あ、わたくしですわ。ルクレティア・ヴァン・ディアナですわ。
そんなわけで、わたくしとジョバンニさんが力を合わせて魔力転送装置を破壊したらやっと骸骨剣士たちが動きを止めましたので、
わたくし急いでジュゼッペさんに駆け寄ったのですわ。
腹を刺されたジュゼッペさん、かなり重傷でしたけど、時間をかけてどうにか回復に成功しましたわ。
それから今度はラファエロ主任も手当てして差し上げましたの。
全身に刀傷を負ってらしたけど、こちらも何とか治療できましたわ。
それでわたくしたち一息ついたんですけど、
それにしても、このプロジェクトチームで活動すれば活動するほど法的リスクが高まっていくのには閉口しましたわ。前回の石像破壊に次いで、今回は王の棺を荒してしまったのですもの。
とはいえ、法的リスクが生じたら生じたで対応策を考えるのが法務職の務めですわ。
「やつら王都にまで活動の手を伸ばしていたとはな‥‥」
わたくしがそう考え事をしていましたら、ラファエロ主任が剣を納めながら呟きましたわ。
「ルクレティア嬢、さっき確か、墓を荒すことが犯罪になるって言ってたな?」
主任が尋ねられたのでわたくし答えましたわ。
「はい...王国刑法第24条にそう定められていますわ」
「だったら奴らが今日の仕掛けの犯人だってことが分かれば、国王陛下も連中を処罰する大義名分ができるんじゃないのか?」
「確かにそうですけども...でもそうするとわたくしたちが王の棺に手を触れたことも露見してしまいますわね」
「ねえちょいとお待ちよ二人とも。そもそも魔法の仕掛けを誰が仕掛けたかなんて、証拠が残らないんだから証明しようがないわよ」
ジョバンニさんが割って入りましたわ。
「さっき壊した魔力転送装置はどうだ?」
「どうかしらね。あんなもの壊れちゃったらそれこそただの宝玉にしか見えないし、あいつらが作ったって証拠もないし...」
ジョバンニさんは首を振って答えましたわ。
「犯罪の証拠にはなりませんけど、彼らがここに来た証拠なら残ってるはずですわ」
わたくしはそう申し上げましたわ。
「ここに来た証拠?どこにだ?」
「墓参者の記名する名簿ですわ。墓守りの小屋にあるはずですわ」
すると皆さま、三人とも顔を見合わせておられましたわ。
「君は本当に頭がいいなあ」
主任が感心して言われましたけど、わたくし今一つ理由がわかりませんでしたわ。誰でも思いつきそうなことでしたから。
「今出来ることは、状況証拠を積み重ねることですわ」
「じゃあともかくこのロクでもない場所から早く出ないとダメね」
私が提案するとジョバンニさんがそう言って元々入ってきた通路に引き返し、わたくしたちも続きましたわ。
ところが、墓所の入り口は相変わらず岩で塞がれたままでしたの。
「クソッ、だめか」
岩の板を何度も手で叩いた後、ラファエロ主任が呟かれましたわ。
ジュゼッペさんもどうにかしてこじ開けようとしておられましたけど、岩の板がぴったり嵌っているうえに、手をかける部分が全くなかったのでお手上げの様子でしたわ。
「おそらくもともと墓荒しを捕らえるための仕掛けだったのだろうな。それを奴らが悪用したんだ」
主任がそう仰いましたけど、ジョバンニさんは焦れたように言われましたわ。
「ちょっとぉ、冷静に分析してる場合?あたしこんなとこで誰かが助けに来てくれるまで何日も過ごすなんて嫌よぉ」
「皆さま、玄室に戻ってみませんこと?思わぬ通路や穴があるかも知れませんわ」
そこでわたくしそう申し上げましたわ。
「ルクレティアちゃん、あんたってホントに肝座ってんのね。ビックリしちゃったわ」
ジョバンニさんが驚いてわたくしを見ましたわ。
「わたくし、実を申しますと興味がございますの。王家の墓は歴史と秘密の宝庫ですわ」
