あたしあたし。ジョバンニよ。
そうそう、でね、その王様のお墓の中でさ、あたしたち全員ルクレティアちゃんの言うことに耳傾けることになっちゃったわけよ。
ディオまでもが喋るのを忘れてたから傑作だったけどね。
「......それでヴァルグ伯爵家は東方の国境地帯に転封させられましたわ」
あの子ったらさ...何ていうの?そう、まるで法廷で弁論する弁護士みたいに堂々としてたわ。
それまであたしさ、正直な話あの子のこと、治療スキルを除いたらただのトンチキお嬢様としか思ってなかったの。
だから、ちょっと見直しちゃったわよ。
「ところでアドリアーナには妹、エリザベッタがいましたの。このエリザベッタは幼い頃から魔力体質があったと言われていて、人前に出されずに育てられたと伝わっていますわ」
ルクレティアちゃんはここまで話すと、いわくありげにディオの顔を見たわけよ。
「ディオさん、あなたの養父の現ヴァルグ伯爵ですけど.......おかしなことに気づかなくて?」
「....な..何がおかしいんだって?ボォクのパパは、そりゃあ年齢こそ100歳を超えてるけど、カクシャクとして頭もハッキリしたひとさ。使用人たちからも尊敬されてるよ。おかしなことなんか何もないさ?」
ディオはそう言ったんだけど、ルクレティアちゃんは無視するように続けたわ。
「で、エリザベッタは、あなたの養父であるヴァルグ伯の曾祖母にあたりますわね。そのエリザベッタは他家に嫁に出されることはなく、婿を取ったのですわ。ところがその婿の素性が謎に包まれていて、殆ど何の記録も残っていないのですわ」
そこでルクレティアちゃんは持っていた袋から紙を何枚か取り出してみせたわけ。それは肖像画の写しだったわ。
「これが、ヴァルグ・エンリーコ・デメトーリオ2世。エリザベッタの息子であり、あなたの義理の曽祖父になりますわね。そしてデメトーリオ3世の肖像画がこれ。最後にあなたの養父、伯爵家現当主の肖像画がこれですわ」
あの子、そこでニヤりと笑ったわけ。片方の眉を上げてニヤり、とよ?あたし、思わず二度見しちゃったわよ。
「ディオさん、如何かしら?全く同一の人物に見えなくて?」
「あ....当たりまえじゃないか。そりゃあ似てるだろうさ、血が繋がってるんだから!キミは一体何を言いたいんだ?」
ディオは段々相手のペースに呑まれてきたのに気づいたみたいで、苛立ちを隠せなくなってたわ。
「フン!キミが何と言おうと、パパは押しも押されぬ伯爵家の当主さ。そしてこのボォクは....」
そこでアイツったら、気取った仕草で前髪をかき上げやがったわけ。あたし、あいつの育ちが悪いのよく知ってるから失笑しちゃったわよ。
「ボォクは将来その伯爵家の跡取りになるわけだよ。羨ましいだろ?カワイコちゃん、どうだい?ボォクのお嫁さんにならないかい?キミも貴族だっていうんならちょうど釣り合いもイイじゃないか?」
「ディオさん、あなた..何もわかってらっしゃらないのね」
ルクレティアちゃんは溜め息をついたわ。
「貴族にとっておよそすべての結婚と養子縁組は家の繁栄のために行われる純然たる戦略的事業ですわ」
あの子が有無を言わさない断定的な調子でそう言ったのを聞いて、あたしたちもディオもギョッとしちゃったわよ。
貴族の世界ってそんなに世知辛いわけ?ってあたし思ったもん。
「だとすればヴァルグ伯がただ跡取りが欲しいからといった理由であなたを養子に迎えたと考えるのはいささかナイーブに過ぎるのではないかしら?」
