出撃!庶務騎士団   作:nocomimi

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退職を翻意させるのは意外と後輩の一言だったりするのよね

ハァイ、あたしよ、ジョヴァンニよ。

 

そんなこんなで、あたしたちがゴブリンの洞窟から抜け出したときにはもう日も暮れかかってたわよ。

 

ジュゼッペのおじさんが酒蔵の通風口についた鉄格子を無理やり引き剥がして、皆んなでその中に潜って。

 

そしたらやっと山の中腹に出られたわけ。それで麓まで降りたら、御者のセバスチャンが開口一番こう言いやがったのよ。

 

「旦那がた、随分遅いお戻りで!そんなにあそこからの景色が気に入ったんですかい」

 

ま、あたしは何も言わなかったけどさ。あたしたちがどんな目に遭ったか知らないんだからしょうがないわよね。

 

馬車に乗ったあたしたちが城に帰れたのはだいぶ遅くだったわ。それで解散したわけ。

 

ラファエロは報告書を書くからとか言って残ってたけど。

 

あたし、正直な話、次の日体調不良を理由に休み取ろうと思ってたのよ。

 

でも、なんか知らないけど朝パッと目が覚めちゃってさ、結局出勤しちゃったわよ。

 

なんか、厨房のことが気になってさ。

 

案の定、着替えて厨房に入ったらアシスタントのフレデリコがもう来てたわ。

 

それであの子ったら、仕込み作業しながらあたしの顔チラチラ見てくるのよね。

 

....あ...やっぱバレたか、って思ったわ。

 

で、休憩時間のとき、改まった顔して話しかけてきたのよね、あの子ってば。

 

「ジョヴァンニさん....あの....」

 

ちょっとためらいがちにだったけど、フレデリコってば顔を上げて聞いてきたわ。

 

「ジョバンニさん....辞めるって本当ですか?」

 

あたしはどうとも答えられなくてただ黙ってたわ。

 

だって、本当に決めかねてたから。

 

そしたら、あの子、目に一杯涙を溜めながらいきなり叫んだのよ。

 

「ジョヴァンニさん...お願いです。辞めないでください!」

 

あたしちょっとびっくりしちゃったわ。

 

でも、あの子ってばこう続けたの。

 

「ジョヴァンニさん...ボク....未熟者だし忘れっぽいし、まだまだだってことは自分でもよくわかってます。でも...でも...」

 

あの子、そう言ってるうちに啜り泣き始めたわ。

 

「ボク...ジョヴァンニさんみたいな料理人になりたいんです!だから...だからここにいてください。せめて...ボクが一人前になるまで...」

 

あたしってば返す言葉も浮かばないでただあの子の顔を見つめるしかなかったわよ。

 

「勝手なお願いだってことはわかってます。ジョヴァンニさんだったらもっといい職場から引く手あまただってことも知ってます。でも...でも...ボクは夢があって...」

 

「...どんな夢よ?」

 

あたしは尋ねたわ。

 

「ボク....ルクレティアさんに振り向いてもらいたくて...だからこの世界でいっぱしの料理人になりたいんです」

 

それ聞いてあたしちょっと呆気に取られちゃったんだけど、そのうちなんだか微笑ましくなっちゃってね。

 

純情じゃないの。それこそ18歳の男の子が持つ夢だわね、って。

 

とっても儚いけど、でも力強くって。すぐに消えてしまいそうだけど、ひょっとすると人生変えるくらいの爪痕残すような、そんな夢よね。

 

あたしはしばらく黙ってたわ。

 

でも、よくよく考えてみたら、あの洞窟を出たときからあたしの心は決まってたような気がする。

 

ダンジョンの探索なんかやらされるのは料理人として心外だけど、

 

人生に無駄なことなんて何ひとつないわけだし。

 

あたし、腕組んで言ってやったわ。

 

「ちょいと、フレデリコ。誰が辞めるなんて言った?」

 

「え...」

 

あの子、泣きながら顔を上げたわ。

 

「あたしは少なくともあんたを一人前にしなきゃならないからね。それくらいの責任感はあるわよ。で、フレデリコ。あんたが一人前になるまで何年かかると思う?」

 

「え...ご...五年くらい..ですか?」

 

「あんた何歳でこの道に入ったの?」

 

「え...学校に入ったのは12歳のときです」

 

「あたしは悪いけど六歳からこの世界にいるわけよ。あんたが同じレベルになるにはあと16・7年くらいはかかるわよ」

 

あたしはそう教えてやった。

 

「だからこれからもビシビシやるからね。いい?あんたがモノになってくれないとあたしも転職できないでしょ?」

 

それを聞いた途端あの子ってばみるみる笑顔になっちゃって。

 

「はい、シェフ!」

 

あの子ったら喜びいさんでまた仕込み作業に戻ったわ。

 

「コラ、涙拭いた手で食材触らない!」

 

「は...はい。すみません、シェフ!」

 

あたし、自分って意外と要領悪い人間なんだなって気づいたわ。

 

こんな訳の分からない職場に自分から残ろうだなんて。

 

ラファエロの社畜ぶりが伝染しちゃったのかな、とも思ったわね。いやだいやだ(笑)

 

* * * * * * * * 

 

そんなこんなで一週間くらいは何事もなく過ぎていったわね。

 

庶務騎士団の仕事もパッタリと来なくなったから、

 

魔物たちもしばらくは大人しくすることにしたのかしらね?知らんけど。

 

だからあたしは腕によりをかけて料理してやったわよ。

 

なにせフレデリコが煽ってくるのよ(笑)

 

「ジョバンニさん、料理で王様を見返してやりましょうよ!」ってね。

 

