出撃!庶務騎士団   作:nocomimi

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ここ、想像してたよりずっとヤバい場所だったわけよね

ハァイ、あたしよ。ジョバンニよ。

 

そんでもって、あたしたちは闘技場に現れたグール(屍鬼)どもの群れを倒し、さらには巨大屍鬼もラファエロの奴がどうにか片付けたわけ。

 

それで闘技場を抜けてその先にあった野外礼拝場みたいな場所で神像を調べてたら、

 

後ろから誰かが声をかけてきたわけよ。

 

驚いて振り向くと、なんと石の壁に彫られた顔が喋ってるのよ。

 

「......我らの聖なる神殿に何用か。もし我らが聖所を荒す目的で来たる者ならば我ら容赦はせん。さあ、汝らの来訪の目的を告げよ」

 

ラファエロとジュゼッペは驚いて口も利けなくなっちゃってたけど、

 

あたしは直ぐに思い至ったの。どういう仕組みになってるのか何となく分かったわ。

 

きっと、あたしのご先祖、メルリヌスおじいちゃんみたいに、人間の記憶とか思考パターンを記録しておいて、魔法の力でそれに則った受け答えをする仕組みになってるんだなって。

 

それで、ラファエロがようやく我に返って口を開こうとしたとき、あたし手を上げて制したの。そしてあたし咄嗟に口から出まかせを言ったわ。

 

「あら、あなた神官さまかしらね?あたし、モレクの神様に願をかけたくてここに来たんだけど」

 

「いかにも、我は神官なり」

 

すると、あたしたちに声をかけてきた石の顔が答えると同時に、そのほかの顔も一斉に動き始めたの。

 

「我らは、モレク、バアル、ケモシュ、ダゴンの神官なり。我らはこの神々を崇拝する者に導きを与えるが務めなり」

 

「助かったわ。じゃあやり方教えてくださるかしら?」

 

ラファエロが怪訝な顔であたしを見たけど、あたしは続けたわ。

 

「あたしってば、信心持ち始めたのつい最近なの。初心者だから、いろいろ教えてもらえないかしらね?」

 

「我らの奉じるは汝に豊穣と繁栄を与える神々なり。供物を捧げれば必ずやこれらの祝福を得られようぞ」

 

あたしは石の顔たちから目を逸らさないようにしながらラファエロに耳打ちしたわ。

 

「あたしに任せて。何か情報を得られるかも知れないでしょ?」

 

「では汝、用意せし供物をこれへ」

 

顔の一つが促したわ。で、あたしはとぼけた振りをして尋ねたわ。

 

「供物...供物....と。ええっと、あたしたち色々持ってきたんだけど、結局何が一番いいんだっけ?」

 

「最上の供物は人間の赤子なり」

 

「あ....赤子?」

 

あたしも他の皆んなも、流石にこれには驚いて目を丸くしちゃったわ。

 

「赤子こそが神々が与える最上の祝福の一つ。それを神々にお返しすることが汝の神々への最大の崇敬の念を表わす行為なり」

 

辛うじて気を取り直すと、あたし続けて尋ねたわ。

 

「で...それをどうするんだっけ?」

 

「神像の下部に設えられし炉に炭や薪を積んで火をつけよ。ほどなく神像は熱く熱せられよう。そこで天に向けられた神像の手のひらに赤子を乗せよ」

 

すると別の顔が言ったわ。

 

「赤子はやがて焼け燃え尽き、天に捧げられよう。その間、楽器を持つ者は楽器を奏でるがよい」

 

あたし、段々気分が悪くなってきて吐き気がしてきたんだけどなんとか堪えたわ。

 

そして何気ない調子でこう聞いてみたの。

 

「助かったわ。ところでもう一つ聞きたいんだけど、『ハデスの門』がここにあるって聞いたけど。あの世に通じてるって話、本当なの?」

 

「『ハデスの門』はいかにもこの神殿の内部にある」

 

顔の一つが答えたわ。

 

「しかし、その通じる先を確かめた者は一人もいない。足を踏み入れて生きて戻ってきた者もいない」

 

「入っただけで死ぬってことね」

 

相槌を打つと、あたしは試しに提案してみたわ。

 

「でも、そんな物騒な場所、封鎖しちゃったほうがよくなくて?」

 

「『ハデスの門』は閉じてはならない。なぜなら時が来れば我らの救世主が来たりてそこから死者を救い出して下さるからだ」

 

顔の一つが言うのを聞いてあたしは怪訝に思ったわ。

 

「救世主?誰それ?」

 

「その方は天なる者と人との間に生まれしお方。やがて全ての生ける者を苦しみから救い黄泉に下った者たちさえもそこから引き上げてくださるだろう。そのお方が現れるのを待て」

 

あたしは、ああ、なるほど、って気づいたわ。あのヴァルグはあたしたちにとっては恐怖の魔王だけど、ある人たちにとっては待望の救世主ってわけなのねって。

 

すると黙っていたルクレティアちゃんが口を開いたわ。

 

