ワシは庭師のジュゼッペですです。
ラファエロの旦那が墓守りと打ち合わせに行くと言って出ていったきりなかなか戻らないので、ワシら三人は心配になって見に行ったのです。
墓守りから教わった場所に行くと、なんと旦那は墓所の中で居眠りしていたのですが、
ワシらが中に入って旦那を起こしていると、突然、墓所の入り口に蓋をするように岩の板が降りてきてしまったです。
しかもその次に、今度は入り口とは反対側にある壁が勝手に横に滑っていき、その先に続く通路が現れたです。
さらに驚いたことに、突然若い男の笑い声が響き、
その声が「奥に入ってこい」と
ワシらはそこに立ち尽くして迷っていましたが、やがてルクレティアお嬢様が口を開いたです。
「皆さま、参りましょう?何かがわかるかもしれませんわ」
ワシは、一行の中で一番年若でしかもご婦人であられるルクレティアお嬢様が全く恐れていらっしゃらないことにビックリしたです。
「今ここから助けを呼んでもおそらく声は届かないだろうな」
ラファエロの旦那が入り口を塞いだ岩を見やりながらそう呟かれたです。
結局、ワシらは不思議な声の言うままに、現れた通路の中に入っていったです。
剣を抜いたラファエロの旦那を先頭にワシらは狭い通路を進んでいったです。
すると、やがてワシらは広い玄室に出たです。
ジョヴァンニの旦那が杖をかざして、その先端から出る光で照らしてみると、天井の高さは2メートルくらいでしたが、横と奥行きが三十メートルくらいの空間です。
部屋の真ん中には棺がふたつ並んでいたです。
「王と王妃の棺だろうか」
ラファエロの旦那は剣を用心深く持ちながらも呟かれたです。
周囲を見回すと、壁際にはいくつも横穴が掘られており、その中にも棺が置いてありましたです。
すると、ジョヴァンニの旦那が突然叫ばれましたです。
「ディオ!あんたなんでしょ?」
旦那の声が玄室内に響いてしばらくすると、若い男の含み笑いが聞こえてきたです。
「相変わらず悪趣味なのねあんたは。こんな墓場でイタズラして何が楽しいわけ?」
すると若い男の声が言いましたです。
「久しぶりだねぇ兄さん。二十年ぶりくらいかな?」
「あんたも落ちるとこまで落ちたみたいね。金持ちの養子になったって聞いたから少しは社会に適合できるようになったかと思ったけど、まるで逆じゃない。呆れたわ」
ジョヴァンニの旦那は油断なく周囲に視線を配りながらそう言ったです。
すると、中央にある2つの棺の向こう側に人影が現れたです。
それはあまりに突然のことだったので、ワシらは皆驚いたです。ジョヴァンニの旦那以外は。
「どうもどうも....。改めて自己紹介させていただくよ。ボォクの名前はディオ。皆さん、以後お見知りおきを」
その人影は魔法使いのような装束を着た若い男のものでした。そいつは自己紹介すると気障ったらしい仕草で一礼したです。ワシはますます驚いたです。なぜならその男は、ジョヴァンニの旦那に瓜二つだったからです。
「.....とはいってもすぐ死ぬんだけどね、キミたちは。残念だけど、ボォクの魔法から逃れる術は....」
すると、その男の身体が凍りついたように静止したのです。
ワシらは戸惑って互いに顔を見合わせました。そして数秒間それが続いた後、男はまた喋り始めましたです。
「.......まあ、今ここでひれ伏してボォクに忠誠を誓うなら、考えてやらないこともないけどねぇ」
「ディオ、あんたさっきからあたしたちに催眠魔法かけてるでしょ。セコい嫌がらせはやめなさい。もう効かないわよ」
話が終わる前にジョバンニの旦那がそう言いましたです。
「おぉや。昔取った杵柄ってわけかい?ボォクが皆さんに贈った甘い眠りを結界防御するなんて、無粋だなぁ兄さ....」
「それからもう一つ。あんた、本当はそこにはいないわね」
ジョヴァンニの旦那はそう遮ったです。すると若い男は黙り込みましたです。
「....図星でしょ?」
旦那がそう続けると、若い男はややつまらなさそうな顔をして横を向いたです。
「ふん....もう気づいたのか。面白くないなぁ」
「魔力転送装置。今でも覚えてるわ。あたしたちの実父が家で何度も実験してたもの」
ジョヴァンニの旦那がそう言うと、若い男は気を取り直したようにこちらを向いたです。
「ご名答、兄さん。そう、今のボォクはね、こうやって自宅にいながらにして仕事をこなしているんだよ。キミらみたいな遅れた人達に真似するのは無理かも知れないけどねぇ」
「じゃああんたの社会不適合ぶりはますます酷くなってるってことね。人とも会わずに家でずっと過ごしてるなんてまるで部屋に籠って実験ばかりしてたあたしたちの実父そのものじゃない。あたしだったら気が狂うわ」
ジョバンニの旦那がそう言い返しましたです。
「兄さん、何もわかってないねぇ。ボォクはまさに、その偉大な魔術師の遺産を引き継いだのさ。兄さんと違ってね」
ディオと名乗った若い男は負けずに続けたです。
