出撃!庶務騎士団   作:nocomimi

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第六章: ルーラル王国、最大の危機
一難去ってまた一難なのは当然ありうるパターンなわけで


「これが『ハデスの門』か....」

 

俺、ラファエロは呟いた。

 

俺たち庶務騎士団は、古代神殿の野外礼拝場の地下に落とされ、

 

「大神官」を名乗る円柱の化け物と戦うハメになったが、

 

どうにかこいつを倒し、地上に出てきたのだった。

 

出てきた先は壁で囲まれた区画で、目の前には縦十メートル、横五十メートルほどの浅い空堀のようなものがあった。

 

そして、その一角に縦横三メートルほどの穴が開いていた。

 

「ご覧になって?内部には動物の骨がありますわ」

 

俺たちが空堀に降りると、ルクレティア嬢が言った。

 

洞窟の内部を見ると、入り口に近い辺りは地面より低くなっていて、

 

砂礫を敷き詰めた床のところどころに動物の骨が転がっていた。

 

よくよく見ると、どうやら人間の骨と見えるものもあった。

 

「内部に入るだけで死ぬって話だからあまり近づきたくはないな」

 

俺が漏らすと、ルクレティア嬢が答えた。

 

「もしかすると有毒ガスか何かかも知れませんわね」

 

「ガス?なんだそれは?」

 

俺は彼女を顧みた。

 

「気体のことですわ。世の中には吸うだけで気絶したり命を落としたりする気体が存在しますわ。化学の授業で習いましたの」

 

「さあ、岩を探してあそこを塞ぐです」

 

ジュゼッペが促した。

 

それで俺たちは空堀を出て、ほうぼうを探し回ってやっと手頃な岩を見つけた。

 

それは壁で囲われた区画の端にある、地中から一部露出した岩だった。

 

ジュゼッペは斧をシャベル代わりに使って岩の周囲を掘り返すと、

 

差し渡し五メートル以上もありそうな巨大なその岩を持ち上げた。

 

そして、それを洞窟の前にまで運んでくると、入り口の前に投げ下ろした。

 

ドスンと音がして、洞窟はすっかり塞がれてしまった。

 

そしてルクレティア嬢が岩の上に登り、

 

聖水の入れ物の栓を開けて、祝詞を唱えながらその岩の上に注ぎかけた。

 

「これで悪しき者はこの岩に触れることができなくなりましたわ」

 

彼女は岩から降りるとそう言った。

 

「皆んな、ご苦労だった。本当によく働いてくれた。プロジェクトリーダーとして礼を言う」

 

俺はみなの顔を見回してそう労った。

 

「何を今更水臭いこと言ってんのよ。あたしたち、もう運命共同体みたいなもんでしょ?」

 

ジョバンニが俺の肩を小突く。

 

「ラファエロさん、それに喜ぶのはまだ時期尚早でしてよ?聖水の効力はいずれ切れますわ。早く次の手を打たなければなりませんわ」

 

ルクレティア嬢も指摘した。

 

俺たちはそうして今後のことを話し合いながら外に出ることにした。

 

野外礼拝場の壁をどうにか乗り越えて中に入り、そこから闘技場を通り抜けた。

 

「もうあたしヘトヘトよ。当分働きたくないわ。一週間くらい有給取ろうかしら」

 

一行の一番後ろをノロノロと歩きながらジョバン二が愚痴をこぼす。

 

「安心しろジョバンニ、国王陛下が動き始めたんだ。もう戦いの主軸は俺たちじゃあない。有給は無理かも知れんがな」

 

俺はそう言って彼を慰めた。

 

先頭に立って歩いていた俺は、闘技場の出口を潜り抜けると皆に声をかけた。

 

「よし、馬車まで戻ったら食事休憩だ。そしたら王都に出発し....」

 

俺が振り返ってそう言ったとき、奇妙なことに気づいた。

 

一番後ろにいたはずのジョバンニが俺のすぐ後ろにいる。

 

その瞬間、彼の杖の先端から発射された雷が俺の顔面を直撃した。

 

「ぐわッ...!」

 

俺は言葉にならない呻き声を上げながらよろめき、地面に倒れた。

 

気が遠くなりそうになるのを必死で堪え、どうにか顔を上げる。

 

