出撃!庶務騎士団   作:nocomimi

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こんな廃屋敷に一人で住んでるなんてどんな社会不適合者よ

ハアイ、あたし。ジョバンニよ。

 

てなわけで騎士団メンバーで動けるのはあたしとラファエロの二人だけになっちゃったのよ。

 

それで、あたしたちは自動人形と戦った部屋にジュゼッペおじさんを置いたまま次の部屋に進んだわ。ちょっと心配だったけど。

 

次の部屋は階段室みたいな造りになってて、粗い石造りの螺旋階段が二階に続いていたわ。ルクレティアちゃんが言ってたとおりだったわね。

 

あたしたちはその階段を登っていったわけ。

 

ラファエロの奴はあたしの前に立って剣を構えながら用心深く前進していったわ。

 

やがてあたしたちは二階に出たの。そこはちょっとした部屋くらいの奥行のある大きな出窓と、応接間みたいにソファが置いてある場所だったわ。ソファは見る影もないくらいボロボロだったけど。

 

「あの人形は五十の部屋があるって言ってたな」

 

ラファエロが呟いたからあたしは相槌を打ったわ。

 

「そうね。のんびりしてたら日が暮れちゃうわね。急がないと」

 

「ジョバンニ、どう思う?」

 

「どう思うって、何がよ?」

 

「ルクレティア嬢を連れ去った存在はどんな奴だと思う?」

 

「どんな奴って....」

 

あたしは言葉に詰まったけどやがて答えたわ。

 

「正直な話、魔物とは思えないわね。ここが魔物の巣窟だったら入るときにもっと感じるもの」

 

「うむ...さっきもそう言ってたな」

 

「あの人形だって魔物とは言えないしね。ひょっとして、あれのほかにも機械のような仕掛けがあるのかも知れないし....」

 

「罠のようなものか?」

 

「ううん...わかんないけど、とにかく魔物っぽくはないってことよ。あんたもあたしに聞いてばっかいないで少しは自分で考えなさいよ」

 

「うむ...」

 

ラファエロの奴、そう言うと、何を思ったかカンテラをかざして床をよく観察し始めたわ。

 

「何やってんのよ?」

 

「仕掛けがあるのなら床に落とし穴があるのかも知れない。その可能性を考えてみれば、ルクレティア嬢が消えたあの部屋も丹念に調べるべきだったな」

 

そう言った途端ラファエロの奴、動きを止めたわ。

 

「どうしたの?」

 

「ジョバンニ、杖の光をくれ。できるだけ強くだ」

 

「なんなのよ唐突にもぉ」

 

あたしは溜め息をつきながら杖を掲げたわ。

 

杖の先端から光が出て、あたりの床を明るく照らしたわ。

 

ラファエロの奴、しゃがんで床に顔を近づけ始めたの。

 

「何かあるの?」

 

「間違いない...これだ」

 

ラファエロの奴、顔を上げてあたしを見たわ。

 

「人間の足跡だ」

 

「人間の?」

 

「光をもっと強くくれ」

 

あたしも杖をかざしながらしゃがみこんだわ。そしたら、薄っすらと床に積もった埃の上に確かに足跡らしきものがあったわ。

 

「この大きさからすると、相当背の高い男だな」

 

「こいつがルクレティアちゃんを.....?」

 

「その可能性が大だ。それに人間ならこの屋敷のことを聞き出せるかも知れん」

 

「よく見なさいよラファエロ、この足跡裸足じゃないの。靴も履かないなんて相当の社会不適合者よ。そいつが会話の通じる奴だったらいいんだけどね」

 

あたしは答えたわ。

 

あたしたちは床についた足跡を見失わないように慎重に辿っていったわ。

 

その足跡を辿ると、どうやらその持ち主は応接間を通ってその突き当たりの扉を抜けていったみたいだった。

 

その扉を開けて先に出ると、廊下が真っすぐ東に向かって伸びていたわ。

 

廊下の左右に沢山の扉がついていたけど、あたしが杖からの光を最大にして床を照らすと、足跡はそのまま廊下を進んでいるのがわかったわ。

 

その足跡を辿ってあたしたちが廊下の突き当りまで進み、扉を開くと、そこは玄関を見下ろす渡り廊下になってたわ。

 

「随分凝った造りなのね」

 

「貴族だからな。訪問者の身分が低くてわざわざ階下で応接するまでもない場合にここで対応したんだろう」

 

あたしたちが渡り廊下を渡って向こう側の扉を開けると、また同じような廊下が伸びていたわ。

 

床を照らして慎重に足跡を辿ると、結局足跡は廊下の左右どちらにある部屋にも入らずに進んでいっていたわ。

 

結局突き当りに来て扉を開けると、さっき見たのと同じような応接室があったのよ。

 

そこを突っ切ると、これまた同じような階段室に出たわ。

 

「なんだか化かされた気分ね」

 

「そうだな。俺たちはたばかられているのだろうか?それとも...」

 