わたくしが申し上げると、皆さまやや引いた顔をされていましたわ。
致し方ないことですわね。これは流石に19歳の女子が言うことではないとわたくしも認識しておりましたから。
ともあれ、わたくしたちは通路を取って返して玄室に戻りましたわ。
そしてわたくし、玄室の壁を端からくまなく探りましたの。
そしたら発見しましたわ。
横穴は、さっきの骸骨剣士たちの棺があった場所だけではなく、入り口と反対側の壁にも掘られていたのですわ。
その場所には不自然に土砂がかけられていたので、すぐわかりましたわ。
石や土を取り除けて、横穴を露出させると、穴の中にあったものが姿を現しましたわ。
「新たな棺ですわね」
「がっかりね。脱出口かと思ったのに」
ジョバンニさんは狭い横穴の突き当たりを見ながら悔しそうに仰いましたわ。
「‥‥王家の風習では忠実な臣下は近くに葬られるのですわ。先程の剣士たちと同じように、王の魂を守るため配置されたと考えられますわね」
わたくしが言うと、ジョバンニさんが唾を飲み込むような顔をしてから答えましたわ。
「で.....どうするつもりなの?」
「お待ちになって、ジョバンニさん。文字が書かれていますわ」
わたくし、横穴の壁に目を走らせましたわ。そこには文字と絵が描かれておりましたわ。
「魔術師....メルリヌス......大いなる力にて.....ヴィットリーオ3世...その名に誉れあれ.....を守護するものなり....」
「あんたこんな古い文字読めるの?」
ジョバンニさんが驚いて声を上げられましたわ。
「メルリヌス.....稀なる宝玉を造り....この....王国の安全のため....」
ところが、わたくしが読んでいるうちに棺の中からガサゴソと物音が聞こえてきましたの。
「ちょっと、ルクレティアちゃん.....なんかヤバいことになりそうな予感がする...」
ジョバンニさんが傍らにいたラファエロ主任の肩にしがみついてそう仰いましたわ。
「お.....おい、ルクレティア嬢....見ろ!」
ラファエロ主任が叫びましたわ。
それを聞いたわたくしがふと目を下ろすと、棺の蓋がガタガタ揺れ始めていたのですわ。
わたくしたち、それを見て慌てて横穴から出て玄室に戻りましたけど、
その棺の蓋はやがて吹き飛ぶように横にずれて床に落ちましたのですわ。
棺の中に葬られていたのは、ローブを着て片手に杖を持った骸骨でしたわ。その首には大きな宝石の首飾りが掛かっていましたわ。
そして、その骸骨は激しく身体を震せていたんですの。
骸骨はやがて左右を見回すと、ゆっくりと身体を起こしましたわ。
「もうイヤ!だから嫌な予感がしたのよぉ!」
ジョバンニさん、泣きそうな顔で叫んでおられましたわ。
すると今度はなんと、その骸骨が喋りましたの。
これにはさすがのわたくしも驚いてしまいましたわ。
「久しぶりに目覚めたと思うたらまた墓泥棒か。懲りない連中よのう」
ラファエロ主任、うろたえながら両手を前に出してこう申し開きをされましたわ。
「誤解です。が...骸骨殿...我々は墓泥棒ではなく...」
「偽りを申すな泥棒め、覚悟せい。このメルリヌスの棺を荒したのが運の尽きじゃわい」
そう言うと魔術師の骸骨は棺の中で立ち上がりましたわ。そして杖を振り上げましたの。
「みんな、下がって!」
ジョバンニさんが叫びましたわ。
すると骸骨の杖から凄まじい炎が噴き出て辺り一帯を包みましたわ。
ところがそれと同時にジョバンニさんが掲げた杖を中心にして、透明な球形の壁みたいなものがその炎を防ぎましたの。
わたくしたち、皆んなジョバンニさんの後ろにいたから辛うじて助かりましたわ。
「貴様も魔術師か?ならば力比べと行こうではないか」
骸骨はそう言うと、手に力を込めて杖を突き出しましたわ。
