出撃!庶務騎士団   作:nocomimi

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騎士団フル戦力で出撃って久しぶりに感じますわ

皆さま、またお会いしましたわね。

 

ルクレティア・ヴァン・ディアナですわ。

 

わたくし、騎士団の男性陣のお三方が逮捕されて以来、父に自宅蟄居を命じられましたの。

 

貴族特権で訴追を免れたとはいえ、

 

普段はわたくしに甘い父も、流石に怖い顔をなさっていたわ。

 

「そもそもそんな危険な任務をする前になぜ相談しなかったんだ」

 

ですって。

 

そして父のお説教が終わったら次は母の番ですわ。

 

母の言うことときたら昔から変わりませんの。

 

「女にとっての幸せは結婚・女にとっての出世は権勢ある一族に嫁いで家を取り仕切ること」

 

母はわたくしが幼い頃からそう言っておりましたけども、

 

その同じことをわたくしに滔々と言い聞かせたのですわ。

 

でも、わたくし、昔ある時点で気づいてしまいましたの。

 

それは、確か五歳くらいの頃でしたわ。

 

母はわたくしをある貴族家のご子息に引き合わせたのですわ。

 

あとで知ったのですが、それはわたくしの許嫁ということでしたわ。

 

わたくしはその後、将来その方と結婚する旨を母からそれとなくほのめかされて育ったのですわ。

 

でも、そのときわたくしの心に僅かな違和感が生じましたの。

 

.........その違和感は日に日に大きくなってまいりましたわ。

 

わたくし、幼い頃から毎週日曜日には礼拝堂に通い、

 

その度に聖歌の歌唱と聖典暗唱をしておりましたわ。

 

それは両親もやっていたことでしたし、

 

わたくしが聖典の教えに通じていくのを見て両親も喜んでおりましたわ。

 

ところが、わたくしが六歳くらいになると母は例の「女の幸せは...」という説教をわたくしに対してし始めたのですわ。

 

わたくしはひどく混乱しましたわ。

 

なぜなら、わたくし教会学校で「人の幸せは神に仕えること」と習ったからですわ。

 

それに、「女の出世は...」という母の教えにも、わたくしは混乱を感じることになりましたわ。

 

なぜなら、わたくし教会学校で「この世の富や権勢は虚しく過ぎ去るもの。神の愛こそ永遠なり」と教わったからですわ。

 

その混乱についてわたくし幼いなりに考えましたけども、

 

子どもながらひとつの結論を下したのですわ。

 

それは、親の教えと聖典の教えとが矛盾したならば、聖典を優先しなければならない、

 

ということですわ。

 

わたくし、表立っては母の言葉に反論はしませんでしたわ。

 

でも、まずは試験で満点を取って全寮制の修道院付属学校に入学しましたの。

 

そしてその足で修道院に行き、修道女の誓願をいたしましたわ。

 

その時のわたくし、たった七歳でしたから、

 

他の皆さまは目を白黒させていましたわ。

 

でも、わたくしの決意は固いものでしたの。

 

ちなみにこの国の法律では、一度修道女となったら、本人の意志がない限り還俗させることは不可能なのですわ。

 

そして思ったとおり、数日たつと血相を変えた母が学校の寮に飛び込んで参りましたわ。

 

母はわたくしを叱ったり宥めすかしたりしてわたくしを翻意させようとしましたけども、

 

わたくしは頑として首を縦に振りませんでしたわ。

 

そして遅れてやってきた父が「大人になったら気が変わるかもしれないし、今はいいじゃないか」ととりなしてくれて、やっと母は引き下がったのですわ。

 

そしてあれから12年が経過しましたわ。

 

わたくし、王城の法務部に勤め始めたのは学生ローン返済のためでしたけど、

 

特別プロジェクトに任命され、騎士団の男性陣の皆さまとともに王国の安全のため戦うことになり、やりがいを感じてきたところなのですわ。

 

そこへきて、自宅蟄居を機に母がわたくしを退職させると言い出したから困り果てましたわ。

 

ですからわたくし、見張り役の召し使いが用足しに行った隙に、

 

カーテンをロープ代わりに窓から垂らして家から脱出しましたの。

 

そうして今後のことを騎士団の皆さまに相談するため、王都刑務所の未決囚房に向かいましたの。

 

そうしたら、国王陛下もいらっしゃるし、

 

いつぞや王墓でお会いしたメルリヌスさまも出現なさってるし、

 

とってもカオスな状態で驚きましたけども。

 

そこでわたくし、皆さまがヴァルグの陰謀について話し合っておられるのを聞きましたの。

 

* * * * * * * * * * 

 

「考えがある...とな。ルクレティア、では聞かせてくれぬか」

 

国王陛下が仰いましたわ。

 

「庶務騎士団の力を合わせれば可能な策がございますわ」

 

わたくし、陛下に申し上げましたの。

 

「ハデスの門、すなわち洞窟の入り口に常人の力では動かせない巨大な岩を置くのですわ。そしてその上から祝福された聖水を注げば、悪しき者は触れることができなくなりますわ」

 