あたしの呟きにラファエロが答えた瞬間、あたしは嗅覚に何かを感じたわ。あたしは直ぐに左手を上げて合図したわ。

 

「どうした、ジョバンニ?」

 

「静かに。何か臭わない?」

 

「いや...黴臭い廃屋の臭いしかしないぞ?」

 

「だからあんたは味オンチなのよ」

 

あたしは声を潜めながら鼻を効かせたわ。

 

「臭うわよ。人間の臭い。それも長い間文明生活してない奴ね」

 

あたしは用心深く杖を構えたわ。それを見たラファエロも剣を構え直して周囲を見回したの。

 

「もし人間だとしたらこの屋敷を知り尽くしてるはずだ。俺たちを狙うなら死角から不意打ちしてくるだろうな」

 

ラファエロが呟いたわ。

 

「そうね。背中合わせになったほうがいいわね」

 

あたしはそう応じて、ラファエロの背後で後ろ向きになったわ。

 

「足跡は辿れる?」

 

あたしは杖を掲げながらそう言ったわ。

 

「ああ、なんとか」

 

ラファエロが答えたわ。

 

ラファエロは階段を慎重に降り始め、あたしは後方の警戒を怠らないようにしながら後ろに続いたわ。

 

階段を下り切ると、ラファエロはあたしの杖からの光を頼りに床を慎重に探ってたけど、やがて顔を上げたわ。

 

「奇妙だ。こいつは建物を端から端まで移動したあと、また建物の中央部に向かってる」

 

ラファエロは階段室の扉を指さしたわ。

 

あたしたちは扉を開けて向こう側に出たわ。

 

そこは広々とした四角い部屋だったわ。結局、この建物って完全に左右対称の造りだったのね。

 

あたしたちは、ガランとした広い部屋を二つ通り抜け、そこから物置部屋と厨房、さらには大広間も抜けて玄関ホールに戻っちゃったわけよ。

 

「.....一体何なのよこれ?あたしたち元の場所に戻っちゃったわよ」

 

「ああ。考えられるのは....」

 

あたしが愚痴るとラファエロが口を開いたわ。

 

「何よ?」

 

「...罠かもな。俺たちをどこかにおびき寄せようとしているのかも知れん。ジョバンニ、臭いは感じるか?」

 

「ちょっとぉ、あたしを猟犬か何かと勘違いしてない?」

 

そう言われてあたしは文句を言ってやったけど、思い直してもう一度鼻を効かせたわ。

 

その瞬間だったの。

 

頭上で気配がしたかと思うと、巨大な影があたしたちの間に飛び降りてきたのよ。

 

そいつはあたしに向かって腕を振ってきたわ。

 

辛うじてあたしは杖を差し上げて防御したけど、吹っ飛ばされて床に転がり頭を打っちゃったわよ。

 

必死で顔を上げようとすると、そいつがあたしにのしかかってきたわ。

 

するとラファエロが剣を振り上げて走り寄ってきたの。

 

そいつは素早く振り向きざま腕を払ったわ。

 

それがラファエロにぶち当たり、彼も吹き飛ばされちゃったわけよ。

 

そいつがまたあたしに向き直る間に、あたしは上体を起こして杖を掲げ、その先端から思い切り強い光を出してやったわ。

 

それで一瞬そいつは怯んで、手を顔の前に差し出したわ。

 

そいつはボロボロの服を着た背の高い男だった。

 

痩せていたけど、身体は逞しくて、髪の毛は伸び放題の蓬髪だった。

 

そこで起き上がったラファエロが突進してきたわ。

 

男は気配を感じて振り向いたわ。そしてまた腕を振り回したけど、ラファエロは身を深く沈めて回避しながら剣を横に払ったの。

 

足首の筋を切断された男は呻きながらも腕を振り上げてラファエロを殴ろうとしたわ。

 

そこであたしは杖から雷撃を出したわけよ。

 

雷撃が男の後頭部に当たると、髪の毛が逆立って、男は海老ぞりになって呻き声を上げたわ。

 

男は少しの間力が抜けたようにフラフラとしてたけど、やがて派手な音を立てて倒れたの。

 

「ジョバンニ、大丈夫か?」

 

「なんとか...ちょっと頭打っただけよ」

 

ラファエロが剣を納めながらあたしを助け起こしたわ。

 

「こいつがルクレティア嬢を誘拐した犯人なのだろうか?」

 

「わかんないけど。聞いてみる?」

 

「まず縛り上げよう」

 

ラファエロはそう言うと、あたしに見張りをしているように言い置いて、自動人形と戦った部屋に行ってリネンの布を取って戻ってきたわ。

 

そしてそれを引き裂いてより合わせ、ロープを作って男の手足を縛ったの。

 

「おい、起きろ。お前は一体何者だ?」

 

ラファエロは男を仰向けにすると、軽く頬を叩きながらそう尋ねたわ。

 