「そのお方は既に現れていますわ。わたくしお会いしましたもの」

 

「みだりに救世主の来臨を吹聴してはならぬ。その特徴は全てにおいて伝えられし事と一致していなければならぬからだ。救世主の来臨の時期は慎重に見極めるべきことなり」

 

顔が答えたけど、ルクレティアちゃんが重ねてこう言ったの。

 

「『光輝ける暁の子・ツロの君主・訴える者』。魔物と人間との共生と平和を実現するお方。わたくしたちは確かにその方にお会いし、その方のなされたことを目撃しましたわ」

 

ルクレティアちゃんは進み出ると尋ねたわ。

 

「教えてくださいませ、神官さま。その方はどうやって死者をハデスから救い出されるのかしら?言い伝えや聖典ではどう言われているのかしら?」

 

「それはこう伝えられている」

 

顔の一つが口を開いたわ。

 

「二人の証人が現れ、救世主の先触れとなる。この証人たちは火や雷で地を打つ力を与えられており、彼らは地の逆らう者たちと戦う。その後救世主が彼らとともに黄泉への道を開き数多くの者たちの魂をこの世へ連れ戻るのだ」

 

「なる...ほど..ね」

 

横で聞いてたあたし、適当に相槌を打って誤魔化したけど、

 

なんだか物凄く嫌な予感がしてきちゃったわ。

 

だって「火や雷で地を打つ力を持つ」「二人」って。

 

どう考えたって.....アレでしょ?

 

それって...ひょっとしてあたしとディオのことじゃない?

 

でもその時ラファエロが口を出したわ。

 

「ああ...ええっと...エヘン。神官どの。色々ご教示下さり助かった」

 

ラファエロの奴、言葉に詰まりながら続けたの。

 

「我々はこの辺で....失礼したく...。何だ、その...急ぎ用事があるので.....」

 

「ちょっとあんた。どうせならもっとちゃんと考えて芝居しなさいよ」

 

あたし慌ててラファエロの腕を掴んで囁いたわ。

 

だって、これまでのところ神官たちはあたしたちを信者と勘違いしてくれてるんだから、

 

このまま色々と情報を引き出さない手はないでしょ?

 

「汝ら、モレクへの請願のために来りたと申したではないか。儀式を行わずどこへ行こうと申すのか」

 

神官に突っ込まれてあたし慌てて言い訳したわ。

 

「あらやだ、神官さま、こいつ一人だけよく分かってないままついて来ちゃったのよ。ごめんなさいね。あたしからよく教えておくから」

 

でも、どうやらラファエロの不用意な一言であたしたち神官に怪しまれちゃったのよ。

 

「汝ら見たところ供物らしき物は何も持っておらぬな。興味本位で物見遊山に来たのではあるまいな?」

 

「えっ....それはホラ、あたしたち実は供物が重いから外に置いてきちゃったのよ。これから引き返して運び込むところよ?」

 

「では供物は地の穀物か?あるいは家畜か?」

 

「あ...そうそう、そんなところよ」

 

「我らが神にそのようなものを捧げる風情もおるが、さして喜ばれる供物ではない。生きた人間こそが最も尊い捧げものなり」

 

神官は言ったわ。

 

「例えば、そこにいる少女などもそうだ。妙齢の女を捧げるもまた赤子の犠牲に並ぶ尊い供物となろう。汝ら、もしも神への請願を真剣にとらえるならば...」

 

「いい加減にしろ、この石ころ野郎が!!」

 

その瞬間、ラファエロが顔を真っ赤にして怒鳴ったの。

 

あたしたち驚いてラファエロの顔を見ちゃったわ。

 

「黙って聞いていれば好き放題を言いやがって。俺は貴様らのような奴が一番許せないんだよ!何が神だ!何が祝福だ!この人殺しどもが!」

 

ラファエロの奴、剣を抜いて神官たちの顔に突き付けたわ。

 

「いいか、貴様らのような連中はとうの昔に滅びたんだ。今はそんな忌まわしい慣習はこの国のどこにも存在しない。貴様らは過去の亡霊だ。俺が今ここで葬って....」

 

「やはり汝ら、信者を偽る不届き者であったな」

 

神官たちが声を揃えて答えたわ。

 

「そのような冒涜者どもには神々の怒りが下ろう。この日が下るまでに汝らの命が保たれることはない。必ずや....」

 

その時、ジュゼッペおじさんが前に進み出たの。

 

ジュゼッペおじさん、斧の刃の部分を後ろに向けて、斧頭で片っ端から神官たちの顔を叩き潰していったわ。

 

四つの神官の顔が全て粉々に破壊されると、ジュゼッペってば振り向いてこう言ったの。

 

「ラファエロの旦那。ワシも同じ気持ちです。さっきから胸のムカムカが止まらなかったです」

 

「しょうがないわね二人とも」

 

あたしは溜め息をついたわ。

 

「でも、ま、新しい情報も仕入れたし、これでよしとしようかしらね?」

 

