出撃!庶務騎士団   作:nocomimi

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第四章: 庶務騎士団、解散の危機(早ええよ!)
国のものがひっくり返されそうな状況なのに騎士団は解散の危機なのです


庭師のジュゼッペです。

 

ワシらが王墓から抜け出し、馬車に乗って夕刻城に戻ったら、

 

前庭に沢山の馬車が停車していたのです。

 

そして城の中から極めて身なりの良い紳士たちが大勢出てきましたのです。

 

ジョバンニの旦那はひと目見て、「貴族たちね。何か集まりがあったのかしら」と見抜きました。

 

そして、その中の一人がルクレティアお嬢様のお父上だったらしいのです。

 

そしてお嬢様がお父上と話をしておられると、貴族たちの中からがっしりした体格の老人が一人進み出てきたのです。

 

「やあディアナ卿。こちらがご自慢のお嬢様ですな」

 

「いやいやヴァルグ伯。お恥ずかしいことですがとんだお転婆娘でしてね」

 

その時ディアナ卿は確かにヴァルグ伯と言ったのです。

 

その老人は、大柄で、白髪を後ろに撫でつけ、いかつい顔をしており、口ひげを綺麗に切り揃えていました。

 

「修道院の暮らしが気に入っているとかで、家にも帰ってこんのですよ。母親が心配していましてね」

 

ディアナ卿は続けたです。

 

「噂に聞く聡明なお嬢様にお目にかかれて光栄ですな。儂がヴァルグです」

 

ヴァルグ伯は鷹揚なしぐさで軽く頭を下げましたです。

 

「ヴァルグ伯閣下にお目にかかれて、こちらこそ光栄に存じますわ。ルクレティアと申します。以後お見知りおきいただければ幸いですわ」

 

お嬢様は膝を曲げ、丁寧に礼をなさったです。そして続けたです。

 

「閣下はこの国を守護される英雄と常々父から伺っておりましたわ。もしお時間がおありでしたら、色々お話などお伺いしたく存じますわ」

 

でもワシは見てしまったです。

 

お嬢様の目は1ミリも笑っていなかったです。

 

「生憎急いで国に帰らんといけないのでね。これで失礼させていただくよ」

 

ヴァルグ伯は手を上げると、我々の前を横切って馬車に乗ったです。

 

その馬車は我々が王様に貸してもらっていた物より段違いに大きく、伯の権勢の大きさが伺われたです。

 

横を見ると、ラファエロの旦那もジョバンニの旦那も信じがたいといった表情で固まっておられたです。

 

無理もないことかと思います。

 

いきなり魔王本人に会ってしまい、しかも彼が堂々と貴族会議にまで出席していたというのです。

 

「お父様、会議では皆さまどんなお話をされて?ルクレティアにも教えていただけると嬉しいのですわ」

 

ヴァルグ伯の馬車が走り去ると、お嬢様はお父上に向き直られたです。

 

「何でも知りたがりなのは相変わらずだなあ。教えてやれることとそうでないことがあるのはお前も知ってるだろう?」

 

お父上は困った顔をされたです。

 

「じゃあお父様、今夜食事に連れていって下さらない?そのほかにも積もる話が沢山ありますもの。わたくし、国王陛下の直々の命令で今特別プロジェクトチームにおりますのよ?普通の事務職では経験できないようなこと、沢山経験しましてよ。お父様にも知っていただきたいですわ」

 

ルクレティアお嬢様は上気した顔で言われたです。

 

「わかったわかった。じゃあお前の仕事が終わったらここに来てくれ。馬車の中で待っているから」

 

ディアナ卿は苦笑してそう応じられたです。

 

我々四人は城内に戻ったです。でもそこからが大騒ぎでしたです。

 

「ヴァルグは一体何を企んでいる?わざわざ遠方から来て貴族会議になんて出ているからには狙いがあるはずだ」

 

開口一番にラファエロの旦那が言ったです。

 

「とにかくあたしたちで動いてるだけじゃダメね。王様を焚きつけて巻き込まないと」

 

ジョバンニの旦那がそう言ったです。

 

「でもあの石頭のレティシアを間に入れてちゃあラチが開かないわね。どうにかしてじかに話をつけないとこのままずっと無駄骨だわよ」

 

「確かにそうだな。これは明らかに我々四人の手には余る案件だ」

 

ラファエロの旦那が腕組みして唸るように答えたです。

 

「今頃わかったの、ラファエロ?なら話は早いわ。会議が終わったばかりなら陛下も城内にいるはずね。ラファエロ、あんた言ってきて頂戴よ」

 

「皆さま、わたくしが父から情報を仕入れて参りますから、それまでお待ちいただけるかしら?」

 

ルクレティアお嬢様が手を上げたです。

 

「貴族会議の内容も細大残さず聞き出して参りますわ。なにしろ、父はわたくしが甘えたとき欲しい物をくれなかったことは一度もありませんでしたもの。今回も必ず落としてみせますわ」

 

「あ....あんたって実は小悪魔系だったのね?」

 

ジョバンニの旦那は少々呆れ顔でしたです。

 

* * * * * * * * * 

 

翌日、ルクレティアお嬢様がワシらを食堂に呼び出したです。

 

「皆さま、貴族会議の議題内容が判明しましたわ。ヴァルグ伯による新たな提案が話し合われたということですわ」

 

ワシらが席につくとお嬢様が切り出されたです。

 

「ご苦労だったルクレティア嬢。で、一体ヴァルグ伯は何を提案したんだ?」

 

ラファエロの旦那に尋ねられたあと、ルクレティアお嬢様は勿体をつけるようにしばらく間を空けましたが、やがて少し溜め息をつかれましたです。

 