だがどう考えてもおかしいことに俺は気づいた。

 

......ジョバンニが二人いる。

 

俺を雷で撃ったほうのジョバンニは、薄笑いを浮かべながら向きを変えると、闘技場から出てきた仲間たちに向けて杖を掲げた。

 

その先端から発射された雷が真っすぐ飛んでいき、列の一番後ろにいたもう一人のジョバンニに向かっていく。

 

そのジョバンニは危機に気づいて反射的に杖を掲げた。杖の先端から生じた結界が雷を弾いたかに見えた。

 

だが、雷は途切れることなく続けて発射され、やがて結界を押し破るようにジョバンニの杖を伝ってその身体を包んだ。

 

悲鳴を上げたジョバンニは杖を放り出して立ったまま昏倒し、うつ伏せに倒れた。

 

そして、その横では驚いた顔でルクレティア嬢が立ち尽くしていた。

 

また、倒れたほうのジョバンニの傍らにはジュゼッペがやはり呆然とした顔をして、新たに現れた二人目のジョバンニを見つめていた。

 

「き...貴様...何者...だ...」

 

俺は呻きながら膝をついて立ち、剣の柄に手を掛けた。

 

だがその時俺はあることを思い出した。

 

もしかして.....!

 

その時、ジュゼッペが吼えるような声で叫び、斧を振りかざした。

 

「貴様は偽者なのです!ワシは騙されんです!」

 

ジュゼッペが突進すると同時に、立っているほうのジョバンニの杖から雷が発せられ、

 

ジュゼッペの斧の刃に直撃した。

 

すると細かい雷が斧の柄を伝っていき、ジュゼッペの手から全身にかけてを雷が包んだ。

 

杖からの雷は途切れることなく発せられ続ける。

 

やがてジュゼッペは髪の毛も髭もチリチリに焦げてしまい、

 

失神した彼はバタンと音を立てて倒れてしまった。

 

「失敬だなァ。ボォクの名を忘れたってのかい?ボォク傷ついちゃうよ」

 

その魔法使いは杖を下げると気障な仕草で前髪を掻き上げた。

 

その仕草で俺は完全に思い出した。

 

「き...貴様...ディオだな...」

 

俺はそう言うと力を振り絞って剣を抜き放った。

 

するとディオの杖の先端からまた雷が発せられ、今度はそれが俺の剣の先に触れた。

 

その途端、俺は激しい痺れを感じて剣を放り出した。さらにもう一発の雷がまた顔面を直撃し、俺は地面に転がった。

 

「可愛い子ちゃん、ボォクは君を迎えに来たんだよ。さあ、ボォクと一緒においで?」

 

ディオはこれまた気障ったらしい仕草でルクレティア嬢に向かって一礼し、彼女に向かって進み出た。

 

「ボォクのパパの家には部屋がたくさんあるんだ。好きに使ってくれていいし、召使いもたくさんいるよ。さあ、二人で楽しく...」

 

「お断りしますわ」

 

ルクレティア嬢は凛とした口調で遮った。

 

「わたくし、ディアナ家の娘でしてよ?部屋や召使いに事欠く暮らしをしてきたと思いまして?そんな安い口説き文句で靡くと思われているのでしたら甚だ心外ですわ」

 

「そんなに意地を張らなくたっていいじゃあないか、可愛い子ちゃん。そりゃあキミだって貴族なのは知ってるさ。だけど王都には貴族なんて山ほどいるんだろう?ボォクのパパは広大な地方をたった一人で治める国主なのさ。同じ貴族でもケタが違うってもんさ」

 

二人が言い合っているうちに足音が聞こえてきた。大勢の者たちが参道を登ってくるようだ。

 

俺が倒れたまま顔を上げると、ゴブリンやオークどもの群れが参道を登ってこちらにやってくる。

 

その先頭にはヴァルグ伯爵がいた。

 

「息子よ、上手くやったようだな」

 

ヴァルグ伯爵が満足そうに微笑みながらディオに声を掛けた。

 

「任せてよパパ。こんな連中朝飯前さ」

 

ディオは伯爵にウィンクして応えた。

 

「ヴァルグ.....き...貴様...」

 

