(まるで僕自身がラファエロみたいになってました(苦笑))
お待たせしてすみません。ぼちぼち再開します
ハアイ。あたし、ジョバンニよ。
でさ聞いてくれる?
そんときレティシアの奴、眉ひとつ動かさないで言いやがったのよ。
「メンバーの皆さんにはのちのち懲戒処分が下されることになりますが、さしあたり自宅謹慎となります。今すぐ残務を片付けて退勤・帰宅し、追っての通達を待ってください」
あたし、みるみるうちに自分の顔が歪んでいくのがわかったわ。
「ちょいと、どういうこと?説明して頂戴よ。懲戒処分?自宅謹慎?」
あたしは立ち上がりながら言ったわ。
「あんた、まさかどうしてこうなったか忘れたわけじゃないでしょうね。あたしは退職届と休暇願を出した。だけどあんたがハネつけたのよね。それで業務命令だかなんだかであたしたちはプロジェクトを続けさせられた。王家の墓を調べに行ったのもその一環よね。それで骸骨が四体も動き出してあたしたち散々な目に遭った。で、その見返りがこれ?」
レティシアの奴、それでも無表情のまま。あたしはもう慣れたけど、負けるもんかと思ったわ。ここぞとばかりに憤懣をぶつけてやった。
「あんた自分が何を言ってるかわかってんの?職員をこんなボロ雑巾みたいに扱ってタダで済むと思ってるの?いつかしっぺ返しが来るわよ。なんてったってね、あたしは...」
その時ルクレティアちゃんがやおら口を開いたの。
「レティシアさん、懲戒処分を行うには王城職員規程の第41条第1項各号に記載されている事由が存在していなければなりませんわ。その点はいかがですか?教えていただけるとうれしいのですわ」
あたし、自分が喋ってるのを遮られてちょっとつんのめっちゃったけど、ルクレティアちゃんがメチャクチャ落ち着いてるのを見てまた驚かされちゃったわ。
まあ、貴族だから仕事なんて遊びみたいなものかも知れない。それだから大してダメージもないのかも知れないけど。それにしてもこんな酷い仕打ちを受けて取り乱さずにいられるなんてね。改めて見直しちゃったわ。
「騎士団の皆さんに対し刑事告発がなされています。罪状は王墓の盗掘よ」
「レティシア嬢、その周辺の事情については既に報告書で説明したはずだ。それは全くの誤解に過ぎない」
質問に答えてレティシアが言うと、やっと落ち着きを取り戻したラファエロが手を上げたわ。
「我々は幽霊騒ぎの調査の過程で王の棺の蓋を動かしたが、それは中にあった魔力転送装置を破壊するためだ。装置の残骸も昨日提出した。それでも疑義があるなら墓守りの証言を取ってきてもいい」
「そうよ。あれは魔力転送装置を通じて遺骸を操作する仕掛けだったのよ。あたしたち四人がこの目で見たのにあんた信じられないってわけ?」
あたしもラファエロの奴に加勢したわ。
「残念ながら証拠にはならないわね」
「なッ.....」
レティシアはあたしたちの説明を一蹴したわ。その様子を見て、あたしはなんか変だって思い始めたのよね。
「当該の刑事告発は、匿名ながらやんごとなき身分の方から出されたものよ。従ってそれを覆すような決定的物的証拠がない限り、王城はその告発に沿って処分を進めます。以上よ」
とりつく島もない、ってまさにこの事ね。あたしたち四人はさすがに言葉を失っちゃった。ふと視線を移すと、厨房の中のフレデリコも完全に手を止めて青い顔であたしの方を見てたわ。
その時ね。
あたしの腹の底で、何かが動いたのよ。
それまでは、できればこんなプロジェクトからは早く外れたい、そればっかり考えてたけど、
なんか心持ちが変わったのよね。
あんた、あたしを潰す気?
面白いじゃないの。
だったら徹底的にやってやるわよ....
生まれつきの魔力持ちをナメるんじゃないわよ!