あたしたち、正直ルクレティアちゃんが何を言いたかったのかよく分からなかった。ディオも同じだったみたいで少し黙ってたわ。
「考えてもみて下さいな。ディオさん、失礼ながらあなたは貴族の生まれではないわ。家系としては何のメリットもありませんわ。だとすれば何か別の理由があるというのが自然ではないかしら?」
でも、ルクレティアちゃんがここまで言うと、気を取り直したディオは慌てた様子で遮ったの。
「お嬢ちゃん、ボォクを煙に巻いて時間稼ぎしようとしたってそうはいかないよ。可愛い顔して油断のならない子だねぇ」
そしてディオの奴、気障ったらしい仕草で右手を上げて指を鳴らしたの。
「そんなことより、キミたち全員にボォクからのプレゼントがあるんだ。この玄室を護る四人の守護者たちさ。彼らはキミたちが以前戦ったようなオークたちとはレベチの相手だよ」
「おい、答えろ。やはりアルト村の件には貴様が関わっていたんだな?」
ラファエロが口を挟んできたわ。
「さあ?ボォクは多方面で仕事をしてるからね。じゃ、たっぷりお楽しみあぁれ」
ディオが頭を下げながら嫌味な口調でそう言ったあと、掻き消すようにその姿が消えたの。
その後、しばらくは何も起きなかったんだけど、やがて玄室の壁に彫られた横穴からガタガタと音がし始めたわ。
見ると、横穴に置かれた棺の蓋が激しく揺れてるの。
次の瞬間、石の蓋が床に落ちて中から人影がニュッって出てきたわけ。
それ、ガイコツだったのよ。それも兜を被って鎖帷子を着たやつ。
玄室には横穴が四つあったから、それぞれの穴に据えてあった棺からそうやってガイコツたちが出てきちゃったわけなのよ。
ガイコツ剣士たちは盾と剣を構えると、こっちににじり寄ってきたわ。あたし思わずルクレティアちゃんを庇って下がらせたわ。
「ジュゼッペ、俺が左の二体を引き受ける。右の二体は頼んだぞ」
ラファエロの奴、カッコよくそう言ってたんだけど、顔を見るとちょっと焦ってたわね。
でもジュゼッペのおじさん、殊勝に頷いて斧を構えたわ。
そして、右手からガイコツ剣士二体が近づいてきたところに自分から進み出ていって、そのうち先頭の一体に向かって思い切り斧を振り下ろしたの。
するとそいつは盾で斧を受けたままの体勢で吹き飛ばされて向こうの壁に叩きつけられてたわ。
あたし思わず歓声上げたんだけど、次の瞬間、その叩きつけられた奴がまた立ち上がったから、思わず右腕振って足踏み鳴らしちゃったわよ。
「ううむ...斧が新品だったらあんな奴真っ二つだったのです!」
ジュゼッペのおじさん、そう叫びながら、今度は二体目に向かって斧の頭を思い切り突き出したわ。
すると二体目も盾で受けたから、よろけて後ろ向きに転んだんだけど、こいつもすぐに立ち上がってまた近づいてきたわ。
そうこうしているうちに、ラファエロの奴も残り二体のガイコツ剣士たちと戦い始めてたの。
でも向こうが二人がかりで斬りかかってくるのにこっちは一人だったから防戦一方だったわ。
ジュゼッペのおじさんも近くにいる一体と必死で戦って、相手が剣で斬りかかってくるのを最初は斧の柄で防いでたんだけど、そのうち一撃を肩あたりに喰らっちゃったわけ。
するとジュゼッペのおじさん、叫び声を上げて拳で相手の顔を思い切りぶん殴ったの。そうしたら頭蓋骨が丸ごと首から外れて後ろの方に転がってったわ。
さらにおじさん、足でガイコツを蹴って倒したうえに、両腕振り上げて雄たけびを上げたわ。
ちょっとカッコよかった。
でも、さっき壁に叩きつけられてから立ち上がったもう一体がすぐにやってきたわ。
「ラファエロの旦那!こいつを片付けてすぐに加勢するです!」