倒れたままの俺は、取り落とした剣に手を伸ばした。

 

だが、伯爵は先に剣を拾い上げ、その刀身を眺め始めた。

 

「魔族の血を吸った忌まわしき剣....」

 

そう呟くと、伯爵は俺の顔を見降ろして言った。

 

「剣士ラファエロとやら。お前は講和条約で保護されるべき魔物を多数殺めた。しかも儂の領地内でな。その償いは必ずしてもらうぞ」

 

「パパ、その剣ボォクが欲しいな。ボォクが貰っていいかい?」

 

ディオがそう言いながら近寄ってくると、ヴァルグは俺から目を離さないまま無言で剣をディオに渡した。

 

「か...返せ...俺の剣.....」

 

「嫌ぁ~だぁ~よッ。戦利品コレクションにするんだもんねぇ」

 

ディオは俺にあっかんべえをすると、嬉々とした表情で剣を手に取った。

 

「ヴァルグ伯爵、またお目にかかりましたわね。ディアナ卿の娘、ルクレティアですわ」

 

ルクレティア嬢が進み出ると、ヴァルグの前で膝を曲げて一礼した。

 

「ふん....またの名を聖女ルクレティア、とか」

 

ヴァルグはやや顔をしかめながら答えた。

 

「閣下に名前を覚えていただけるなんて光栄ですわ。わたくし、聖女としての活動はこの騎士団が初めてですもの。これからもよろしくお願いいたしますわ」

 

「娘よ、その活動も今日限りで終わりだと思うがよい。お前もまた講和条約への違反の罪を問われる重罪人となる。だが、もしも....」

 

「もしも反省してボォクのお嫁さんになるっていうんならその限りじゃあない、けどね。ね、パパ?」

 

上気した顔で剣を振り回していたディオが横から口を挟んだ。

 

すると、ルクレティア嬢が口に手を当てて笑い始めた。

 

俺は自分の目を疑った。それに、ディオとヴァルグも当惑した顔でルクレティア嬢を見つめている。

 

ひとしきり笑ったあとで、ルクレティア嬢が一呼吸し口を開いた。

 

「...失礼いたしましたわ、閣下。でも、わたくし本当に面白くってついつい堪え切れなかったんですの。無礼はどうかお許しくださいませ」

 

「気が狂ったか、娘よ?一体何が可笑しいと言うのだ?」

 

ヴァルグが訝し気な顔で尋ねる。

 

「閣下、失礼ながら申し上げますけど....こんなことでわたくしたちに勝ったとお思いになって?」

 

ルクレティア嬢はそう答えると、また可笑しそうに含み笑いした。

 

「わたくし、王都を出る前に閣下の出生碑の拓本を複写して全ての新聞社とゴシップ雑誌社に送りましたの。三日後に公表するよう書き添えましたわ。あ....それから」

 

彼女は思い出したように付け加えた。

 

「貴族名鑑に乗ってる全貴族の住所にも同じものをお送りさせていただきましたわ。ちなみにわたくし貴族の皆さまと個人的に面識がございますから、わたくしの名で送った手紙は執事を経由せず必ず本人の手に渡りますのよ」

 

そこまで言うとルクレティア嬢は挑発的な目つきでヴァルグを見つめながら締めくくった。

 

「これから先、貴族界の政治力学がどう変動するか、とっても楽しみじゃありませんこと、閣下?」

 

「ふん.....小癪な真似を」

 

ヴァルグは鼻を鳴らすと、背後に立っていた魔物どもに合図した。

 

「こやつらを引っ立てよ。儂の城の地下牢に閉じ込めておくのだ」

 

ゴブリンとオークたちはわらわらと群がってくると、俺とジョバンニとジュゼッペを後ろ手に縛り、抱え上げて運び始めた。

 

ルクレティア嬢だけはディオが執心しているせいか、縛られもせず手を触れられてもいなかった。だが、彼女はディオの先導に従って大人しく歩いていた。

 

俺は薄れそうになる意識を必死で保ちながら思った。

 

ルクレティア嬢はやってくれた。これはヴァルグにとってかなりのダメージのはずだ。

 

あとは国王陛下が動いて下さるかどうかに掛かっている。

 

陛下のご決断に。

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