです。しかし、その理由がわからなかったのでワシは戸惑った顔をしたです。

 

「ゴブリンの大王に喰われそうになっていたとき、君が気絶していたからジョバンニがやむを得ず雷撃で撃ったんだ」

 

ラファエロの旦那が説明してくれたのでワシはやっと状況が呑み込めたです。

 

「ワシは何ともないです。それより旦那がた、それにお嬢様はご無事なのです?」

 

「わたくしたちは無事ですわ。ジュゼッペさんの戦い、とっても恰好よくございましてよ?」

 

そうルクレティアお嬢様がワシを褒めてくれたので、ワシは思わず照れて頭を掻いたです。

 

「装備を取り戻して脱出しよう。ここは後で国王陛下に報告して完全に埋めてもらうしかないな」

 

ラファエロの旦那が周囲を見回して言ったです。

 

ワシらがいる場所は、広い地下空間の中腹あたりの場所でしたです。背後の壁から伸びた足場の上にワシらがいて、その傍らにさっきの巨大ゴブリンが倒れてのびていたです。ワシらのいる場所からは、うねうね曲がる渡り廊下が空中に伸びていたです。

 

その廊下は四方八方から来る別の渡り廊下と複雑に合流したり交差したりしていたですが、

 

そのうちの一本が地下空間の壁に開いた穴につながっていたです。

 

ワシらはゴブリンの群れが放り出していった剣、斧や魔法使いの杖を回収すると、渡り廊下の上を移動し始めたです。

 

渡り廊下は手すりもなく粗雑な木製だったので、一歩足を踏み出すたびにギシギシと軋んだです。

 

しかし、どうにかその上を伝って壁の穴に入り込んだです。

 

ところが、その瞬間背後から声が聞こえたです。

 

「無礼な人間どもめ!目に物見せてやるわ!」

 

振り返ると、ゴブリンの大王が頭を押さえて顔をしかめながら叫んでいたです。

 

「解き放て!放つのだ!グルル=ザグルを!」

 

ゴブリンの大王が部下たちに向かって叫んだです。

 

ワシらは顔を見合わせたです。奴が解き放てといったのが何なのか、今一つわからなかったですが、なにか嫌なものであることは想像できたです。

 

「急ごう」

 

ラファエロの旦那が剣を抜くと穴の中を進み始めたです。

 

穴は縦横四メートルくらいあったので楽に進めましたです。

 

ですが、しばらくすると背後から奇妙な物音が聞こえてきたです。

 

なにか、ゾワゾワするというか、小さな足が何百本も同時に動いていて地面を踏み鳴らしているような感じです。

 

「一体何かしらね?」

 

ジョバンニの旦那が振り返りながら杖を掲げ、その先端から出る光を強めたです。

 

その途端、視界に入ってきた物がワシらの背中の毛を逆立たせたです。

 

穴の向こうから、直径二メートルくらいの巨大な芋虫のような生き物が進んできたからです。

 

しかも、その芋虫の頭上には鞍が据え付けられていて、そこにあのゴブリンの大王が手綱を持って乗っていたです。

 

その手綱は、芋虫の鼻っ面に刺さった鉤に繋がっていて、それで操作する仕組みになっているようでしたです。

 

「ワハハ、逃げられんぞ!抵抗しなければ楽に死なせてやったものを。生きたままこいつの餌になる運命を思い知れ!」

 

それを見たジョバンニの旦那は鋭い悲鳴を上げると、まるで泳ぐように手をバタつかせながら前方に向かって走り始めたです。

 

「走れ!」

 

ラファエロの旦那も叫んだです。

 

ワシもルクレティアお嬢様の手を引いて走り始めたです。

 

「虫...虫....虫....あたしダメ...!ダメ...!..ダメなのよ!」

 

ジョバンニの旦那はうわごとのように言い、頭を掻きむしりながら必死で走っていたです。

 

「このままじゃ追いつかれる!ルクレティア、先に行け!」

 

ラファエロの旦那はそう叫ぶと足を止めて剣を構えたです。

 

ワシも、ルクレティアお嬢様に逃げるよう促すと、斧を持って怪物を待ち受けたです。

 

その生き物はワシらに近づいてくると先端にある口を大きく開けたです。その口には細かい歯がビッシリ生えていたです。

 