「言葉...通じるかしらね」

 

あたしは心配そうに見ながら言ったわ。

 

「わざわざ足跡を残して俺たちをここまでおびき寄せ、頭上の渡り廊下で待ち伏せしていたんだろう。人並の知能があることは間違いない」

 

ラファエロはそう呟くと、もう一度男に声を掛けたわ。あたしは杖からの光で男の顔を照らしてやったの。

 

そうしてしばらくすると、男は次第に目を開けたわ。

 

顔も痩せていて、髭も生え放題だったけど、どうやら普通の人間に見える顔だったわ。ただ、目だけは異様にギラギラしていて怖かったけど。

 

「本来君に危害を加えるつもりはない。人を探しているんだ。十九歳の女性だ。心当たりはないか?それとも君が連れていったんじゃあ....」

 

ラファエロがそう尋ねると、男は口を開いて小さな声で何かを言ったわ。あたしは慌てて手でラファエロを制したわ。

 

「.....生き返ったのだ.....」

 

「生き返った....?どういうことなの?」

 

男が囁くようにそう言ったのであたしは思わず尋ねた。

 

「教えて頂戴。あんたは一体誰なの?生き返ったって何のことを言ってるの?」

 

「.....生き返った....クラリッサは.....生き返ったのだ...だから儂は...」

 

「クラリッサ?」

 

あたしとラファエロは途方に暮れて顔を見合わせたわ。ラファエロは改めて男に尋ねたわ。

 

「我々が探しているのはルクレティア嬢という十九歳のご婦人だ。クラリッサというのは一体誰だ?」

 

「クラリッサ...儂の....儂の不注意で死なせてしまったのだ...二度と悲しい目には遭わせん....」

 

男はそう呟くと目を閉じたわ。するとそいつの両目からは涙が一筋流れたの。

 

「やっぱり会話が成立しないわね。どうする?」

 

「捜索を続けよう」

 

ラファエロは男の両足首についた傷をリネンの布で縛って止血してやると、その身体を調べ始めたわ。

 

「見ろ、鍵だ」

 

ラファエロは男のポケットから黒光りする金属の鍵を取り出したわ。

 

すると、その男が突然目を開いて喚き始めたの。

 

「やめろ!クラリッサを外に出すな!儂の....儂の娘はもう外に出してはいかんのだ!」

 

あたしたちはまた顔を見合わせたわ。

 

「ジョバンニ、どう思う?」

 

「どうもこうも...調べてみる価値はじゅうぶんね。後でこの男にいろいろ聞きたいけど」

 

あたしはラファエロの問いにそう答えながら、玄関の間の奥の窓を指さしたわ。

 

「見て、もう夕方よ。ゆっくりしてたら日が暮れちゃうわ」

 

「うむ。急ごう」

 

その男は、同じようなうわごとめいたことをずっと喚いていたけど、あたしたちはそいつを放っておいて、その鍵の合う錠前がついた部屋を探す事にしたわ。

 

あたしたちはさっき通った東の階段室に戻ると二階に行って、建物を東西に貫く廊下の左右に並んだ部屋を片っ端から探したわ。

 

でも、どの部屋も鍵はかかっていなかったし、内部はただのガランとした寝室だったの。

 

渡り廊下を渡って向こう側の区画の廊下の左右の部屋も試したけど、同じことだったわ。

 

あたしたちは立ち止まって腕を組むしかなかったわ。

 

「どういうことなの?まるでわかんないんだけど」

 

「落ち着いて考えよう。きっとこの建物のどこかに...」

 

その途端、ラファエロは何か思いついたように顔を上げたわ。

 

そして手近にあった寝室の一つに走り込んだの。

 

「どうしたっていうの?」

 

あたしは後に続きながら尋ねたわ。

 

ラファエロは答えずに、寝室の北側に走り寄って窓を開いたわ。

 

「迂闊だったな。建物はこれだけじゃあなかった」

 

あたしが一緒に窓を覗き込むと、あたしたちがいる建物の北側にもう一つ建物があった。

 

それは小さな礼拝堂だったわ。

 

あたしたちは急いで廊下を走って階段を降りると、玄関ホールに戻って外に出たわ。

 

もう日は殆ど沈んでたわ。

 

そして建物の北側に回り込んで礼拝堂に向かったの。

 

そしてラファエロが礼拝堂の扉についていた鍵穴に鍵を差し込むと、それはピッタリ合ったらしく、鍵を捻るとガチャって音がして錠が開いたわ。

 

ラファエロが扉を開け放つと、叫んだわ。

 

「いたぞ!」

 

左右に長椅子が並んだ礼拝堂の内部、祭壇の前だったわ。

 

そこにルクレティアちゃんが横たえられていたのよ。

 

でも、その瞬間だった。

 

母屋のほうから、恐ろしい吼え声が聞こえてきたのよ。

 

そう、ちょうど狼の遠吠えみたいな咆哮が。

 

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