出撃!庶務騎士団   作:nocomimi

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王様が面会に来てくれたのはいいんだけど想像以上にカオスになっちゃったよのね

ハアイ、あたしあたし。ジョバンニよ。

 

もお聞いて、これ最悪の経験だから本当に。

 

あたしたち騎士団の四人は旧ヴァルグ家邸宅を出て辻馬車に乗って帰る途中、検問に引っ掛かって衛士たちに逮捕されちゃったわけ。

 

罪状は王墓盗掘と貴族邸宅への不法侵入だって。

 

それでもルクレティアちゃんは貴族特権のお陰か自宅蟄居で済んだんだけど、彼女以外は三人とも未決囚の房に入れられちゃったのよ。で、そこの待遇がサイアクだったわけ。

 

食事は干からびたパンと味のないスープ。

 

トイレは房の隅に便器が置いてあるだけで、衛士たちから丸見え。

 

プライバシーも何もあったもんじゃないわ。

 

しかも、隣り合った房に入れられたラファエロとジュゼッペに声をかけようとしたら、

 

喋るなって衛士に怒られるし。

 

喋るなってどゆこと?

 

あたしたち人間であって、植物じゃないんですけど。

 

それでもあたし、二日間はガマンしたわ。

 

でも三日目に耐えられなくなって、本気で考え始めたわ。

 

開錠魔法で鉄格子開けて、催眠魔法で衛士たちを眠らせて、

 

脱獄しちゃおうかしらって。

 

で、あたし、実をいうとあの宝玉だけは取り上げられてなかったのよね。

 

それであたし、早朝衛士たちが居眠りしてる間に、

 

あの宝玉を使ってあたしのご先祖、メルリヌスおじいちゃんを呼び出して事情を全部話し、今後のことを相談したわけ。

 

おじいちゃん、今度は骸骨姿じゃなくってちゃんとした人間の魔法使いの姿だったからほっとしたわ。

 

でも、おじいちゃんはあたしの脱獄には反対したの。

 

どうしてかっていうと、この一件を解決するには王様の心を変える以外にないってわけなのよ。

 

確かにそれはその通りだと思ったわ。

 

で、あたしが牢屋にいる限り、いずれは裁判の日がやってくる。

 

あたしの罪状は王家にかかわるものだから、裁判は王様の御前で行われる。

 

その時がチャンスっていうわけなのよ。

 

メルリヌスおじいちゃん、あたしに意志伝達魔法を教えてくれることになったわ。

 

心の中にある情報を、会話しないで伝える魔法よ。

 

これが上手く行けば、一言も話さずに王様を説得できるってわけ。

 

その一方で、メルリヌスおじいちゃん、ラファエロとジュゼッペを脱獄させることには賛成してくれたわ。

 

ところがおじいちゃん、相談がまとまって両隣の房に行ったあと、首を傾げながら戻ってきたのよね。

 

「奇妙な連中じゃ。お主と一緒に戦いたいから逃げることはできない、と二人とも異口同音に言いよったわい」

 

あたしそれを聞いて、まったくしょうがない連中だわねって呆れたけど、実を言えばちょっとウルって来ちゃったわよ。

 

ところがよ。

 

そのあと、思わぬ面会人がやってきたわけ。誰だと思う?

 

なんと国王陛下ご本人よ...!

 

あたしたちが朝食(と言えないような粗末な代物だけど)を終えた頃、

 

なんだか騒がしい声が廊下の向こうから聞こえてきて、

 

顔を上げたら、国王陛下が誰かと話しながら歩いてこられたわけ。

 

「陛下...囚人との面会は一度に一人と決まっておりまして...」

 

「そんなまどろっこしいことをしておられんからここに来たんでのう。儂はこの後また会議があって王城に戻らねばならんでのう」

 

見ると、陛下の隣にいるのはあたしたちが逮捕されたとき衛士たちに指示していた偉そうなオッサンだったわ。

 

「この房の前なら一度に三人と話せるであろう。ん?」

 

「し...しかし...ここは正式の面会室ではありませんので」

 

「だから儂は先ほどからそちに言っておるではないか。面会室に三人一度に呼び出せと。そうしたらそちは一度に三人は無理だと申した。そうであろう?」

 

いつもは鷹揚で穏やかな陛下にしては珍しく、少し苛立った口調だったわ。

 

そうこうしているうちに陛下はあたしたちが入れられてる房の前に来られたわ。

 

「ラファエロ、ジョバンニ、そしてジュゼッペよ。此度は苦労であったのう」

 

陛下からそう声を掛けられたから、あたし思わず跪いちゃったわ。

 

「今保釈の手続きをしておるところでのう。こんな劣悪な環境じゃが、あともう少し堪えて欲しいんじゃのう」

 

「ありがたき幸せに存じます、陛下」

 

ラファエロの奴がそう言うのが聞こえてきたわ。

 

