.........んで、そのラファエロとかいういけ好かない奴がさ、まぁたあたしのところに来たわけよ。
「ジョバンニ、君に頼みがある」
なんて、真顔で言っちゃってさ。
今度はなんなのって聞いたら、あいつあたしに向かって特別プロジェクトチームのメンバーになれって言うのよ。
あたしは忙しいからお断りよって言ったら、国王陛下直々の命令だって言うのよね。
そんなプロジェクトチームが何をやるのかって聞いたら、どっかの田舎村の洞窟から魔物が出るから見てこい、って言われた、だって。
あたしの料理のスキルを活かすところなんて何もないじゃないってまた断ろうとしたら、あいつ、
「死人が五人も出ている。危険度は高い。君の腕が必要だ」
だってさ。
あいつ、あたしがなかなか説得に応じないのを見て、今度はやたらと下手に出ることにしたみたいなのね。
「君の腕が必要だ」なんて言われたら、そりゃああたしみたいな職人気質の人間はちょっと心が動いちゃうわよ。
でも王様の料理だっておろそかにできないでしょ、それであたしが渋ってると、今度はアシスタントのフレデリコがこう言うわけよ。
「ジョバンニさん、大丈夫です、王様の食事はボクに任せてください!」
またこの子ったら背伸びしちゃってまあ...と思ったわよ。あの子、素直だし努力家だし、自分を磨くチャンスと思ってくれてるのは良いんだけど、ちょっと身の程知らずなところがあるのよね。
でも、そこでラファエロの奴が上手いことまとめやがったわけ。
「これで決まりだな。では明日、国王陛下に結成をご報告する」
そこであたしは口を挟んだのよね。
「お待ちなさいな。あたし回復魔法とか一つも知らないわよ。万が一重傷を負った場合はどうするつもりなわけ?」
それを聞いたラファエロの奴、言葉に詰まってたわ。
あいつ、クソ真面目なのだけが取り柄で、肝心なところの目配りが足りてないのよね。
そしたらさ、今度はフレデリコが恐る恐る手を上げるわけ。
何かと思ったら、あの子、「心当たりがある」とか言い出してさ。
で、確かにいたのよ。聖女が。それも思いもよらない身近なところにね。
* * * * * * * * * *
わたくしの名はルクレティア・ヴァン・ディアナ。
ルーラル王城の法務官補佐として着任いたしまして、本日が初日なのですわ。
わたくし、本当なら慈善活動に一生を捧げていきたいと願っておりましたのですけど、大学院の学費による負債を支払うために卒業後すぐに就職する必要に迫られたのですわ。
かかる不本意な就職ではあったのですけども、王城の就業環境が思いのほか良好なのが気に入った面もあるのですわ。
食堂で頂いた昼食はとても美味しかったし、食堂のスタッフの方も親切な対応で安心したのですわ。
わたくしの上司、法務大臣のジェラート伯爵は三か月に一度しかご出勤なさらないと総務課のレティシアさんからお聞きしましたが、わたくし社会人となった以上、指示を受けないと仕事ができないなどと甘えたことを申すつもりはないのですわ。
わたくしに割り当てられたデスクを午前一杯かけて磨き抜いたあと文具をきちんと整理したので、午後はずっと書類の下読みをしていたのですわ。
すると、どうでしょう、殿方がお二方ほどわたくしのデスクのほうに近づいてこられたのですわ。
そして、それぞれ経理課主任のラファエロさん、厨房課主任のジョバンニさんとお名乗りになられたのですわ。
わたくし、初対面の男性2名と一度にお話しするなんてあまり慣れていないのですけども、社会人ですからなんとか頑張ってお話しいたしましたのですわ。
すると、まずラファエロさんが口をお開きになってこう言われたのですわ。
「エヘン。実は。国王陛下直々の命による、特別プロジェクトチームを立ち上げる必要がありましてですね...」
するとジョバンニさんがこう言われたのですわ。
「ねえ、ルクレティアちゃん、あんた確か聖女資格持ってたわよね?」
わたくしはジョバンニさんの喋り方に驚いて少し目を丸くしたのですが、こう答えたのですわ。
「は...はい。確かに持っておりますわ」
「回復魔法は得意?」
「厳密に申しますと、魔法ではなく祈祷ですわ。わたくしのは魔力を源とする術ではなく....」
「決まりね。じゃ、ルクレティアちゃん、頼んだわよ」
ジョバンニさんはわたくしの話を最後まで聞かず、器用にウィンクしてそう言われたのですわ。
そして、ラファエロさんは再び咳払いし、わたくしに「プロジェクト概要書」と題された書類を渡してきたのですわ。
そこにはこう書いてあったのですわ。
...........アルト村・洞窟探索の件。村人の陳情により、村内某所の洞窟から魔物がたびたび発生していると判明す。既に賞金稼ぎ5名が突入後帰還せずのため、全員死亡と疑われる。特別プロジェクトチームを結成して洞窟内を探索し、魔物と遭遇次第これを殲滅。可能なら発生源を突き止め対策を打ち再発を防止することを目的とする。
わたくしは顔を上げると申し上げたのですわ。
「ここに殲滅、とありますが、これは命を奪うことと解釈してよいのでしょうか、ラファエロさん?」
「も...もちろんだが、何か問題があるのか、ルクレティア嬢?」