ラファエロの旦那は剣で斬りつけましたです。ところが、それでは相手の皮の表面にちょっと傷をつけただけでしたです。

 

芋虫が有無を言わさず飲み込もうとしてくるのを、旦那は剣を振り回して抵抗しましたです。

 

ワシも斧を振って攻撃したです。これもやはり多少の傷はつけられましたですが、なにぶん刃がボロボロなので致命傷には至らなかったです。

 

「ジョバンニ!手を貸してくれ!」

 

ラファエロの旦那が叫びましたです。

 

その頃にはジョバンニの旦那はだいぶ先に進んでおられたですが、立ち止まって振り返られたです。

 

ワシらが必死に武器を振り回しながら肩越しに見ると、旦那は両脚を震わせていましたです。その顔は真っ青でしたです。

 

そうこうしているうち、ワシもラファエロの旦那も、じりじりと後ろに押されていったです。

 

「皆さま、この先に部屋がありますわよ!」

 

その時ルクレティアお嬢様の叫ぶ声が聞こえたです。

 

「ジョバンニ!頼む!」

 

ラファエロの旦那が再び言いましたです。

 

ジョバンニの旦那は震える手で魔法使いの杖をかざすと、その先端から炎の筋が一直線に飛び出したです。

 

その炎の筋はワシとラファエロの旦那の間を通ると、巨大芋虫の鼻面にぶち当たったです。

 

芋虫が怯んで顔を背けた隙に、ワシらはほうほうのていで逃げ出したです。

 

すると、お嬢様の言ったとおり、横穴は二十メートル四方ほどの四角い部屋に行き当たっていたです。部屋は殺風景で、沢山の樽が乱雑に積んであったです。

 

お嬢様が壁の一隅を指さしたです。

 

「通風口がありますわ。でも鉄格子が掛かっておりますの」

 

「ワシにお任せなのです、お嬢様」

 

ワシが答えた途端、またあのゾワゾワという音が近づいてきて、入り口一杯に巨大芋虫の頭が入ってきたです。

 

「観念せい人間どもめ」

 

芋虫の頭上に乗ったゴブリンの大王が呼ばわったです。

 

「もはや貴様らに逃げ場はない。こいつには剣も斧も効かぬ。ちょっとくらいの炎では焼き尽くすこともできぬぞ。こやつこそ儂の設計したエコシステムの最下層を担う魔物よ。骨だろうが何だろうが全てを吞み込んで掃除するのだ」

 

「散開しよう。奴の注意を逸らすんだ」

 

ラファエロの旦那が言いましたです。ワシらは頷くと、お嬢様を背後に守るようにして三か所に散って武器を構えたです。しかし、ジョバンニの旦那の脚はガクガクと震えていたです。

 

「このグロブリン卿の酒蔵で最後を迎えるとは因果な連中よのう。丁度良いわい。貴様らを片付けたら一杯ひっかけるとするかな」

 

逸る芋虫を手綱で鎮めながらゴブリンの大王が呟いたです。

 

「酒蔵だと?」

 

ラファエロの旦那が言ったです。

 

「グロブリン卿、参考までに聞きたい。どんな酒があるのだ?」

 

「貴様らにはやらんぞ。何しろグルメの儂が苦労して人間どもから奪ってきたのだからな。いずれにせよ儂は蒸留酒、それも度数60度以上のものしか酒とは呼ばん」

 

そう言うとゴブリンの大王は笑ったです。

 

「それとも貴様らのうち、その女だけは殺さずにおいて10日間ほど酒に漬けてから食するとするかな。命乞いをする女を入れた盃からチビチビ飲むのも一興じゃて」

 

「お生憎様ですわ。命乞いなどいたしませんわ」

 

気丈にもお嬢様が答えられたです。

 

「わたくし、いつでも天に召される覚悟はできておりますわ。それよりもグロブリン卿、地獄でのあなたへの裁きができるだけ軽くなるよう祈らせていただきますわ」

 

それを聞いたゴブリンの大王は癇に障ったようです。

 

「ふん、気の強い女だ。ますます殺さずにいたぶってやりたくなったわい」

 