あたしはルクレティアちゃんのほうを向いて言ったわ。

 

「非常に興味深いですわ」

 

彼女は顎に片手を当てて考えながら答えたの。

 

「わたくしたちの聖典の内容と同様でありながら、細部が微妙に異なっておりますの。何より、ことの善悪が反転しているところが面白いですわね」

 

「またぁ、のんびりそんなこと言ってる場合じゃないわよ、もう」

 

あたしは呆れて言ったわ。

 

「さ、早く『ハデスの門』に行きましょ?それにそれを塞げるような大きな岩も探さなきゃならないし....」

 

その時だったわ。

 

あたし、巨大な魔力を感じて背筋がゾクっとなったの。

 

その途端激しい振動が襲ってきたわ。

 

嫌な予感がしてあたし、皆に言ったの。

 

「なんか来るわよ!気をつけて!」

 

「なんかって...一体何だ?」

 

ラファエロが周囲を見回しながら聞いてきたわ。

 

「わかんないわよ!でもさっきの巨大グールよりよっぽどの大物よ!気配が違うもの!」

 

あたしが答えた瞬間、野外礼拝所の床の中央から放射状に割れ目が走ったのよ。

 

いや、割れたっていうより、元からそこが継ぎ目だったのがパキッて分かれたのね。

 

そして、あたしたちが立ってるところの床も含めて、床材が無数のパイ状の板に分かれて、

 

それが一気にグルンって横に一回転しちゃったのよ。

 

あたしたち、何をする暇もなく、床の下にあった空間に落ちちゃったわけ。

 

それで数メートル下に床があってそこに叩きつけられちゃったわ。

 

ただ幸いなことに、ジュゼッペが一番下に居てくれたから助かったの。

 

そのお腹の上にラファエロ、次があたし、そしてルクレティアちゃんの順番に落ちたから、みな大した怪我もなく済んだけど。

 

あたし、とりあえず杖を掲げてその先端から光を出したわ。

 

そこはあたしたちがついさっきまでいた円形の野外礼拝状とちょうど同じような広さと形の地下広場だったの。

 

「みんな....大丈夫?」

 

あたしが声をかけながら顔を上げたら、見えちゃったのよ。

 

床の中央のほうで、赤く光る何かがせり上がってくるのが。

 

それは大きな円柱だったわ。円柱の周囲にはわたしたちには読めない文字がたくさん浮かんでいたの。

 

そして円柱の頂上には石の頭が据えられていたわ。

 

でもそれはさっきジュゼッペが破壊したのとは形が違っていて、

 

顔の真ん中に大きな目玉が一つついてるだけで、鼻や口らしきものもなかったわ。

 

そしてその目が赤く光ってたの。

 

「冒涜者たちよ。汝らの裁きのときが来た。その行ったことに応じて裁かれよ」

 

声が聞こえたわ。

 

あたし猛烈にヤバいって感じたから叫んだわ。

 

「みんなあたしの後ろに下がって!」

 

その途端、その石の顔の目から赤い光線が迸るようにしてあたしたちのところに向かってきたの。

 

紙一重の差であたし、杖を掲げて結界を張ったわ。

 

赤い光線が結界に当たると、そこから超高熱の炎が周囲に飛び散っていくのがわかったわ。

 

でも、その勢いがあまり凄まじかったもんだからあたし、ジリジリと後ろに押されちゃったわけよ。

 

それでも歯を食いしばって耐えてると、やがて光線が止まったわ。

 

あたし、一挙に魔力を消耗しちゃったもんだから疲労困憊してガックリ膝を突いちゃったわよ。

 

「ジョバンニ!」

 

ラファエロがあたしを助け起こそうとしたけど、あたしはその手を振り払って言ったわ。

 

「あたしはいいから早く逃げて!」

 

「ダメです!ワシらは旦那を見捨てていけません!」

 

ジュゼッペが叫んだわ。

 

「我は大神官レギオンなり」

 

円柱がまた言ったわ。

 

「神官たちの裁定は一致している。冒涜者どもは地獄の炎もて消し炭も残さず焼き尽くさん」

 

でもね、あたしなんとなく自分の魔力感覚でわかったわ。

 

さっきの光線を発射するのにこの円柱の化け物も相当な魔力を使ったはずだってね。

 

だから、もう一度魔力を充填するのに多少の時間が必要なんだって。

 

「ま...まだ何秒かあるわ。あんたたちは早く逃げて....」

 

あたしはヨロヨロしながら立ち上がって呼吸を整えたわ。

 

あと一回くらいなら結界張れそうだったから。

 

でも、もう終わりだって覚悟したわね、流石のあたしも。

 

その時だったの。

 

もう、まったくなんて言ったらいいのかしら。

 

本当に思いもよらないことが起こったのよ。

 

ルクレティアちゃんが前に進み出て叫んだのよ。

 

「神官さま...わたくしが供物になりますわ!どうかこの者たちにお慈悲を!」

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