出撃!庶務騎士団   作:nocomimi

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第五章: 庶務騎士団メンバー、逮捕される
ワシは余計な知恵を働かせるより手をつけた仕事を最後まで続けるです


庭師のジュゼッペです。

 

ワシらはとうとう旧ヴァルグ家邸宅の中で探していた出生碑の在り処を見つけたのです。

 

そして、その出生碑には見ただけで死ぬという呪いがかけられていたにも関わらず、ラファエロの旦那が勇敢にもその拓本を取ってきたのです。

 

そして、半死半生となったラファエロの旦那をルクレティアお嬢様が治療し、旦那は回復されたのです。

 

ワシらは喜びました。そして旦那は取ってきた拓本をルクレティアお嬢様に渡したのです。

 

ところが、ルクレティアお嬢様はそれを見た途端にお顔を凍りつかせたのでした。

 

怪訝に思ったジョヴァンニの旦那が尋ねると、ルクレティアお嬢様は言われたのです。

 

「光輝ける暁の子、ツロの君主、訴える者。それが彼の名ですわ」

 

ワシら三人は戸惑って顔を見合わせたです。特に、ワシのような教養のない者には何を言っているのかさっぱり分からなかったです。

 

「...どっかで聞いたことがあるような気がするけど。ともかくそれがエリザベッタの夫の名前なのね?」

 

ジョヴァンニの旦那が確認されたです。

 

「この称号は彼の名の一部に過ぎませんわ」

 

ルクレティアお嬢様が言われたです。するとラファエロの旦那も口を開いたです。

 

「ルクレティア嬢。さっきルドヴィーコが言っていた、誕生直後のデメトーリオ2世が喋ったという言葉を聞いたとき、貴女は何かに気づいたのだろう?」

 

「そうだったわ。確か『預言』がどうとかって...」

 

ジョヴァンニの旦那も相槌を打ったです。

 

ルクレティアお嬢様は目を閉じて少し考えておられましたがやおら話し始められたです。

 

「よろしくて、皆様?これからお話しすることはにわかには信じがたいかも知れませんわ。でもお聞きになって?」

 

ワシらは皆頷いたです。

 

「わたくし、最初はこう考えておりましたの。ヴァルグ伯の父親は知能を持つ魔物の一種だと。しかし、この名が示すものはそれを遥かに超えるものですわ」

 

お嬢様は続けられたです。

 

「光輝ける暁の子。つまりかつては神に造られた輝かしい天使であった者ですわ。彼は自らの美しさゆえ高慢になり反逆したのですわ。そしてツロの君主というのは、豊かさゆえ高慢となった君主がこの堕落した天使と重ね合わせて語られる預言書の箇所から来ておりますわ。そして訴える者という名もこの者の呼称で、日夜天において人の罪を訴えていることから来ておりますわ」

 

でも、その説明を聞いてもワシにはひとつも分からなかったです。

 

「ねえ、それってもしかして....」

 

ジョヴァンニの旦那はワシなどと違って教養があるので、何かにピンと来た顔で尋ねられましたです。

 

「‥‥そう。ただの魔物ではなく、あらゆる魔物の長。悪魔そのものですわ」

 

ルクレティアお嬢様が静かに言われたです。ワシらは皆、驚愕に押し黙ってしまいましたです。するとお嬢様はこう言葉を継がれたです。

 

「また預言書にはこうありますわ。彼の子が世に現れるときには、底知れぬ場所から夥しい数の騎兵が解き放たれる。その数は2億人、と」

 

「冗談じゃないわよ。この国を魔物で埋め尽くす気なの?」

 

ジョバンニの旦那が呻くように言われたです。ラファエロの旦那も治療前と同じくらい青白い顔になって呟かれたです。

 

「.....いったい奴を倒す方法はあるのだろうか?」

 

「正直申しまして、わかりませんわ」

 

ルクレティアお嬢様が首を振られたです。するとラファエロの旦那が言われたです。

 

「皆んな、少なくともこれは国王陛下に知らせる必要がある。奴の甘言に乗せられ魔物どもとの講和条約を結ぶなどもってのほかだからな」

 

ワシらは同意すると、急いで屋敷から出たです。大通りまで下って辻馬車を捕まえるとワシらは車中で次の行動を打ち合わせしたです。

 

「ルクレティア嬢、拓本は君が持っていたほうがいい」

 

ラファエロの旦那がルクレティアお嬢様に言われたです。するとジョバンニの旦那が指摘したです。

 

「けど陛下に直訴するのは誰がやるの?あたしたち本来は自宅謹慎中の身なんだから、ヘタしたらもっと重い処分喰らうことになるわよ」

 

「俺が行く。画像転写装置も持っているから大丈夫だ。ルクレティア嬢には万が一のことを考え安全圏にいてもらったほうがいい」

 