おじさん、斧を振り上げると、もう一体のガイコツを横から撫で斬りにしようとしたわけ。
でも、そのガイコツ、ガイコツの癖に妙に素早い動きで身を低くしてそれを避けやがったのよ。
そんでもって、おじさんが勢い余ってたたらを踏んだところに、突きを食らわしやがったのよ。
ジュゼッペのおじさん、これはかなり効いたみたいで、呻き声を上げながら動きを止めたわ。
「ジュゼッペ!」
ラファエロの奴、二体のガイコツどもに壁際に追い詰められながらも叫んでたわ。
「このままじゃ全員やられるわ。どこかにあいつらを操ってる魔力転送装置があるはずよ!」
あたしは叫んだわ。でもどこにあるかは皆目見当が付かなかった。
「ジョバンニさん!棺の中ですわ!」
ルクレティアちゃんが叫んだわ。
「二つあるうちどっちかわかる?」
あたし、叫び返したわ。どうしてかわからないけど、この子を信用するしかないって気になってたから。
「王が右、妃が左。右の棺ですわ!」
あの子が言ったわ。
ジュゼッペのおじさん、腹を刺されながらも、相手を思い切りベアーハグしてたわ。それでガイコツがみるみるうちに砕け始めたわ。
ラファエロの奴はやっと一体を倒したみたいだったけど、体中に傷を負ってフラフラになりながら残り一体と戦い続けてたわ。
あたしとルクレティアちゃんは右側の棺に駆け寄ると、せぇので二人で蓋を持ち上げようとしたわ。
ところがさ、めッちゃくちゃ重ッもいのよこの蓋が。
しかもその上よ?二人で唸ってるところに、ふと脇を見るとジュゼッペの拳でぶっ飛ばされたガイコツの頭がコロコロ床を転がり始めたの。
横目で見てると、その頭蓋骨、しばらく転がった末に元の自分の身体の首のところにやってきて、ピッタリ嵌ってやんのよ。
それで、ジュゼッペのおじさんがベアーハッグでようやく片付けた一体が床に崩れ落ちたと思ったら、頭と首の繋がったそのガイコツが立ち上がったわけ。
もう、あれほど焦ったことはなかったわ。
でもルクレティアちゃんもあたしも顔を真っ赤にしながら、とうとう棺の蓋を持ち上げて、横の床に落としたの。
棺の中の王様のガイコツ、胸のあたりに輝く宝玉みたいなものが置いてあったわ。
あの巨大石像の頭についてた奴と同じ。すぐわかったわ。
あたし、それを取り上げて床に叩きつけたわ。
でも、結構丈夫みたいですぐには壊れなかった。
そのうち、復活したガイコツが剣を振り上げてジュゼッペのおじさんに襲い掛かったわ。
おじさん、もう息も絶え絶えだった。腕を振り上げてどうにか剣を防ごうとしてたけど。
あたし、ほとんど絶望しかかったわ。その時、ルクレティアちゃんが叫んだの。
「ジョバンニさん、蓋を使うのですわ!」
あたし、それ聞いてどうして気づかなかったんだろうと思ったわ。
すぐに、自分の杖を持って王様の棺の蓋に駆け寄って、テコの原理でそれをだけちょっとだけ持ち上げたわ。
そこでルクレティアちゃんが宝玉を拾ってその下に転がし入れたわけ。
あたし、すぐに手を離して蓋を落としたうえに、二人してその上に乗って何回もジャンプしてやったわよ。
すると硬いものが砕ける音がして、途端にガイコツどもの動きが止まったわ。
安堵のあまりヘナヘナと座り込んじゃったわよ。さすがのあたしもね....
ルクレティアちゃん、息を弾ませながらこう呟いてたわ。
「困りましたわね。わたくしたち王国刑法第24条の墳墓発掘罪に問われるリスクがありますわ....」
あたしは聞こえないふりしたけどね。でも、あぁ、いつものルクレティアちゃんだって思ってちょっとホッとしたわ。