ってね。
* * * * * * * *
あたしは手早くフレデリコに引き継ぎを済ませると、シェフ服を脱いでロッカーに入れたわ。
そしたらあの子ったら、わざわざあたしのとこに来て言うわけよ。
「ジョバンニさん....あの......僕はジョバンニさんのこと信じてますから」
「信じるって何のことよ?あたしが本当に悪いことしたみたいじゃないの」
「いや...それは...そうじゃなくって...」
あたしがつい刺々しい口調で返しちゃったもんだからフレデリコったらますます青い顔になっちゃってたわ。
だからあたしすぐにあの子の頭をクシャクシャって撫でてやったわ。
「あたしの心配はいいから、それより厨房を頼んだわよ。今度は何日後に戻ってこられるかわからないんだから。しっかりやるのよ。いい?」
「はい...!」
あの子ったら目に涙を溜めながらも元気よく返事してくれたわ。
それであたし、すぐに帰宅したわけ。
本当は今後のことを他の三人と打ち合わせしたかったけど、怪しまれたら元も子もないから、表面ではおとなしいフリしてね。
で、こっからがあたしの魔法の出番よ。
あたしは飼ってるフクロウのグワイヒアちゃんに三人の住所を教えて手紙を運ばせたわ。
「明日朝、気づかれないように外に出てあたしの家に集合」ってね。
翌日、みんなあたしの家にやってきたけど、ジュゼッペのおじさんだけ全身土だらけ、髪の毛も髭にも泥がついてて、どうしたのかと思っちゃったけど。
「正門から堂々と出たら衛士に気づかれるです。以前から狸が出入りしてた城壁の下の穴をスコップで掘って抜けてきたです」
あたしが土を拭き取ってあげながら聞いたら、そう答えたわ。
「ジョバンニ、作戦を練ろう」
あたしが入れてあげたコーヒーを一口飲むとラファエロが言ったわ。
「ルクレティア嬢が言ったとおり現状では魔王側のほうが遥かに先まで見越して手を打ってきている。どうにかして反撃する方法はないものか?」
「それだけじゃないわ。多分.......レティシアは向こう側ね」
あたしがそう言うと、ラファエロは目を丸くして口をつぐんじゃったわ。
「ま...まさかそんなことが?レティシア嬢は勤務歴20年だぞ。王城や陛下を裏切るわけが....」
「わたくしもジョバンニさんの見立てに同意しますわ」
辛うじてラファエロが呟くと、ルクレティアちゃんが言ったわ。
「なんというか....女のカンってやつですわ」
「でしょ?でしょ?でしょ?あたしもまさにそれよ。あ....女じゃあないけどね」
あたしそう応じたわ。
「第一おかしいじゃあないの。このプロジェクト、最初は王様の気まぐれな鶴の一声で、ラファエロ、あんたがアルト村の洞窟を調査に行くことになったに過ぎないわけでしょ?」
あたしは皆んなの顔を見回しながら言ったわ。
「そこにレティシアが絡んで来た途端、王様直属にするだとか、見返りに昇給してやるだとか、その代わり業務命令だから従えだとか、ややこしいことになったじゃないの。そうでしょ?」
「だが...それは業務の指揮命令系統を明確化し組織の体裁を整えるためには当然の....」
「甘いわね。ヴァルグ家は今の王様の前の代から王家を潰そうとしてきていたって話、覚えてないの?」
ラファエロはまだ信じられないって顔だったけど、あたしは続けたわ。
「あっちの立場に立って考えてみなさいよ。魔物どもが数を増やしたら、遅かれ早かれ一般人に被害が出て、王城が対策に動きだすのは目に見えてたことじゃない?で、そのあと狙いすましたようなタイミングで王墓の一件が持ち上がった。そうでしょ?」
「じゃあ......まさか....」
ラファエロはあたしが言いたかったことがやっとわかったみたいだったけど、額に脂汗浮かべて、絞り出すように言うのがやっとだったわ。
「そう、王家の墓で幽霊騒動が起きたのは、あたしたちがそこに行って調査するのを見越してあいつらが仕掛けた罠だったってわけよ。つまり、やつらの狙いは....」