「でも、わたくし貴族特権はこういう時にこそ使うものと思ってますわ。たとえ逮捕されても拘留を免れることがほとんどですもの」

 

ルクレティアお嬢様は言われたです。

 

「わかっている。だが危険はそれだけじゃあないぞ。ヴァルグの手の者がどこに放たれているかわからないからな。君たち三人は自宅に居てくれ」

 

「ラファエロの旦那、ワシも一緒に行くです」

 

ワシは申し出たです。

 

「ワシの住居はもともと王城の中にありますです。帰るといってもそこしかないです」

 

「そうだったな」

 

ラファエロの旦那は苦笑いしたです。

 

ところが、しばらく進んだところで道路に検問がかけられていたです。

 

衛士たちが大勢立って、通りがかる馬車を片端から止めては調べていたです。

 

「一体何があったのかしらね?」

 

馬車が減速するとジョバンニの旦那が言いましたです。

 

「まさか...だが俺たちを探しているのかも知れないな」

 

「どうするの、ラファエロ?」

 

「皆んな、俺は徒歩で王城に向かう。ジョバンニ、君は衛士たちに何か聞かれたら誤魔化してくれ。ルクレティア嬢、証拠をくれぐれも頼んだぞ」

 

ラファエロの旦那はそう言うと馬車を止めて夜の街道に滑り出たです。

 

ワシらが乗った馬車の順番が来ると、衛士たちが扉を開けて中を覗き込んできたです。そして手元に持った書類とワシらの顔を交互に眺めていたです。そしてその隣にいる上役らしき衛士が居丈高に聞いてきたです。

 

「おい、お前たちはどこへ行くんだ?」

 

「ちょっとした仮装パーティよ。もう秋も近いでしょ?」

 

ジョバンニの旦那が気軽な調子で答えたです。ですが、衛士がワシの顔と体格をジロジロと見て訝し気な顔をしたです。

 

「彼はドワーフの役なのよ。よく出来てるでしょ、この付け髭とか」

 

旦那はワシの髭をつまんで引っ張ったです。ワシは旦那の意図を察して、痛くないふりをしていたです。すると上役の衛士が相棒に言ったです。

 

「もし指名手配犯なら剣士がいるはずだぞ」

 

衛士が頷いてワシらに尋ねたです。

 

「お前たちの名と職業を言え」

 

するとジョバンニの旦那がすらすらと答えたです。それは一見いかにもありそうな偽名や職業で、ワシは旦那の機転に舌を巻いたです。

 

ところが、ふと窓の外を見ると、誰かが後ろ手に手を縛られた状態で衛士たちに引き立てられて道路を歩いていたです。

 

なんとそれはラファエロの旦那でしたです。

 

「ラファエロの旦那......」

 

ワシは驚いて思わず呟いたです。

 

衛士たちはそれを聞いて顔を上げ、振り向いて旦那を見ると、もう一度ワシの顔を見たです。

 

「おいお前、あの男を知っているのか?」

 

ワシは血の気が引く思いがして、辛うじて口を閉ざすのがやっとでしたです。

 

すると馬車の後部から声がしたです。

 

「見つけたぞ!斧と魔法使いの杖だ!」

 

見ると、他の衛士がトランクを漁っていたらしく、ワシらの武器を手に同僚たちを呼んでいたです。

 

たちまち十人ほどの衛士たちが駆け寄ってきたです。

 

「ジョバンニおよびジュゼッペ、王墓盗掘および不法侵入の疑いで逮捕する」

 

衛士の上役がワシらにそう言って馬車から出るよう促したです。

 

「お待ちになって。行動をともにしておりましたわたくしも同罪ではなくって?」

 

ルクレティアお嬢様が声を上げられたです。

 

「お嬢様。貴女については今すぐご自宅に蟄居なさるようお父上からの要請です」

 

上役はそう答えました。

 

「ならばこのお二人も同じ扱いとすべきですわ。法の下の平等に反しておりますわ」

 

お嬢様はそう食い下がられましたが、衛士たちは耳を傾けずにワシとジョバンニの旦那を引きずり出して縄をかけたです。

 

そして馬車は行ってしまったです。ルクレティアお嬢様は窓越しにワシらのことを心配そうに見ておられたです。

 

ワシらは今度は衛士たちの馬車に乗せられて、王都内にある刑務所に連行され未決囚の房に入れられたです。

 

その房は地下にあり、窓もなく、ジメジメして嫌な場所でしたです。

 

ワシとジョバンニの旦那は隣りあわせの房に入れられましたが、ふたつの房はとても厚い壁で隔てられていたうえ、大きな声で呼びかけようとすると衛士が声を出すなと叱ってきたです。それでワシは旦那と会話することを諦めましたです。