それを聞いた陛下は戸惑われましたわ。

 

「じゃが...常人の力では動かせない巨大な岩など誰が動かすのじゃ?」

 

わたくし、無言で右端の房の鉄格子の向こうにおられたジュゼッペさんの顔を見ましたわ。

 

「陛下...今まで隠しておりましたが、ワシは人の数十倍の筋力があるのです」

 

ジュゼッペさんの言葉に驚いて陛下は目を丸くされましたの。

 

「そ...そうだったのか。知らなかったのう...どうりで人夫も雇わず庭の岩が動いていたり枯れ木が一晩で引っこ抜かれてたりしたわけだわい」

 

「陛下、これで決まりですな。一刻も早くこの者たちに出撃命令を」

 

メルリヌスさまが促されましたわ。

 

「でも待って。聖水なんてどうやって手に入れるの?」

 

ジョバンニさんが言われましたわ。

 

「あら、今日にでも入手できますわ。大司教はわたくしの大学院時代の担当教授でしたからいつでも祝福していただくことができましてよ?」

 

わたくし、何気なくお答えしましたわ。

 

「...そ...そうだったのね。またあんたのコネを甘く見てたわ」

 

ジョバンニさんが苦笑いなさいましたわ。

 

「ただし、聖水の効果は一か月程度ですから、それまでにヴァルグ伯を無力化する必要がごいますわね」

 

わたくしは付け加えましたわ。

 

そうしているうちに保釈手続きが完了しまして、晴れて騎士団の男性陣の皆さまは格子の外に出られましたわ。

 

仕事がおできになるラファエロ主任、抜け目なく新品の斧の購入申請について陛下に願い出ておられましたわ。

 

すると陛下、ポケットから無造作に現金をごっそりと出して主任にお渡しになられましたわ。こちらも流石ですわね。

 

そうして、王都刑務所から出ると目の前にセバスチャンさんの駆る馬車が停車しましたわ。

 

「旦那がた久しぶりですな!どうでしたい、別荘の居心地は?」

 

でもジョバンニさんに怖い目で睨まれたせいか、すぐにセバスチャンさんは口をつぐんで馬車を発進させましたわ。

 

それからのわたくしたちはいささか多忙でしたわ。

 

商店に立ち寄って旅に備えた食料その他の品を買い込むとともに、ジュゼッペさんのための新品の斧を即金で購入しましたわ。

 

それから、大司教の事務所にも行きましたわ。わたくしが聖水をおねだりすると大司教は困惑した顔をしながらもすぐに用意してくれましたわ。

 

そして、それからが長旅でしたわ。

 

王都を出たあと、アッピア街道を東にひた走り、

 

日が暮れると街道沿いの宿屋に宿泊し、

 

そうして二泊三日もかけてアブレンツィオ地方に着きましたわ。

 

ところが、そこでわたくしたち異変に気づきましたの。

 

ある村で食事をとろうと小休止した時のことですわ。

 

すると、ちょうどお祭りをやっているところでしたの。

 

季節は秋に差し掛かっておりましたから、それ自体は珍しいことでも何でもなかったのですけど、

 

村人たちが皆、仮装をしておりましたの。

 

それも、骸骨のような面を被った人がいるかと思えば、

 

別の人は頭部に造り物の角を、口にはこれも造り物の牙をつけていたり。

 

あるいは体中に包帯を巻いて墓から蘇った死者を演ずる人もおりましたわ。

 

わたくしたち、表通りに馬車を止めて茶屋を探しましたのですけど、

 

通行人が皆んな、そんな異様な風体をしているので面食らってしまいましたの。

 

さらには、道を走り回る子どもたちが大人と行き会うたびに

 

「祝福か呪いか?」

 

と声をかけ、それに対して大人は袋から菓子を取り出して与えていましたわ。

 

子どもたちはわたくしたちのところにもやって来て、同じように声をかけてきたんですけど、

 

わたくしたちがどう対応してよいか分からず戸惑っていると、

 

そのうちの一人の男の子が水鉄砲でわたくしたちに水をひっかけ、

 

ケタケタ笑いながら立ち去っていったんですわ。

 

「コラ!まったく躾のなってない悪ガキねぇほんとに」

 

ジョヴァンニさんが呆れながらハンカチでご自分の服を拭っておられましたけど、

 

もっと驚いたのはそこから先でしたわ。

 

なかなか茶屋が見つからないので、村の広場まで歩を進めましたら、

 

そこに巨大な魔物の形をした灯籠が飾られていたのですわ。

 

そして、その灯籠の前には屠られた動物が並べられておりましたの。

 

「....薄気味悪いな。いったい全体これは何なのだ?」

 

ラファエロ主任が眉をしかめながら呟かれましたわ。

 

「もし、そちら旅のお方ですかな?」

 

そうするとお年寄りが一人、わたくしたちに近づいて声をかけて来られましたの。

 

「どうぞごゆるりとお過ごしくだされ。今、この村ではちょうど秋の感謝祭をしておりますのでな」

 

「感謝祭...ですか」

 