「ヴァルグ伯はわたくしたちより遥かに先を行っていたようですわね...」

 

「先を行っていた、とはどういうことだ?」

 

ラファエロの旦那に促されると、ルクレティアお嬢様は口を開かれましたです。

 

「ヴァルグ伯が提案したのは三点。いずれもこの国の政体を大きく変える提案ですわ」

 

続いてお嬢様は説明されましたです。

 

「まず第一に王政から立憲君主制に移行すること。第二に、議会を設置し立法を行わせる形で権限を分散すること。そして第三に.....」

 

「ま...待ってくれルクレティア嬢。それはまさしく...国王陛下に対するクーデターも同じじゃないか。そんなことを御前会議で堂々と話したっていうのか?」

 

慌てた様子でラファエロの旦那が遮ったです。

 

「残念ながら相違はございませんわ。わたくし、父の口から直接聞き出したのですもの」

 

ルクレティアお嬢様は真剣な顔で答えられましたです。

 

「そして第三の提案、これが想像を絶するものでしたわ」

 

「一体....どんな内容なんだ?」

 

ラファエロの旦那が尋ねられましたです。

 

「...魔物たちとの休戦講和協定を結ぶこと、ですわ」

 

ワシはもとより難しいことはよく分かりませんでしたが、ワシ以外の二人の旦那方はそれを聞いた瞬間呆気にとられた顔をしましたです。

 

「休戦講和協定...だと?一体全体何のことを言っているのだ?」

 

ラファエロの旦那が辛うじて口を開いたです。

 

「ヴァルグ伯は長年の間、東の国境地帯に出没する魔物たちと戦い、彼らの侵入を防いできた...と、表向きにはこういうことでしたわね。伯爵はこれらの防衛の負担が自分ひとりにかかっている現状が不公平であると陛下に上奏されたのですわ」

 

「馬鹿な。陛下の話ではそれは全て自作自演だというのに?」

 

「残念ながら、その件は私の父含め貴族たちの誰も気づいていなかったようですわね。そしてヴァルグ伯は、この負担を軽減するために魔物たちと休戦し、彼らに望む物を与える代わりに王国内での略奪行為その他を控えてもらい、彼らと共生していく、ということを提案したようですわ」

 

それを聞いて旦那方は沈黙されたです。ワシにとっても驚きでしたが、賢い旦那方にはなおさらそうだったと思いますです。

 

「憂慮すべきは貴族たちの反応ですわ。少なくともわたくしの父はその提案には反対しておりませんでしたし、多くの貴族たちも同じだったそうですわ。何しろヴァルグ伯は彼らをこうかき口説いたそうですの。『自分は年老いてあと何年の間戦場で指揮をとれるかわからないし、養子である息子はまだ若輩者で指揮官の器ではない。自分が死んだらこの国はどうなるのだろうかと憂いて、この提案を持ち込むに至った』.....のだそうですわ」

 

「...よくもいけしゃあしゃあと言えたものだな」

 

ラファエロの旦那が腕を組んで苦い顔をなさったです。

 

「ッたく...もう勘弁してほしいわ。あたしは思いっきり料理ができると思って転職してきたのにどうしてこんなことに巻き込まれないといけないわけ?」

 

ジョバンニの旦那が溜め息混じりにこう漏らしたです。

 

「それを嘆いても仕方なかろう。たとえこのチームに入っていなかったとしてもヴァルグの企みの影響からは逃れられんぞ」

 

「わかってるわよ。ちょっと愚痴りたかっただけ。ライフプランが台無しになっちゃったから」

 

「残念ながらラファエロさんの言う通りになりそうですわね。ヴァルグがオークを飼いならし、ゴブリンたちを庇護してきたことを考えれば休戦協定の行く末は明白ですわ」

 

ルクレティアお嬢様が言われたです。

 

「.....例えば奴らには害意はないと偽装させておいて、王国深くに侵入させ一斉に蜂起させる...とか?」

 

ラファエロの旦那がそう呟いたです。

 

「...一斉蜂起ならまだしも対処のしようがありそうですわ。もっと始末に負えないのが、彼らが王国各所に浸透し『人々の日常の一部』になってしまうというシナリオですわね。そこらじゅうにオークやゴブリンがいて、人々は貢物をもって彼らを宥め続けなければならない。ヴァルグの提案は要はそういうことになりますわね」

 

お嬢様が答えられたあと静かに続けられたです。

 

「.....戦争よりも恐ろしい未来ですわ」

 

「そんなことを許すわけにはいかない。よし、こうなったら国王陛下に直訴しよう」

 

ラファエロの旦那がそう言って立ち上がりましたです。

 

ところが、そこに総務主任のレティシアさんが入って来られたです。

 

「ちょうど良かった、レティシア嬢。我々は陛下に上奏したい件があるんだが、場を設定してもらえないだろうか?」

 

ラファエロの旦那が持ちかけたです。

 

「庶務騎士団の皆さん、お知らせがあります」

 

レティシアさんはラファエロの旦那には答えずにやおら口を開いたです。

 

「国王陛下の命により庶務騎士団は本日を持ちまして解散となります」

 

それを聞いた瞬間、我々四人は呆気に取られてモノも言えなかったです。

 

「ま...待ってくれレティシア嬢。....い....今なんて..?」

 

ラファエロの旦那が辛うじて呟いたです。

 

「庶務騎士団は本日を持ちまして解散です」

 

レティシアさんは眉ひとつ動かさないまま続けたです。その言葉を聞いてワシらは殆ど口を開けたままになりましたです。

 

「メンバーの皆さんにはのちのち懲戒処分が下されることになりますが、さしあたり自宅謹慎となります。今すぐ残務を片付けて退勤・帰宅し、追っての通達を待ってください」

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