「過去の判例では魔物と思われていた者が実は人間だったといった事例もあるのですわ。そうしますと正体不明のまま命を奪ったことで後に刑法あるいは民事における訴訟リスクが生じる可能性も考えられるのですわ」
わたくしの言葉を聞いたラファエロさんはやや絶句していたのですわ。
「人間の命を奪ってしまった場合、正当防衛や緊急避難が適用されるにしても、敗訴するリスクを完全にゼロにすることはできないのですわ。そのリスクを考えると、わたくし、この『殲滅』は『無力化』に書きかえたほうがよろしいのではと考えますわ」
「い...いや、しかし...魔物と実際に戦闘になったときにそんなことを考えている余裕など.....」
ラファエロさんは困惑した様子でわたくしにお答えになりましたが、その横でジョバンニさんは肩をすくめて苦笑いしておられたのですわ。
「ま、せいぜい頑張んなさい。あたしは帰るわよ」
ジョバンニさんはラファエロさんの肩を叩いてそう言うと、部屋を出ていかれたのですわ。
結局、わたくしとラファエロさんは、プロジェクト概要書の法的な穴を検討し修正案を作るのに一時間費やしたのですわ。
わたくしは、法的リスク全てが対処されたことに満足いたしましたけど、ラファエロさんはとてもゲッソリした顔をなさっていたのですわ。
デスクに座って話し合い、書類を修正しただけなのに、どうしてラファエロさんがあんなに疲れたお顔をなさっていたのかは、最後までわからずじまいでしたわ。
* * * * * * * * * * * *
....てなわけであの子がパーティに入ったわけ。
あたしは正直ホっとしたわよ。
だってダンジョンの中で誰かが怪我したり死んじゃったときに打つ手なしなんて目も当てられないじゃない。
あたしは魔法はできるけど得意技はほぼ攻撃系だし、結界防御もできるっちゃあできるけど、そこはホラ、モチはモチ屋って言うじゃない。
それであたしたちは次の日の朝一番、国王陛下の御前にまかり出たってわけよ。
あたしはもう陛下とはツーカーの仲だったから緊張なんかしなかったけど、ラファエロの奴、陛下のおなりを待っている間、妙にカチコチした態度になってやがんの。アハハハハ。
あと、庭師のジュゼッペっていうおじさんもチームに加わったってことであたしたちと一緒になったわ。
このジュゼッペおじさん、あたしは一目みて分かったわよ。
奥さんと死に別れたんだろうなって。それ以降ずっと独身で通してきたから誰も服装とか注意してあげてないんだろうなって。
あたし、すぐに彼のボサボサの頭と乱れた襟元を直してあげたわ。
なんか、あそこまでいくとイラつくというより「どうにかしてあげたい」っていう思いが先に出てくるのよね。
それでなんやかんやしてるうちに陛下がお見えになって、ラファエロがしかつめらしい言葉でパーティ結成を報告。最後に出撃許可を仰いだわけ。
「うむ、出撃を許可する」
陛下がお答えになったら、ラファエロの奴何を思ったかこんなこと言い出したわけ。
「陛下...ところで本件の予算はどのように処理したらよろしいでしょうか」
陛下はしばらく目をぱちくりさせておられたけどやがてこう仰せられたわ。
「予算....予算...?.....まあ.....なんとかなるじゃろう」
ラファエロの奴、横から見てたら目が死にそうになってたわ。あたしは笑い堪えるのに必死。
すると陛下がこう仰せられたわけ。
「しかし、ジョバンニの料理をしばらく食べられないのは残念だのう」
あたしはこれほど嬉しかった瞬間はなかったわ。でも、陛下のご期待に添えないのも事実。あたしはこう答えたわ。
「ご心配は無用でしてよ、陛下。アシスタントのフレデリコをよぉ~く教育しておきましたもの」
その時、フレデリコが陛下御所望のティラミスと紅茶を盆に乗せて入ってきたわけ。
フレデリコってば、自分の話になってることにすぐ気づいて、緊張した顔してたわ。
あたしは、盆をレティシア嬢に渡したフレデリコを脇に座らせたの。
「三日分の献立を渡してありますのよ。もししくじったら陛下、遠慮なくしかり飛ばしてやってくださいませ」
フレデリコったら顔をますます青くさせてたの。陛下は気をお利かせになったのかこう仰せられたわ。
「はっはっは安心せいフレデリコ。儂は飯が不味いからといって縛り首にしたりはせんから」
すると、それを聞いていたルクレティアがすっくと立ちあがったわけ。
「国王陛下。王といえども守るべき法がございますわ。人を死罪に定めるには王国法第12条、第26条、第54条もしくは第58条に照らして正当と足る事由がなければならないのですわ」
あたしは爆笑しそうになるのを堪えるのがやっとだったわ。
「わかったわかったルクレティア。全く冗談だというに.....」
陛下は苦笑いしてそう仰せられるだけで彼女を咎めることはなさらなかった。さすが陛下ね。
「ワシは難しいことは何も分かりませんが、陛下の冗談がちょっとコワいのですです」
ジュゼッペが下を向いてボソっと呟いたところで、報告会はお開きとなったわけ。
こうしてあたしたちは出撃することになったの。でもハッキリ言ってその後の冒険は予想もしなかったほど面倒なものだったわ。ちょっと楽しかったけど。
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛やっぱり4,000文字を超えてしまったぁぁぁぁぁぁ!