「兄さんが料理なんていう下賤な仕事に精を出しているうちに、ボォクは自分の魔法スキルを磨くことに人生を全振りしてきたのだよ。それによってできた差は決して小さくないってこと、きっと兄さんにもわかってもらえると思うけどねえ」
それを聞いたジョヴァンニの旦那は大いに気を悪くしたようで、目を細めながらディオを睨みつけたです。
「ちょいと聞き捨てならないわね。料理が下賤な仕事ですって?もう一度言ってみなさいよ!」
旦那はそう怒鳴りつけると、一気に捲し立てたです。
「あんたは毎日食事するでしょうが。その食事は誰かが作ったものでしょう。その食事に心がこもっていたらあんたは元気が出るし、手抜きであればやる気を無くすかもしれない。料理ってのは誰かの心を温めるための魔法みたいなもんなのよ。あんたみたいな社会不適合者には理解できないかも知れないけどね!」
ディオはそう言われても大して堪えた様子もなくこう返したです。
「やれやれ。料理人の養子になったからってそぉこまで肩入れしなくてもねぇ...兄さん、魔法使いの誇り高い血は一体どこに行ってしまったんだい?」
「あたしはあんたや親父と違ってそっちの世界には入らないわよ。早死にするのが目に見えてるもの」
「残念だなぁ兄さん。兄さんだってその気になれば歴史に名を残す偉大な魔法使いになれたかもしれないのにぃ」
ディオはそう言うと着ていたマントを
「考えてもごらんよ。ボォクらは魔力持ちの双子なんだよ?そりゃ兄さん、キミのは使ってないからだいぶ錆びついちゃったかもしれないけど、それでも双子の魔力は相乗効果で何倍にもなるってことはよく知られた事実さ。ボォクら二人で力を合わせれば、この王国を乗っ取るなんて朝飯前なのに」
そいつは、気障ったらしい仕草で両手を広げるとこう結んだです。
「あのシミッたれた王様...誰だっけ?ルーラル王だっけ?....あいつにヘコヘコ頭下げながら毎日チマチマ料理なんか作ってて何が楽しいのかい?兄さん、キミだって本当はもっと偉大なものになれるのに、それこそボォクには理解ができないよ」
それを聞いたジョヴァンニの旦那、なにか思うところがあったのか少し口をつぐんでおられたです。
「ディオさん、初めまして。わたくし、ディアナ家のルクレティアと申しますわ。以後お見知りおきを」
ここまで黙って聞いていたルクレティアお嬢様が名を名乗りながら膝を曲げて一礼されたです。
「おぉや、可愛いお嬢さん。キミはこんな連中と一緒になってルーラル王の手先として働くより、僕の愛ぁい人になったほうがよほどお似合いだよ、考えてみる気はないかぁい?」
ディオはそう言いましたがルクレティアお嬢様は穏やかに、しかしハッキリと言われたです。
「お生憎様ですわ。御覧の通りわたくし神に身を捧げた修道女ですから、殿方のモノになることはできませんの」
そしてお嬢様は真顔になってこう尋ねられましたのです。
「ディオさん、この墓所が誰のものかはおわかりですわね?」
「もぉちろん知ってるさ。ルーラル・ヴィットリーオ3世。あのチンケなルーラル王の曽祖父にあたる王だねぇ」
「王の棺の隣にある棺は誰のものかしら?王妃のものではないですわね?」
ルクレティアお嬢様が尋ねると、ディオはやや驚いたような顔になりました。
するとお嬢様は微笑んで仰っしゃいましたです。
「ヴィットリーオ3世はその従妹アドリアーナと恋仲でしたわ。しかし許されぬ恋の末自ら命を絶ったアドリアーナを偲んで王は自らの棺の横に彼女の遺体を葬るよう命じたのですわ。王妃ではなく」
ワシらは驚きました。まるで本でも読み上げるようにルクレティアお嬢様がすらすらとそう仰ったからです。
それを聞いたディオはやや鼻白んだようでしたがこう言いましたです。
「そ...そうなのかい?よく知ってるねぇキミは。だがそれがどうかして...」
「アドリアーナの母、ベネディッタは、王から身を引くようアドリアーナに圧力をかけその結果自殺に追い込んだ王の側近たちに甚大な恨みを抱いていましたわ。それが原因で、王の埋葬時には王の魂にベネディッタの呪いがかからないよう手の込んだ防御策が講じられたと伝わっていますわ」
そう言うとお嬢様は勝ち誇ったように顔を上げられましたです。
「驚かれまして?でも、こんなことは貴族でしたら誰でも知ってることですわ、ディオさん。貴族でしたら、ね」
それを聞いたディオは慌てた様子でこう言いましたです。
「だ...だから何だと言うんだねお嬢ちゃん?王家のスキャンダルにちょっと詳しいからといって、このボォクの仕掛けた様々な魔法の........」
「その防御策の一つが、おそらくこの玄室の横穴に葬られた剣士たちですわね」
お嬢様はディオが話しているのにも構わず、玄室の中を見回しながら続けられましたです。
「そうすると面白くないのは王妃ですわね。王妃は後を継いだ息子であるヴィットリーオ4世にアドリアーナの実家である伯爵家を左遷し地方の閑職に追いやるよう進言したと伝わっていますわ。それが.........」
ワシらは息をするのも忘れてお嬢様を見つめておりましたです。しかも、ディオまでもが同じようにしておりましたです。
「それが、ヴァルグ伯爵家ですわ」