 

そして、干からびたパンと水っぽいスープで申し訳程度の夕食を済まさせられると、かび臭い毛布をあてがわれたです。

 

ワシは毛布で身をくるみ、床に横になって天井を見上げたです。

 

ワシは思ったです。

 

世間の人は、ワシを愚かと呼ぶかも知れません。

 

あるいは、こんな割に合わない目に遭わせられて不運だと言うかも知れません。

 

でも、ワシは不思議と心が騒ぐことはなかったです。

 

ワシは貧しく、何も持たずに生まれてきたのだから、こうなったところで何かを失ったわけではないです。

 

ワシはまた、難しいことは何もわからない無教養な男ですから、その時々で正しいと思えること、人に恥じないと思えることを精いっぱいやってきただけなのです。

 

その結果がこうだとしたら、それは神様の思し召しと考えて、ワシはジタバタしないことにしたです。

 

ところで、考えてみればワシはこんなに夜遅くまで起きていたのは初めてのことですから、次第に瞼が重くなってきたです。

 

そうこうしているうちに、ワシはウトウトとし始めたです。

 

* * * * * * * * * 

 

「これ...!庭師よ。起きろ。起きぬか!....全く牢の中だというのによく寝ているわい」

 

ワシは誰かが喋っている声を聞いてふと目を覚ましたです。

 

顔を上げると、鉄格子の外に人影が見えましたです。

 

よく見ると、その人影は半透明で、白いローブを着て、手には杖を持っていたです。

 

そして髪の毛も髭も長く、かなりの高齢と見えたです。人影はこう言ったです。

 

「やっと起きたか。儂を覚えておるか、庭師よ?」

 

ワシは呆気にとられて首を横に振るのがやっとでしたです。

 

「メルリヌスじゃ。お前の友人の魔術師の先祖じゃよ。あれが儂を宝玉から呼び出したのじゃ」

 

そう聞いて、ワシの記憶が蘇りましたです。

 

「そうじゃ。お主らとは王墓で会ったのじゃ。聞けばお主ら随分苦労しているそうじゃな。しかも驚いたのはヴァルグの正体じゃ。とんでもない奴であったのう」

 

魔術師に言われて、ワシは頷いたです。

 

「良いか、もはやここまで来ると剣やら斧やら怪力やらでどうにかなる相手ではない。儂はあのジョバンニに知恵を授けることにするから、庭師よ....」

 

魔術師はワシを杖で指すと、続けましたです。

 

「お主はここから出てほとぼりが冷めるまでどこか目立たぬ場所で暮らすのじゃ。儂が錠を開けてやるでの」

 

しかし、それを聞くとワシは首を横に振ったのです。

 

「なんじゃ、何か不満かの?」

 

「ワシは...どうせならジョバンニの旦那と一緒に戦いたいです」

 

ワシはそう呟いたです。

 

「ワシらは仲間です。これまでずっと助け合ってきたのです。今さら何も手を貸さずに傍観していることはできないです」

 

それを聞くと魔術師は困った顔をしたです。

 

「友情という奴か。仕方のない連中じゃのう。あの剣士も全く同じことを言いよったわい」

 

「それに、ワシは手をつけた仕事を途中でやめることができない性分なのです」

 

「そうか....それなら儂はもう何も言わん。用心するのじゃぞ」

 

魔術師はそう言って姿を消したのでした。

 

ワシは上体を起こしたまましばらく茫然と宙空を見つめていましたが、

 

また横になって、今の会話の意味を考えていたです。

 

しかし、また眠くなってしまったので、眠ってしまったです。

 

次に目が覚めたのは、衛士が来て朝食を告げたときでしたです。

 

やはり干からびたパンと薄いスープで食事を済まさせられると、ワシは毛布を取り上げられたので、何をするでもなく座っていたです。

 

しばらくすると、今度は衛士が昼食を告げたです。やはり同じような粗末なメニューが盆に乗って運ばれてきたです。

 

しかし、働かずして食事を頂けるのも一つの恵みと考えてワシは有難く頂くことにしたです。

 

トイレも房の隅に便器が置いてあるだけの粗末なものでしたが、

 

慣れてくると、廊下に衛士がうろついていても用を済ませられるようになったです。

 

そしてその日の夕食も終わり、就寝し、そしてまた朝になったです。

 

ワシは、太陽も月も見えないこの場所で時間の感覚を失うといけないと思い、食事が終わるたびに壁に爪で小さな痕をつけることにしたです。

 

そうしているうちに丸二日が経過したです。

 

そして、それは三日目の朝のことでしたです。

 

ワシらのいる房に、予想もしなかった面会人が訪れたのです。

 

それは、なんと、ルーラル国王陛下ご自身でしたのです。

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