主任は面食らったまま相槌を打たれましたわ。

 

「ですが...その..エヘン....これは少々珍しい...お祭りですね。良ければこの祭りの起源を教えてもらえますか?」

 

ラファエロ主任がお尋ねになりましたわ。するとそのお年寄りが話し始めましたの。

 

「この祭りは、アブレンツィオ地方にヴァルグ伯爵様が来られて以来の伝統なのですじゃ。皆様ご存知のとおりヴァルグ様は、魔物たちを恐れず戦ってこられた勇敢な名君ですじゃ。ですがあるとき、魔物たちのほうでも、ヴァルグ様の機略、勇気、大胆さに感銘を受けて、友好を結びたいと申し出てきたのですじゃ」

 

「魔物のほうから?」

 

主任が驚いて声を上げられましたわ。

 

「さようです。そこで、魔物たちはヴァルグ様の治めるこのアブレンツィオ地方では人間を襲わないと誓約を立てたのでございます。以来我々人間は、魔物がわしらを襲わずにいることへの感謝と友好の印として供物を捧げることにしたのでございますのじゃ」

 

わたくしたちは驚きと困惑に顔を見合わせましたわ。するとお年寄りが勧めてきましたの。

 

「さ、よろしければ一緒に供物を捧げに参りましょう」

 

「遠慮させていただきますわ」

 

わたくしは即座に答えましたわ。

 

「わたくしご覧のとおり修道女ですの。偶像を拝むことは厳に禁じられていることですわ」

 

「いえいえお嬢様、別に拝むわけではありませんよ」

 

そのお年寄りは穏やかにそう仰っしゃいましたわ。でもわたくし、一瞬ですがその目の中に苛立ちの色が浮かんだのを見てしまいましたわ。

 

「わしらは、ただ友好の印として供物を捧げ、それから共に飲み食いして楽しむのです。この地方は災害にも略奪にも遭わず豊かさを享受しておりますゆえ、旅のお方にも是非お楽しみいただきたいと思いましてな」

 

「あ〜...我々は少々急いでおりましてね。ここいらで失礼を....」

 

ラファエロ主任が機転を聞かせて横からそう言って下さいましたわ。

 

「それは残念....それでは、お近づきの印に、この菓子をお持ちくだされ」

 

お年寄りは袋をラファエロ主任に渡してきましたわ。

 

「祭りの期間中は、先程ご覧になったように、子どもたちは好きなだけイタズラをすることが許されますのじゃ」

 

「好きなだけイタズラを?」

 

ラファエロ主任が再び驚いて言われましたわ。

 

「さよう。イタズラをした子を大人が叱るのが禁止されますのじゃ。それで、大人はイタズラされそうになると子どもを宥めるための菓子を渡しますのじゃ。この菓子袋をお持ちなら皆さまがたも安心ですじゃからな」

 

主任は困惑した顔で菓子の袋を受け取っておられましたわ。

 

「ねえ、早いところ行きましょ?長居したってロクなことがなさそうだもの」

 

ジョヴァンニさんが主任に耳打ちしましたわ。わたくしたちは一礼をすると踵を返して馬車に戻りましたの。

 

「地図によるとこっから先に村はありませんぜ。どうやら今夜は野宿になりそうですなぁ」

 

セバスチャンさんが馬に鞭をあてながら仰っしゃいましたわ。

 

「あっしは馬車の座席で寝るのは慣れてるから問題ねぇんですが、流石にご婦人にそんなことをさせるのは気が引けますぜ。ラファエロの旦那、どうするおつもりで?」

 

「テントを買ってある。ルクレティア嬢、不便をかけるがそれでいいか?」

 

主任がわたくしに言われましたので、わたくし二つ返事で答えましたわ。

 

「勿論ですわ。わたくしだけ特別待遇で申し訳ありませんわ」

 

「もぉ何言ってるのよ、あんた貴族のお嬢様なのよ?もっと自覚持ちなさいよね」

 

ジョヴァンニさんがそう言われましたわ。

 

「わたくし、貴族制度はいつか廃止するべきだと思っておりますわ」

 

わたくしが何気なく答えると、皆さま驚いた顔をされましたわ。

 

「ちょっとちょっと...あんたそれでいいわけ?いい暮らしができるのも貴族制度のお陰じゃないの」

 

それを聞いたわたくし、微笑みながらジョヴァンニさんを見ましたわ。

 

「貴族の暮らし..特に女と生まれた者の運命を想像されたことがありまして?」

 

わたくし窓の外を見ながら続けましたわ。

 

「貴族の女性には結婚を通じて家と家の結びつきを確立することが求められますわ。全ては家の利益と政治....それ以外の生き方は存在しませんの」

 

すると、ジョヴァンニさんはじめ皆さんハッとした顔をなさって口をつぐみましたわ。

 

でもわたくしもそれ以上は何も言いませんでしたわ。

 

それより、わたくしここへ来てこの戦いが面白くて仕方なくなってきたんですもの。

 

敵があの男なら、相手にとって不足はありませんわ。

 

このルクレティア、思う存分暴れさせていただきますわ。

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