お嬢様がゴブリンの大王と問答している隙を突いて、ラファエロの旦那が小声でワシらに言いましたです。

 

「ジュゼッペ、合図したら斧でできるだけ沢山の樽を破壊してくれ。俺は奴の注意を惹く。二つ目の合図でジョバンニ、床にこぼれた酒に火を点けられるか?」

 

ワシは頷いたです。ジョバンニの旦那も恐怖に顔を引き攣らせながらですが辛うじて首を縦に振ったです。

 

「まあよい、どんなに気の強いことを言っても仲間が全員死ねば気が変わるだろう。覚悟せい」

 

ゴブリンの大王は手綱を操ってピシリと音を立てると、ワシらに向かって芋虫を進ませたです。

 

「今だ!」

 

ラファエロの旦那が叫びながら剣を振り上げて芋虫に斬りかかったです。

 

同時にゴブリンの大王が手綱を操り、芋虫が口を大きく開けて旦那に躍りかかったです。

 

ところが旦那は斬りかかると見せかけて横に転がり、芋虫の攻撃を避けると、その鼻面に繋がった手綱を剣で切断したです。

 

ワシは樽の山に走り寄ると斧を振り上げて叩きつけたです。中から液体が滝のように流れ出てきたです。

 

「貴様、儂の酒に何をする!」

 

ゴブリンの大王は、片方の手綱で芋虫を操ろうと悪戦苦闘していましたが、なにぶん芋虫は目が悪いらしく左右に頭を振り回すばかりでしたです。そうこうしているうち流れ出した酒が部屋の中央の床に広がってきたです。

 

ラファエロの旦那は、必死で剣を振り回して芋虫の攻撃を押し止めながら、振り返ってもう一度叫んだです。

 

「ジョバンニ!やってくれ!」

 

ワシとお嬢様と一緒に部屋の隅に下がっていたジョバンニの旦那は、杖をかざしながらも躊躇ってこう言ったです。

 

「でも...そんなことしたらあんたにも火が!」

 

「構わん!やれ!」

 

ラファエロの旦那がまた叫びましたです。ジョバンニの旦那は目をつぶるようにしながら杖を突き出したです。

 

杖の先端から火がほとばしり出て、床一面にこぼれた酒に火がついたです。

 

たちまち芋虫が苦しんで暴れだしたです。ゴブリンの大王を放り出すと、炎に包まれてのたうち回りながら、来た道を引き返していったです。

 

「儂をフランベにする気か!」

 

ゴブリンの大王も転げまわりながら叫んでいましたが、すぐ力尽きて動かなくなったです。

 

しかし、ラファエロの旦那もそれは同じでした。旦那は剣を取り落とすと、膝からゆっくりと床に崩れ落ちたです。

 

高く昇る炎を前にしたワシらは両腕で熱気から顔を守っていたのですが、やがてそれが収まると、目の前にはラファエロの旦那とゴブリンの大王が倒れていたです。

 

ジョバンニの旦那はラファエロの旦那に駆け寄って、まだ煙を上げているその身体を抱き起こしたです。

 

「ジョバンニ....さっきは....君を疑って.....済まなかっ.....た」

 

ラファエロの旦那が息も絶え絶えでそう言いましたです。

 

「いいのよ....そんなの...いいのよ...」

 

ジョバンニの旦那は啜り泣きながら答えたです。

 

「そんなことより...あんたカッコつけて死んだりしたら承知しないわよ!」

 

そこにルクレティアお嬢様が駆け寄ってきたです。

 

「このルクレティア、聖女の名にかけて絶対に回復させてみせますわ」

 

そうしてお嬢様は長い間祈祷をされていましたです。

 

火傷で人相も分からないほどになっていたラファエロの旦那は、徐々に回復していったです。

 

やがて治療が完了すると、ラファエロの旦那は微笑んで言ったです。

 

「ジョバンニ、退職したいなら止めはせん。君が一番幸せになれる職場に行け」

 

それを聞いたジョバンニの旦那、しばらく黙っていましたがやがてこう言ったです。

 

「あんたにいちいち言われなくたってそうするわよ。でも.....」

 

旦那、不貞腐れたような顔で続けたです。

 

「もうちょっとだけいてやるわよ。あたしがいないとあんたたちも困るでしょ」

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