「一つ尋ねたいのじゃ。ラファエロよ、なぜ独断で旧ヴァルグ邸に行ったのじゃ?」

 

「はっ....陛下の指示も仰がず申し訳ございません...その...我々は...」

 

ラファエロが畏まった声で応じると陛下は穏やかにこう仰ったわ。

 

「別に責めておるのではない。ただ、ラファエロ、お主のことだ。何か考えがあってのことであろう?何かを掴んだのか?」

 

「はっ...実は....ヴァルグ・エンリーコ・デメトーリオ2世の出生碑を見つけ出し、その身元を明らかにすることを企図いたしまして」

 

「身元じゃと?」

 

ラファエロの答えに陛下が怪訝な顔をしたわ。

 

「儂には意味がわからん。あやつの先祖の身元が怪しいことなど儂らの間では公知の事実じゃぞ」

 

陛下は肩をすくめながら言われたの。

 

「あやつの家はな、三代前の時点で世継ぎの男児が生まれなかったのじゃ。それで娘を儂の曽祖父とくっつけようと画策したんじゃがうまく行かず、かえって王家の不興を買って左遷された。しかもその妹は、どこの馬の骨とも知れぬ男との間に子を宿す始末じゃ」

 

そうして陛下は片手で馬車が坂を下る身振りをしながら続けたわ。

 

「ま、運の下り坂というやつじゃな。以来、ヴァルグ家は辺境の田舎貴族から出世競争をやり直すことになってしもうた。それであやつらは先祖の代から自作自演で『魔物から民を守る英雄』を演出するようになったんじゃな」

 

「陛下...お言葉ながら...」

 

ラファエロは説明しようとして言葉を探したわ。

 

そこであたし、まどろっこしくなっちゃって横から口を出したの。

 

「ねえ陛下、お聞きになって?その『どこの馬の骨とも知れぬ男』がとんでもない奴だったのよ!」

 

陛下はびっくりしてあたしを見たわ。

 

「『光輝ける暁の子。ツロの君主。訴える者』。出生碑にはそう書いてあったわ。つまり魔物の中の王様よ。そこらのザコじゃなくって魔物界隈のトップオブトップってわけなのよ」

 

陛下は目をパチクリさせてたけど、あたしは懇願したわ。

 

「ねえ陛下、お願いよ。一刻も早くあいつを貴族会議から追い出して?放置しておいたらとんでもないことになるから」

 

「....そんなことを言うてものう。それはさすがに無理だのう」

 

陛下は困った顔をなさってたわ。

 

「貴族連中の間にも派閥というものがあってのう。あやつは今、その中の有力派閥を率いておる。無理やり追い出そうとしたら貴族たちの間にも分断が起こるし、王城の基盤も揺らぎかねんからのう」

 

「お気持ちはわかるけど、陛下、これ非常事態なのよ?だってあいつの究極の狙い、何だとお思いになって?」

 

「究極の狙いじゃと?」

 

陛下はまた目をパチクリされたわ。

 

「『時が満つればハデスの門を開いて2億の朋友とともに王権を打ち立てる』。これが狙いだっていうの。つまり今いるのとは比較にならないくらいの数の魔物どもを連れてきて王国を占領する気よ?」

 

陛下は呆気にとられた顔をしておられたけど、やがて笑い出したわ。

 

「なんじゃ、そのハデなんとか言うのは」

 

陛下はお腹をさすりながら続けたわ。

 

「ジョバンニ、確かにあやつは腹黒い油断ならない奴じゃが、そこまでの力があると儂は思っておらん。奴は自らの権勢を拡大するため巧みに魔物どもを利用しているが、いずれ馬脚を現すじゃろう」

 

あたしは溜め息をついたわ。事の重大さが伝わっていないんだもの。

 

「陛下...恐れながら、伺いたいことが」

 

そこでラファエロが尋ねたわ。

 

「なんじゃな?」

 

「我々は...その...ある情報筋から知ることになったのですが...」

 

「なんじゃ、まだるっこしい言い方をせんで単刀直入に申せ」

 

「はい。ヴァルグ伯が魔物との『休戦講和条約』を提案したというのは本当でしょうか?」

 

「ああ..それなんじゃがのう..」

 

陛下はそれを聞くとポリポリと頭を掻かれたわ。

 

「その条約は昨日調印したところでのう」

 

それを聞いたあたし、口をあんぐり開けることになっちゃったわ。

 

「ま...それほど実害はないと思ってのう」

 

陛下ったらのんきな口調だったけど、ラファエロの奴、アワアワ言ってたわ。

 

「へ...陛下...しかし....」

 

「まあ後のことは落ち着いて考えればよい。今は魔物の数もそれほどではないし、条約は向こうからも人間には手出しできないという内容じゃったからの」

 

その瞬間だったわ。

 

あたしの首に掛かっていた宝玉が光り輝いたかと思うと、

 