すると炎の勢いがますます強くなりましたの。
その勢いでジョバンニさんは少しづつ後ろに押され始めましたわ。
「や...ヤバイかも。みんな、入り口まで逃げて!」
でもその時でしたわ。ジュゼッペさんが叫びましたの。
「ワシに任せるです!」
ジュゼッペさん、後ろに下がって王の棺の蓋を軽々と持ち上げると投げる準備をされましたの。
彼の意図を察したジョバンニさん、恐怖に引き攣った顔ではあったけど、頷かれましたわ。
「三、二、一で結界解くから皆んな伏せるのよ!」
それでわたくしたち出来る限り身を伏せましたわ。
「...三.....二....一....今よ!」
その瞬間にジュゼッペさんが棺の蓋を投げ、それが骸骨のいる横穴の上らへんにぶち当たり、派手に土と石が崩れましたわ。
わたくしたち、一瞬だけ身体の上を物凄い熱気が過ぎていったけど、すぐにそれは収まりましたわ。
だから、こわごわと顔を上げましたの。すると、ジュゼッペさん、髪の毛も髭もチリチリに焦げていらして、可哀そうな有様でしたわ。
でも仰いましたの。
「ワシは大丈夫です。木こりをやっていた頃、山火事から抜け出したこともあるですから、これくらいは平気です」
でもわたくし、すぐにジュゼッペさんを治療して差し上げましたわ。
横目で見ると魔術師の棺のあった横穴は完全に埋まっていましたわ。
「やれやれ...こんなことどうやって報告書に書けばいいんだ?」
ラファエロ主任が首を振って呟かれましたわ。
「ああもうルクレティアちゃん、本当にやめて頂戴!あたし一刻も早くここから出たいわ」
ジョバンニさん、わたくしを睨みながらそう仰いましたわ。
ところが、土砂で埋まった横穴からまた物音がしましたの。
ギョッとしたわたくしたちが見つめていると、横穴を埋めていた土砂がみるみるうちに内側から風で吹き飛ばされていきましたわ。
そうしてとうとうあの魔術師の骸骨が姿を現しましたわ。
骸骨は仁王立ちになりながらこう叫びましたわ。
「儂から逃げられると思うたか泥棒どもめ!」
それを聞いたジョバンニさん、泣きそうな顔になりながら杖を掲げられましたわ。
すると杖の先端に光の塊のようなものが集まったかと思うと、雷が発射されて相手に向かって飛んでいきましたの。
ところが、その骸骨、すぐに自分も杖を掲げましたの。
その杖の周囲に見えない壁みたいなものが出来て、ジョバンニさんの雷撃が跳ね返されてしまいましたわ。
「雷撃か..面白い!」
そして骸骨のほうも杖から雷を発射してきましたわ。ジョバンニさんも必死で杖を掲げて防御しておられましたけど。
そうして魔法の応酬が続きましたわ。でも相手の力が強く、ジョバンニさん、徐々に押されてらっしゃいましたわ。
わたくしたち、固唾を飲んで見守っておりましたわ。
ところが、しばらくすると骸骨はふと手を止めましたの。
わたくしたち何事かと思って彼のほうを見ましたわ。
すると骸骨が独り言のように呟きましたの。
「炎魔法......防御壁.....雷撃....ん?」
骸骨はやおらジョバンニさんにこう尋ねましたわ。
「おい、若いの。お前どこで魔法を習ったんじゃ?」
ジョバンニさん、肩で息をしておられましたけど、やがてこう答えましたわ。
「習ったっていうか.....親父が魔法使いだったから。殆ど見よう見まねと独学よ」
「父親じゃと?貴様父の名は何と申すのじゃ?」
骸骨がそう聞いてきましたわ。
「あたしの父親の名.....?」
ジョバンニさん、戸惑ったように聞き返したけど、すぐ言われましたわ。
「親父の名はメルリーノよ」
ジョバンニさん、答えてから何かに気づいたみたいにハッと口に手を当てましたわ。
すると骸骨がこう言いましたわ。
「なんじゃ、若いの。お前儂の子孫ではないか」