「つまりこういうことですわね。王城内部に魔王側に対抗できる人材がいるかどうかを確認し、いるならおびき出す。そしてそれを罠で殺せればよし、殺せなければ王墓盗掘のかどで刑事告発し、社会的に抹殺する...」
ルクレティアちゃんが口を開いたわ。
「隙を突かれたのはこちらのほうというわけですわね。どうやら相手の周到さを見誤っておりましたのは、むしろわたくしたちですわ」
彼女がそう言うのを聞いて、四人ともしばらく黙っちゃったわね。
「待ってくれ。相手にも弱みはあるはずだ」
でも、そこでラファエロが手を上げたわ。
「ほら、ジョバンニ、君の先祖であるヌメリヌス殿が言っていただろう。確か『魔物との契約』....とか」
「ちょっとやめてよ、まるでキッチンのヌメリみたいじゃない。メルリヌスよ!」
「..す..すまん。そうだった」
ラファエロが咳払いして謝ったあと続けたわ。
「奴が本当に魔物と契約を結んだのなら、そこに弱点があるかも知れん。その証拠だけでもつかめれば.....」
「確かにその通りですわね。魔物を養ったり便宜を与えるのは魔物対策法第15条で禁止されておりますわ。物証があれば刑事責任を問うことは可能ですわ。でも......」
ルクレティアちゃんはそう答えたあと口ごもったわ。
「何か問題点があるのか、ルクレティア嬢?」
「裁判に持ち込んでも立証されるまで途方もない時間がかかりますわね。実際に相手方の魔物が便宜を受けたということを確認しなければなりませんけど、魔物を自白させたり裁判で証言させることができませんもの」
「その線は現実的でない、ということか」
ラファエロが腕組みして唸ったわ。
「それより私に考えがありますわ」
「聞かせてくれ、ルクレティア嬢」
皆んながルクレティアちゃんに注目したわ。すると彼女はこう言ったの。
「ヴァルグ伯の血筋を辿ってその正体を明らかにするのですわ」
「どういうことだ?」
ラファエロが怪訝そうな顔で尋ねたわ。
「わたくし、ここ最近ずっと疑ってましたんですの。当代ヴァルグ伯の出生には後ろ暗い秘密があるはずだって」
ルクレティアちゃんが声を低めてそう言ったの。
「三代前から寸分変わらない外見。110歳の歳に似合わぬ壮健さ。わたくし、伯の出生そのものに魔物が関わっていると推測していますわ」
「出生そのものに魔物が.....」
ラファエロが呟いたわ。
「つまり魔物の血が入っていると?」
ラファエロの奴、ちょっとゾッとした顔で眉をしかめたわ。
「しかし.......そんなことがありうるのか?」
「ジョヴァンニさん、魔物には基本的に寿命はないと聞きましたわ。そうですわね?」
「確かにそうだけど....」
ルクレティアちゃんにあたしが相槌を打つとラファエロが驚いて声を上げたわ。
「寿命がないって?では永遠に生き続けるのか?」
「そりゃあ、あいつら人間じゃあないもの。魔力で生きてるんだからね。ただ、ゴブリンとかオークとかはだいたい内輪揉めで怪我して死ぬからそんなに長生きしないってだけよ」
あたしは答えてやったわ。
「皆さま、貴族の世界は血筋が何よりモノを言いますの。裏を返せばそこに疑義があれば....」
そこでルクレティアちゃんが皆んなの顔を見回したわ。
「他の貴族の尊敬と支持を失うのは必定ですわね。ヴァルグ伯は権勢を失って孤立に追い込まれますわ」
「だけど...具体的にどうやってそんなこと調べるの?」
あたしが尋ねるとルクレティアちゃんが答えたの。
「我が国の貴族には生まれた場所に両親の名を刻んだ出生碑を残す決まりがありますわ。言ってみれば墓標の反対ですわね。ヴァルグの曽祖父、ヴァルグ・エンリーコ・デメトーリオ2世の出生地にはそれが残っているはずですわ」
「そうか...そして出生地は王都にあるんだな?」
「そうですわ。転封されるまでは王家に最も近い貴族家の一つでしたから、ヴァルグ家の屋敷はかつての領地である王都の一等地に残されたままですわ」
ラファエロに答えたあと、ルクレティアちゃんったら自信ありげな顔でこう言ったわ。
「こうなったらわたくし、貴族のコネをフル活用させていただきますわ」