メルリヌスおじいちゃんの姿が目の前に浮かび上がったのよ。

 

そしたら今度は国王陛下ご自身が口をあんぐり開けて呆然となっちゃったわ。

 

その周囲にいた衛士たちもね。

 

「国王陛下、初めてお目にかかりまするな」

 

おじいちゃん、丁寧に頭を下げて挨拶したけど、王様のほうは返す言葉も浮かばなかったみたい。

 

「儂は陛下より三代前のヴィットリーオ3世公にお仕えしていた宮廷魔術師、メルリヌスと申しますじゃ」

 

さすがの陛下も我に返るのにちょっと時間がかかったみたいね。

 

でも、やがて咳払いすると仰ったわ。

 

「...あ~...メルリヌスじゃな。話は聞いておった。王国随一の魔法使いであったとか」

 

陛下はどうにか平静に戻られてこう尋ねたわ。

 

「しかしお主が蘇りの術まで心得ておるとは知らなんだ。どうやって蘇ったのじゃ?」

 

「陛下、恐れながらその説明は後にさせていただきたく存じますじゃ」

 

メルリヌスおじいちゃん、居住まいを正すと切り出したわ。

 

「陛下はこのままでは王国史有数の愚王と後世に評価されることになりまするぞ」

 

あたし、それ聞いてまた口をあんぐり開けちゃった。そして慌てておじいちゃんに言ったわ。

 

「ちょっとちょっとちょっとおじいちゃん!何言っちゃってんのよ。いくらなんでもそんな不敬...」

 

おじいちゃん、片手を上げてあたしを黙らせると続けたわ。

 

「ヴァルグの狙いはただ一つ。王権を簒奪すること。あやつはそのためにはあらゆる手段を用いまする」

 

そう言うとおじいちゃん、指を立てて説明し始めたわ。

 

「ハデスの門とはすなわちアブレンツィオ地方にあるヒエラポリスという神殿の基部にある洞窟の入り口でありまする。そこは古来から黄泉への入り口と言われてきたのですじゃ」

 

呆気にとられたままの陛下にメルリヌスおじいちゃんが厳しい語調で続けたわ。

 

「そして悪魔と人間との間の子が生まれ世に来臨するとき、底知れぬところから2億の騎兵がやってくる。これは古来から明確に警告されてきたこと。そして今、陛下は魔物どもとの間に講和条約を結ばれた。するとどうなりますかな?」

 

今度は陛下がアワアワ言う番になっちゃったわ。

 

「いや...しかし...儂は...」

 

「陛下、今現在、王国の人口はどれくらいですかな?まさか億には達しておりますまい。そこに、かかる夥しい数の魔物が移住してきたらどうなるか、ご想像くだされ」

 

メルリヌスおじいちゃん、畳みかけるように言ったわ。

 

「戦わずして降参、ということになるのは必定ですじゃ。人による治世は永遠に失われましょうぞ。そして、陛下を限りに王家の血筋も断ち切られることになるのですぞ」

 

「ちょ...ちょっと待っておじいちゃん」

 

あたし思わず声を上げたわ。

 

「なんじゃジョバンニ。人が話してるときに」

 

「だっておじいちゃん、それって講和条約を結ぼうが結ぶまいが関係なくない?そんな数の魔物が攻めて来たら王国の軍隊全部動員したって勝てっこないじゃないの」

 

「じゃからその対策をこれから話すところじゃわい。まったく気短かな奴じゃの。儂の若い頃にそっくりじゃ」

 

おじいちゃんはそう言ってあたしを叱ると陛下に向き直ったわ。

 

「陛下、まだ間に合いまする。ヒエラポリスに一個大隊を派遣し警備させるのですじゃ。何としてでもヴァルグをあの場所に近づけてはいけませぬ」

 

「いや...じゃが....その...何じゃ」

 

陛下は口ごもっておられたけど、やがて仰ったわ。

 

「軍は儂の代で大幅なリストラをしてのう....人数も訓練も装備も足りんから、今は王都...いや、王城の警備だけで手一杯でのう」

 

おじいちゃんは溜め息をつくと首を振ったわ。

 

「リストラですと?軍は国を守る要。一体なぜそのようなことを?」

 

「儂の父の代での浪費散財が祟って、儂が即位したときには王城の予算は破綻寸前であったのじゃ。だから、儂がまず最初に手を付けたのが財政健全化であった。それで職員は極限まで減らしたのじゃ」

 

陛下は答えられたわ。

 

困っちゃったおじいちゃん、腕組みして黙っちゃったわ。

 

見えなかったけど多分ラファエロの奴もそうしてたでしょうね。

 

でもその時だったの。

 

「皆さま、わたくしに考えがありますわ」

 

あたしたちが顔を上げたら、またびっくりよ。

 

今度はルクレティアちゃんが目の前に立ってたわけ。

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