生意気よね~(笑)アシスタントの分際で。

 

でもあたしも内心そう思ってたし。

 

そしたらさ、ある日ラファエロの奴がまた怒鳴り込んできやがったのよ。

 

「ジョバンニ、一体この申請はどういうことだ?」

 

「どういうことってどういうことよ。何が悪いの?」

 

あたしは平然と言い返してやったわ。

 

「キャビアにトリュフにフォアグラ?一食計100,000ルピー?前回から10倍以上の増加じゃないか!」

 

「いちいちうるさいわね。王様の食材ケチるなんてどこの弱小国家よ?」

 

「そんなこと言っても収支のバランスというものがあるだろう。今までの予算規模でなんとか回せないのか?」

 

「ムリね。ま、予算足りないんだったら国債でもなんでも発行なさい」

 

「国家財政のことを消費者金融の借り入れみたく軽々しく言うなよ!」

 

「とにかく仕事の邪魔しないで頂戴。いま忙しいとこなんだから。それともあのゴブリン大王みたいに雷撃喰らいたいの?」

 

そんなふうにあたしたちがやりあってたら、今度はレティシアが食堂に入ってきたわ。

 

その瞬間、あたしもの凄ぉく嫌な予感したのよね。

 

もう、あたしにとってはあの女、殆ど天敵みたいな存在になってたから(汗)

 

しかも、その後ろからルクレティアちゃんとジュゼッペのおじさんも入ってきたからすぐわかった。

 

あ....また何かトラブルがあったのね、って。

 

「ジョバンニさん、ちょっとお時間よろしいですか?」

 

あたし、多分顔に出てたと思うけど、渋々ながら厨房から出たわよ。

 

四人が腰かけたところで、レティシアが話し始めたわ。

 

「庶務騎士団の出動命令です。王家の墓所で怪奇現象が起きています。陛下はその解決を望んでおられます」

 

「怪奇現象...ですか。もしかすると幽霊か何かですか?」

 

ラファエロが尋ねたわ。

 

「おそらくそれに近いものね。墓守りから報告があったのが三日前。墓の石がひっくり返ったり骸骨が立ち上がったりで仕事が出来る状態ではない、っていう訴えだったわ」

 

「で、それをあたしたちにどうしろってわけ?」

 

今度はあたしが聞いたわ。

 

「プロジェクトチームは状況を確認しその原因を追究、可能なら除去し原状を取り戻す事。これが陛下からの指示内容です」

 

まあ、鉄仮面ってこういうのを言うのね。あの女、書類でも読むみたいにスラスラと答えたわ。

 

「方法、時間帯は任せます。ただ、墓守りの話では怪奇現象は夜中が最も顕著だということよ。ただし必ず決まった時間に起こるというわけでもないって」

 

「ちょっと待ってほしいんだけど」

 

あたしは声を上げたわ。

 

「それよりこれまでのあたしたちの活動の報告、陛下には読んでもらってるのかしら?」

 

あたしはレティシアの氷みたいな目に負けないよう睨み返しながら続けたわ。

 

「特に先週のゴブリンの洞窟。あそこは完全にトンネルを埋めて、立て札立てて山そのものを立ち入り禁止にしなきゃだめよ。ゴブリンの王は死んだけど、まだ小物が残ってるかも知れないし。芋虫のお化けだってもしかするとまだ生きてるかもしれないわ」

 

「対応は鋭意検討中です」

 

あの女、表情も変えずにこう答えたわ。

 

「検討中ってどう検討してるわけ?それともう一つ。この2件にはヴァルグが絡んでるのが明白よ。ゴブリンの王も、こないだのオークの親玉と全く同じように言ってたからね」

 

あたし、向き直ってこう言ってやったわ。

 

「あのさ、あたしたちを動員するだけ動員して、ただ場当たり的に騒動の火消しをしたって意味がないのよ。根本原因が明らかになっていて、あたしたちでこうして報告を上げているんだから、上層部のほうでもできることをやってもらわないと困るわけ」

 

ところがよ。レティシアの奴眉ひとつ動かさないわけ。

 

「言ってる意味わかるわよね?」

 

あたしがそう尋ねてもこう答えるだけ。

 

「ですから対応は鋭意検討中です」

 

あたしちょっとキレそうになったけど辛うじて我慢したわ。社会人だから。

 

その時ルクレティアちゃんがこう言ったのよ。

 

「レティシアさん、それではわたくしたちの発案で騎士団が出撃することは許されるのかしら?」

 

「あなたたちの発案で、ですか?」

 

レティシアの奴、ちょっと驚いた顔をしたわ。

 

「そうですわ。事件へのヴァルグ伯爵の関与について陛下が対応できない理由はわたくしにも理解できますわ。これは政治的な話しになりますもの」

 

その時ルクレティアちゃん、チラっとあたしのほうを見たの。

 

ピンときたわあたし。「任せて」ってことなんだなって。

 

「だとすればわたくしたちの手で動かぬ証拠を押さえるという手段もありえますわ」

 

ルクレティアちゃん平然とこう言ったわ。

 

あたし、これはこれでスゲーって感心したけど...ちょっと迷惑とも思っちゃった。

 

だって仕事増えるじゃないの!

 

「ではそれについては提案書を作成し提出してください。陛下のゴーサインが出れば出撃を許可します」

 

レティシアがこう答えたわ。

 

「ですがまずは王家の墓所の調査を行ってください。いいですね?」

 

いちいち念押しするとこがカンに触ったけど、あたし仕方なく頷いたわ。

 

..え..でも待って。

 

墓場でしょ?幽霊でしょ?

 

あたしが絶対ダメなやつじゃん。

 

どうすんのよ!あたし!

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